上 下
6 / 20

5話

しおりを挟む
「なんたることですか!
 新婚早々婚家から逃げ出してくるなんて!
 それでモントローズ公爵家の令嬢の責任が果たせると思っているのですか!
 早々にハミルトン公爵家に帰りなさい!」

 エイリンがモントローズ公爵夫人としての建前を話します。
 本心は表情を見れば分かります。
 私が無事に戻ったことに焦ってるのでしょう。
 私を売り渡した事が露見していないと信じて、演技しているのでしょう。
 横にいるヌライも私を憎々しげに睨んでいます。

「モントローズ公爵閣下に申し上げます!
 私はモントローズ公爵家を裏切ってしまいました。
 エイリン様に命じられ、ファティマ様を売り渡したのです。
 ファティマ様をハミルトン公爵閣下ではなく、取り巻きの者たちに襲わせようとしました。
 ですがそれは私の本意ではありません。
 エイリン様とヌライ様に家族を人質にとられ、仕方なくやった事なのです!」

 私を裏切った見届人が最初に口火を切り、多くの侍女たちが同じ事を証言します。
 モントローズ公爵家の女官だけでなく、ハミルトン公爵の女官も同じ事を証言し、続いてハミルトン公爵家の家老中老も証言します。
 よほど私の事が恐ろしいのでしょう。

「嘘でございます。
 すべてファティマが私とヌライを陥れようとして仕組んだことでございます。
 どうか、どうか騙されないでください。
 そしてファティマを厳罰に処してください。
 ファティマは貴族同士の婚姻を蔑ろにしたのです。
 ファティマの愚かな行動によって、ハミルトン公爵家との絆が断ち切られてしまいました。
 これではハミルトン公爵家との争いになってしまいます。
 そんなことになれば、モントローズ公爵家の面目は丸潰れでございます。
 ファティマを殺して、ハミルトン公爵家に詫びを入れましょう!」

 よく動く舌ですね。
 よくもこれだけ嘘八百並べたてられるものです。
 ですが問題はそんな事ではありません。
 エイリンとヌライの言い訳を聞いていると、直接父上がこの陰謀に加担していなかった事は分かります。

 でもそれが、父上が知らなかったことの証明にはなりません。
 父上がエイリンとヌライの陰謀を知っていて、見て見ぬふりをしていた可能性はあるのです。
 自分の手を汚さず、失敗した時に責任を追及されないように、見て見ぬふりをしていた可能性はあるのです。

「さて父上。
 どう決断なされますか?
 エイリンとヌライの言葉を信じて、私を殺されますか?
 私を信じて、エイリンとヌライを殺されますか?
 私はどちらでも構いませんよ。
 どちらにしても、父上が公爵家当主に相応しくない愚か者だという事は証明されました。
 父上の愚行のせいで、モントローズ公爵家は取り返しのつかない恥をかきました。
 家祖様をはじめとされる歴代のご当主にこの不始末を詫びるために、私は貴方を殺さなければいけません」

 さて、父上はどう決断されます?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です

朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。 ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。 「私がお助けしましょう!」 レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)

侯爵夫人の優雅な180日

cyaru
恋愛
イノセン公爵家のフェインはデンティド侯爵家のアンプレッセに望まれ結婚をした。 しかし、初夜。フェインの目の前で土下座をするアンプレッセ。 【頼む!離縁してくれ】 離縁には同意をするものの、問題があった。 180日の間は離縁の届けを出しても保留をされるのである。 折角なら楽しもうと満喫しつつお節介をしてしまうフェイン。 そして離縁をする為の180日の間にアンプレッセは‥‥。 ※完結後に、センテビーが捕まった理由を追記しました。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※よくある初夜でとんでもない事を言い出す夫が反省をする話です。 ※時々、どこかで聞いたようなワードは錯覚若しくは気のせいです。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物も架空の人物です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...