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第一章
第30話:布
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ピーターソン子爵家の薬物犯罪の証拠はなかなかつかめなかった。
ピーターソン子爵家がドラゴン辺境伯家を乗っ取ろうと考えているのなら、その行動が慎重になるのは当然だろう。
だが、そうなると、なぜ領内に流したのかが気になる。
領内に薬物犯罪が広まれば、同じ症状の一族が現れたら、辺境伯家が疑う事くらい分かるだろう。
「ピーターソン子爵家の末端の者が、金欲しさに横流しした可能性が1つです。
もう1つは、違法薬物を別の者から買っている可能性です」
俺の疑問にヴァイオレットが答えてくれた。
「製造する者が別にいるのなら、他の子爵家が同じような事をしている可能性もあれば、分家がやっている可能性もあるな」
「はい、他の子爵家はもちろん、すべての分家も調べさせています。
ただ、分家の数に対してこちらの手が少な過ぎて、十分に調べられていません」
「分かっていて、俺に判断を委ねているのだろうが、だったら今はピーターソン子爵家の調査に集中してくれ。
そのうえで、もし別に製造している者がいるのなら、元凶であるそいつを叩く。
捕まえて白状させれば、誰がそいつらを飼っていたかも分かるだろう。
その中に辺境伯一族がいれば、その時改めて叩けばいい」
俺が決断した事で、調査の重点が決まった。
今回も試されたのか、それともカチュアたちも決めかねていたのか、そんなことは俺にも分からないが、やるべき事を1つずつやっていくだけだ。
それに、俺のやるべき事はとても多い。
薬物犯罪や辺境伯家の乗っ取り計画はとても重大な事件だが、調査を命じた後は俺にできる事などないから、日々の政務を着実に行う事になる。
「承りました、そのようにいたします」
★★★★★★
「これが今領内で使われている布でございます」
俺は内政の中でも衣服を担当する役人の話しを聞いた。
人間が生きていくうえで必要な物、衣食住とはよく言ったものだ。
ドラゴン辺境伯領は暖かい地方ではあるのだが、いかんせん開拓できている場所やネオドラゴン城のある場所は標高が高く、季節によっては結構寒い時があるのだ。
身分の高い者やある程度豊かな者は、毛皮などの温かい素材を購入する事ができるが、貧しい者は自分で草を編んで服を作る事になる。
前世の日本でも、麻、葛、苧、藤・楮・芭蕉・綿花などから布を作っていた。
この世界でも、未開地や魔境の草の繊維を編んで布を作っている。
残念ながら綿花はまだ発見されていないし、虫を利用した絹もない。
俺に詳しい知識があればよかったのだが、情けない事に機織り器の知識どころか、紡ぎ車の詳しい知識すらない。
「ふむ、すべて草木を繊維を使った布なのだな」
「はい、さようでございます。
一般的な領民は自ら草木を集めて布を作りますが、こちらにそろえさせていただきましたのは、辺境伯家に献上されるような、優秀な職人が編んだ布でございます」
「では次の機会には、その職人たちも集めてくれ。
色々と話しを聞いて、新たな織り方を見つけてもらいたい。
それと、次回は職人の工房に直接行って、どのような道具を使っているか見たい」
俺には専門の知識がないから、概念だけを伝えて研究してもらう。
三人寄れば文殊の知恵という言葉もある。
俺1人ではどうにもならない事でも、多くの専門家が集まればいい知恵が浮かんでくるかもしれないし、いい知恵が浮かばなくても職人たちが触発されて研究してくれるかもしれないのだ。
それに、もしかしたら、もうすでに機織り機が使われている可能性もある。
「承りました、そのように手配させていただきます」
担当者は迷惑そうだが、知った事か。
何か不正をしていて、それが露見する事を恐れているのなら、むしろ好都合だ。
職人たちのやる気を引き出すためにも、不正をしている役人はどんどん処分する。
まあ、単にめんどくさいだけかも知らないし、俺が工房に行くことが邪魔だと思う職人から、文句を言われるのが嫌なだけかもしれない。
「それと確かめておきたいのだが、獣の毛を刈って布の原料にしてはいないのだな」
「毛織物でございますか、確かに珍しい物が好きな者が作らせる事もございます。
ですが普通は、そのまま毛皮として使う者が多いのです。
お領主様や辺境伯家の方々に献上された毛織物もございますが、毛皮や草織物に比べて出来が悪く、倉庫にしまわれてると記憶しております」
なるほど、放牧で草食獣を育てるようにはなり始めているが、まだ毛織物に使うにふさわしい獣が見つかっていないのだろうな。
だが、あれはどうなのだろうか。
多くのアニメやラノベでは、よく利用されていたはずだ。
「では、魔獣や魔蟲の繊維を利用した布はどうなのだ。
特に糸を出すクモや、繭を作る虫を利用した布は作られていないのか」
「申し訳ありません、私はそのような事を聞いた事がありません。
