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第一章
蛇の弥五郎15
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真犯人がいれば話は簡単だった。
前回のように七右衛門が真犯人を捕まえれば済んだ。
だが今回の冤罪事件を企んだ者も馬鹿ではない。
前回の件は十分理解していた。
だから、最初から有りもしない罪で無辜の町人を捕縛したのだ。
そのありもしない罪とは、札差泉屋への押し入りだった。
何一つ盗まれていないのに、押し入られたと偽ったのだ。
火付け盗賊改め方は元々御先手組だ。
与力同心の俸禄米は、組単位で札差に金銀と換金してもらう。
その縁もあって、冤罪の企みに加担したのだろう。
「貴女は文で間違いありませんね?」
「はい。
間違いありません」
七右衛門は、文に化けていた神使と本物の文を見分ける自信がなかった。
だから確かめずにはいられなかったのだ。
「先の神使が私の前に現れる事はあるのですか?」
「あの者が七右衛門殿の前に現れる事は二度とございません」
「そうか。
では安心してよいのですね」
「はい」
七右衛門も、幼き頃より見知っているばかりか遊んでくれた文には心許していた。
文が信頼してもよいと言うのなら、無条件で家臣に迎える事ができた。
どのような役目も、安心して任せる事ができた。
だが自分が見分けられないような文の偽物がいるとなると、何も信じられない。
だから何を置いても確かめずにはいられなかったのだ。
「泉屋が嘘偽りを申しているのなら、真実は話させればよいと思うのだが?
文殿の力でそれは可能ですか?」
「七右衛門殿がそう申されるのなら可能ですが、宜しいのですか?」
文から見れば、七右衛門は神使の力を借りる事を潔しとしていなかった。
七右衛門が望むのなら、蛇の弥五郎一味の居所など直ぐに探す事ができた。
それをしない七右衛門が、今回の件は直ぐに文の力を借りようとした。
その理由を知りたいと文は思ったのだ。
「前回の冤罪事件では、御用聞きと同心が犯人を責め殺す可能性はなかった。
犯人として裁き、火付け盗賊改め方や自分の手柄にしようとした。
だが今回は、前回の冤罪事件の後だ。
真犯人などいないが、少しでも不利になれば、罪のない町人を殺してでも、真実を隠蔽すると思われる。
できる事なら明日にでも御用聞きと同心を捕まえたいのだ」
「承りました。
では河内屋善兵衛殿にも協力して頂きましょう。
そうすれば、明日にでも御用聞きと同心を捕まえる事ができます」
「御爺様に助力を請わねばならぬのか。
それでなくても、御爺様は文殿の事に気が付いていると思われる。
だが無実の者の命がかかっている。
自分の好き嫌いを言っている場合ではないな」
前回のように七右衛門が真犯人を捕まえれば済んだ。
だが今回の冤罪事件を企んだ者も馬鹿ではない。
前回の件は十分理解していた。
だから、最初から有りもしない罪で無辜の町人を捕縛したのだ。
そのありもしない罪とは、札差泉屋への押し入りだった。
何一つ盗まれていないのに、押し入られたと偽ったのだ。
火付け盗賊改め方は元々御先手組だ。
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「貴女は文で間違いありませんね?」
「はい。
間違いありません」
七右衛門は、文に化けていた神使と本物の文を見分ける自信がなかった。
だから確かめずにはいられなかったのだ。
「先の神使が私の前に現れる事はあるのですか?」
「あの者が七右衛門殿の前に現れる事は二度とございません」
「そうか。
では安心してよいのですね」
「はい」
七右衛門も、幼き頃より見知っているばかりか遊んでくれた文には心許していた。
文が信頼してもよいと言うのなら、無条件で家臣に迎える事ができた。
どのような役目も、安心して任せる事ができた。
だが自分が見分けられないような文の偽物がいるとなると、何も信じられない。
だから何を置いても確かめずにはいられなかったのだ。
「泉屋が嘘偽りを申しているのなら、真実は話させればよいと思うのだが?
文殿の力でそれは可能ですか?」
「七右衛門殿がそう申されるのなら可能ですが、宜しいのですか?」
文から見れば、七右衛門は神使の力を借りる事を潔しとしていなかった。
七右衛門が望むのなら、蛇の弥五郎一味の居所など直ぐに探す事ができた。
それをしない七右衛門が、今回の件は直ぐに文の力を借りようとした。
その理由を知りたいと文は思ったのだ。
「前回の冤罪事件では、御用聞きと同心が犯人を責め殺す可能性はなかった。
犯人として裁き、火付け盗賊改め方や自分の手柄にしようとした。
だが今回は、前回の冤罪事件の後だ。
真犯人などいないが、少しでも不利になれば、罪のない町人を殺してでも、真実を隠蔽すると思われる。
できる事なら明日にでも御用聞きと同心を捕まえたいのだ」
「承りました。
では河内屋善兵衛殿にも協力して頂きましょう。
そうすれば、明日にでも御用聞きと同心を捕まえる事ができます」
「御爺様に助力を請わねばならぬのか。
それでなくても、御爺様は文殿の事に気が付いていると思われる。
だが無実の者の命がかかっている。
自分の好き嫌いを言っている場合ではないな」
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