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第一章
第20話:死活問題
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アバディーン王国歴100年10月30日、王都、マーガデール侯爵視点
「これはお前達がやって来た悪事に対する報いだ。
位の高い我ら精霊がやるような事ではないが、今回は仕方がない。
直接悪事に対する罰を与えてやる、有難く思え!」
くそ、クソ、糞、金銀財宝に目が眩んで人間に協力したのは精霊だ。
我ら人間だけでは、異世界召喚のような高度の魔術は使えない。
罪が重いのは我ら人間ではなく精霊の方だ!
それを誤魔化して、人間に全ての罪を押し付けやがって!
人間が悪しき存在だと言うのなら、それは精霊に影響されたからだ!
「お前、何を考えた、その不遜な表情はなんだ?!
しね、しね、死ね、いや、苦しめ、もっと苦しめ!
自分たちがやってきた悪事の分だけ苦しめ!」
痛い、痛い、精霊たちに切り刻まれる身体が痛い!
もう許してくれ、死なせてくれ、楽にしてくれ。
金も地位も権力もいらない、この痛みから逃れられるなら何もいらない。
最初は人間同士に争わせていた精霊が、今は直接私たちを痛めつけている。
かなり焦っているように感じる。
精霊自らが剣を振るって私たちを切り刻んでいる。
人間同士で殺し合っている間は、騎士や徒士だった者が有利だった。
男の方が女よりも有利だったし、大人の方が子供より有利だった。
誰よりも痛めつけられていたのは、王都にいた子供だった。
何の役にも立たない子供が、王都の城門を出て戻って来なかった。
ぎりぎり自分の脚で歩けるような子供は、ほとんど戻って来なかった。
だが自分で歩けない赤子のような幼い子供は、親と一緒に王都に戻って来た。
ある程度の大きさになった子供は、王都から出られなかった。
かっぱらい、盗みができる程度の大きさになった子供は、王都に戻された。
そんな子供が一番傷つけられる事が多かった。
親に連れられないと王都の外に出られないような子供は、精霊が守っていたのだろう、誰にも傷つけられなかった。
見境の無くなった騎士や徒士、特に種豚王太子の取り巻きだった、近衛騎士団の連中が赤子を痛めつけようとしたが、防御魔術に邪魔されていた。
そういえば、その光景を見ていた精霊が驚いていたな。
私を剣で斬り刻むのを止めるくらい驚いていた。
よく考えてみると、あれは少しおかしい。
まだ生まれたばかりで何の罪を犯していない赤子や幼子を、精霊たちが守っていたのなら、あんなに驚いたりしない。
精霊が赤子や幼子を守っていないとしたら、誰が守っている?
決まっている、カーツだ、カーツ公子が守っているのだ!
そうだ、カーツ公子は私たちだけを憎んでいるのではない。
私たちに力を貸した精霊も憎んでいるのだ!
そう考えれば、精霊たちが焦っている理由が分かる。
カーツ公子を恐れているのだ、カーツ公子の報復を恐れているのだ!
見えた、私の助かる道が見えた!
赤子だ、赤子と幼子を守れば良いのだ!
実際に守れなくても良い、守る振りをするだけでいい!
カーツ公子が腐敗獣討伐の旅で何をしていたか知っている。
目立たないように隠れてやっていたが、娘を王太子妃にするために、婚約破棄の理由を見つけようとカーツ公子を調べさせていたから知っている。
報告を聞いた時には、愚かな事をすると嘲笑っていたが、そこがカーツ公子の弱点で、私がこの地獄から抜け出せるか抜け出せられないかの分かれ道になる。
「これ以上の悪行は許さん!
人を導くべき精霊が、欲望に目が眩んで人間を唆したのだ!
そうでなければ、精霊よりも遥かに弱い人間が悪事を働くわけがない。
精霊が厳しく見張っていれば、弱い人間は怖くて悪い事ができない。
すべて精霊がやらしたのだ、悪いのは精霊だ!
我ら人間が許される道は、精霊と戦う事だ!」
私の扇動に乗って精霊と戦う者が現れたら、私への評価が上がるか?
評価は上がらなくても、少しは憎しみが逸れるはずだ。
カーツ公子からの憎しみが逸れたら、楽に死なせてもらえるかもしれない。
赤子だ、赤子と幼子だ、彼らを守るような態度をすれば評価される。
実際に守れなくてもいい、守ろうとしている姿を見せるだけでいい。
どうせ私の力では騎士や徒士には勝てない。
赤子と幼子はカーツ公子が作ったであろう防御結界に守られている。
いや、本当にカーツなのか、聖女深雪ではないのか?
私が受けた報告では、カーツは常に聖女をたてていた。
だったらこの防御結界も聖女が展開している可能性がある。
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
悪事に長けた貴族や貴婦人の中には、私の言葉の意味を理解した者がいた。
騎士や徒士の多くは、これまで通り何の抵抗もできない子供狙っている。
だが子供もやられてばかりではない。
何とか苦痛から逃れる方法を探していた。
それが防御結界を展開している赤子や幼子の影に隠れる事だ。
大人では隠れられないが、七つ八つの子供なら結構隠れられる。
それでも完全に大人たちからの攻撃から逃げられるわけではないが、十回に一回でも二回でも逃れられたら、少しは痛みから逃れられる。
「俺たちは、自分たちの罪を他人に擦り付ける悪逆非道な精霊とは違う!
ちゃんと反省して罪を償う覚悟があるし、もう既にかなりの罰を受けて来た!
それに比べて精霊たちの何と卑怯下劣な事か!
