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第一章
蛇の弥五郎24
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「さて、蛇の弥五郎。
素直に正体を現し、妖狸が人に化けていた事を白状しろ。
正直に白状すれば、罪一等を減じ、佐渡島の水汲み人足として島流しにしてやる。
だが嘘偽りを申したら、人の盗賊としてこの場で斬り殺す。
お前が正体を現さなければ、俺も切腹させられる。
そうなれば俺の手先が仇討ちをはじめて、日本中の狸を皆殺しにする。
よくよく考えて返答しろ」
「与力の旦那。
正直に話すのはいいですが、もっちょっと恩情をかけてくれませんかね。
あっしらとしても、恨みを晴らしただけなんで」
七右衛門はチラリと老中に視線を送った。
勝手にこれ以上の減刑を与えるわけにはいかない。
佐渡島の水汲み人足ならば、幕府の財政に寄与させるためと言い訳はできる。
だが単なる島流しでは、蛇の弥五郎一味の罪には軽すぎるのだ。
その場にいる老中以下は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
なんと言っても狸が人の言葉を話したのだから。
「恨みの内容を聞き出せ。
正当な恨みで、仇討ちに相応しと言うのなら、恩赦も考えよう。
だがそれはあくまで正当な恨みである場合だけだ」
「じゃあ言わせていただきますが、天子様は何度も肉食を禁止されています。
にもかかわらず、未だに山に押し入り、我らの仲間を殺し、喰らっています。
人が狸を殺し喰らうのなら、狸が人を殺して何が悪いのです。
少なくても狸は人を喰っていませんよ」
評定所が凍り付いた。
狸が自分達の行いを堂々と認めたのだ。
認めただけでなく、先に手を出したのは人間だと非難までしたのだ。
身内を殺されたばかりか、喰われた。
だから敵討ちだと言われれば、心に衝撃を受けていた老中達は直ぐに反論できなかった。
「それは間違っているぞ、弥五郎。
確かに古の天子様は度々禁令を出されている。
だがそれは稲作に影響が出るから、一時的に禁令を出されただけだ。
それも、特定の獣だけを、特定の期間、特定の狩猟法を獲るのを禁止されたのだ。
凶作以外の時期は禁令など出ていない」
「何だと!
嘘を言ううんじゃない!」
「嘘ではない。
時間をくれるのなら、古い記録書を見せてやろう。
だがその前に、人の姿に成れる事を証明してもらおう。
そして自分が蛇の弥五郎であると認めてもらおう」
「嫌だ!
その古い記録とやらを見せてもらうまでは、絶対に認めん」
七右衛門は再び老中に視線を送った。
勝手に決める訳にはいかないので、老中の許可をもらおうとしたのだ。
老中も返事に困っていた。
狸が人語を話し、会話した以上、七右衛門の主張は正しいのは分かった。
だがどう裁きを下していいのか、全く判断できなかったのだ。
素直に正体を現し、妖狸が人に化けていた事を白状しろ。
正直に白状すれば、罪一等を減じ、佐渡島の水汲み人足として島流しにしてやる。
だが嘘偽りを申したら、人の盗賊としてこの場で斬り殺す。
お前が正体を現さなければ、俺も切腹させられる。
そうなれば俺の手先が仇討ちをはじめて、日本中の狸を皆殺しにする。
よくよく考えて返答しろ」
「与力の旦那。
正直に話すのはいいですが、もっちょっと恩情をかけてくれませんかね。
あっしらとしても、恨みを晴らしただけなんで」
七右衛門はチラリと老中に視線を送った。
勝手にこれ以上の減刑を与えるわけにはいかない。
佐渡島の水汲み人足ならば、幕府の財政に寄与させるためと言い訳はできる。
だが単なる島流しでは、蛇の弥五郎一味の罪には軽すぎるのだ。
その場にいる老中以下は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
なんと言っても狸が人の言葉を話したのだから。
「恨みの内容を聞き出せ。
正当な恨みで、仇討ちに相応しと言うのなら、恩赦も考えよう。
だがそれはあくまで正当な恨みである場合だけだ」
「じゃあ言わせていただきますが、天子様は何度も肉食を禁止されています。
にもかかわらず、未だに山に押し入り、我らの仲間を殺し、喰らっています。
人が狸を殺し喰らうのなら、狸が人を殺して何が悪いのです。
少なくても狸は人を喰っていませんよ」
評定所が凍り付いた。
狸が自分達の行いを堂々と認めたのだ。
認めただけでなく、先に手を出したのは人間だと非難までしたのだ。
身内を殺されたばかりか、喰われた。
だから敵討ちだと言われれば、心に衝撃を受けていた老中達は直ぐに反論できなかった。
「それは間違っているぞ、弥五郎。
確かに古の天子様は度々禁令を出されている。
だがそれは稲作に影響が出るから、一時的に禁令を出されただけだ。
それも、特定の獣だけを、特定の期間、特定の狩猟法を獲るのを禁止されたのだ。
凶作以外の時期は禁令など出ていない」
「何だと!
嘘を言ううんじゃない!」
「嘘ではない。
時間をくれるのなら、古い記録書を見せてやろう。
だがその前に、人の姿に成れる事を証明してもらおう。
そして自分が蛇の弥五郎であると認めてもらおう」
「嫌だ!
その古い記録とやらを見せてもらうまでは、絶対に認めん」
七右衛門は再び老中に視線を送った。
勝手に決める訳にはいかないので、老中の許可をもらおうとしたのだ。
老中も返事に困っていた。
狸が人語を話し、会話した以上、七右衛門の主張は正しいのは分かった。
だがどう裁きを下していいのか、全く判断できなかったのだ。
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