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第1章

第32話:仮病完治

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神歴1817年皇歴213年3月10日皇室系子爵館・ロジャー皇子視点

 思いがけず、表に出せる俺個人の家臣使用人が一気に増えた。
 4騎2人しかいなかったのが、500人以上になった。

 奴隷同然に扱っていた家族のいる子爵領には残せない。
 俺のいない王都に行かせるのも不安がある。
 しかたなくバカン辺境伯領に連れて行くが、それには馬車が必要だ。

 老若男女混じったこれだけの人数を、馬車と同じ速さで歩かせて移動させるなんて不可能だからだ。

 子爵領にいた馬は優劣関係なく全て買い占めた。
 それこそ農耕用の老馬も相場よりもかなり高く買い取った。
 馬車も箱型にこだわらず農家が使う屋根なしの粗末な物も買った。

 入都税を払って集まっていた他領の商人は、ここが商機と考えて、急いで本拠地に戻って馬と馬車をかき集め、俺に売りつけようとした。

 当然、子爵領都を出入りするのも商品を持ち込むのも莫大な税がかかる。
 子爵家には毎日雨あられとお金が入って来た。

 俺が仮病を使って長期滞在したのもあって、莫大だった借金を早期返却できた。
 皇子である俺が見届けたので、早期返却分の利息を減らさせた。
 子爵が自由に使えるお小遣いとしては莫大な金額だ。

 だがその分、俺が払った金はとんでもない額になったが、その数百倍の硬貨が手に入ったから問題ない。

 並の人間だと損をするゴブリンダンジョンだが、俺には宝のダンジョンだった。
 キングゴブリンが指揮する10万の大軍団を1日に100回は全滅させたのだ。
 
 ドロップの確率が1割しかなくても、1回で25万ペクーニアの硬貨が手に入る。
 1日集中して実戦訓練すれば、2500万ペクーニア集められる。

 その額は領民50万人貴族の年収に匹敵するのだから凄い。
 それが10日間もあったのだから、皇国の年収を超える純利益があった。
 馬や馬車の買い占めるくらいどうという事はない。

 それよりは、1回で10万枚の硬貨を集める方が大変だった。
 ゴブリン軍団を全滅させるよりも時間がかかった。

 俺のストレージに、ある程度の範囲ならドロップを自動収納できる能力がなかったら、1回全滅させたら1日中硬貨の回収をしなければいけないところだった。

「ロジャー皇子殿下、この御恩は一生忘れません。
 いえ、子々孫々、末代まで語って聞かせます。
 何かあれば馬前に参上させていただきますので、いつでも声をかけてください」

 子爵が領地のギリギリまで見送りをしてくれた。
 俺が皇子であるからだが、それが単なる儀礼ではなく、心からの感謝が籠っているのが分かるだけにうれしい。

「こちらこそ子爵のお陰で良い家臣使用人を召し抱える事ができた」

 家臣使用人に関しては本当に感謝している。
 一族一門や譜代の家臣に逆恨みされるのが分かっていて、彼らが奴隷のように扱っていた子弟子女を、強権を発動して自由にしてくれた。

 子爵の決断がなかったら、俺は表に出せる家臣使用人を手に入れられなかった。
 不幸な者たちを救ったという、何1つ世間にはばかる必要のない理由で、ゴブリンダンジョンで戦い続けた経験のある者を雇えた。

「いえ、とんでもありません、殿下のお陰で家畜のように扱われていた者たちを救う事ができました。
 長年夜も眠れなくなるくらい悩んでいた事が解消できました。
 借金が無くなっただけでなく、投資するだけの余裕も貯金もできました。
 これから生まれてくる、家臣の次男以下を人として扱えます」

「そこまで言ってくれるのなら、俺が皇室や皇国にために働く時には声をかける」

「はい、この命ある限り手伝わせていただきます」

 俺は子爵に見送られて隣の領地に入った。
 皇都から近い場所なので周りは皇室直轄領ばかりだ。

 皇室直轄領は出入りが簡単で助かる。
 普通の旅人なら厳しく調べられるが、皇子である俺は特別待遇だ。

 これからしばらくは川を南上して大山脈方向に向かう。
 前世で南上なんて言葉は聞いた事がないが、この国では使う。
 南に大山脈があり、全ての川上が南だからだろう。

 徐々に川幅が狭くなり、水深が浅くなった辺りに橋がかけられている。
 そこを東に渡らないとバカン辺境伯領にはいけない。

 旅の途中にある小さな魔境、魔森や魔山で実戦訓練を兼ねた狩りをする。
 そのための許可は皇都を出立する前にとっている。
 問題はそこを狙って選帝侯たちの手先が襲ってこないかだが……
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