上 下
24 / 44
第一章

第24話:公開処刑1

しおりを挟む
アバディーン王国歴100年11月10日、王都近くの街道・ベンジャミン王視点

 カーツ公子に見逃されて何とか生き地獄から逃れる事ができた。
 だが、王宮はもちろん、王城からも王都からも追放されてしまった。
 馬車もなく、歩いて王都から離れなければいけなくなった。

「余を守って隣国まで行くのだ。
 さすれば余の従者として豊かな生活が約束されるぞ」

 余はチャールズとは違うので、人並み以上の知恵がある。
 この国を狙っている隣国の王家なら、カーツ公子を簒奪者として侵攻するために大義名分に、余を利用するに違いない。

「けっ、国を滅ぼした愚王が何を言っていやがる!」
「そうだ、お前が種豚王太子に王位を継がそうとしたのが元凶だ!」
「お前が素直にカーツ公子に王位を譲っていれば、こんな事になっていない!」

「何を言っている、それでも王家に仕える騎士か?!
 王子が王位を継ぐのは当然であろう!
 お前ら自身がチャールズに媚び諂ってカーツを罵っていたではないか!」

「けっ、お前がチャールズを可愛がっていたから仕方なくやっていただけだ!」
「そうだ、お前さえちゃんとしていたら、俺たちだってちゃんとしていた!」
「俺たちは王のお前に従っただけの被害者だ!」

「くっ、もうチャールズの事はよい、これからの事だ!
 この国に残っても、チャールズに従っていたお前たちに生きて行く場所などない。
 何所でも良いから隣国に逃げるしかないくらい分かっているだろ。
 余に従い、余を守ってこの国から逃げるのだ」

「……おい、どうする、俺は領地に戻る気だったのだが?」
「俺も領地に戻って好きにやる気だったのだが、確かに民の報復は怖いな」
「民など怖くはないが、民を殺すのをカーツ公子が許すとは思えない」

 俺かな連中だ、領地に戻っても民に殺されるだけなのを理解していない。
 これまでは王侯貴族士族の権力で好き放題してこられたが、これからはカーツの意志が全てだと理解していない。

 余もこんな馬鹿どもを使いたくはないのだが、他に身を守る方法がない。
 自由にできる財産が身につけていた宝石しかないので、傭兵を雇う事もできない。
 声の届く範囲にいる騎士や徒士以外に戦力がない。

 チャールズやカミラ、侯爵とは離れてしまった。
 せめてチャールズとカミラがいれば、捕らえてカーツ公子に引き渡し、王位も譲る事を条件に、安楽な隠居生活もありえたのだが……

 そんな事は絶対に許さない!
 そう分からせるために、チャールズやカミラと違う場所に放り出したのだろうか?

 その可能性があるから、王位を譲る事を条件に交渉もできない。
 カーツ公子の力なら、余から王位を譲られる必要もない。

 下手に交渉しようとしたら、その場で殺されるに違いない。
 せっかく命拾いしたのだ、自分から殺されに行く気にはならない。

 聖女をあれほど大切にしていたカーツ公子が本気で怒ったのだ。
 恐らくだが、精霊から受けた以上の苛烈な罰を与えるだろう。

 もうあんな激烈な痛みや苦しみを味わいたいとは思わない。
 できるだけ早くカーツ公子から遠ざかるべきだ。

「お前の言う通りだ、カーツ公子がお前たちを許すはずがないだろう!
 余やチャールズを差し出したからと言って、許されるわけがないだろう!
 どれほど詫びようと、お前たちのやった事は知られているのだぞ!」

「けっ、偉そうに言いやがて、愚王の分際で……」
「そうだが……カーツ公子に全てを知られているとしたら……」
「民など恐れないが、民を傷つけたらカーツが来るな……」

「分かったであろう、領地に戻れば平民が襲って来るぞ。
 500人や600人の平民が死ぬ気で襲って来るのだぞ、本当に勝てるのか?
 勝てたとしても、多くの平民を殺してカーツが許すと思っているのか?
 間違いなく捕らえられて公開処刑されるぞ、それでも良いのか?!」

「けっ、愚王の分際で偉そうに言いやがって、全部お前が元凶だろう!」
「そうだ、全部愚王が元凶だ……が、それで俺たちが許されるとも思えない」
「カーツ公子に調べられたら、これまでの事は簡単に分かるよな……」

「生き残るにはこの国から逃げるしかないが、どの国に行ったとしても、お前たちが歓迎される事など絶対に無いぞ、分かっているのか?!」

「けっ、歓迎されないのは愚王も同じだろう!」
「そうだ、カーツ公子を恐れるなら絶対に歓迎されない……」
「だが、逆にカーツを狙う国があるなら、愚王でも大切に扱うか?」

「分かったであろう、余を守って隣国に行くのだ。
 余を手に入れたら、カーツを討伐する大義名分が手に入るのだ。
 分かったら余を守って隣国までいくのだ、さっさと馬車を手に入れろ」
 
「けっ、好き勝手言いやがって、全ての元凶はお前だろう!」
「そうだが、利用できるのは間違いない」
「ここにいる連中が1つになれば、それなりの戦力にはなる」

 そうだ、余の周りには、話していた3人以外にも騎士や徒士がいる。
 そいつらを全て集めたら、100人くらいの兵力になる。

 100人いれば、平民が1000人襲ってきても撃退できる。
 大きな領都の民が一斉に襲ってこない限り、簡単に撃退できる。
 これで何とか生きて隣国に逃げられる。

 問題はどこの国に逃げ込むかだ!
 カーツと友好を結ぼうとする国に逃げたら、逆に突き出されてしまう。
 逃げ込むとしたら、欲深くて野心に溢れる国だ。

「グレンデヴォン王国に逃げ込む、さっさと馬車と馬を集めて来い」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...