17 / 49
第一章
蛇の弥五郎10
しおりを挟む
坪内平八郎は、赦帳撰要方人別調掛与力から吟味方助役与力に大抜擢された。
養子七右衛門が八面六臂の活躍をしている事は、瓦版で江戸中の評判だ。
草創与力三家のように、年三千両も役得を得る事は不可能だったが、多くの商家や大名旗本から付け届けが送られてきた。
着任挨拶であろうが、二百家以上から二百両ものお金が届けられた。
大名は家来の藩士や藩士の家来が、旗本は家来が町奉行所管轄地で犯罪を起こしてしまうと、町奉行所の同心に捕縛され、裁判にかけられてしまう。
そんな事になると御家の恥となってしまう。
内密に藩で処罰することを条件に、町奉行所の与力同心から事前に知らせてもらえれば、御家の恥を世間に知られなくて済む。
そう考える大名旗本が、草創与力三家を筆頭に、年番方や吟味方の与力同心と、廻り方同心に付け届けを送るのだ。
坪内七右衛門は、見習いになってわずか数カ月で幕閣にまで名が知られる存在だ。
三百人近い小者を駆使していると言う伝聞まである。
中間部屋で賭場を開いている大名や旗本は、戦々恐々としていたのだ。
商家は、何かあった場合に「引き合い」を抜いてもらうためだった。
町奉行所で刑事裁判を行う場合は、直接の被告と被害者と証人以外に、彼らが住む町の名主と家主も同行して出廷しなければいけなかった。
被告と被害者と証人は、迷惑をかける名主と家主に日当と食事代を支払わなければいけないのだ。
少額の被害の為に、自らは商売を閉めて奉行所に行かなければならない上に、名主と家主にお金を払わなければいけないのは、大きな負担なのだ。
犯人の勘違いによる誤った自供はもちろんだが、少額の損害などはなかったことにしてもらいたいのが、商人の本音なのだ。
通常は悪徳御用聞きの副収入となっていたのだが、御奉行と七右衛門の活躍で、同心が責任を持つ「手形」を所持した御用聞き以外は追放される事になった。
だがそうなると、今後引き合いを抜いてもらうことが難しくなる。
だから悪徳御用聞きではなく、直接坪内与力や三見回り同心に付け届けをすることにしたのだ。
「旦那様。
これから宜しくお願い致します」
「此方こそ宜しく頼むぞ」
坪内家は、七右衛門が本勤並みとなり、平八郎が吟味方助役となった事で、別々に出仕しなければいけないのはもちろん、公式な出仕も増えた。
ひとまず河内屋で修行していた中間は戻したが、それだけでは人手が足らず、河内屋が雇う用心棒の中から特に腕に優れた者が、若党や中間として平八郎の共に抜擢されたのだ。
養子七右衛門が八面六臂の活躍をしている事は、瓦版で江戸中の評判だ。
草創与力三家のように、年三千両も役得を得る事は不可能だったが、多くの商家や大名旗本から付け届けが送られてきた。
着任挨拶であろうが、二百家以上から二百両ものお金が届けられた。
大名は家来の藩士や藩士の家来が、旗本は家来が町奉行所管轄地で犯罪を起こしてしまうと、町奉行所の同心に捕縛され、裁判にかけられてしまう。
そんな事になると御家の恥となってしまう。
内密に藩で処罰することを条件に、町奉行所の与力同心から事前に知らせてもらえれば、御家の恥を世間に知られなくて済む。
そう考える大名旗本が、草創与力三家を筆頭に、年番方や吟味方の与力同心と、廻り方同心に付け届けを送るのだ。
坪内七右衛門は、見習いになってわずか数カ月で幕閣にまで名が知られる存在だ。
三百人近い小者を駆使していると言う伝聞まである。
中間部屋で賭場を開いている大名や旗本は、戦々恐々としていたのだ。
商家は、何かあった場合に「引き合い」を抜いてもらうためだった。
町奉行所で刑事裁判を行う場合は、直接の被告と被害者と証人以外に、彼らが住む町の名主と家主も同行して出廷しなければいけなかった。
被告と被害者と証人は、迷惑をかける名主と家主に日当と食事代を支払わなければいけないのだ。
少額の被害の為に、自らは商売を閉めて奉行所に行かなければならない上に、名主と家主にお金を払わなければいけないのは、大きな負担なのだ。
犯人の勘違いによる誤った自供はもちろんだが、少額の損害などはなかったことにしてもらいたいのが、商人の本音なのだ。
通常は悪徳御用聞きの副収入となっていたのだが、御奉行と七右衛門の活躍で、同心が責任を持つ「手形」を所持した御用聞き以外は追放される事になった。
だがそうなると、今後引き合いを抜いてもらうことが難しくなる。
だから悪徳御用聞きではなく、直接坪内与力や三見回り同心に付け届けをすることにしたのだ。
「旦那様。
これから宜しくお願い致します」
「此方こそ宜しく頼むぞ」
坪内家は、七右衛門が本勤並みとなり、平八郎が吟味方助役となった事で、別々に出仕しなければいけないのはもちろん、公式な出仕も増えた。
ひとまず河内屋で修行していた中間は戻したが、それだけでは人手が足らず、河内屋が雇う用心棒の中から特に腕に優れた者が、若党や中間として平八郎の共に抜擢されたのだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
猫の喫茶店『ねこみや』
壬黎ハルキ
キャラ文芸
とあるアラサーのキャリアウーマンは、毎日の仕事で疲れ果てていた。
珍しく早く帰れたその日、ある住宅街の喫茶店を発見。
そこは、彼女と同い年くらいの青年が一人で仕切っていた。そしてそこには看板猫が存在していた。
猫の可愛さと青年の心優しさに癒される彼女は、店の常連になるつもりでいた。
やがて彼女は、一匹の白い子猫を保護する。
その子猫との出会いが、彼女の人生を大きく変えていくことになるのだった。
※4話と5話は12/30に更新します。
※6話以降は連日1話ずつ(毎朝8:00)更新していきます。
※第4回キャラ文芸大賞にエントリーしました。よろしくお願いします<(_ _)>
覚醒呪伝-カクセイジュデン-
星来香文子
キャラ文芸
あの夏の日、空から落ちてきたのは人間の顔だった————
見えてはいけないソレは、人間の姿を装った、怪異。ものの怪。妖怪。
祖母の死により、その右目にかけられた呪いが覚醒した時、少年は“呪受者”と呼ばれ、妖怪たちから追われる事となる。
呪いを解くには、千年前、先祖に呪いをかけた“呪掛者”を完全に滅するしか、方法はないらしい————
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる