15 / 49
第一章
蛇の弥五郎8
しおりを挟む
南町奉行所では、新たに潜伏先の分かった盗賊達を召捕るべく、着々と準備を整えていた。
その責任者は、夜の友吉一味を捕らえ、盗賊仲間の潜伏先を自白させた七右衛門となった。
古参の与力同心は危惧を表明したが、御奉行が押し切った。
だが補助する古参同心は十分に配された。
通常の捕り物出役には、当番方から与力一騎と同心三名が出るのだが、平同心ではなく年寄同心三名が補佐としてつけられた。
当然三見廻り同心と捕り方が多数動員され、盗賊が隠れ家から逃げられないように、完全に封じ込めた。
毎日のように、七右衛門は次々と盗賊を捕縛した。
新たに捕縛した盗賊達も自白に追い込み、新たな盗賊の隠れ家を手に入れた。
市之丞に自白させられた盗賊は、七右衛門の手先となった。
その活躍は幕閣にも伝えられ、無給の無足見習から、年銀十枚の見習いを飛ばし、年二十両の手当てがもらえる本勤並に大抜擢された。
市之丞の神使としての能力なのか、自白した盗賊達は七右衛門に忠誠を誓った。
与力坪内七右衛門の御用聞きとなり、年一分の給金が支払われた。
しかし江戸で暮らすには年十両は必要なのだ。
一分ではとても暮らしていけない。
だから普段は盗賊時代に仮にしていた職業や、振売りをしながら江戸市中の情報を集めた。
本来振売の免許を幕府からもらえるのは、五十歳以上の高齢者か十五歳以下の若年者、もしくは身体が不自由な物に限られていた。
だが町奉行所の手先になる者として、特別に免許が与えられた。
彼らは足に任せて江戸中を歩き回り、元盗賊の経験と知識を生かし、見知った盗賊を探し回った。
彼らは食品ならば油揚げ・鮮魚・干し魚・貝の剥き身・豆腐・醤油・七味唐辛子・すし・甘酒・松茸・ぜんざい・汁粉・白玉団子・納豆・海苔・ゆで卵等を扱った。
食品以外なら、箒・花・風鈴・銅器・もぐさ・暦・筆墨・樽・桶・焚付け用の木くず・笊・蚊帳・草履・蓑笠・植木等を扱った。
商売の上手な者は儲かる物を売り、苦手な者は腐らない物を売った。
彼らには本来は同心が御用聞きに与える身分証明書「手形」が、与力の七右衛門から与えられていた。
建前上は、坪内家の中間や小者扱いであり、目溢しされた元盗賊に対する扱いとしては破格の待遇であった。
だから彼らは身を粉にして働いた。
彼らは七百文程度で売り物を仕入れ、足に任せて売り歩き、一日で五百文の利益を上げた。
雨で働けない日があっても、十分女房子供を養える収入となった。
ましてここに、奉行所からの手当が一分(千文)と七右衛門が与える報酬があるのだ。
その責任者は、夜の友吉一味を捕らえ、盗賊仲間の潜伏先を自白させた七右衛門となった。
古参の与力同心は危惧を表明したが、御奉行が押し切った。
だが補助する古参同心は十分に配された。
通常の捕り物出役には、当番方から与力一騎と同心三名が出るのだが、平同心ではなく年寄同心三名が補佐としてつけられた。
当然三見廻り同心と捕り方が多数動員され、盗賊が隠れ家から逃げられないように、完全に封じ込めた。
毎日のように、七右衛門は次々と盗賊を捕縛した。
新たに捕縛した盗賊達も自白に追い込み、新たな盗賊の隠れ家を手に入れた。
市之丞に自白させられた盗賊は、七右衛門の手先となった。
その活躍は幕閣にも伝えられ、無給の無足見習から、年銀十枚の見習いを飛ばし、年二十両の手当てがもらえる本勤並に大抜擢された。
市之丞の神使としての能力なのか、自白した盗賊達は七右衛門に忠誠を誓った。
与力坪内七右衛門の御用聞きとなり、年一分の給金が支払われた。
しかし江戸で暮らすには年十両は必要なのだ。
一分ではとても暮らしていけない。
だから普段は盗賊時代に仮にしていた職業や、振売りをしながら江戸市中の情報を集めた。
本来振売の免許を幕府からもらえるのは、五十歳以上の高齢者か十五歳以下の若年者、もしくは身体が不自由な物に限られていた。
だが町奉行所の手先になる者として、特別に免許が与えられた。
彼らは足に任せて江戸中を歩き回り、元盗賊の経験と知識を生かし、見知った盗賊を探し回った。
彼らは食品ならば油揚げ・鮮魚・干し魚・貝の剥き身・豆腐・醤油・七味唐辛子・すし・甘酒・松茸・ぜんざい・汁粉・白玉団子・納豆・海苔・ゆで卵等を扱った。
食品以外なら、箒・花・風鈴・銅器・もぐさ・暦・筆墨・樽・桶・焚付け用の木くず・笊・蚊帳・草履・蓑笠・植木等を扱った。
商売の上手な者は儲かる物を売り、苦手な者は腐らない物を売った。
彼らには本来は同心が御用聞きに与える身分証明書「手形」が、与力の七右衛門から与えられていた。
建前上は、坪内家の中間や小者扱いであり、目溢しされた元盗賊に対する扱いとしては破格の待遇であった。
だから彼らは身を粉にして働いた。
彼らは七百文程度で売り物を仕入れ、足に任せて売り歩き、一日で五百文の利益を上げた。
雨で働けない日があっても、十分女房子供を養える収入となった。
ましてここに、奉行所からの手当が一分(千文)と七右衛門が与える報酬があるのだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
証なるもの
笹目いく子
歴史・時代
あれは、我が父と弟だった。天保11年夏、高家旗本の千川家が火付盗賊改方の襲撃を受け、当主と嫡子が殺害された−−。千川家に無実の罪を着せ、取り潰したのは誰の陰謀か?実は千川家庶子であり、わけあって豪商大鳥屋の若き店主となっていた紀堂は、悲嘆の中探索と復讐を密かに決意する。
片腕である大番頭や、許嫁、親友との間に広がる溝に苦しみ、孤独な戦いを続けながら、やがて紀堂は巨大な陰謀の渦中で、己が本当は何者であるのかを知る。
絡み合う過去、愛と葛藤と後悔の果てに、紀堂は何を選択するのか?(性描写はありませんが暴力表現あり)
忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
春花国の式神姫
石田空
キャラ文芸
春花国の藤花姫は、幼少期に呪われたことがきっかけで、成人と同時に出家が決まっていた。
ところが出家当日に突然体から魂が抜かれてしまい、式神に魂を移されてしまう。
「愛しておりますよ、姫様」
「人を拉致監禁したどの口でそれを言ってますか!?」
春花国で起こっている不可解な事象解決のため、急遽春花国の凄腕陰陽師の晦の式神として傍付きにされてしまった。
藤花姫の呪いの真相は?
この国で起こっている事象とは?
そしてこの変人陰陽師と出家決定姫に果たして恋が生まれるのか?
和風ファンタジー。
・サイトより転載になります。
『古城物語』〜『猫たちの時間』4〜
segakiyui
キャラ文芸
『猫たちの時間』シリーズ4。厄介事吸引器、滝志郎。彼を『遊び相手』として雇っているのは朝倉財閥を率いる美少年、朝倉周一郎。今度は周一郎の婚約者に会いにドイツへ向かう二人だが、もちろん何もないわけがなく。待ち構えていたのは人の心が造り出した迷路の罠だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる