3 / 49
第一章
与力株2
しおりを挟む
「初めまして、養父上
七右衛門と申します。
以後宜しくお願い申します」
七右衛門は養父となる坪内平八郎と初めて対面した。
養子先の選定や人物調査、条件のすり合わせは、河内屋の手代達が行った。
多くの候補から、七右衛門が養子に行く与力家が数家に絞られた。
最終的な面談による人物や家の判断は、祖父の善兵衛が行ったので、顔も会わせることなく、七右衛門の養子縁組が決まっていたのだ。
「こちらこそ宜しく頼む。
七右衛門殿とは初めて会うが、手代とは何度も話している。
善兵衛殿とも約束して、書状を交わしている。
儂は七右衛門殿に与力の仕事を教える。
七右衛門殿は格之助と弓太郎の事を頼む」
商人の子供が御家人株を買って養子縁組する場合、問題になる事がある。
それは隠居する先代の待遇はもちろんだが、廃嫡になる子供達の将来だ。
坪内家の場合は、見習いとして無給出仕していた格之助と言う嫡男がいた。
昨日まで与力家を継ぐべく励んでいたのが、いきなり部屋住に落とされるのだ。
その悔しさは察するに余りある。
普通に与力株を売買する場合は、武士を捨てるのか町人になるかは別にして、子々孫々生活できるように、家守の権利を買い与える事が多い。
武士のように代々引き継げる権利を手に入れる事ができて、家臣を養う責任が無くなる。
武士に拘らなければ好条件だ。
だが坪内家の場合は、無給の見習いとは言え、与力として出仕までしていた嫡男がいた。
同格の家から嫁をもらい、弓太郎と言う孫までいた。
息子家族の待遇が大問題だったのだ。
候補与力家の中には、孫がいなかったり、嫡男が出仕前だったりする家もあった。
なのに最終的に坪内家に決まったのは、当主平八郎が穏やかな性格だったためだ。
いや、穏やかと言うよりは、気が弱いと言った方がいい。
町奉行所内でも出世争いを避け、望んで閑職についていた。
だからこそ借金に苦しむ事になっていた。
嫡男の格之助も同じだった。
争いを好まない性格だと評判だった。
だが不安もある。
今迄は争いを好まなかったが、与力の家督を商人の息子に金の力を奪われて、性格が豹変する可能性もあるのだ。
そこで借財を棒引きする以外にも、坪内家に光明を与える条件を出した。
本来千両の価値がある与力家の家督を、五百両の借財で売却する代わりの条件だ。
それは、残りの五百両を使って、同心株を購入する事だ。
ただ同心株を買い与えるだけではない。
赤字が当然の御家人の生活を、黒字にする条件を提示したのだ。
七右衛門と申します。
以後宜しくお願い申します」
七右衛門は養父となる坪内平八郎と初めて対面した。
養子先の選定や人物調査、条件のすり合わせは、河内屋の手代達が行った。
多くの候補から、七右衛門が養子に行く与力家が数家に絞られた。
最終的な面談による人物や家の判断は、祖父の善兵衛が行ったので、顔も会わせることなく、七右衛門の養子縁組が決まっていたのだ。
「こちらこそ宜しく頼む。
七右衛門殿とは初めて会うが、手代とは何度も話している。
善兵衛殿とも約束して、書状を交わしている。
儂は七右衛門殿に与力の仕事を教える。
七右衛門殿は格之助と弓太郎の事を頼む」
商人の子供が御家人株を買って養子縁組する場合、問題になる事がある。
それは隠居する先代の待遇はもちろんだが、廃嫡になる子供達の将来だ。
坪内家の場合は、見習いとして無給出仕していた格之助と言う嫡男がいた。
昨日まで与力家を継ぐべく励んでいたのが、いきなり部屋住に落とされるのだ。
その悔しさは察するに余りある。
普通に与力株を売買する場合は、武士を捨てるのか町人になるかは別にして、子々孫々生活できるように、家守の権利を買い与える事が多い。
武士のように代々引き継げる権利を手に入れる事ができて、家臣を養う責任が無くなる。
武士に拘らなければ好条件だ。
だが坪内家の場合は、無給の見習いとは言え、与力として出仕までしていた嫡男がいた。
同格の家から嫁をもらい、弓太郎と言う孫までいた。
息子家族の待遇が大問題だったのだ。
候補与力家の中には、孫がいなかったり、嫡男が出仕前だったりする家もあった。
なのに最終的に坪内家に決まったのは、当主平八郎が穏やかな性格だったためだ。
いや、穏やかと言うよりは、気が弱いと言った方がいい。
町奉行所内でも出世争いを避け、望んで閑職についていた。
だからこそ借金に苦しむ事になっていた。
嫡男の格之助も同じだった。
争いを好まない性格だと評判だった。
だが不安もある。
今迄は争いを好まなかったが、与力の家督を商人の息子に金の力を奪われて、性格が豹変する可能性もあるのだ。
そこで借財を棒引きする以外にも、坪内家に光明を与える条件を出した。
本来千両の価値がある与力家の家督を、五百両の借財で売却する代わりの条件だ。
それは、残りの五百両を使って、同心株を購入する事だ。
ただ同心株を買い与えるだけではない。
赤字が当然の御家人の生活を、黒字にする条件を提示したのだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
御伽噺のその先へ
雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。
高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。
彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。
その王子が紗良に告げた。
「ねえ、俺と付き合ってよ」
言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。
王子には、誰にも言えない秘密があった。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる