地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全

文字の大きさ
上 下
15 / 16
第一章

第15話:父兄同伴・バーツ視点

しおりを挟む
 眼の前の男、王弟殿下がいまだにガクガクとした動きのままだ。
 もう五回目、いや、六回目のデートだというのに、まだ慣れない。
 最初は笑えたが、今ではため息しか出ない。
 いったいどれほど臆病なんだ、この男は。
 鬼神のごとき戦場での戦いぶりはいったいどこにいったのだ。

「……どうぞ」

 ようやくだ、ようやく無言からは脱却できている。
 ガクガクの動きはそのままだが、震えだけは止まっている。
 そう考えれば成長したと言えるかもしれないが、遅すぎる。
 初めて戦場に出た新兵でももう少し成長が早いぞ。
 そうか、そうだな、戦場に例えてケツを蹴り上げてやるか。
 こんな時でもなければ、俺が王弟殿下のケツを蹴るなんてできないからな。

「ふっふふふ、砂糖を取ってくださいますか」

「はっ、はい」

 アマーリエの方が王弟殿下よりも余裕があるな。
 あれほど劣等感でネガティブな考え方をしていたのにな。
 今回の戦いはアマーリエの方が圧勝だな。
 今では王弟殿下を揶揄う余裕さえあるようだ。
 王弟殿下の真意を知りたいのなら、自分から質問してみろと言ったのがよかったのかもしれないが、少し楽しそうだな。

 王弟殿下が自分を王配の立場すると言ったのは本能が言わせたのかもしれないな。
 このカップルは、アマーリエは王弟殿下を尻に敷いた方が上手くいきそうだ。
 尻に敷くと言うのは言葉が悪いな。
 夫婦関係に関しては、アマーリエが王弟殿下をリードした方が上手くいくと言った方がいいな。

「王弟殿下、この砂糖菓子はとても甘くておいしいですわよ。
 ひとつ食べて見られては如何ですか」

 ふむ、徐々にアマーリエの殿下に対するからかいの度合いが強くなっているな。
 これは殿下の本心を知るための探りなのか。
 それとも殿下を怒らせて婚約を解消させようとしているのか。
 このままでは殿下が追い詰められ過ぎてしまうな。

「もうそれくらいにしなさい、アマーリエ。
 王弟殿下は子供の頃から甘いものがとても苦手なのだよ。
 無理に甘いものを勧めて気分を悪くされたら、魔獣が現れた時に戦えなくなる。
 私は王弟殿下が出陣できないせいで戦死するのは嫌だからね」

「申し訳ありません、兄上。
 少々悪乗りし過ぎてしまいました。
 以後気をつけますのでお許しください。
 アラステア王弟殿下に対して、とても失礼な事を申し上げてしまいました。
 どうかお許しください」

「……許す」

 おい、こら、もっと気の利いた事を言え。
 これでは俺が完全に悪者ではないか。
 まいったな。
 またアマーリエが周囲をうかがうような態度になってしまった。
 余計な事を言ってしまったようだな。
 これは、一からまたやり直しだな。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】私を虐げた継母と義妹のために、素敵なドレスにして差し上げました

紫崎 藍華
恋愛
キャロラインは継母のバーバラと義妹のドーラから虐げられ使用人のように働かされていた。 王宮で舞踏会が開催されることになってもキャロラインにはドレスもなく参加できるはずもない。 しかも人手不足から舞踏会ではメイドとして働くことになり、ドーラはそれを嘲笑った。 そして舞踏会は始まった。 キャロラインは仕返しのチャンスを逃さない。

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした 義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。 そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。 奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。 そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。 うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。 しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。 テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。 ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

処理中です...