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本編
最低の騎士
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「やはり、下劣だな」
「はい。予想はしていましたが、案の定、領民兵を盾に使いましたな」
「違和感を持たさずに、騎士だけを殺すことは出来ないか?」
「魔法を使って、兵達を転倒させましょう」
「なるほど」
「ブラッディベアーが迫ってきたら、急遽動員された領民兵が及び腰になるのは当然です」
「そうだな」
「その時に足許に魔法で段差を作り、転倒させた拍子にブラッディベアーの攻撃が空振りし、勢い余ったブラッディベアーが領民兵を飛び越えて騎士を殺すという筋書きです」
「多少強引な気もするが、余もそれ以外の方法など思いつかんし、爺の策を使わせてもらうよ」
「はい」
見るのも嫌なのだが、騎士の譜代兵士だろう4人が、無理矢理動員されたであろう領民兵を、後ろから槍で追い立てている。
可哀想な領民兵は、泣く泣く前進する。
命を守る碌な装備もつけていない。
魔獣を斃すことの出来る武器も手にしていない。
例え魔獣に槍を届かせたとしても、その勢いで柄が折れてしまいそうな安物の槍だ。
そんな装備しか領民に与えず、魔獣と無理矢理戦わせる騎士の装備は、煌びやかなだけで防御力自体が低く、余計な装飾がある分重く、瞬発力まで落としてしまう欠陥鎧だ。
人間相手の、それも抵抗できない弱者にだけ威力を発揮する、唾棄すべき鎧だ!
爺との打ち合わせ通り、魔法で魔獣を追い立てて、騎士の軍勢の前に立たせた。
そう、立たせたのだ。
騎士を始め、兵士達の誰にも魔力を感じなかったので、露見する恐れを感じることなく魔法を使う事が出来た。
防御魔法でブラッディベアーの周囲に壁を作り、一挙手一投足まで操り、領民兵が心底恐怖を感じるようにした。
四つ足で駆けて迫ってきたブラッディベアーが、領民兵の前で仁王立ちして、前足を振るって自分達を撫で殺しにすると思わせたのだ。
そうなれば十分訓練された兵士でも思わず体に力がはいる。
少々度胸のある人間でも背を向けて逃げ出すだろう。
普通の人間ならその場で小便をちびるだろう。
領民兵はその場でへたり込むところだった。
それを魔法で無理矢理動かして、ブラッディベアーの爪撃を避けようとする動きに見せかけた。
ブラッディベアーの前に防御魔法を張り、ギリギリ領民兵に爪が届かないようにした。
更に領民兵同士がもつれて転倒するような動きに見せかけた。
そして何とか、ブラッディベアーの前に領民兵がいないような状況を創り出した。
急に視界が開け、自分とブラッディベアーの間に誰もいない事に気が付いた騎士は、最初は呆然としていたが、直ぐに恐怖に硬直し、馬に鞭を入れて逃げる事も出来ない状態だ。
情けない。
士道不覚悟もはなはだしい!
