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第一章
第8話:シスコンとブラコン
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俺は魔山や魔境で実戦訓練がしたいと祖父と父に嘆願した。
最初はとても厳しく叱責され、絶対に許可できないと言われてしまった。
だがマティルダ義姉さんが俺を見張り護るために同行する言ったら、手の平を返すように認められ、正直落ち込んでしまった。
俺を四代目候補として大切にしてくれているのは分かっている。
だが戦闘力や自制心に関しては、全く信用されていない事が分かった。
少なくとも俺よりもマティルダ義姉さんの方が信用されている。
確かに中級魔術師の才能があるマティルダ義姉さんと俺は比較にならない。
そんな事は分かっていたが、実際にこうも露骨に態度に出されると落ち込む。
この時俺はまだ気が付いていなかったのだ。
祖父と父がとんでもない事を考えている事を。
俺がうかつだったのが原因だが、普通そんな事は絶対に考えない。
俺は領地と民を護るためなら誇りも良識も捨てる貴族を甘く見ていた。
だが、俺のプライドは傷ついたが、魔境で狩りをする許可はもらえた。
カチュアとヴァイオレットと連れていく事も認められたので良しとした。
「やはり魔術は凄いですね、義姉さん」
俺はマティルダ義姉さんの魔術を、見て心からうらやましいと思ってしまった。
あまりにも簡単にマジックベアーを狩ってしまったからだ。
全長3メートル、体重800kgのマジックベアーはとても強大な魔獣だ。
並の騎士では絶対に勝てない強敵なのだ。
俺の護衛騎士たちでも、多少は苦戦すると思う。
だが義姉さんは眉1つ動かすことなく、魔術1つで狩ってしまった。
「任せてください、カーツ殿。
相手がドラゴン以外なら、相手が何者でもカーツ殿に指1本触れませません」
そう言いながら、カチュアとヴァイオレットを見ないでくれ。
そんな事をされたら、2人の俺への印象が悪くなってしまう。
別にわいせつな事を考えているわけではない。
ドラゴン辺境伯家に生まれた責任は果たす。
家族と一族はもちろん、家臣領民を護るために全力を尽くす。
だが多少の楽しみを与えてくれてもいいではないか。
なにも下劣な真似をしようというのではない。
美少女と美女に近くにいてもらって、目の保養をさせてもらうだけだ。
これくらいの潤いはあってもいいと思うのだ。
マティルダ義姉さんもとても奇麗だけど、血の繋がった大叔母で義姉だ。
妄想して楽しむわけにはいけない相手なのだ。
「ではどんどん狩りますから、御用商人の方々は獲物を集めてください。
辺境伯家で持ちかえる獲物と、販売を依頼する獲物は後で決めます。
魔境に入ってもらった事に見合う利益を与えます」
義姉さんはそういうと、魔力に任せて手当たり次第に魔獣と魔蟲を狩った。
これでは俺の実戦訓練にならないが、許可してくれた祖父や父が、義姉さんの言う通りにする事を条件にしたから、逆らう事ができない。
こんな所をカチュアとヴァイオレットに見られるのが情けない。
俺がシスターコンプレックスの弱い男に見られてしまう。
「義姉さん、俺の実戦訓練も考えてください。
義姉さんなら俺が危険になったら直ぐに助けに入れるだろ。
今度魔族軍が侵攻してきた時、俺の実力がこのままだと困るんだよ。
俺の実力が上がるように協力してくれてもいいだろ」
「そんな心配は無用ですよ」
「無用な事ではないよ。
ドラゴン辺境伯家の後継者が魔族に勝てる力を持っていないでどうするのだ。
私には魔力も腕力もないんだ、せめて指揮力と胆力くらいは鍛えておかないと、家臣領民を護れないじゃないか」
「そんな心配は一切必要ありません」
「いや、必要ですよ。
義姉さんが私を当主になるべきだと思っているのなら、邪魔しないでくれよ」
「邪魔などしません。
私が愛するカーツ殿の邪魔をするわけがないではありませんか」
「ですが実際今邪魔しているじゃないか。
ドラゴン辺境伯家の当主になるならば、指揮能力と胆力が必要だと何度も言っているではありませんか」
「ですから私も何度も必要ないと言っているではありませんか」
もうこんな言い争いをするのは嫌だ。
護衛騎士を始めとする家臣たちに、このような言い争いを見せるのは最悪だ。