そのような現場の話しは、魔獣や魔蟲を狩り利用する冒険者に、直接聞いていただく方がいいと思われます」
★★★★★★
「マジシャン・スパイダーの糸や魔蟲の繭を使って布を織るのですか。
そのような話しは聞いた事がありません。
大陸中に人間がいた時には、そのような利用をする地方があったのかもしれませんが、私は知りませんし、ここに逃げてきた冒険者から聞いた事もありません」
冒険者の代表を務める初老の男に話を言いてみたが、誰も知らないようだ。
だったら乏しい俺の知識を使って挑戦するしかない。
草織物も毛皮も悪くはないのだが、前世で着ていた絹織物の肌着には劣る。
どうしても着心地がいまいちなのだ。
俺の知識で再現した絹織物擬きの着心地がよくなるとは限らない。
だが、挑戦もせずに諦める訳にはいかない。
★★★★★★
「これでよろしいでしょうか、辺境伯代理様」
俺の前には生きたマジシャン・スパイダーや魔蟲の繭、それに普通の虫の繭が幾種類も数多く並べられていた。
最初に狩られてから少し経ったマジシャン・スパイダーの腹から糸袋を取り出し、それから糸をつむぐことができないか試してもらった。
このために、エドワーズ子爵領内の草織物職人に来てもらったのだ。
「だめでございます、辺境伯代理様。
固まってしまっていて、とてもではありませんが糸にできません」
「では茹でてみて、柔らかくして糸をつむいでみろ」
「おおおおお、なんとかできそうでございます。
直ぐには糸にできるとは言い切れませんが、色々試してみれば、糸にする事ができるかもしれません」
「では同じような方法で、虫や魔蟲の繭から糸をつむげないか試してくれ。
長く苦しい挑戦になるだろうが、虫や魔蟲から糸がつむげたら、今までにない最高の布が作れるようになるかもしれない」
「承りました、挑戦させていただきます」
本当に長く苦しい挑戦になるだろうな。
どの虫からいい糸がつむげ、布に適しているか調べるだけでも時間がかかる。
だがそれだけではすまず、蚕のように家で飼える虫を見つけなければいけない。
どんなエサを与えればいいのか、そのエサを人工的に栽培する事ができるのかなど、調べる事が山のようにある。
何年年十年もかけて調べなければいけない、大事業になるだろう。
もしかしたら、俺の代では完成しないかもしれない。
織り方や染め方まで考えれば、まず間違いなく俺の代では、前世で知っているような絹織物は完成しないだろう。
だが、せめて試作品くらいは完成させた。
俺のために無理をしてくれている、義姉さんに絹織物のような服をプレゼントしたいものだ。
ピーターソン子爵家がドラゴン辺境伯家を乗っ取ろうと考えているのなら、その行動が慎重になるのは当然だろう。
だが、そうなると、なぜ領内に流したのかが気になる。
領内に薬物犯罪が広まれば、同じ症状の一族が現れたら、辺境伯家が疑う事くらい分かるだろう。
「ピーターソン子爵家の末端の者が、金欲しさに横流しした可能性が1つです。
もう1つは、違法薬物を別の者から買っている可能性です」
俺の疑問にヴァイオレットが答えてくれた。
「製造する者が別にいるのなら、他の子爵家が同じような事をしている可能性もあれば、分家がやっている可能性もあるな」
「はい、他の子爵家はもちろん、すべての分家も調べさせています。
ただ、分家の数に対してこちらの手が少な過ぎて、十分に調べられていません」
「分かっていて、俺に判断を委ねているのだろうが、だったら今はピーターソン子爵家の調査に集中してくれ。
そのうえで、もし別に製造している者がいるのなら、元凶であるそいつを叩く。
捕まえて白状させれば、誰がそいつらを飼っていたかも分かるだろう。
その中に辺境伯一族がいれば、その時改めて叩けばいい」
俺が決断した事で、調査の重点が決まった。
今回も試されたのか、それともカチュアたちも決めかねていたのか、そんなことは俺にも分からないが、やるべき事を1つずつやっていくだけだ。
それに、俺のやるべき事はとても多い。
薬物犯罪や辺境伯家の乗っ取り計画はとても重大な事件だが、調査を命じた後は俺にできる事などないから、日々の政務を着実に行う事になる。
「承りました、そのようにいたします」
★★★★★★
「これが今領内で使われている布でございます」
俺は内政の中でも衣服を担当する役人の話しを聞いた。
人間が生きていくうえで必要な物、衣食住とはよく言ったものだ。
ドラゴン辺境伯領は暖かい地方ではあるのだが、いかんせん開拓できている場所やネオドラゴン城のある場所は標高が高く、季節によっては結構寒い時があるのだ。
身分の高い者やある程度豊かな者は、毛皮などの温かい素材を購入する事ができるが、貧しい者は自分で草を編んで服を作る事になる。
前世の日本でも、麻、葛、苧、藤・楮・芭蕉・綿花などから布を作っていた。
この世界でも、未開地や魔境の草の繊維を編んで布を作っている。
残念ながら綿花はまだ発見されていないし、虫を利用した絹もない。
