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第一章
蛇の弥五郎16
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七右衛門の願いを聞いた河内屋善兵衛は、とても喜んで協力を快諾した。
善兵衛は、男の樋口市之丞に化けた文を手代として伴い、泉屋を訪れた。
札差でも規模の小さな泉屋では、善兵衛を門前払いになどできない。
そんな事をしたら、河内屋の本家分家が全力で泉屋を叩き潰すだろう。
その時には、御先手組だけで河内屋の総力から泉屋を守ることなど不可能だ。
泉屋の当主治五郎は、会うには会うが、何もしゃべらないつもりだった。
自分にはそれくらいの胆力があると自負していた。
だがその自負は脆くも打ち砕かれてしまった。
たかが人間の胆力で、神使の力に及ぶべくもない。
簡単に全ての企みを自白してしまった。
わずか半刻後に、善兵衛は治五郎伴って南町奉行所の七右衛門を訪ねた。
善兵衛と事前に打ち合わせしていた七右衛門は、直ぐに御奉行に全てを話した。
御奉行の根岸肥前守は、わずかに躊躇ったものの、直ぐに老中に面談を求めた。
わずかな躊躇いは、同じ旗本の渡辺孝を慮ってのことであり、隠蔽することも考えたからだった。
だがその考えは直ぐに捨てた。
河内屋善兵衛と七右衛門が全てを知っている。
火付け盗賊改め方が手柄欲しさに無実の者を陥れ、それを知った町奉行が隠蔽を図ったとなれば、幕府の威信が地に落ちるばかりか、江戸城下で打ち壊しの嵐が吹き荒れるのが直ぐに分かったからだ。
根岸肥前守はその事も含めて幕閣の面々に事件を伝えた。
聞いた幕閣の面々は激怒した。
激怒すると同時に、対処策を肥前守に尋ねた。
肥前守の返事は単純明快だった。
火付け盗賊改め方を町人の敵にして、七右衛門を持ちあげると言うものだった。
だがその答えは幕閣の面々には納得できるモノではなかった。
町奉行と七右衛門個人の名声は高まるものの、幕府全体の威信は地に落ちる。
そこで幕閣の面々は、七右衛門に火付け盗賊改め方の御用聞きと同心の捕縛を許可すると同時に、幕府の威信を落とさない献策をするように命じたのだ。
七右衛門は煩悶した。
正直言って、これと言う策が思いつかなかった。
だが何としても良案を捻り出す必要があった。
出せなかった場合、幕府の威信を護るために、自分や一族まで皆殺しにされる可能性があると、真剣に考えていたのだ。
幕府から見れば、無実の罪で陥れようとも、河内屋一門を闕所にすれば、一族一門併せて六百万両が手に入るのだ。
七右衛門も真剣にならざるおえなかった。
父の河内屋徳太郎や、分家の商家を引き継いだ誰かが稲荷神に認められていたら、商家の河内屋が潰される事はなかっただろう。
だが、神使が認めたのは七右衛門だった。
与力家坪内七右衛門家は安泰でも、河内屋には不安があったのだ。
善兵衛は、男の樋口市之丞に化けた文を手代として伴い、泉屋を訪れた。
札差でも規模の小さな泉屋では、善兵衛を門前払いになどできない。
そんな事をしたら、河内屋の本家分家が全力で泉屋を叩き潰すだろう。
その時には、御先手組だけで河内屋の総力から泉屋を守ることなど不可能だ。
泉屋の当主治五郎は、会うには会うが、何もしゃべらないつもりだった。
自分にはそれくらいの胆力があると自負していた。
だがその自負は脆くも打ち砕かれてしまった。
たかが人間の胆力で、神使の力に及ぶべくもない。
簡単に全ての企みを自白してしまった。
わずか半刻後に、善兵衛は治五郎伴って南町奉行所の七右衛門を訪ねた。
善兵衛と事前に打ち合わせしていた七右衛門は、直ぐに御奉行に全てを話した。
御奉行の根岸肥前守は、わずかに躊躇ったものの、直ぐに老中に面談を求めた。
わずかな躊躇いは、同じ旗本の渡辺孝を慮ってのことであり、隠蔽することも考えたからだった。
だがその考えは直ぐに捨てた。
河内屋善兵衛と七右衛門が全てを知っている。
火付け盗賊改め方が手柄欲しさに無実の者を陥れ、それを知った町奉行が隠蔽を図ったとなれば、幕府の威信が地に落ちるばかりか、江戸城下で打ち壊しの嵐が吹き荒れるのが直ぐに分かったからだ。
根岸肥前守はその事も含めて幕閣の面々に事件を伝えた。
聞いた幕閣の面々は激怒した。
激怒すると同時に、対処策を肥前守に尋ねた。
肥前守の返事は単純明快だった。
火付け盗賊改め方を町人の敵にして、七右衛門を持ちあげると言うものだった。
だがその答えは幕閣の面々には納得できるモノではなかった。
町奉行と七右衛門個人の名声は高まるものの、幕府全体の威信は地に落ちる。
そこで幕閣の面々は、七右衛門に火付け盗賊改め方の御用聞きと同心の捕縛を許可すると同時に、幕府の威信を落とさない献策をするように命じたのだ。
七右衛門は煩悶した。
正直言って、これと言う策が思いつかなかった。
だが何としても良案を捻り出す必要があった。
出せなかった場合、幕府の威信を護るために、自分や一族まで皆殺しにされる可能性があると、真剣に考えていたのだ。
幕府から見れば、無実の罪で陥れようとも、河内屋一門を闕所にすれば、一族一門併せて六百万両が手に入るのだ。
七右衛門も真剣にならざるおえなかった。
父の河内屋徳太郎や、分家の商家を引き継いだ誰かが稲荷神に認められていたら、商家の河内屋が潰される事はなかっただろう。
だが、神使が認めたのは七右衛門だった。
与力家坪内七右衛門家は安泰でも、河内屋には不安があったのだ。
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