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第2章

第106話:試練

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神歴1818年皇歴214年10月11日帝国北部大山脈裾野:ロジャー皇子視点

 その場の空気がこれまでとは比べ物にならないくらい緊張した!
 古代飛翔竜は全く変わりないが、ついて来ていた老飛竜以下の飛竜族の怒りが、全身を圧し潰しそうなくらい強くなった。

 だが、古代飛翔竜の側近だと思われる4体の古竜は何の変りもない。
 古代飛翔竜と同じように、興味深そうに俺を見ている。
 
「おもしろい、このような場で飛竜族にケンカを売る根性がおもしろい」

「ケンカを売った訳ではございません。
 転生者なので、この世界の常識と前世の常識が混じってしまっているのです。
 失礼な言葉だったのなら、どうかお許しください。
 大山脈の一角に、飛竜族の縄張りになっていない場所があるなら、そこを通り抜けさせていただけないかと思ったのです」

「大山脈の山頂部、尾根は全て飛竜族の縄張りだ」

「分かりました、通り抜けるのは諦めさせていただきます」

 困ったな、大山脈を通り抜けられないのなら、大森林しかない。
 大砂漠には古代火焔竜がいるというウワサだ。
 古代火焔竜は古代飛翔竜とは比較にならないくらい好戦的で人嫌いだと聞く。

 残された道は、何度も入り込んで狩りをしても大丈夫だった大森林だ。
 古代地母竜は、とても人間に優しいと聞いているから、大丈夫だろう。
 問題は、古代森林竜が腹を立てて怒る事だが……

「ふむ、他の者たちに強者が弱者をいたぶる姿は醜悪と怒ってきた。
 朕が人間をいたぶる訳にはいかない。
 ただ、余りに弱い者を我らの縄張り入れる事はできぬ。
 人間、その実力を示して飛竜族に認められてみよ」

 本当にいたぶる気はないようだから、これは温情なのか?

「どのようにして実力を示せばいいのでしょうか?」

「朕や古竜と戦えとは言わぬ、一般的な飛竜族に勝てれば良い」

「恐れながら申しあげさせ頂きます。
 竜族と名乗るのもおこがましい、退化した者たちが人間に支配されております。
 驕り高ぶった人間に思い知らせる役、某に賜りたくお願い申し上げます」

 俺と会って事で叱責されたのとは違う老飛竜が古代飛翔竜に願いでた。
 魔力量から考えて老飛竜だと思うのだが、違うだろうか?

「老飛竜のお前を一般的な飛竜と呼ぶわけにはいなない、朕に恥をかかす気か?!」

「申し訳ございません!」

「ただ、お前の気持ちは良く分かった。
 我らの縄張りを通り抜ける許可とは別に、戦わせてやるから待っておれ」

「はっ、有難き幸せでございます」

 やれ、やれ、結局老飛竜とは戦わないといけないのだな。

「そうだな、一般的な飛竜と呼んで良いのは成竜からであろう?
 さすがに若竜や少竜を一人前という訳にはいかぬであろう?」

 古代飛翔竜が古竜だと思われる者に顔を向けて聞いている。

「若竜たちは一人前だと言い立てるでしょうが、認められません。
 あまりにも弱い飛竜を出してしまうと、その者に笑われてしまいます」

 いや、笑ったりしないから、できるだけ弱い奴にして。

「では死を恐れず戦え、死んでも朕が蘇らせてやる」

 古代飛翔竜、とんでもない事を言いやがった!
 この世界には蘇生の魔術があるのだ!
 少なくとも古代飛翔竜は使えるのだ!

 などと考えている間に、古代飛翔竜が何の指示も出していないの、1体の成竜が凄まじい勢いで襲い掛かってきた。

 問題があるとすれば、蘇生魔術があると言われたが、本当に殺していいかだ。
 友好的な人間だと思われたいなら、無闇に殺さない方が良いだろう。
 皇国や帝国に急いで移動しなければいけない時に邪魔されると困る。

 咬み殺す気で突っ込んできたのを、余裕をもって避ける。
 安全マージンを残さずギリギリで避けると、想定外の能力があった時に即死だ。
 常に余裕をもって動かないと、実戦では簡単に死んでしまう。

 長い呪文を唱えている余裕はない。
 それに、生け捕りにするなら強力な魔術は使えない。
 かといって下手に加減した身体攻撃をすれば、体力を見誤った時に死ぬ事になる。

「パララサス」

 成竜の背後をとって、身体を巡る魔力を狙って麻痺魔術を叩き込む。
 魔術にしない魔力の塊を叩きつけても動けなくできるが、どうせ叩き付けるなら麻痺の魔術にして叩き付けた方が効果的だ。

「ぎゃっ!」

 成竜はひと声上げてピクリとも動かなくなった。
 掌底の破壊力で経絡の流れを断たれた上に、麻痺魔術で身体が動かなくなっているので、死体同然だろう。

「ほう、面白い術を使う、それも前世の知識と技術なのか?」

 古代飛翔竜が興味を隠さずに聞いて来た。

「知識は前世の物ですが、技術はこの世界の物です。
 私が転生前に暮らしていた世界には、魔力も魔術もありませんでしたから」

 前世では東洋医学の知識を習得していた。
 人間の経絡経穴だけでなく、家畜やペットの経絡経穴も覚えた。
 少なくとも牛馬と犬猫、豚の経絡経穴は覚えている。

 さすがに前世に存在しない飛竜の経絡経穴は覚えていないが、長年の経験でどの辺にどんな経穴があり、経絡がどのように流れているか想像できる。

「認めん、その程度で我ら飛竜族の縄張りに入るなど絶対に許さん。
 私にも戦わせてください、お願いします!」

 魔力量から考えて成竜だろう。
 面倒だが、俺が断っても遺恨が残り、通り抜けする時に邪魔されるだけだ。
 ここは、飛竜族が心から認めるまで戦うしかない。
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