俺に詳しい知識があればよかったのだが、情けない事に機織り器の知識どころか、紡ぎ車の詳しい知識すらない。
「ふむ、すべて草木を繊維を使った布なのだな」
「はい、さようでございます。
一般的な領民は自ら草木を集めて布を作りますが、こちらにそろえさせていただきましたのは、辺境伯家に献上されるような、優秀な職人が編んだ布でございます」
「では次の機会には、その職人たちも集めてくれ。
色々と話しを聞いて、新たな織り方を見つけてもらいたい。
それと、次回は職人の工房に直接行って、どのような道具を使っているか見たい」
俺には専門の知識がないから、概念だけを伝えて研究してもらう。
三人寄れば文殊の知恵という言葉もある。
俺1人ではどうにもならない事でも、多くの専門家が集まればいい知恵が浮かんでくるかもしれないし、いい知恵が浮かばなくても職人たちが触発されて研究してくれるかもしれないのだ。
それに、もしかしたら、もうすでに機織り機が使われている可能性もある。
「承りました、そのように手配させていただきます」
担当者は迷惑そうだが、知った事か。
何か不正をしていて、それが露見する事を恐れているのなら、むしろ好都合だ。
職人たちのやる気を引き出すためにも、不正をしている役人はどんどん処分する。
まあ、単にめんどくさいだけかも知らないし、俺が工房に行くことが邪魔だと思う職人から、文句を言われるのが嫌なだけかもしれない。
「それと確かめておきたいのだが、獣の毛を刈って布の原料にしてはいないのだな」
「毛織物でございますか、確かに珍しい物が好きな者が作らせる事もございます。
ですが普通は、そのまま毛皮として使う者が多いのです。
お領主様や辺境伯家の方々に献上された毛織物もございますが、毛皮や草織物に比べて出来が悪く、倉庫にしまわれてると記憶しております」
なるほど、放牧で草食獣を育てるようにはなり始めているが、まだ毛織物に使うにふさわしい獣が見つかっていないのだろうな。
だが、あれはどうなのだろうか。
多くのアニメやラノベでは、よく利用されていたはずだ。
「では、魔獣や魔蟲の繊維を利用した布はどうなのだ。
特に糸を出すクモや、繭を作る虫を利用した布は作られていないのか」
「申し訳ありません、私はそのような事を聞いた事がありません。
そのような現場の話しは、魔獣や魔蟲を狩り利用する冒険者に、直接聞いていただく方がいいと思われます」
★★★★★★
「マジシャン・スパイダーの糸や魔蟲の繭を使って布を織るのですか。
そのような話しは聞いた事がありません。
大陸中に人間がいた時には、そのような利用をする地方があったのかもしれませんが、私は知りませんし、ここに逃げてきた冒険者から聞いた事もありません」
冒険者の代表を務める初老の男に話を言いてみたが、誰も知らないようだ。
だったら乏しい俺の知識を使って挑戦するしかない。
草織物も毛皮も悪くはないのだが、前世で着ていた絹織物の肌着には劣る。
どうしても着心地がいまいちなのだ。
俺の知識で再現した絹織物擬きの着心地がよくなるとは限らない。
だが、挑戦もせずに諦める訳にはいかない。
★★★★★★
「これでよろしいでしょうか、辺境伯代理様」
俺の前には生きたマジシャン・スパイダーや魔蟲の繭、それに普通の虫の繭が幾種類も数多く並べられていた。
最初に狩られてから少し経ったマジシャン・スパイダーの腹から糸袋を取り出し、それから糸をつむぐことができないか試してもらった。
このために、エドワーズ子爵領内の草織物職人に来てもらったのだ。
「だめでございます、辺境伯代理様。
固まってしまっていて、とてもではありませんが糸にできません」
「では茹でてみて、柔らかくして糸をつむいでみろ」
「おおおおお、なんとかできそうでございます。
直ぐには糸にできるとは言い切れませんが、色々試してみれば、糸にする事ができるかもしれません」
「では同じような方法で、虫や魔蟲の繭から糸をつむげないか試してくれ。
長く苦しい挑戦になるだろうが、虫や魔蟲から糸がつむげたら、今までにない最高の布が作れるようになるかもしれない」
「承りました、挑戦させていただきます」
本当に長く苦しい挑戦になるだろうな。
どの虫からいい糸がつむげ、布に適しているか調べるだけでも時間がかかる。
だがそれだけではすまず、蚕のように家で飼える虫を見つけなければいけない。
どんなエサを与えればいいのか、そのエサを人工的に栽培する事ができるのかなど、調べる事が山のようにある。
何年年十年もかけて調べなければいけない、大事業になるだろう。
もしかしたら、俺の代では完成しないかもしれない。
織り方や染め方まで考えれば、まず間違いなく俺の代では、前世で知っているような絹織物は完成しないだろう。
だが、せめて試作品くらいは完成させた。
俺のために無理をしてくれている、義姉さんに絹織物のような服をプレゼントしたいものだ。
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