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第一章
第16話:エドワーズ子爵
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エドワーズ子爵家の家族一族家臣を皆殺しにしたあと、急いで籠城の準備をした。
俺も手伝わされたが、予備の魔法袋に死体を詰め込まされたのには吐き気がした。
大量の死体が入った魔法袋など持っていたくないのだが、ヴァイオレットに政治的にも軍事的にも必要な事だと言われたら、黙って持つしかなかった。
だが俺の苦行はそれだけではなかったのだ。
なんと、俺の一番苦手な演説をしろと言われたのだ。
領主一族を武力で滅ぼして城を乗っ取った以上、領民に勝利宣言をする必要があると言われてしまった。
人前で演説などしたら、身体中が震えて舌が上手く動かず、大恥をかいてしまう。
だが、そうしなければ子爵位を奪ったとはみなされないと言うのだ。
貴族にそんな規則があるなんて初めて聞いたが最近は行われていなかったそうだ。
「エドワーズ子爵一族は皆殺しにした。
今日からこの城の主は、この私、カーツ・マジシャン・ナイト・ドラゴンだ。
これからは奴隷も拷問も殺人も絶対に認めない。
ドラゴン辺境伯家の法と同じ基準で領地を治めていく。
私が領主と認められない者は、今直ぐこの城を出て行け。
自分の家財を持ち出す事は許すし、咎める事もしない。
ドラゴン辺境伯家が攻めてくる前に、残るか出ていくか決めろ」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
「カーツ様万歳!」
「新子爵様万歳!」
「俺たちは自由だぞぉおおおお」
「もう怯えて暮らさなくてもいいのだぞ」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
領民たちはよほど苦しんでいたのだろう。
俺の新領主宣言を歓喜の言葉で迎えてくれた。
だが俺が失政をしたら、これが怨嗟の声に代わるのだろうな。
領民の命を背負って生きていく領主という仕事。
責任感のある者には苦行以外の何物でもない。
だが俺は自分からその役目を背負うと決めたのだ。
決めて実行して、その過程で悪人とはいいえ多くの人間を殺した。
もう途中で逃げ出す事も投げ出す事も許されない。
この苦行から解放されるのは、死んだ時か心が壊れた時だ。
まあ、直ぐに殺されて解放される可能性も高いけどな。
まずはあいつらに最後の命令を伝えないといけない。
「お前達に最後の命令を伝える。
ドラゴン辺境伯とドラゴン伯爵に事の顛末を伝えろ。
俺はもうネオドラゴン城には戻らない。
この城でエドワーズ子爵として領主の役目をまっとうする。
目障りなら討伐軍を送ってくれと伝えろ」
俺は冷たい目で領主席から護衛騎士たちを見降ろし、同じような冷たい言葉と態度で最後の命令を下した。
もう安心して彼らを側に近づかせる事はできない。
今の俺が安心して背中を預けられるのは、隣に座っている義姉さんだけだ。
カチュアとヴァイオレットは、共に利用し合う関係だと思う。
これからは安心して眠る事もできないな。
「承りました」
護衛騎士たちを代表して、年長者のセバスチャンが返事をした。
俺と同じように冷たい目で見返し、冷たい言葉と態度で命令に従った。
何の未練も見せず、むしろ堂々とした態度で謁見の間を出て行った。
次に会う時は攻城戦の場でだろう。
俺にネオドラゴン城を攻める力などないから、祖父や父の軍勢をここで迎え討つ時が再会の場となるだろうな。
「ヴァイオレット、城門の修理は進んでいるか」
「お任せください、辺境伯家が全力で攻めてきても大丈夫なように修理します。
もっとも、攻めてくる事はないと思いますがね」
おい、おい、おい、言っている事が違っていないか。
俺に辺境伯家に叛旗を翻せと言っていたよな。
それとも俺が何か勘違いしていたのか。
それとも聞き間違えをしていたのか。
恐怖のあまり、妄想と現実の一緒にしてしまっているのか。
「最悪の可能性は考えておかなければいけないが、普通準備は1番可能性が高い事を中心にやることになるのですよ。
今回は最悪に備えて城の修理と強化を行いますが、子爵には早とちりして勝手に辺境伯家の使者に斬りつけないように、お願い致します」
ヴァイオレットの返事は慇懃無礼で、正直腹が立った。
だがヴァイオレットの態度は最初からこんな感じで、今更家臣のように恭しく接せられても気持ちが悪いだけだろう。
それに、表面だけ恭しい態度を取るだけで、内心では馬鹿にしたり利用しようとしていたり、大切な事を隠したりするような家臣ならいない方がいい。
