第十六王子の建国記

克全

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本編

戦況二

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「それで、抵抗することなく逃げたと申すのだな」
「はい。多くの貴族家が逃げだしてしましました。しかしながら、我がバッシー騎士家と王家派の貴族家は、他の貴族家を無事に逃がすために、殿を務めて時間稼ぎを致しました」
「うむ。よくやってくれた」
「共に殿を務めて下さって家は、この書面に書き記しております。また戦うことなく逃げ出した貴族家についても、此方の書面に書き記しております」
「それはよくやってくれた、重畳じゃ」
 王は文官に視線を送り、伝令が差し出した書状を受け取らせた。
 普段は鼻持ちならない文官も、王や重臣達が命懸けで重要な情報を届けた伝令を褒めている場面で、伝令にぞんざいな態度はとらなかった。
 その後も伝令の報告は続いたが、それは国王や重臣達を落胆させるものだった。
 王家派貴族の命懸けの殿も、圧倒的なエステ王国軍の戦力には焼け石に水だった。
 そしてなにより、エステ王国軍指揮官が冷静に対応したことで、殿の決意を無にしてしまった。
 エステ王国軍は、殿に対して三倍の兵力を投入し、包囲して攻撃しなかった。
 決死の勇士に戦いを挑めば、少なくない味方が死傷し、何より大切な時間を失う事になる。
 だから主戦力は、決死の殿部隊を迂回させ、逃げ出した臆病者の貴族連合軍を追撃させたのだ。
 逃げ出した部隊を追撃し、攻撃して殺すのは、決死の覚悟で戦う者を殺すのに比べれば、とても簡単だ。
 決死の殿部隊も、一塊になって迎え討てば強力に抵抗出来るのだが、包囲されただけでは力を発揮できない。
 ここでバッシー騎士家の当主:コロナ・フォン・バッシーが英断を下した!
 敵が重厚な包囲を築く前に、突撃して突破を図るのだ。
 そうしなければ、殿の役目である時間稼ぎを果たせないし、エステ王国軍に全く損害を与えられない。
 エステ王国軍包囲部隊が槍衾を展開し、徐々に堅陣を敷こうとするところに、家臣を叱咤激励して突撃を仕掛けたのだ。
 他の貴族家に何の打ち合わせもしない、突発的な突撃ではあったが、このタイミング以外にエステ王国軍の虚を突くことは出来なかっただろう。
 バッシー騎士家と一緒に殿を務めた貴族家も、流石に命じられることなく殿を務める家だけあって、バッシー騎士家の意図を素早く察した。
 バッシー騎士家に一瞬遅れはしたが、次々と当主の命令が発せられ、ネッツェ王国包囲部隊に突撃していった。
 決死の殿部隊は、貴族家が逃げ出したのと反対方向に突撃した。
 エステ王国軍が攻め込んできた方向に突撃したのだ。
 つまり少数ながら、エステ王国に逆侵攻するようにも見える突撃だった。
 エステ王国主力軍の先頭部隊は、そのまま侵攻を続けたが、中央軍から後軍に関しては大混乱に陥った。
 エステ王国軍の包囲部隊が急ぎ追撃しようとしたが、その機会を逃さず、バッシー騎士家が反転して気勢を制した。
 エステ王国軍の勇士が主力軍先頭部隊に配備されていたのもよかったのだろう。
 決死の殿部隊は、多くの家臣を失うものの、エステ王国軍を突破して逃げ切ることに成功した。
 そして一番の功労は、貴族連合軍の全滅を防いだ事だった。
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