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3話
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「奥さん、変な客のせいで迷惑をかけてしまいましたね。
これはお詫びです。
食べてやってください」
「そんな。
そこまでしていただくような事ではありません」
「いいえ、あんなに怖い思いをさせてしまったのです。
どうか食べてやってください。
それにこのパンは少し特別製で、薬草を練り込んであるのですよ。
お嬢さんに食べさせてあげてください」
「!?
ありがとうございます!
ありがとうございます!
遠慮なく頂かせていただきます!」
貧しそうな身なりの女性が、何度も頭を下げながら店を出ていった。
最後にもらった薬草入りのライ麦パンを、まるで宝物のように、大切に胸に抱いて急いで娘の待つ家に帰っていた。
その急ぎ足から、どれほど娘を大切に思っておるのかが分かる。
「エラは昔と全然変わらないなぁ」
「ウフフフフ、人間そう簡単には変わらないわよ。
そういうマッテオまどうなの?
昔と変わったの?」
「俺かい?
俺も昔と変わらなよ。
エラと一緒に遊んでいた頃のままだよ。
それで、まあ、なんだ。
コロッセオで催される戦いなんだけど、興味あるかな?」
「コロッセオ?
闘技の事を言っているの?
う~ん、正直あまり興味はないわね。
肉を食べるために動物を殺すのは仕方がないけれど、見世物のために、食べる事もない動物を殺すのは、好きじゃないのよ」
「……そっか」
「なに?
どうしたの?
マッテオはコールフィールド辺境伯家の騎士に取立てられたんだよね?
剣闘士じゃないよね?
闘技場で猛獣と戦う事なんてないよね!」
「え、あ、その、なんだ」
「ちょっと待ちなさい!
ちゃんと私の眼を見て話しなさい!
嘘や誤魔化しはききませんよ!
正直に本当の事を話しなさい!
いいですね!」
「……分かった。
正直に本当の事を話すよ。
でも、まいったなぁ。
本当に昔のまま、全然変わってないんだね」
「ウフフフフ、さっき言ったでしょ。
人間はそう簡単に変わらないのよ。
で、闘技場で戦うのね?!」
「ああ、剣闘士ではないんだが、国王陛下の望みで上覧試合をやることになってね。
一応晴れの舞台なんで、エラに見に来てもらえればいいかなと思ってね」
「……それは、人間同士の殺し合いなの?
それとも猛獣相手の殺し合いなの?
正直に言いなさい!」
「嘘をつく必要なんてないよ。
猛獣相手の試合だよ。
相手は北方にすむヒグマという猛獣らしくてね。
今まで多くの剣闘士を殺してきたんで、最近では貴族家の騎士が家の名誉をかけて戦っているそうなんだけど、騎士でも勝てないそうでね。
ついに僕が戦わなければいけない状態になったんだよ」
「そんな?!
そんな危険な事をさせられるの?
だったら騎士なんてやめちゃいなさい!
家で雇ってあげるから、今日にでも騎士を辞めると言ってきなさい!」
「いや、もう国王陛下に話が通っているから、とても中止にはできないよ」
「そんな事を言っている場……」
「エラァァァア。
みんな待っているよぉぉぉぉ」
これはお詫びです。
食べてやってください」
「そんな。
そこまでしていただくような事ではありません」
「いいえ、あんなに怖い思いをさせてしまったのです。
どうか食べてやってください。
それにこのパンは少し特別製で、薬草を練り込んであるのですよ。
お嬢さんに食べさせてあげてください」
「!?
ありがとうございます!
ありがとうございます!
遠慮なく頂かせていただきます!」
貧しそうな身なりの女性が、何度も頭を下げながら店を出ていった。
最後にもらった薬草入りのライ麦パンを、まるで宝物のように、大切に胸に抱いて急いで娘の待つ家に帰っていた。
その急ぎ足から、どれほど娘を大切に思っておるのかが分かる。
「エラは昔と全然変わらないなぁ」
「ウフフフフ、人間そう簡単には変わらないわよ。
そういうマッテオまどうなの?
昔と変わったの?」
「俺かい?
俺も昔と変わらなよ。
エラと一緒に遊んでいた頃のままだよ。
それで、まあ、なんだ。
コロッセオで催される戦いなんだけど、興味あるかな?」
「コロッセオ?
闘技の事を言っているの?
う~ん、正直あまり興味はないわね。
肉を食べるために動物を殺すのは仕方がないけれど、見世物のために、食べる事もない動物を殺すのは、好きじゃないのよ」
「……そっか」
「なに?
どうしたの?
マッテオはコールフィールド辺境伯家の騎士に取立てられたんだよね?
剣闘士じゃないよね?
闘技場で猛獣と戦う事なんてないよね!」
「え、あ、その、なんだ」
「ちょっと待ちなさい!
ちゃんと私の眼を見て話しなさい!
嘘や誤魔化しはききませんよ!
正直に本当の事を話しなさい!
いいですね!」
「……分かった。
正直に本当の事を話すよ。
でも、まいったなぁ。
本当に昔のまま、全然変わってないんだね」
「ウフフフフ、さっき言ったでしょ。
人間はそう簡単に変わらないのよ。
で、闘技場で戦うのね?!」
「ああ、剣闘士ではないんだが、国王陛下の望みで上覧試合をやることになってね。
一応晴れの舞台なんで、エラに見に来てもらえればいいかなと思ってね」
「……それは、人間同士の殺し合いなの?
それとも猛獣相手の殺し合いなの?
正直に言いなさい!」
「嘘をつく必要なんてないよ。
猛獣相手の試合だよ。
相手は北方にすむヒグマという猛獣らしくてね。
今まで多くの剣闘士を殺してきたんで、最近では貴族家の騎士が家の名誉をかけて戦っているそうなんだけど、騎士でも勝てないそうでね。
ついに僕が戦わなければいけない状態になったんだよ」
「そんな?!
そんな危険な事をさせられるの?
だったら騎士なんてやめちゃいなさい!
家で雇ってあげるから、今日にでも騎士を辞めると言ってきなさい!」
「いや、もう国王陛下に話が通っているから、とても中止にはできないよ」
「そんな事を言っている場……」
「エラァァァア。
みんな待っているよぉぉぉぉ」
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