態度が悪くても間違った時に叱責してくれて、全てを報告してくれる家臣がいい。
「分かった。
では包み隠さず全てを話してもらおうか。
どうして辺境伯家が俺と戦争を始めないと予測しているのだ」
「辺境伯家が本当に守りたいのは人の世界です。
そのために魔族に備えていますが、同時に内乱や後継者争いを恐れています。
今回エドワーズ子爵家の犯罪を見逃していたのも、その中に傍流とはいえ辺境伯家の一族が混じっていて、辺境伯家の求心力が落ちる事を恐れての事とです。
ですが今回その悪人を、四代目候補のカーツ殿が自らの手で粛清されました。
エドワーズ子爵家の悪事の噂は、密かに辺境伯領全体に広まっていましたから、領民たちは拍手喝采でカーツ殿を褒め称える事でしょう。
ここでカーツ殿を討伐などしたら、辺境伯家の評判は地に落ちてしまいます。
しかも直系の長男と魔術師の才能のある大英雄様の娘を殺してしまうのです。
血で血を洗う後継者争いが始まるのは必定です。
そのような愚かな真似を、ご領主様と伯爵様がするわけがありません」
ヴァイオレットの言葉は丁寧なように聞こえるが、内心では祖父と父をバカにしているのはよく分かる話し方だった。
そもそも少々の悪評を恐れず、エドワーズ子爵家に厳罰を与えるべきだった。
一族の犯罪を恐れるのなら、傍流の婚姻先も徹底的に調べるべきだった。
調べる力がないのなら、傍流は一族ではないと斬り捨てるべきだった。
こう考えれば、ヴァイオレットがバカにするのもしかたがない。
それと俺への処遇だが、ヴァイオレットの予測が正しいと思う。
確かにヴァイオレットの言う通り、俺と義姉さんを殺すのは悪手だ。
だが、祖父と父がここで判断を誤らないとは言い切れない。
これを好機ととらえて、辺境伯一族を傀儡にしようとする、佞臣奸臣悪臣が暗躍しているのが目に見える。
★★★★★★
「ドラゴン辺境伯におかれまして、カーツ様の英断を心から称えられておられます。
つきましては、このままエドワーズ子爵を名乗られ、マティルダ様と魔境の探索をするようにとのお言葉でございます」
俺の心配は杞憂だったのだろうか。
結局俺は順当にエドワーズ子爵位を継承し、義姉さんと一緒に魔境の先に開拓地がないか探索する事になった。
「ドラゴン本家が保有する爵位」
ドラゴン辺境伯:ジャック(カーツの祖父)
ドラゴン伯爵 :ウィリアム(カーツの父)
「カーツが保有する事になった爵位」
エドワーズ子爵:カーツ
俺も手伝わされたが、予備の魔法袋に死体を詰め込まされたのには吐き気がした。
大量の死体が入った魔法袋など持っていたくないのだが、ヴァイオレットに政治的にも軍事的にも必要な事だと言われたら、黙って持つしかなかった。
だが俺の苦行はそれだけではなかったのだ。
なんと、俺の一番苦手な演説をしろと言われたのだ。
領主一族を武力で滅ぼして城を乗っ取った以上、領民に勝利宣言をする必要があると言われてしまった。
人前で演説などしたら、身体中が震えて舌が上手く動かず、大恥をかいてしまう。
だが、そうしなければ子爵位を奪ったとはみなされないと言うのだ。
貴族にそんな規則があるなんて初めて聞いたが最近は行われていなかったそうだ。
「エドワーズ子爵一族は皆殺しにした。
今日からこの城の主は、この私、カーツ・マジシャン・ナイト・ドラゴンだ。
これからは奴隷も拷問も殺人も絶対に認めない。
ドラゴン辺境伯家の法と同じ基準で領地を治めていく。
私が領主と認められない者は、今直ぐこの城を出て行け。
自分の家財を持ち出す事は許すし、咎める事もしない。
ドラゴン辺境伯家が攻めてくる前に、残るか出ていくか決めろ」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
「カーツ様万歳!」
「新子爵様万歳!」
「俺たちは自由だぞぉおおおお」
「もう怯えて暮らさなくてもいいのだぞ」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
領民たちはよほど苦しんでいたのだろう。
俺の新領主宣言を歓喜の言葉で迎えてくれた。
だが俺が失政をしたら、これが怨嗟の声に代わるのだろうな。
領民の命を背負って生きていく領主という仕事。
責任感のある者には苦行以外の何物でもない。
だが俺は自分からその役目を背負うと決めたのだ。
決めて実行して、その過程で悪人とはいいえ多くの人間を殺した。
もう途中で逃げ出す事も投げ出す事も許されない。
この苦行から解放されるのは、死んだ時か心が壊れた時だ。
