誘拐拉致召喚された日本出身の聖女が、国を救ったら用なしと婚約破棄追放されそうだから、助ける事にした。

克全

文字の大きさ
上 下
7 / 44
第一章

第7話:飢餓

しおりを挟む
アバディーン王国歴100年8月24日、王都王城侯爵邸、カミラ視点

 いたい、いたい、蝗に食べられた身体中の傷跡が疼く。
 王宮の治療術師に、傷跡1つ残さないよう治させたのに、痛みが治まらない。

 王太子、父、国を見限って逃げようとしたけど、逃げられなかった。
 何かあった時の為に誘惑していた騎士たちに守らせて逃げようとしたのに……
 鼻先も見えなくなるくらいの蝗の群れに邪魔されて逃げられなかった!

 私と同じように逃げようとしていた連中も、全員蝗に身体中を喰われた。
 平民が戻っていないと言うから、全員喰われたに違いない。
 私たち貴族や騎士と違って、身体を守る防具が貧弱だから当然だ。

 王都の治療術師に治させても痛みが取れなくて、王都城門近くで休んでいた。
 そこに王家の騎士がやって来て、王宮に連れて戻された。

 正確には、逃げられずに倒れて動けなかったのだけれど、侯爵令嬢の誇りにかけて本当の事は言えない、王太子の為に公子を討ち取りに行ったのだと言い張った!

 王太子と王、父は疑わしそうに私を見ていたけれど、逃げ損ねた貴族や士族が全員同じことを言っているから、とても全員は処分できない。
 処分しようとしても、私たちの方が多いから戦いになったら勝てる。

 それに、王や父は私の裏切りを確信しているようだけれど、馬鹿な王太子は私の言い訳を簡単に信じる。

 どれほど見え見えの裏切りをしても、私の言い訳を簡単に信じる。
 でも、失敗だった、私とした事が、男を見誤ってしまった。
 馬鹿で権力がある男の方が操り易いと思っていたのに。

 王太子は馬鹿過ぎて操りようもない!
 私の意図を理解できないほど馬鹿だとは思っていなかった。

 手取り足取りすれば何とかなると思っていましたが、感情のままに暴走してしまうから、細かい失敗が積み重なって取り返しがつかない大事になってしまいます。

 こんな事なら、まだ公子の方がマシだった。
 能力も権力も王太子に劣ると思っていたのに、とんでもない力を隠していた!
 公爵家の権力が必要ないほど強いとは、思ってもいなかった。

 王都から出られさえすれば、必ずやり直せる、魅了できる。
 私の魅力に抗える者などいない!
 私がその気になれば、公子も骨抜きにできる。

 全ての罪を父、公爵、王太子、王に背負わせればいい。
 4人を殺す事ができれば、公子は絶対的な権力を手に入れられる。
 4人を殺す手引きをすれば、私は新王国建国の功労者になれる!

 私の魅力で骨抜きになった公子は、私を王妃にするに違いない。
 ふっふっふっふっ、思っていたよりも早く女王に成れるかもしれない。

 以前の計画だと、4人を殺して女王になるまで10年かかると思っていた。
 でも公子が一気に4人を殺してくれれば、後は頃合いを見て公子を殺すだけ。
 その後は良い男を囲い込んで酒池肉林を楽しむの!

「お嬢様、王太子殿下が来られました」

「『蝗に喰われた傷が痛むからお会いできない』と言ってと言っておいたでしょう!
 伝言1つまともに覚えられないの!愚か者!」

「それが、王位継承に関する重大な話があると申されまして……」

「どけ、邪魔だ、侍女の分際で俺様の邪魔をするとは何事だ、死ね!」

「キャアアアアア!」

 本当に馬鹿はどうしようもないわ!
 何かあったら直ぐに剣を抜いて殺してしまう。
 私が教えた、徐々に痛めつけて楽しむ風情を直ぐに忘れてしまう。

「あら、侍女の教育が悪くて申し訳ありません。
 王太子殿下が来られたら直ぐにお通しするように申し付けておりましたのに、役立たずにも程があります」

「そうか、そうだろう、おかしいと思っていたのだ。
 カミラが俺様の訪問を嫌がるはずがないからな」

「はい、私の心は常に殿下を思っております。
 蝗に身体を食べられる危険を冒したのも、殿下の害になる公子をこの手で殺したい一心からでございました」

「分かっている、カミラの余に対する愛は良く分かっている。
 余は分かっているのだが、耄碌した王には理解できないようだ。
 王だけでなく、カミラの父親である侯爵すら分かっていない。
 あんな惚けた連中は殺して、余が王になった方が国の為だ、手を貸せ」

