皇帝の14男ですが、皇位争いの暗殺や謀殺から生き延びて、何とか貧乏辺境伯家に婿入りできました。前世知識と魔力でスローライフしたい。

克全

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第2章

第78話:飛ぶ鳥跡を濁さず

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神歴1818年皇歴214年4月22日交易湊:ロジャー皇子視点

「許してください、お願いします、全部私が悪かったです。
 証言します、全て正直に、嘘偽りなく証言します。
 だから許してください、ここから出してください、お願いします」

 拿捕艦の艦底に閉じ込めていた敵艦の艦長が泣いて頼んで来た。
 副艦長以下の全船員が同じように泣いて頼む。
 
「そうか、だったら1度だけここから出してやる。
 だが少しでも反抗的な態度を取ったら、ここに戻す!」

 今後の事を考えて、捕虜を艦底から出す事にした。
 色々考えたが、大森林で伐採した魔樹を乾燥させて魔海航行艦を建造するには、最短でも2年はかかってしまう。

 誘拐拉致された人々が、その間に死んでしまう事を考えると、2年は待てない。
 準備不足でも戦力不足でも、今直ぐ助けに行かなくてはならない。
 その時に帝国の悪行を正直に証言させるには、少しは飴が必要だった。

「全ての病を治し身体を回復させろ!
 その為に必要な魔力と生命力は周囲の海にいる魔魚や魔海獣から奪う!
 テイク・アウェイ・マジック・パワー。
 テイク・アウェイ・バイタリティー。
 パーフェクト・トゥリートゥメント。
 パーフェクト・ヒール」

 半死半生になっていた捕虜を回復させる。
 
「艦底から出る前に、自分たちが汚した艦底をきれいにしろ」

 この艦を使って帝国まで遠征するのだ。
 外側はもちろん内側も手入れしなければいけない。
 こんなに汚れた艦底を皇国の民に掃除させられない。

 捕虜に艦底を掃除させている間に、元人質を交易湊に移動させる。
 流氷の8割が消えているので、拿捕艦を交易湊の近くまで移動させてある。
 皇国民が安心して船を出せる位置なので、沿岸船で往復させられる。

 捕虜の見張りをしていた領主軍500兵は、ここで毎日100人ずつ交代する。
 全く海の経験がない皇国士族と交替する。
 俺が選抜した皇国士族が海兵水兵としての経験を積むためだ。

 当然だが、俺の護衛騎士も一緒に拿捕艦に乗って帝国に向かう。
 本当なら俺個人が召し抱えた直臣も行くべきなのだが、バカン辺境伯領の復興とキャバン辺境伯の見張りと管理に残す事になった。

 問題は俺がいない間にジョージ皇帝、ハリソン皇父、フレディ皇子たちが悪事を繰り返さないかだ。

 ジョージ皇帝は主体性がなく欲望のまま悪事を働く性格だ。
 ハリソン皇父は自分の欲望を満たすためなら誰でも平気で殺す極悪人だ。

 フレディ皇子本人はそれほどでもないが、母方の親族と取り巻きは、皇位を手に入れるためなら皇族も平気で殺してきた極悪人だ。

 母上はもちろん、同母の兄弟姉妹を殺させる気はない!
 殺されるくらいなら、その前に殺してやる。
 とはいえ、何もしていない相手を殺すのは不完全な良心が痛む。

 そこで、母上と兄弟姉妹には使い魔の護衛をつける事にした。
 これまでも付けていたが、俺が一時的に皇国を離れる事を前提に、10倍以上の数を護衛につける事にした。

 後宮や内宮でも、雌なら小動物を飼う事が許されている。
 オオカミ、イヌ、ヤマネコ、ネコ、ネズミ、タカ、カラス、ハト、スズメ、クモ、トンボ、ハチ等を多数飼う。

 それもただの小動物や鳥ではない。
 俺が直々に魔力と血を与えて魔獣化させた途轍もなく強く賢い使い魔だ。
 単に魔術で使い魔にしたモノとは強さの質が違う。

 護衛として母上たちの側にいるモノだけでなく、偵察するモノも放った。
 ジョージ皇帝、ハリソン皇父、フレディ皇子だけでなく、3人に加担しそうな連中全員に見張りをつけた。

 敵に警戒されないように、カラス、ハト、スズメ、ネズミ、クモ、トンボ、ハチなどの近くにいても当然の動物と虫を使い魔にして放った。

 母上たちを守る使い魔、敵を見張る使い魔を統括するのが、オスカー兄上が当主を勤めるロクスバラ公爵家の表で飼う事にした魔熊だ。

 戦闘力だけでなく知能も高めた魔熊の元に情報を集めて、必要があるなら殺してしまうように指示をだした。

 家族の安全を確保したら元人質たちの事だ。
 解放した元人質たちは、拿捕艦にいる間に体力も気力も回復していたので、家族に問題がなければ生まれ育った故郷に帰す事にした。

 俺が当主を勤めるバカン辺境伯領だけでなく、皇国のあらゆる貴族領や皇国直轄領で民が攫われ帝国に密輸されていたのだ。

 不幸な事だし、まだまだ助けなければいけない民が数多くいたが、ひとまず故郷に帰れる民は良い、問題は帰られない民だ。

 家族が全員誘拐拉致されて誰も故郷に残っていない者。
 男手が誘拐拉致された事で生活が成り立たなくなり家族が離散した者。
 中には妻が再婚してしまって帰るに帰れない者までいた。

 そんな者達は、俺が当主になっているバカン辺境伯領か、管理を任されているキャバン辺境伯領か、屋敷がある皇都に住めるようにした。

 本人が望む仕事、農民でも職人でも冒険者でも好きな仕事ができるようにした。
 人質の役に立てばいいだけだったので、全員障碍者だった。
 少しでも役に立つ奴隷は帝国に残されたそうだ。

 だから人質は、四肢などの身体の一部を失っていた者ばかりだったらしい。
 だが俺が魔術を使って完全に治癒させていたので、五体満足な状態に戻っていた。

 そんな彼らは、もう二度と虐げられる事がないように、戦闘力を手に入れられる冒険者になる事を望んだ。

 俺は彼らの気持ちを汲んで、バカン辺境伯家の兵士として雇う事にした。
 騎士や徒士のような士族ではないが、召し抱えている間は貴族の奉公人だ。
 本人たちが望むなら全ての時間を使って軍事訓練を受ける事ができる。
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