魔境から民を護ることが前提で騎士と言う地位があるのだ。
それがたかだかブラッディベアーを前にしただけで、恐怖で動けなくなるとは、守られる側の民と変わらないではないか。
いや、日々魔境に入って狩りをする猟師にも劣る、唾棄すべき存在でしかない。
余がブラッディベアーの前に張った防御魔法を消すと、一瞬で駆け寄ったブラッディベアーが騎士の首を鎧ごと跳ね飛ばした。
「ヒィィ~ン」
余は騎士の馬の尻に風魔法で軽く打撃を与え、ブラッディベアーの攻撃から逃がした。
それで凍り付いていた領民兵も這うようにして逃げ出した。
動けない者は、余の風魔法で無理矢理動かして逃がした。
だが領民兵を脅していた四人の兵士は、防御魔法で護らないようにしたから、次々と体幹に爪の攻撃を受け、真っ赤な肉片に変えられていった。
「はい。予想はしていましたが、案の定、領民兵を盾に使いましたな」
「違和感を持たさずに、騎士だけを殺すことは出来ないか?」
「魔法を使って、兵達を転倒させましょう」
「なるほど」
「ブラッディベアーが迫ってきたら、急遽動員された領民兵が及び腰になるのは当然です」
「そうだな」
「その時に足許に魔法で段差を作り、転倒させた拍子にブラッディベアーの攻撃が空振りし、勢い余ったブラッディベアーが領民兵を飛び越えて騎士を殺すという筋書きです」
「多少強引な気もするが、余もそれ以外の方法など思いつかんし、爺の策を使わせてもらうよ」
「はい」
見るのも嫌なのだが、騎士の譜代兵士だろう4人が、無理矢理動員されたであろう領民兵を、後ろから槍で追い立てている。
可哀想な領民兵は、泣く泣く前進する。
命を守る碌な装備もつけていない。
魔獣を斃すことの出来る武器も手にしていない。
例え魔獣に槍を届かせたとしても、その勢いで柄が折れてしまいそうな安物の槍だ。
そんな装備しか領民に与えず、魔獣と無理矢理戦わせる騎士の装備は、煌びやかなだけで防御力自体が低く、余計な装飾がある分重く、瞬発力まで落としてしまう欠陥鎧だ。
人間相手の、それも抵抗できない弱者にだけ威力を発揮する、唾棄すべき鎧だ!
爺との打ち合わせ通り、魔法で魔獣を追い立てて、騎士の軍勢の前に立たせた。
そう、立たせたのだ。
騎士を始め、兵士達の誰にも魔力を感じなかったので、露見する恐れを感じることなく魔法を使う事が出来た。
防御魔法でブラッディベアーの周囲に壁を作り、一挙手一投足まで操り、領民兵が心底恐怖を感じるようにした。
四つ足で駆けて迫ってきたブラッディベアーが、領民兵の前で仁王立ちして、前足を振るって自分達を撫で殺しにすると思わせたのだ。
そうなれば十分訓練された兵士でも思わず体に力がはいる。
少々度胸のある人間でも背を向けて逃げ出すだろう。
普通の人間ならその場で小便をちびるだろう。
領民兵はその場でへたり込むところだった。
それを魔法で無理矢理動かして、ブラッディベアーの爪撃を避けようとする動きに見せかけた。
ブラッディベアーの前に防御魔法を張り、ギリギリ領民兵に爪が届かないようにした。
更に領民兵同士がもつれて転倒するような動きに見せかけた。
そして何とか、ブラッディベアーの前に領民兵がいないような状況を創り出した。
急に視界が開け、自分とブラッディベアーの間に誰もいない事に気が付いた騎士は、最初は呆然としていたが、直ぐに恐怖に硬直し、馬に鞭を入れて逃げる事も出来ない状態だ。
情けない。
士道不覚悟もはなはだしい!
魔境から民を護ることが前提で騎士と言う地位があるのだ。
それがたかだかブラッディベアーを前にしただけで、恐怖で動けなくなるとは、守られる側の民と変わらないではないか。
いや、日々魔境に入って狩りをする猟師にも劣る、唾棄すべき存在でしかない。
余がブラッディベアーの前に張った防御魔法を消すと、一瞬で駆け寄ったブラッディベアーが騎士の首を鎧ごと跳ね飛ばした。
「ヒィィ~ン」
余は騎士の馬の尻に風魔法で軽く打撃を与え、ブラッディベアーの攻撃から逃がした。
それで凍り付いていた領民兵も這うようにして逃げ出した。
動けない者は、余の風魔法で無理矢理動かして逃がした。
だが領民兵を脅していた四人の兵士は、防御魔法で護らないようにしたから、次々と体幹に爪の攻撃を受け、真っ赤な肉片に変えられていった。
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