誘拐拉致召喚された日本出身の聖女が、国を救ったら用なしと婚約破棄追放されそうだから、助ける事にした。

克全

文字の大きさ
上 下
20 / 44
第一章

第20話:死活問題

しおりを挟む
アバディーン王国歴100年10月30日、王都、マーガデール侯爵視点

「これはお前達がやって来た悪事に対する報いだ。
 位の高い我ら精霊がやるような事ではないが、今回は仕方がない。
 直接悪事に対する罰を与えてやる、有難く思え!」

 くそ、クソ、糞、金銀財宝に目が眩んで人間に協力したのは精霊だ。
 我ら人間だけでは、異世界召喚のような高度の魔術は使えない。

 罪が重いのは我ら人間ではなく精霊の方だ!
 それを誤魔化して、人間に全ての罪を押し付けやがって!
 人間が悪しき存在だと言うのなら、それは精霊に影響されたからだ!

「お前、何を考えた、その不遜な表情はなんだ?!
 しね、しね、死ね、いや、苦しめ、もっと苦しめ!
 自分たちがやってきた悪事の分だけ苦しめ!」

 痛い、痛い、精霊たちに切り刻まれる身体が痛い! 
 もう許してくれ、死なせてくれ、楽にしてくれ。
 金も地位も権力もいらない、この痛みから逃れられるなら何もいらない。

 最初は人間同士に争わせていた精霊が、今は直接私たちを痛めつけている。
 かなり焦っているように感じる。
 精霊自らが剣を振るって私たちを切り刻んでいる。

 人間同士で殺し合っている間は、騎士や徒士だった者が有利だった。
 男の方が女よりも有利だったし、大人の方が子供より有利だった。
 誰よりも痛めつけられていたのは、王都にいた子供だった。

 何の役にも立たない子供が、王都の城門を出て戻って来なかった。
 ぎりぎり自分の脚で歩けるような子供は、ほとんど戻って来なかった。

 だが自分で歩けない赤子のような幼い子供は、親と一緒に王都に戻って来た。
 ある程度の大きさになった子供は、王都から出られなかった。

 かっぱらい、盗みができる程度の大きさになった子供は、王都に戻された。
 そんな子供が一番傷つけられる事が多かった。

 親に連れられないと王都の外に出られないような子供は、精霊が守っていたのだろう、誰にも傷つけられなかった。

 見境の無くなった騎士や徒士、特に種豚王太子の取り巻きだった、近衛騎士団の連中が赤子を痛めつけようとしたが、防御魔術に邪魔されていた。

 そういえば、その光景を見ていた精霊が驚いていたな。
 私を剣で斬り刻むのを止めるくらい驚いていた。
 よく考えてみると、あれは少しおかしい。

 まだ生まれたばかりで何の罪を犯していない赤子や幼子を、精霊たちが守っていたのなら、あんなに驚いたりしない。

 精霊が赤子や幼子を守っていないとしたら、誰が守っている?
 決まっている、カーツだ、カーツ公子が守っているのだ!

 そうだ、カーツ公子は私たちだけを憎んでいるのではない。
 私たちに力を貸した精霊も憎んでいるのだ!

 そう考えれば、精霊たちが焦っている理由が分かる。
 カーツ公子を恐れているのだ、カーツ公子の報復を恐れているのだ!

 見えた、私の助かる道が見えた!
 赤子だ、赤子と幼子を守れば良いのだ!
 実際に守れなくても良い、守る振りをするだけでいい!

 カーツ公子が腐敗獣討伐の旅で何をしていたか知っている。
 目立たないように隠れてやっていたが、娘を王太子妃にするために、婚約破棄の理由を見つけようとカーツ公子を調べさせていたから知っている。

 報告を聞いた時には、愚かな事をすると嘲笑っていたが、そこがカーツ公子の弱点で、私がこの地獄から抜け出せるか抜け出せられないかの分かれ道になる。

「これ以上の悪行は許さん!
 人を導くべき精霊が、欲望に目が眩んで人間を唆したのだ!
 そうでなければ、精霊よりも遥かに弱い人間が悪事を働くわけがない。
 精霊が厳しく見張っていれば、弱い人間は怖くて悪い事ができない。
 すべて精霊がやらしたのだ、悪いのは精霊だ!
 我ら人間が許される道は、精霊と戦う事だ!」

 私の扇動に乗って精霊と戦う者が現れたら、私への評価が上がるか?
 評価は上がらなくても、少しは憎しみが逸れるはずだ。
 カーツ公子からの憎しみが逸れたら、楽に死なせてもらえるかもしれない。

 赤子だ、赤子と幼子だ、彼らを守るような態度をすれば評価される。
 実際に守れなくてもいい、守ろうとしている姿を見せるだけでいい。

 どうせ私の力では騎士や徒士には勝てない。
 赤子と幼子はカーツ公子が作ったであろう防御結界に守られている。

 いや、本当にカーツなのか、聖女深雪ではないのか?
 私が受けた報告では、カーツは常に聖女をたてていた。
 だったらこの防御結界も聖女が展開している可能性がある。

「「「「「ウォオオオオ」」」」」

 悪事に長けた貴族や貴婦人の中には、私の言葉の意味を理解した者がいた。
 騎士や徒士の多くは、これまで通り何の抵抗もできない子供狙っている。

 だが子供もやられてばかりではない。
 何とか苦痛から逃れる方法を探していた。
 それが防御結界を展開している赤子や幼子の影に隠れる事だ。

 大人では隠れられないが、七つ八つの子供なら結構隠れられる。
 それでも完全に大人たちからの攻撃から逃げられるわけではないが、十回に一回でも二回でも逃れられたら、少しは痛みから逃れられる。

「俺たちは、自分たちの罪を他人に擦り付ける悪逆非道な精霊とは違う!
 ちゃんと反省して罪を償う覚悟があるし、もう既にかなりの罰を受けて来た!
 それに比べて精霊たちの何と卑怯下劣な事か!
 そんな精霊に正義の鉄槌を下し、赤子と幼子だけでも王都の外に逃がすぞ!」

「「「「「おう!」」」」

 私の言葉に応えた者たちが動いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

処理中です...