まあ、直ぐに殺されて解放される可能性も高いけどな。
まずはあいつらに最後の命令を伝えないといけない。
「お前達に最後の命令を伝える。
ドラゴン辺境伯とドラゴン伯爵に事の顛末を伝えろ。
俺はもうネオドラゴン城には戻らない。
この城でエドワーズ子爵として領主の役目をまっとうする。
目障りなら討伐軍を送ってくれと伝えろ」
俺は冷たい目で領主席から護衛騎士たちを見降ろし、同じような冷たい言葉と態度で最後の命令を下した。
もう安心して彼らを側に近づかせる事はできない。
今の俺が安心して背中を預けられるのは、隣に座っている義姉さんだけだ。
カチュアとヴァイオレットは、共に利用し合う関係だと思う。
これからは安心して眠る事もできないな。
「承りました」
護衛騎士たちを代表して、年長者のセバスチャンが返事をした。
俺と同じように冷たい目で見返し、冷たい言葉と態度で命令に従った。
何の未練も見せず、むしろ堂々とした態度で謁見の間を出て行った。
次に会う時は攻城戦の場でだろう。
俺にネオドラゴン城を攻める力などないから、祖父や父の軍勢をここで迎え討つ時が再会の場となるだろうな。
「ヴァイオレット、城門の修理は進んでいるか」
「お任せください、辺境伯家が全力で攻めてきても大丈夫なように修理します。
もっとも、攻めてくる事はないと思いますがね」
おい、おい、おい、言っている事が違っていないか。
俺に辺境伯家に叛旗を翻せと言っていたよな。
それとも俺が何か勘違いしていたのか。
それとも聞き間違えをしていたのか。
恐怖のあまり、妄想と現実の一緒にしてしまっているのか。
「最悪の可能性は考えておかなければいけないが、普通準備は1番可能性が高い事を中心にやることになるのですよ。
今回は最悪に備えて城の修理と強化を行いますが、子爵には早とちりして勝手に辺境伯家の使者に斬りつけないように、お願い致します」
ヴァイオレットの返事は慇懃無礼で、正直腹が立った。
だがヴァイオレットの態度は最初からこんな感じで、今更家臣のように恭しく接せられても気持ちが悪いだけだろう。
それに、表面だけ恭しい態度を取るだけで、内心では馬鹿にしたり利用しようとしていたり、大切な事を隠したりするような家臣ならいない方がいい。
態度が悪くても間違った時に叱責してくれて、全てを報告してくれる家臣がいい。
「分かった。
では包み隠さず全てを話してもらおうか。
どうして辺境伯家が俺と戦争を始めないと予測しているのだ」
「辺境伯家が本当に守りたいのは人の世界です。
そのために魔族に備えていますが、同時に内乱や後継者争いを恐れています。
今回エドワーズ子爵家の犯罪を見逃していたのも、その中に傍流とはいえ辺境伯家の一族が混じっていて、辺境伯家の求心力が落ちる事を恐れての事とです。
ですが今回その悪人を、四代目候補のカーツ殿が自らの手で粛清されました。
エドワーズ子爵家の悪事の噂は、密かに辺境伯領全体に広まっていましたから、領民たちは拍手喝采でカーツ殿を褒め称える事でしょう。
ここでカーツ殿を討伐などしたら、辺境伯家の評判は地に落ちてしまいます。
しかも直系の長男と魔術師の才能のある大英雄様の娘を殺してしまうのです。
血で血を洗う後継者争いが始まるのは必定です。
そのような愚かな真似を、ご領主様と伯爵様がするわけがありません」
ヴァイオレットの言葉は丁寧なように聞こえるが、内心では祖父と父をバカにしているのはよく分かる話し方だった。
そもそも少々の悪評を恐れず、エドワーズ子爵家に厳罰を与えるべきだった。
一族の犯罪を恐れるのなら、傍流の婚姻先も徹底的に調べるべきだった。
調べる力がないのなら、傍流は一族ではないと斬り捨てるべきだった。
こう考えれば、ヴァイオレットがバカにするのもしかたがない。
それと俺への処遇だが、ヴァイオレットの予測が正しいと思う。
確かにヴァイオレットの言う通り、俺と義姉さんを殺すのは悪手だ。
だが、祖父と父がここで判断を誤らないとは言い切れない。
これを好機ととらえて、辺境伯一族を傀儡にしようとする、佞臣奸臣悪臣が暗躍しているのが目に見える。
★★★★★★
「ドラゴン辺境伯におかれまして、カーツ様の英断を心から称えられておられます。
つきましては、このままエドワーズ子爵を名乗られ、マティルダ様と魔境の探索をするようにとのお言葉でございます」
俺の心配は杞憂だったのだろうか。
結局俺は順当にエドワーズ子爵位を継承し、義姉さんと一緒に魔境の先に開拓地がないか探索する事になった。
「ドラゴン本家が保有する爵位」
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