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第一章

第5話:憤怒

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 聖女に選ばれた時には、最初は戸惑いで何も考えられませんでした。
 でも徐々に喜びに包まれ、少しはダヴィドの役に立てるかもしれないと、歓喜に震えることができました。
 でのよくよく考えれば、近年現れなかった本当の聖女に選ばれた事で、大金で売られるかもしれないと恐怖してしまいました。
 ですが結果は、私の想像以上の最悪なモノでした。
 私はあまりに激しい怒りに、眼の前が真っ赤に染まっていた。

「本当にようございました、パウリナお嬢様。
 これでパウリナお嬢様もようやく公爵令嬢に戻れます」

 私の激烈な怒りの炎に、愚か者が油を注ぎます。
 私を教会の前に捨てたという本人ですから、腹立たしさもひとしおです。
 ですが私は愚か者ではないので、こいつが悪いわけではないのは分かっています。
 私を捨てさせたのは、アーシムとウリヤーナです。
 当主や正妻がやらせなくて、家臣が当主の子を捨てられるはずがないのです。
 父や母などとは絶対に思いもしませんし言葉にもしません。

「さあ、こちらでございます、公爵家の馬車でお迎えさせていただきました」

 こいつは本気で私を公爵家に戻せる事をよろこんでいます。
 そして愚かにも、私もよろこんでいると思い込んでいます。
 誰が自分を捨てた家の戻りたいと思うものか!
 私は愛するダヴィドの嫁ぎたかったのです。
 少しでもダヴィドの役に立ちたかったのです。

「まず今日は、公爵閣下と奥方様とアイリン様に会っていただいただきます」

 口を利くのも嫌で黙っていましたが、こいつは平気で話しかけています。
 私の怒りが理解できない馬鹿ではないと思いますが、何を考えているのでしょう?
 それに、こいつらは私を公爵家に戻して何をやらす心算でしょう?
 聖女に選ばれた翌日早々に、抵抗する教会から王家の力まで使って私を奪ったのですから、とんでもないことをやらそうとしているのは間違いありません。

「明日には王宮に参りまして、国王陛下と王妃殿下に拝謁することになっておりますので、お疲れにならないように今日の家族対面は短くなっております」

 こいつ、今わずかに狼狽を顔に出しましたね。
 公爵家の筆頭家老を務めるくらいですから、普段は心を表情に現す事などない古狸でしょうに、よほど後ろめたいことがあるのでしょう。
 まあ、私の事を嫌うアーシムとウリヤーナとアイリンが、こいつの提案を蹴って、親子の再会を拒んだのでしょう。
 醜く生まれた双子の片割れだかっら捨てたのですから、会うのも嫌なのでしょう。

 ですが、畜生腹を公表してまで家に戻し、しかも国王と王妃にまで謁見させようとするのなら、よほど困った事態に陥っているのかもしれません。
 それを打開するためには、聖女となった私を利用する必要があるのでしょう。
 ならばその困った状況を悪化させて、復讐する事もできますね。
 愛するダヴィドに嫁げなかった恨み、晴らさせていただきましょう!
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