 この馬鹿が!
 王と侯爵がいるから、貴族も騎士もお前の言う事を我慢して聞いているのよ!
 2人を殺してしまったら、貴族士族が自分を殺しに来る事を分かっていない。

 そうは言っても、無闇に反対したら私が先に殺されてしまう。
 この馬鹿は、自分の思い通りにならないと直ぐに切れて剣を振り回す。
 王太子だから抵抗できないだけなのに、自分は強いと思い込んでいる馬鹿!

「はい、命を懸けてお手伝いさせていただきます。
 ですが、父も国王陛下も手練れの護衛に守られております。
 確実に殺すためには、王太子殿下に忠誠を尽くす騎士が必要でございますが、残念ながら王太子近衛騎士団はまだ戻ってきておりません」

「そのような事は言われなくても分かっている!
 分かっているから、カミラの護衛を貸せと言っているのだ!」

「王太子殿下、私の護衛も父に雇われております。
 私よりも父の命令に従うのですよ?」

「役立たずが!
 お前に魅力がないから、侯爵の命令を優先するのだ!
 お前に魅力があれば、騎士たちも侯爵の命を奪う、役立たずが!」

 役立たずの魅力なしはお前だ、王太子!
 お前に魅力があれば、貴族も騎士もお前を奉じて父と王を殺しているわ!

「申し訳ございません、ここは王太子殿下の魅力で貴族と騎士を集めるのです。
 王太子殿下が兵を募られたら、直ぐに万余の兵が集まりますわ!」

 あ、いけない、余りにも腹が立ってできもしない事をやれと言ってしまった。
 本気でやってしまったら、愚王は兎も角、父が王太子を殺しかねない。
 公子に取り入る手柄を、父に与える訳にはいかない。

「ですが、高貴な王太子殿下が直々に動かれる必要などありません。
 いえ、王太子殿下から動かれると、軽々しいと言われてしまいます。
 ここは貴族や士族が頼んで来るのを待ちましょう。
 私も王太子殿下の評判が落ちないように、自ら動かないようにしたします」

「うむ、そうだな、余から動くのは軽々し過ぎるな。
 カミラが動くのも、余がやらせているように見えてしまう。
 分かった、これも人の上に立つ者の苦労だな。
 自ら動かず下の者に頼まれてから動くべきだ」

 自分に言い訳するのだけは本当に上手い。
 いえ、私が投げた命綱に捕まって近づいてきただけね。
 私が助けてやらなかったら、命じたのに誰も言う事を聞かず恥をかいていた。

 恥をかくだけなら良いけれど、下手をしたら貴族や士族に捕らわれていたわ。
 貴族も士族も、自分だけは助かりたいと思っているから、必死だわ
 誰が考えても、生き残る方法は公子に取り入るしかないもの。

「殿下、今直ぐ国王陛下の所に参りましょう。
 国王陛下の元には近衛騎士が集められています。
 彼らなら、殿下の想いを察して動いてくれるかもしれません」

「なに、そうか、近衛の連中ならまだましかもしれぬ」

 愚かな、近衛だからこそ王太子がどうにもならない馬鹿だと知っている。
 王の勅命が無い限り、絶対に王太子の命令には従わない。
 彼らだって、公子が王都に残っていたら恥も外聞もかなぐり捨てて媚びているわ。

「急げ、急いで地方に連絡しろ、このままでは王宮の食糧が尽きるぞ!」
「分かっています、王都の備蓄を集めるように命じています」
「駄目です、王都の食糧を徴発に行った者が戻って来ません?」
「どうなっている、平民を殺してでも持ってくるように命じただろう?!」

 何なの、何を慌てているの、食糧の話をしているの?
 ああ、そうだわ、私が王都を逃げようとした時も、侯爵邸の食糧を持ち出したわ!
 王宮から逃げようとした騎士や徒士も、王宮の食糧を持ち出したのね!

「王太子殿下、急に持病の腹痛が始まってしまいました。
 申し訳ありませんが、国王陛下の所には1人で行ってください」

 王太子が何か叫んでいるけれど、相手をしている余裕はないわ。
 何を置いても食糧を確保しないと、飢え死にしてしまうわ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...