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第1章

第23話:恩と打算

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神歴1817年皇歴213年2月11日皇都拝領屋敷:ロジャー皇子視点

「殿下のお陰でこれまで奪われていたお金が全額返って来ました。
 お礼の言葉もございません」

 バニングス家のドレイクが深々と頭を下げるが、当たり前の事をしただけだ。
 多くの連中の罪が誤魔化されたが、ディクソン家のハンターが犯した罪だけは徹底的に調べられて明らかにされた。

 ディクソン家の一族縁者だけでなく、少しでも加担していた者は家族も処刑されたが、その数は皇国騎士徒士合わせて174家にのぼった。

 ただ、調べる事で被害者も明らかになり、バニングス家を始めとした被害者には、分かっている範囲で被害額が保証された。

 大きな問題になったのは、ハンターの養女にされてから皇帝の側妃になった者と、その側妃が生んだ皇女の処分だった。

 皇位継承権を持つ皇子がいなかったのは幸いだったし、最初の子供が生まれたのが後宮入りしてから十分に時が過ぎていたから、ハンターの子供ではないと思われたのだが、皇父が頑として無罪放免を認めなかった。

 後宮内に見過ごせない権力を持っていたハンターなら、内宮の表と奥を自由に出入りできたと言って聞かなかったのだ。

 自分しか大切でない皇帝は、側妃と娘を簡単に見捨てた。
 皇父に逆らって殺されるのを恐れたのだ。

 さすがに何の罪もない異母妹たちを殺させる訳にはいかない。
 皇父に助命を願い出たが、全く効果がなかった。

 しかたがないので皇都中に皇父に専横と皇帝の臆病のウワサを広めた。
 ついでに以前から何度かウワサになっていた、皇帝と皇父による先代皇太子暗殺と皇位簒奪もウワサにしてやった。

 後宮に籠って政務を投げだしていた皇帝には伝わらなかったが、皇父と選帝侯たちには伝わったようで、必死になってウワサの出所を探していた。

 皇父はウワサを流した者を探し出して殺すために。
 選帝侯たちはウワサを流した者を探し出し、確かな証拠があれば、皇父と皇帝を追い落とし、自分たちの言いなりになる皇帝を擁立するために。

 だが、そう簡単に尻尾をつかませる俺ではない。
 乞食や貧民を使って選帝侯たちが噂を流したようにしてやった。

 互いに殺し合って滅んでくれればいいのだが、無理だろうな。
 評判を気にして側妃と皇女の処刑を止められたらそれで十分だ。
 もう皇女らしい生活は無理だろうが、命だけは助けてやりたい。

「気にするな、それでどうする?
 今ならショットが俺の家臣になった事も取り消せるし、女たちが侍女になった事もなかった事にできるぞ?」

 俺は思い出した事を振り払って、並んで頭を下げているドレイクと家族1人1人の目をやった。

「いえ、父がまだまだ元気なので、私が家を継げるまで時間があります。
 その時間を無駄にするよりは、殿下に仕えて立身出世を目指したいです。
 何と言っても重臣10家が厳しい処分を受けて、3万人分以上の領地が殿下の直轄領になったのです。
 働きしだいで実家の領地300人を超えられる可能性がありますから」

 ショットは相変わらず正直だ。

「私はこのまま侍女を続けさせていただきたいです」

 ガラリアは男嫌いにでもなったのか?

「私は侍女を辞めさせてください。
 ただ、できましたら兄のところで暮らさせていただきたいです」

 皇国騎士家に戻りたくないのか?
 俺を好きになったのなら侍女を続けるはずだし、俺以外の誰かを好きになった?
 だとすると、助けに行ったスレッガー叔父上だよな。

「私と妻はこのまま仕えさせていただきたいです」

 息子の世話になるよりは、衣食住が保証された俺の家臣になりたい。
 皇国貧乏騎士家の隠居なら当然の返事だな。
 
「ご恩を返したい気持ちで一杯なのですが、夫を放ってはおけません。
 私は侍女を止めさせていただいて夫について行きます」

 ドレイクの奥さんは侍女を止める、これも当然だな。

「私はこのまま仕えさせていただきたいです」
「私もこのまま仕えさせていただきたいです」

「ショットが後継者を辞退したから、皇国騎士家を継げるのだぞ?
 俺に仕えたら、領民数は実力次第で実家よりも多くできるかもしれないが、皇室の直臣騎士と貴族の陪臣騎士では、同じ騎士でも実際の身分は大きく違うぞ?」

「分かっています、それでも殿下にお仕えしたいです!」

「どうせ仕えるのなら、心から尊敬できる方に仕えたいです!」

「それに、僕たちは騎士で終わる気はありません」

「僕とヘンリー兄さんは、士爵を目指して頑張ります!」

「そうか、確かに俺の直臣士爵の地位は空いている。
 バカン辺境伯家なら準男爵も狙えるかもしれない。
 だがそのためには、今回の件でしぶとく生き残った10家を潰さないといけない。
 並大抵の努力ではすまないし、悪にもならなければいけないぞ?」

「殿下、私も悪党になる覚悟はできています!
 弟たちに負けることなく、毎日努力を重ねます」

 ショットも騎士以上の地位を狙う気なのだな。

「よく言った、その言葉絶対に忘れるなよ!」

「「「はい!」」」

 よし、よし、こいつらも孤児院を卒業した子供たちと一緒に鍛えてやる。
 この3年、毎年年長の孤児が卒院している。

 手先として使うには十分な教育ができていなかったから、冒険者をさせながら教育もしていたのだが、バニングス家が加われば、もっと競争意識が芽生えるだろう。

 領地に向かう前にひと通りの鍛錬法を伝授してやろう。
 魔術の才能がある奴がいればいいのだが、こればかりは運だからな。
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