俺と義姉さんの評価が地の底にまで落ちてしまう。
それ以上に問題なのは、カチュアとヴァイオレットが受ける俺の印象が。
ブラザーコンプレックスの姉とシスターコンプレックスの弟に見られてしまったら、もう絶対に恋愛対象に這い上がる事ができなくなってしまう。
「義姉さん、義姉さんがドラゴン辺境伯家の当主になると言われるのなら、確かに私に胆力も指揮能力も必要ないかもしれません。
ですがそんな事になれば、義姉さんは平穏に暮らすことができなくなります。
それでも義姉さんはドラゴン辺境伯家の当主を望まれるのですか。
その気なら協力しますが、どうなのですか」
「誰がそんな事を言いました。
ドラゴン辺境伯家の当主に相応しいのはカーツ殿だけです。
私のような弱虫に務まるような生易しい地位ではありません」
「だったら私に協力してください。
私には一刻も早く胆力と指揮能力を鍛える必要があるのです」
「協力はします。
カーツ殿は私とメイソンと母上を助けてくれた恩人です。
協力しない訳がないではありませんか。
だからこそ、このような危険な事をする必要がないと言っているのです」
「でも義姉さん、実際今邪魔をしていると何度も言っているますよね。
どうして理解してくださらないのですか」
「理解していますよ、理解したうえで必要ないと言っているのです」
「……義姉さん、どういう理屈で必要ないと言い切れるのですか」
「そんな簡単な事が分からないなんて、カーツ殿はらしくありませんね」
「簡単な事ですか」
「はい、とても簡単な事ですよ」
「……まさか」
「ようやく思い当たりましたか。
そうです、私が戦うから大丈夫なのですよ。
私がカーツ殿に成り代わって、魔族と戦えば済むことです。
魔術師の才能がある私が、ブラッド城の城代になれば、何も心配ありません。
幾万の魔族が攻めて来ようとも、私が全て撃退してみせます」
なるほど、こうなる事を祖父と父は理解していたのだな。
俺がマティルダ義姉さんを家臣たちの悪意から守った事を知っているから、マティルダ義姉さんが俺の事を慕ってくれている事を知っているから、俺に代わって魔族と戦うとマティルダ義姉さんが言い出す事を予測していた。
だが、どうにも納得できない。
男の俺が、あんなに心優しく弱かったマティルダ義姉さんに護ってもらうだと!?
最初はとても厳しく叱責され、絶対に許可できないと言われてしまった。
だがマティルダ義姉さんが俺を見張り護るために同行する言ったら、手の平を返すように認められ、正直落ち込んでしまった。
俺を四代目候補として大切にしてくれているのは分かっている。
だが戦闘力や自制心に関しては、全く信用されていない事が分かった。
少なくとも俺よりもマティルダ義姉さんの方が信用されている。
確かに中級魔術師の才能があるマティルダ義姉さんと俺は比較にならない。
そんな事は分かっていたが、実際にこうも露骨に態度に出されると落ち込む。
この時俺はまだ気が付いていなかったのだ。
祖父と父がとんでもない事を考えている事を。
俺がうかつだったのが原因だが、普通そんな事は絶対に考えない。
俺は領地と民を護るためなら誇りも良識も捨てる貴族を甘く見ていた。
だが、俺のプライドは傷ついたが、魔境で狩りをする許可はもらえた。
カチュアとヴァイオレットと連れていく事も認められたので良しとした。
「やはり魔術は凄いですね、義姉さん」
俺はマティルダ義姉さんの魔術を、見て心からうらやましいと思ってしまった。
あまりにも簡単にマジックベアーを狩ってしまったからだ。
全長3メートル、体重800kgのマジックベアーはとても強大な魔獣だ。
並の騎士では絶対に勝てない強敵なのだ。
俺の護衛騎士たちでも、多少は苦戦すると思う。
だが義姉さんは眉1つ動かすことなく、魔術1つで狩ってしまった。
「任せてください、カーツ殿。
相手がドラゴン以外なら、相手が何者でもカーツ殿に指1本触れませません」
そう言いながら、カチュアとヴァイオレットを見ないでくれ。
そんな事をされたら、2人の俺への印象が悪くなってしまう。
別にわいせつな事を考えているわけではない。
ドラゴン辺境伯家に生まれた責任は果たす。
家族と一族はもちろん、家臣領民を護るために全力を尽くす。
だが多少の楽しみを与えてくれてもいいではないか。
なにも下劣な真似をしようというのではない。
美少女と美女に近くにいてもらって、目の保養をさせてもらうだけだ。
