御大尽与力と稲荷神使

克全

文字の大きさ
上 下
42 / 49
第二章

41話無礼討ち4

しおりを挟む
「それで、そいつらの後をつけたのか?」

「はい、旦那」

 七右衛門は手先の菊次郎から報告を受けていた。
 日本橋芝居町の一件を仲裁したのがこの菊次郎だ。
 菊次郎は元々盗賊だったが、七右衛門に捕縛され手先となっていた。
 幼い頃両親を武士に斬り殺され、孤児となり地をはいずるように生きてきた菊次郎は、大の武士嫌いであったが、元々は商人の七右衛門が武士として活躍するのを面白がり、喜んで手先となっていた。

「相手は確かに武士なのだな?」

「それはまだ分かりませんが、少なくとも御家人の屋敷には入っていきましたよ」

 菊次郎は強請五人組の後をつけていた。
 若殿役が心配していた通り、あの場にいた七右衛門の手先は一人ではなかった。
 菊次郎以外にも背中に商品を担いで歩く手先が三人もいたのだ。
 菊次郎も含めて四人が代わる代わる入れ替わり、後をつけているのがばれないように、慎重に尾行したのだ。

「その御家人屋敷が誰の屋敷か調べてくれ。
 手空の者は全て使っていい。
 その者は平気で無礼討ちしようとしたのであろう。
 油断したら女子供まで殺されてしまうかもしれん。
 必要なら捕縛して構わん」

「大丈夫なんですか、七右衛門の旦那。
 相手は本当の御家人かもしれないんですぜ。
 もしかしたら、旗本が家名を憚って御家人の屋敷を利用しているかもしれませんぜ」

 菊次郎はからかうように挑むように七右衛門に質問する。
 面白いと思って七右衛門の手先にはなったが、武士嫌いが時々頭をもたげる。
 特に七右衛門が与力然としていると、七右衛門が与元町人という意識が小さくなってしまい、武士を相手にするように反発してしまうのだ。

「構わん。
 町場で暴れるようなら、町奉行所与力として見逃すわけにはいかん。
 気にせず捕縛しろ」

「ふふんん。
 この耳でちゃんと聞きやしたぜ。
 後で言っていないはなしですぜ」

「心配なら気の合う者を集めてこい。
 皆の前で同じことを言ってやる」

 菊次郎は言葉通り、手先の中で気の合う連中を集め、七右衛門に同じ事を口にさせ、言質をとった。
 そしてその仲間達と、御家人屋敷を完璧に包囲して調査した。
 旗本屋敷も御家人屋敷も看板など出ていない。
 武士である以上、襲撃を警戒して看板は出さないのだ。

 だから同じ武家の屋敷で話を聞く訳にもいかなかった。
 そんな事をすれば、隣近所のよしみで敵に知らされてしまう可能性があった。
 だが幸いにして、調べたい屋敷の周辺には町屋が多かった。
 下級御家人の屋敷は、武家町ではなく町人町に屋敷を与えられることが多い。
 強請五人組が入った屋敷も、芝居町に近い岩本町の横、松下町一丁目代地に隣接していたので、岩本町・松下町・岩井町の表店で買い物をして情報を集めた。
 そしてその御家人屋敷が、永井忠左衛門の屋敷だと聞き出したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

厄介叔父、山岡銀次郎捕物帳

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

立見家武芸帖

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 南町奉行所同心家に生まれた、庶子の人情物語

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい
ファンタジー
 メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ  超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。  同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春

mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆ 人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。 イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。 そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。 俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。 誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。 どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。 そう思ってたのに…… どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ! ※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

忍者同心 服部文蔵

大澤伝兵衛
歴史・時代
 八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。  服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。  忍者同心の誕生である。  だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。  それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……

えふえむ三人娘の物語

えふえむ
キャラ文芸
えふえむ三人娘の小説です。 ボブカット:アンナ(杏奈)ちゃん 三つ編み:チエ(千絵)ちゃん ポニテ:サキ(沙希)ちゃん

処理中です...