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第一章
蛇の弥五郎10
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坪内平八郎は、赦帳撰要方人別調掛与力から吟味方助役与力に大抜擢された。
養子七右衛門が八面六臂の活躍をしている事は、瓦版で江戸中の評判だ。
草創与力三家のように、年三千両も役得を得る事は不可能だったが、多くの商家や大名旗本から付け届けが送られてきた。
着任挨拶であろうが、二百家以上から二百両ものお金が届けられた。
大名は家来の藩士や藩士の家来が、旗本は家来が町奉行所管轄地で犯罪を起こしてしまうと、町奉行所の同心に捕縛され、裁判にかけられてしまう。
そんな事になると御家の恥となってしまう。
内密に藩で処罰することを条件に、町奉行所の与力同心から事前に知らせてもらえれば、御家の恥を世間に知られなくて済む。
そう考える大名旗本が、草創与力三家を筆頭に、年番方や吟味方の与力同心と、廻り方同心に付け届けを送るのだ。
坪内七右衛門は、見習いになってわずか数カ月で幕閣にまで名が知られる存在だ。
三百人近い小者を駆使していると言う伝聞まである。
中間部屋で賭場を開いている大名や旗本は、戦々恐々としていたのだ。
商家は、何かあった場合に「引き合い」を抜いてもらうためだった。
町奉行所で刑事裁判を行う場合は、直接の被告と被害者と証人以外に、彼らが住む町の名主と家主も同行して出廷しなければいけなかった。
被告と被害者と証人は、迷惑をかける名主と家主に日当と食事代を支払わなければいけないのだ。
少額の被害の為に、自らは商売を閉めて奉行所に行かなければならない上に、名主と家主にお金を払わなければいけないのは、大きな負担なのだ。
犯人の勘違いによる誤った自供はもちろんだが、少額の損害などはなかったことにしてもらいたいのが、商人の本音なのだ。
通常は悪徳御用聞きの副収入となっていたのだが、御奉行と七右衛門の活躍で、同心が責任を持つ「手形」を所持した御用聞き以外は追放される事になった。
だがそうなると、今後引き合いを抜いてもらうことが難しくなる。
だから悪徳御用聞きではなく、直接坪内与力や三見回り同心に付け届けをすることにしたのだ。
「旦那様。
これから宜しくお願い致します」
「此方こそ宜しく頼むぞ」
坪内家は、七右衛門が本勤並みとなり、平八郎が吟味方助役となった事で、別々に出仕しなければいけないのはもちろん、公式な出仕も増えた。
ひとまず河内屋で修行していた中間は戻したが、それだけでは人手が足らず、河内屋が雇う用心棒の中から特に腕に優れた者が、若党や中間として平八郎の共に抜擢されたのだ。
養子七右衛門が八面六臂の活躍をしている事は、瓦版で江戸中の評判だ。
草創与力三家のように、年三千両も役得を得る事は不可能だったが、多くの商家や大名旗本から付け届けが送られてきた。
着任挨拶であろうが、二百家以上から二百両ものお金が届けられた。
大名は家来の藩士や藩士の家来が、旗本は家来が町奉行所管轄地で犯罪を起こしてしまうと、町奉行所の同心に捕縛され、裁判にかけられてしまう。
そんな事になると御家の恥となってしまう。
内密に藩で処罰することを条件に、町奉行所の与力同心から事前に知らせてもらえれば、御家の恥を世間に知られなくて済む。
そう考える大名旗本が、草創与力三家を筆頭に、年番方や吟味方の与力同心と、廻り方同心に付け届けを送るのだ。
坪内七右衛門は、見習いになってわずか数カ月で幕閣にまで名が知られる存在だ。
三百人近い小者を駆使していると言う伝聞まである。
中間部屋で賭場を開いている大名や旗本は、戦々恐々としていたのだ。
商家は、何かあった場合に「引き合い」を抜いてもらうためだった。
町奉行所で刑事裁判を行う場合は、直接の被告と被害者と証人以外に、彼らが住む町の名主と家主も同行して出廷しなければいけなかった。
被告と被害者と証人は、迷惑をかける名主と家主に日当と食事代を支払わなければいけないのだ。
少額の被害の為に、自らは商売を閉めて奉行所に行かなければならない上に、名主と家主にお金を払わなければいけないのは、大きな負担なのだ。
犯人の勘違いによる誤った自供はもちろんだが、少額の損害などはなかったことにしてもらいたいのが、商人の本音なのだ。
通常は悪徳御用聞きの副収入となっていたのだが、御奉行と七右衛門の活躍で、同心が責任を持つ「手形」を所持した御用聞き以外は追放される事になった。
だがそうなると、今後引き合いを抜いてもらうことが難しくなる。
だから悪徳御用聞きではなく、直接坪内与力や三見回り同心に付け届けをすることにしたのだ。
「旦那様。
これから宜しくお願い致します」
「此方こそ宜しく頼むぞ」
坪内家は、七右衛門が本勤並みとなり、平八郎が吟味方助役となった事で、別々に出仕しなければいけないのはもちろん、公式な出仕も増えた。
ひとまず河内屋で修行していた中間は戻したが、それだけでは人手が足らず、河内屋が雇う用心棒の中から特に腕に優れた者が、若党や中間として平八郎の共に抜擢されたのだ。
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