これくらいの潤いはあってもいいと思うのだ。
マティルダ義姉さんもとても奇麗だけど、血の繋がった大叔母で義姉だ。
妄想して楽しむわけにはいけない相手なのだ。
「ではどんどん狩りますから、御用商人の方々は獲物を集めてください。
辺境伯家で持ちかえる獲物と、販売を依頼する獲物は後で決めます。
魔境に入ってもらった事に見合う利益を与えます」
義姉さんはそういうと、魔力に任せて手当たり次第に魔獣と魔蟲を狩った。
これでは俺の実戦訓練にならないが、許可してくれた祖父や父が、義姉さんの言う通りにする事を条件にしたから、逆らう事ができない。
こんな所をカチュアとヴァイオレットに見られるのが情けない。
俺がシスターコンプレックスの弱い男に見られてしまう。
「義姉さん、俺の実戦訓練も考えてください。
義姉さんなら俺が危険になったら直ぐに助けに入れるだろ。
今度魔族軍が侵攻してきた時、俺の実力がこのままだと困るんだよ。
俺の実力が上がるように協力してくれてもいいだろ」
「そんな心配は無用ですよ」
「無用な事ではないよ。
ドラゴン辺境伯家の後継者が魔族に勝てる力を持っていないでどうするのだ。
私には魔力も腕力もないんだ、せめて指揮力と胆力くらいは鍛えておかないと、家臣領民を護れないじゃないか」
「そんな心配は一切必要ありません」
「いや、必要ですよ。
義姉さんが私を当主になるべきだと思っているのなら、邪魔しないでくれよ」
「邪魔などしません。
私が愛するカーツ殿の邪魔をするわけがないではありませんか」
「ですが実際今邪魔しているじゃないか。
ドラゴン辺境伯家の当主になるならば、指揮能力と胆力が必要だと何度も言っているではありませんか」
「ですから私も何度も必要ないと言っているではありませんか」
もうこんな言い争いをするのは嫌だ。
護衛騎士を始めとする家臣たちに、このような言い争いを見せるのは最悪だ。
俺と義姉さんの評価が地の底にまで落ちてしまう。
それ以上に問題なのは、カチュアとヴァイオレットが受ける俺の印象が。
ブラザーコンプレックスの姉とシスターコンプレックスの弟に見られてしまったら、もう絶対に恋愛対象に這い上がる事ができなくなってしまう。
「義姉さん、義姉さんがドラゴン辺境伯家の当主になると言われるのなら、確かに私に胆力も指揮能力も必要ないかもしれません。
ですがそんな事になれば、義姉さんは平穏に暮らすことができなくなります。
それでも義姉さんはドラゴン辺境伯家の当主を望まれるのですか。
その気なら協力しますが、どうなのですか」
「誰がそんな事を言いました。
ドラゴン辺境伯家の当主に相応しいのはカーツ殿だけです。
私のような弱虫に務まるような生易しい地位ではありません」
「だったら私に協力してください。
私には一刻も早く胆力と指揮能力を鍛える必要があるのです」
「協力はします。
カーツ殿は私とメイソンと母上を助けてくれた恩人です。
協力しない訳がないではありませんか。
だからこそ、このような危険な事をする必要がないと言っているのです」
「でも義姉さん、実際今邪魔をしていると何度も言っているますよね。
どうして理解してくださらないのですか」
「理解していますよ、理解したうえで必要ないと言っているのです」
「……義姉さん、どういう理屈で必要ないと言い切れるのですか」
「そんな簡単な事が分からないなんて、カーツ殿はらしくありませんね」
「簡単な事ですか」
「はい、とても簡単な事ですよ」
「……まさか」
「ようやく思い当たりましたか。
そうです、私が戦うから大丈夫なのですよ。
私がカーツ殿に成り代わって、魔族と戦えば済むことです。
魔術師の才能がある私が、ブラッド城の城代になれば、何も心配ありません。
幾万の魔族が攻めて来ようとも、私が全て撃退してみせます」
なるほど、こうなる事を祖父と父は理解していたのだな。
俺がマティルダ義姉さんを家臣たちの悪意から守った事を知っているから、マティルダ義姉さんが俺の事を慕ってくれている事を知っているから、俺に代わって魔族と戦うとマティルダ義姉さんが言い出す事を予測していた。
だが、どうにも納得できない。
男の俺が、あんなに心優しく弱かったマティルダ義姉さんに護ってもらうだと!?
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