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第一章
第14話:過ちと後悔と繰り返し。
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アバディーン王国歴100年9月30日、アバディーン王国某所、カーツ視点
「カーツさん、私は好きな物をお腹一杯食べられていますが、この世界の孤児はちゃんと食べられているのですか?
聖女の深雪さんが痛い所を聞いて来た。
嘘をつくわけにはいかないが、本当の事を言ったら助けると言い出すに決まっていたので、直ぐに答えられなかった。
人の表情やしぐさで相手の気持ちを推し量るのが日本人だ。
捨て子だった深雪さんには、特にそういう所がある。
それを知っていたのに、嘘でも即答しなかったのは、俺の大きな失敗だ。
「そう、ですか、食べる物もない孤児が多いのですね?」
「ああ、この世界は弱肉強食だから、弱い孤児はほとんど生き残れない。
それに、生き残れたとしても悪事を働いてだ。
盗みなどは軽い方で、大抵は人殺しも厭わない盗賊になる。
親を無くしたばかりならまだましだが、ほとんどの孤児が歪んでいる。
はっきり言うが、聖女の深雪さんに会わせられる人間じゃない」
「……私なんかが想像もできない辛い世界なのですね?」
「聖女に選ばれるほど心優しい深雪さんには耐えられない世界だ。
ほんの少しでも油断すると、街の中、路上でも女性が乱暴される世界だ。
道を尋ねて来た者に油断していると、殺されて身包み剥がれる世界だ。
だから深雪さんを人里に連れて行かなかった」
「私を守るために、馬にしか会わせなかったのですね?」
「以前も言ったが、あれだけの馬を手に入れたのは全くの偶然だ。
……深雪さんを身勝手に誘拐拉致召喚した国が、襲って来たから撃退した。
その時に、酷い扱いをされていた馬を助けたらついて来たのだ」
「カーツさんが助けてくれなかったら、その国に利用されていたのですね?」
「ああ、心も体もズタズタになるくらい利用されただろう。
それは聖女だけじゃない、平民も士族も貴族も、王家や権力者からすれば、死ぬまで扱き使って利用するだけの存在なんだ」
「そんな王家や権力者に利用されるのは絶対に嫌でした。
助けてくださってありがとうございます」
「いや、実は俺も王族の一員だったんだ。
臣籍に下って貴族になったが、責任が全く無い訳じゃない。
あいつらを皆殺しにしてでも止めるべきだった。
だから俺に感謝する必要はない」
「そんなことはありません、ちゃんと助けてくださいました。
それに、時期が来たら必ず日本に戻してくれるのでしょう?
だったらそんなに気にしなくても良いですよ」
「ありがとう、そう言ってくれると少しは心が軽くなるよ。
でも、こんな風に優しい深雪さんだからこそ、申し訳なく思う。
この世界の人間には絶対に会わせられないと思う。
利用しようとして近づいてきた奴に、傷つけられるのが目に見えている。
俺を信用してくれるなら、この世界の人間に会いたいのは我慢してくれ」
「別にどうしても人に会いたい訳ではありません。
でも、私にこの世界を救う力があるなら、もっと力を使いたいです。
孤児たちが酷い人間になる前に助けてあげたいです、無理ですか?」
「多分無理だと思う、命だけは助けられると思うが、人間性は無理だ。
極少数は善良に矯正できるかもしれない。
だが大多数の人間を、日本人のような善人にはできない。
いや、日本人も完全に善良な訳ではなくて、歪んだ善良さなのだが……」
「カーツさんはどうして日本の事を知っているのですか?
この世界で生まれ育ったのですよね?」
「深雪が誘拐拉致召喚されると聞いた時に、この世界の精霊や神々だけでなく、日本の神々にも話を聞いたからさ」
「この世界に人たちはそんな事までできるのですか?!」
「いや……俺は特別な才能があるんだ」
「カーツさんは特別なんですね、凄いな!」
「特別で凄いのは俺だけじゃない、深雪さんもだよ。
そうでなければ、この世界の腐れ外道道は、誘拐拉致召喚してまで深雪さんをこの世界に連れて来ないよ」
「カーツさん、私が本当に特別な存在なら、孤児を助けたいです。
善良な人間にできなくても良いです。
命だけでも助けられたらそれで良いです、手伝ってもらえませんか?」
「深雪さんならそう言うと思っていたよ、だけど止めた方が良い。
深雪さんの性格だと、助けた孤児が誰かを傷つけ殺したりすると、自分が助けたせいで人が殺されたと心を痛める事になる」
救国の旅でも、何度も、いや、何百何千とあったことだ。
その度に深雪は血の涙を流して苦しんだ。
目からだけではなく、心からも血を流し激しい痛みを感じていた。
「そうですか、私が助けた孤児が人を傷つけ殺すのですか……」
「それがこの世界の常識だから、気にしないでいられるなら助けても良いんだ。
だけど深雪さんは、どうしても気にしてしまう。
気にするだけなら兎も角、自分が傷ついてしまうから駄目だ」
「自分が傷つく事になっても良いから助けたいと言ったら、手伝ってくれますか?」
「……この世界の人間とは一切接触しない、どれほど気になっても助けた孤児とは接触しないと誓ってくれるのなら、手助けしても良い」
しかたないよな、どれほど反対しても人を助けようとするのが深雪さんなのだ。
力づくで止める事はできるけれど、それはそれで深雪さんを傷付けてしまう。
何より、深雪さんは俺の所有物じゃない。
俺を欺いてでも人助けをしようとする深雪を力づくで止める事は、別の意味で深雪を傷つけてしまうし、俺の傲慢だと理解している。
深雪が本当にやりたい事を止める権利なんて、俺にはない。
俺にできるのは、深雪が傷つかないようにするだけだ。
「カーツさん、私は好きな物をお腹一杯食べられていますが、この世界の孤児はちゃんと食べられているのですか?