そんな精霊に正義の鉄槌を下し、赤子と幼子だけでも王都の外に逃がすぞ!」
「「「「「おう!」」」」
私の言葉に応えた者たちが動いた。
「これはお前達がやって来た悪事に対する報いだ。
位の高い我ら精霊がやるような事ではないが、今回は仕方がない。
直接悪事に対する罰を与えてやる、有難く思え!」
くそ、クソ、糞、金銀財宝に目が眩んで人間に協力したのは精霊だ。
我ら人間だけでは、異世界召喚のような高度の魔術は使えない。
罪が重いのは我ら人間ではなく精霊の方だ!
それを誤魔化して、人間に全ての罪を押し付けやがって!
人間が悪しき存在だと言うのなら、それは精霊に影響されたからだ!
「お前、何を考えた、その不遜な表情はなんだ?!
しね、しね、死ね、いや、苦しめ、もっと苦しめ!
自分たちがやってきた悪事の分だけ苦しめ!」
痛い、痛い、精霊たちに切り刻まれる身体が痛い!
もう許してくれ、死なせてくれ、楽にしてくれ。
金も地位も権力もいらない、この痛みから逃れられるなら何もいらない。
最初は人間同士に争わせていた精霊が、今は直接私たちを痛めつけている。
かなり焦っているように感じる。
精霊自らが剣を振るって私たちを切り刻んでいる。
人間同士で殺し合っている間は、騎士や徒士だった者が有利だった。
男の方が女よりも有利だったし、大人の方が子供より有利だった。
誰よりも痛めつけられていたのは、王都にいた子供だった。
何の役にも立たない子供が、王都の城門を出て戻って来なかった。
ぎりぎり自分の脚で歩けるような子供は、ほとんど戻って来なかった。
だが自分で歩けない赤子のような幼い子供は、親と一緒に王都に戻って来た。
ある程度の大きさになった子供は、王都から出られなかった。
かっぱらい、盗みができる程度の大きさになった子供は、王都に戻された。
そんな子供が一番傷つけられる事が多かった。
親に連れられないと王都の外に出られないような子供は、精霊が守っていたのだろう、誰にも傷つけられなかった。
見境の無くなった騎士や徒士、特に種豚王太子の取り巻きだった、近衛騎士団の連中が赤子を痛めつけようとしたが、防御魔術に邪魔されていた。
そういえば、その光景を見ていた精霊が驚いていたな。
私を剣で斬り刻むのを止めるくらい驚いていた。
よく考えてみると、あれは少しおかしい。
まだ生まれたばかりで何の罪を犯していない赤子や幼子を、精霊たちが守っていたのなら、あんなに驚いたりしない。
精霊が赤子や幼子を守っていないとしたら、誰が守っている?
決まっている、カーツだ、カーツ公子が守っているのだ!
そうだ、カーツ公子は私たちだけを憎んでいるのではない。
私たちに力を貸した精霊も憎んでいるのだ!
そう考えれば、精霊たちが焦っている理由が分かる。
カーツ公子を恐れているのだ、カーツ公子の報復を恐れているのだ!
見えた、私の助かる道が見えた!
赤子だ、赤子と幼子を守れば良いのだ!
実際に守れなくても良い、守る振りをするだけでいい!
カーツ公子が腐敗獣討伐の旅で何をしていたか知っている。
目立たないように隠れてやっていたが、娘を王太子妃にするために、婚約破棄の理由を見つけようとカーツ公子を調べさせていたから知っている。
報告を聞いた時には、愚かな事をすると嘲笑っていたが、そこがカーツ公子の弱点で、私がこの地獄から抜け出せるか抜け出せられないかの分かれ道になる。
「これ以上の悪行は許さん!
人を導くべき精霊が、欲望に目が眩んで人間を唆したのだ!
そうでなければ、精霊よりも遥かに弱い人間が悪事を働くわけがない。
精霊が厳しく見張っていれば、弱い人間は怖くて悪い事ができない。
すべて精霊がやらしたのだ、悪いのは精霊だ!
我ら人間が許される道は、精霊と戦う事だ!」
私の扇動に乗って精霊と戦う者が現れたら、私への評価が上がるか?
評価は上がらなくても、少しは憎しみが逸れるはずだ。
カーツ公子からの憎しみが逸れたら、楽に死なせてもらえるかもしれない。
赤子だ、赤子と幼子だ、彼らを守るような態度をすれば評価される。
実際に守れなくてもいい、守ろうとしている姿を見せるだけでいい。
どうせ私の力では騎士や徒士には勝てない。
赤子と幼子はカーツ公子が作ったであろう防御結界に守られている。
いや、本当にカーツなのか、聖女深雪ではないのか?
私が受けた報告では、カーツは常に聖女をたてていた。
だったらこの防御結界も聖女が展開している可能性がある。
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
悪事に長けた貴族や貴婦人の中には、私の言葉の意味を理解した者がいた。
騎士や徒士の多くは、これまで通り何の抵抗もできない子供狙っている。
だが子供もやられてばかりではない。
何とか苦痛から逃れる方法を探していた。
それが防御結界を展開している赤子や幼子の影に隠れる事だ。
大人では隠れられないが、七つ八つの子供なら結構隠れられる。
それでも完全に大人たちからの攻撃から逃げられるわけではないが、十回に一回でも二回でも逃れられたら、少しは痛みから逃れられる。
「俺たちは、自分たちの罪を他人に擦り付ける悪逆非道な精霊とは違う!
ちゃんと反省して罪を償う覚悟があるし、もう既にかなりの罰を受けて来た!
それに比べて精霊たちの何と卑怯下劣な事か!
そんな精霊に正義の鉄槌を下し、赤子と幼子だけでも王都の外に逃がすぞ!」
「「「「「おう!」」」」
私の言葉に応えた者たちが動いた。
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