地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全

文字の大きさ
上 下
1 / 16
第一章

第1話:婚約辞退

しおりを挟む
 エヴァンズ公爵家令嬢アマーリエはできるだけ目立たないようにしていた。
 ロバート王太子殿下との婚約を自ら辞退した身だ。
 舞踏会で目立てるような立場ではない。
 いや、そんな建前の問題ではなかった
 双子の妹に比べてあまりにも地味で目立たない存在だった。
 いや、もっとはっきり言えば、絶世の美女である妹と双子とは誰も信じないほどの不器量、誰もが目をひそめるほどのブスだった。

 そんなブスなのに、エドワーディス王国一の名門公爵家の長女であったがために、容姿を無視して王太子との政略結婚が幼い頃から決められていたのだ。
 2歳年上の王太子とは幼馴染だった。
 将来の国王と王妃として共に帝王学を学ばされた。
 乳幼児死亡率の高いこの世界だ、妹のアレグザンドラも予備として同じ教育を一緒に受けていた。

「なんでだ、なんでこんなブスの方が私の婚約者なのだ。
 美しい方を私の婚約者にすればいいではないか」

「殿下、そんな事を口にしてはいけません。
 礼儀を護れないようでは王位継承権を得られませんぞ」

 子供はとても残酷な生き物だ。
 見た目の印象をそのまま口にする。
 普通子供の世界では大人とは違う美醜や好悪がある。
 だがアマーリエの不器量とアレグザンドラの美しさは子供の世界でも同じだった。
 ずっと純真な気持ちでいた3人だったが、ロバートとアレグザンドラが美醜に目覚めた時から関係がおかしくなってしまった。

 2人よりも美醜や性の目覚めが遅かったアマーリエは、化粧や衣装で不器量を補う事もなく、素のままの自分で居過ぎてしまった。
 天然の悪女であるアレグザンドラが、ロバート王子の心を掴めば、公爵家の次女で予備でしかない自分が、姉を押しのけて上の立場に成れると本能で悟ったのだ。
 王子や国王、公爵令嬢や王妃の具体的な違いなど分からなくても、今よりもいいドレスを着られて美味しい料理が食べられ、誰にでも命令できると感じたのだ。

 それからのアレグザンドラは自分磨きに努力した。
 まだ幼いにもかかわらず、ロバート王子が好きな色のドレスを着た。
 ロバート王子が好みそうな化粧を侍女に命じてやらせた。
 ロバート王子が好む香水を身にまとった。
 日々ロバート王子だけを見て、その好みを徹底的に理解した。

 だがアマーリエはそんな事に気がつかなかった。
 ブスといわれて傷ついていたが、一生懸命勉強していた。
 父であるエヴァンズ公爵エドモンドの教えに従い、ひたすら帝王学を学んだ。
 その不断の努力の結果が婚約辞退であり、壁の花だった。
 傅役や侍従に窘められたロバート王子は、成長と共に「ブスや豚」などと言う悪口は言わなくなったが、眼と態度で雄弁に物語り続けたのだ。

「ブスの分際で私の婚約者に成るんじゃない。
 さっさと婚約を辞退して妹のアレグザンドラに婚約者の座を譲れと」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした 義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。 そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。 奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。 そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。 うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。 しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。 テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。 ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する

下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。 ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。 小説家になろう様でも投稿しています。

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

処理中です...