聖女の深雪さんが痛い所を聞いて来た。
嘘をつくわけにはいかないが、本当の事を言ったら助けると言い出すに決まっていたので、直ぐに答えられなかった。
人の表情やしぐさで相手の気持ちを推し量るのが日本人だ。
捨て子だった深雪さんには、特にそういう所がある。
それを知っていたのに、嘘でも即答しなかったのは、俺の大きな失敗だ。
「そう、ですか、食べる物もない孤児が多いのですね?」
「ああ、この世界は弱肉強食だから、弱い孤児はほとんど生き残れない。
それに、生き残れたとしても悪事を働いてだ。
盗みなどは軽い方で、大抵は人殺しも厭わない盗賊になる。
親を無くしたばかりならまだましだが、ほとんどの孤児が歪んでいる。
はっきり言うが、聖女の深雪さんに会わせられる人間じゃない」
「……私なんかが想像もできない辛い世界なのですね?」
「聖女に選ばれるほど心優しい深雪さんには耐えられない世界だ。
ほんの少しでも油断すると、街の中、路上でも女性が乱暴される世界だ。
道を尋ねて来た者に油断していると、殺されて身包み剥がれる世界だ。
だから深雪さんを人里に連れて行かなかった」
「私を守るために、馬にしか会わせなかったのですね?」
「以前も言ったが、あれだけの馬を手に入れたのは全くの偶然だ。
……深雪さんを身勝手に誘拐拉致召喚した国が、襲って来たから撃退した。
その時に、酷い扱いをされていた馬を助けたらついて来たのだ」
「カーツさんが助けてくれなかったら、その国に利用されていたのですね?」
「ああ、心も体もズタズタになるくらい利用されただろう。
それは聖女だけじゃない、平民も士族も貴族も、王家や権力者からすれば、死ぬまで扱き使って利用するだけの存在なんだ」
「そんな王家や権力者に利用されるのは絶対に嫌でした。
助けてくださってありがとうございます」
「いや、実は俺も王族の一員だったんだ。
臣籍に下って貴族になったが、責任が全く無い訳じゃない。
あいつらを皆殺しにしてでも止めるべきだった。
だから俺に感謝する必要はない」
「そんなことはありません、ちゃんと助けてくださいました。
それに、時期が来たら必ず日本に戻してくれるのでしょう?
だったらそんなに気にしなくても良いですよ」
「ありがとう、そう言ってくれると少しは心が軽くなるよ。
でも、こんな風に優しい深雪さんだからこそ、申し訳なく思う。
この世界の人間には絶対に会わせられないと思う。
利用しようとして近づいてきた奴に、傷つけられるのが目に見えている。
俺を信用してくれるなら、この世界の人間に会いたいのは我慢してくれ」
「別にどうしても人に会いたい訳ではありません。
でも、私にこの世界を救う力があるなら、もっと力を使いたいです。
孤児たちが酷い人間になる前に助けてあげたいです、無理ですか?」
「多分無理だと思う、命だけは助けられると思うが、人間性は無理だ。
極少数は善良に矯正できるかもしれない。
だが大多数の人間を、日本人のような善人にはできない。
いや、日本人も完全に善良な訳ではなくて、歪んだ善良さなのだが……」
「カーツさんはどうして日本の事を知っているのですか?
この世界で生まれ育ったのですよね?」
「深雪が誘拐拉致召喚されると聞いた時に、この世界の精霊や神々だけでなく、日本の神々にも話を聞いたからさ」
「この世界に人たちはそんな事までできるのですか?!」
「いや……俺は特別な才能があるんだ」
「カーツさんは特別なんですね、凄いな!」
「特別で凄いのは俺だけじゃない、深雪さんもだよ。
そうでなければ、この世界の腐れ外道道は、誘拐拉致召喚してまで深雪さんをこの世界に連れて来ないよ」
「カーツさん、私が本当に特別な存在なら、孤児を助けたいです。
善良な人間にできなくても良いです。
命だけでも助けられたらそれで良いです、手伝ってもらえませんか?」
「深雪さんならそう言うと思っていたよ、だけど止めた方が良い。
深雪さんの性格だと、助けた孤児が誰かを傷つけ殺したりすると、自分が助けたせいで人が殺されたと心を痛める事になる」
救国の旅でも、何度も、いや、何百何千とあったことだ。
その度に深雪は血の涙を流して苦しんだ。
目からだけではなく、心からも血を流し激しい痛みを感じていた。
「そうですか、私が助けた孤児が人を傷つけ殺すのですか……」
「それがこの世界の常識だから、気にしないでいられるなら助けても良いんだ。
だけど深雪さんは、どうしても気にしてしまう。
気にするだけなら兎も角、自分が傷ついてしまうから駄目だ」
「自分が傷つく事になっても良いから助けたいと言ったら、手伝ってくれますか?」
「……この世界の人間とは一切接触しない、どれほど気になっても助けた孤児とは接触しないと誓ってくれるのなら、手助けしても良い」
しかたないよな、どれほど反対しても人を助けようとするのが深雪さんなのだ。
力づくで止める事はできるけれど、それはそれで深雪さんを傷付けてしまう。
何より、深雪さんは俺の所有物じゃない。
俺を欺いてでも人助けをしようとする深雪を力づくで止める事は、別の意味で深雪を傷つけてしまうし、俺の傲慢だと理解している。
深雪が本当にやりたい事を止める権利なんて、俺にはない。
俺にできるのは、深雪が傷つかないようにするだけだ。
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