第十六王子の建国記

克全

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本編

炊き出し

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「やあ村長、久しぶりだな」
「これは、これは、若様。先だっては大変御世話になりました」
「いやいや、騎士家の子弟として当然の事をしたまでだ」
「それで今日は一体何事でございますか?」
 村長も不思議そうにしているが、それも当然だな。
 ベン男爵の本家筋に当たる騎士家の若殿が、姉御のように色っぽい冒険者を連れて現れたのだから。
「いや、アーベルの村に寄ったのだが、狩りに苦労して食糧難に陥っていると聞いてね。当面の食糧を寄付しようを、狩りをしていたのだよ」
「アーベルの村でございますか?! あの村は丁度うちの村の反対側にある村ですが?」
「ああ、狩りをしていて他の村の事も気になったので、突っ切ってここの様子を見ることにしたのだ」
「なんですって! アゼス魔境を突き抜けたと申されるのですか!?」
「大したことではないよ」
「ですが今のアゼス魔境は、ドラゴン魔境に匹敵する、いえ、魔獣や魔蟲の密度で言えば、ドラゴン魔境にを超える猟師泣かせの魔境でございますぞ!」
「余はベン男爵の本家筋に当たる騎士家の者だぞ。並みの狩人や冒険者と同列扱ってもらっては困る」
「そうは申されましても・・・・・」
「まあそれはよいではないか。それよりもこの村は、十分な狩りが出来ておるのか?」
「それが・・・・・」
「困っておるのだな」
「はい・・・・・」
「では今狩ってきた魔獣と魔蟲の中で、銅級を寄付するから、直ぐに炊き出しを行ってくれ」
「それは・・・・・」
「何か不都合でもあるのか?」
「不都合はございませんが、施しを受けるのは・・・・・」
「村長のプライドを守るために、幼い者にひもじい思いをさせると言うのか?」
「いえ、その様な事は決してございません」
「だったらさっさと女衆を集めて、料理の準備をせぬか!」
「はい!」
「それと」
「何でございましょうか?」
「他の村も食糧に困っているのではないか?」
「はい。他の村も猟に苦労しております」
「他の村の炊き出し材料もこの村に預けるから、伝令を送って取りに来るように伝えてくれ」
「え・・・・・分かりました。直ぐに若い衆を送ります」
「それと不猟の時の為の、干物や塩漬けを保管するように教えておいたはずだな」
「はい。以前も若様に食糧を支援していただき、大量の保存食を備蓄していましたが、それも徐々に減り、余り残っておりません」
「ならば保存食を作るための食糧も置いていくから、他の村にも公平に配ってくれ」
「そんな! そんな責任重大な事を申されても困ります」
「何が困るのだ」
「獣人にはプライドの高い者もいれば、喧嘩っ早い者もいるのです」
「しかたないな。姉御頼んだよ」
「え?! あたしですか?!」
「余の代理として頼むよ」
「若様の代理ですか? それはとても光栄でうれしい事なんですが、若様はどうなされるのですか?」
「アーベルの村に戻るのさ」
「え~と、まさかとは思いますが?」
「もちろん魔境を突っ切って近道するよ」
「私が御一緒するわけにはいきませんか?」
「分かっているよね」
「足手纏いでございますね」
「分かっているなら後は頼んだよ」
「はい」
 三々五々集まる村人の前に、銅級の魔獣と魔蟲の山を築き、今一度アゼス魔境に入った。
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