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第1章

第10話:交渉

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神歴1817年皇歴213年1月29日皇都バカン辺境伯家拝領屋敷近くの道
ロジャー皇子視点

「お頼み申す!
 私はロジャー殿下の叔父で皇国騎士のスレッガー・カラスと申す。
 この近くで、殿下が刺客に襲われたのだが、見事に御自身で撃退された。
 ただ、刺客13人を捕らえられたのは良いのだが、運ぶ手段がない。
 貴家の協力を仰ぎたいのだが、いかがだろうか?」

 俺の命令を受けたスレッガー叔父上と2人の騎士が、周囲にある貴族家屋敷と士族家屋敷に協力を求めている。

 最初に話を聞くのは、独自の情報網を持つ平民の使用人か卒族兵士だ。
 彼らは横暴な権力者から身を守るために、仕えてはいけない貴族士族を教え合う。
 これで俺が、何者かの襲撃を受けた大事件が皇都中に広まる。

 選帝侯たちが黒幕なら、必死になって隠そうとする。
 刺客はもちろん間を取り持った人間も殺して、自分につながる糸を切ろうとする。
 そこに付け入るスキが生まれる。

 辺境伯家の重臣たちが黒幕なら、逃げ出すか自殺するかが普通だ。
 逃げて家族と生き残る道を選ぶか、自分が死んで家族だけでも助けようとするか。
 どちらも選ばずに居座るならよほどの馬鹿だ。

 直ぐに貴族家と皇室直臣士族家が手伝いの兵士や使用人を出してくれた。
 選帝侯たちににらまれる恐れはあるが、ここで俺の手助けをしないと、皇帝の耳に入った時にとんでもない罰を受ける可能性が高いからだ。

 選帝侯たちが相手だと、多少の不利益は受けるが、家を潰されるまではない。
 皇室の直臣である士族家を潰すには皇帝直々の許可が必要になる。

 皇子である俺の手助けをしたのを、家を潰す理由にはできない。
 罪をでっちあげようとしても、俺や母上から手助けをした家の事が伝わると、手助けした家が複数潰された事で、いくら愚かな皇帝でも選帝侯たちの悪行に気がつく。

 皇帝は異様なくらい自分の血を残す事に執着しているのだ。
 そうでなければ100人以上の子供を作ったりしない。

 それでよく皇子や皇女を毒殺した連中が処罰されないと思うだろうが、それは表向き実行犯や身代わりが殺されていて、黒幕が分かっていないからだ。

 皇帝も黒幕がいる事は薄々分かっているのだろうが、そこを突いて皇父が係わっている証拠が出てきてしまったら、自分の皇位継承自体が無効になりかねない。
 今更どうしようもないが、皇父が犯した主殺しと皇位簒奪が明るみに出てしまう。

「我が家は刺客を運ぶ荷馬車と御者を用意させていただきます」

「当家は護衛の卒族兵と指揮を執る陪臣徒士を用意させていただきます」

「私は皇室に仕えるハミルトン騎士家の長男ノアと申します。
 皇城の警備に出仕している父に成り代わり、家臣と使用人を率いてご助力させていただきます!」

 キビキビと自分を売り込む若い騎士がやってきた。
 俺がやった調査で有能だと名前が挙がっていた1人だ。

 俺が辺境伯家に連れて行ける人数が限られていたのと、父と子の2代同時に出仕させるのは難しいので、泣く泣く諦めた人材だ。

 皇室直臣であるハミルトン騎士家を離れて、陪臣騎士として仕えてくれるような者は、よほど忠誠心の強い人間だけだ。

 まして自分より才のない弟に、先祖代々受け継いできた皇室直臣騎士家を任せるなど、祖先をないがしろにする愚かな行為だ。

 これが、ハミルトン騎士家の弟の方が優秀なら、実家は兄が継いで弟が新たな家を興す形で俺の家臣に迎える事ができた。
 あいにくと弟の方は家臣したいと思える人間じゃなかった。

「良く手助けに来てくれた、ハミルトン騎士家のノア。
 ハミルトン騎士家とノアの名前は覚えておく。
 母上にも伝えておくから、皇帝陛下の耳にも入るだろう」

 俺がそう言うと、徒士や兵卒、使用人だけで来ていた連中が慌てだした。
 皇帝陛下の怒りに触れないように手伝いに来たが、騎士家の長男が直々に手伝いに来たのとでは差があり過ぎる。

 そんな事が皇帝の耳に入れば、せっかく手伝いに来たのに、逆に厳しい処罰を受ける事になってしまう。

「主家に戻って、もっと手伝いを出すように言って来て良いでしょうか?!」

「私も主家に戻って手伝いを出すように言いたいのですが、いいでしょうか?」

「それはかまわないが、どの家が誰を手伝いに寄こしてくれたかは、ロジャー殿下からグレイシー妃殿下に伝わり、妃殿下から皇帝陛下に伝わる。
 そのつもりで主家に伝えた方が良いぞ」

 スレッガー叔父上の話を聞いた連中は、顔を真っ青にして屋敷に走って行った。

★★★★★★以下は設定です、好きな方だけ読んでください。

『アステリア皇国』北大陸東南にある大帝国総人口3000万人

『ダグラス皇室』皇室直轄領400万人・準男爵以下の直臣領400万人

軍役 :領民20人に対して1人の軍役
皇帝 :皇国の最高権力者:10頭立ての馬車
皇太子:皇位継承権者:8頭立ての馬車
皇子 :皇帝の実子・皇太子に子供が生まれると養子に出される
   :皇帝の子供が多過ぎると幼い内から養子に出される。
   :8頭立ての馬車

『王公族家』

軍役 :領民20人に対して1人の軍役
大公家:建国皇帝の実子の直系で3家・本家に後継者がいない場合は皇帝を出す。
   :35万~61万人の奴隷や平民を支配している。
   :8頭立ての馬車
大公子:大公の実子

公爵家:8代皇帝と9代皇帝の皇子が興した3家
   :皇室直轄領から領民10万人分の税を受け取る。
   :8代皇帝がクイーンズベリー大公家から選ばれた際の混乱した。
   :2度とそのような事が無いように3公爵家から次期皇帝を選ぶことにした。
   :8頭立ての馬車
公子 :公爵の実子

『貴族家』
軍役 :領民20人に対して1人の軍役

諸侯王:建国初期にだけ皇室の分家や功臣から選ばれたが現在は空位
   :8頭立ての馬車

選帝侯:皇国の大臣で次期皇帝選出権を持つ者たち
   :大公家と公爵家以外の皇室の分家、譜代重臣家から選ばれる
   :6頭立ての馬車

侯爵 :王族以外の古き豪族で大領支配者
   :最低15万人~100万人の奴隷や平民を支配している。
   :皇国が建国されるまでの戦乱期を生き延びた外様貴族
   :格式は辺境伯家よりも上だが権力は辺境伯家の方が上
   :6頭立ての馬車

辺境伯:戦乱期に群雄が信頼する家臣に伯爵以下の貴族を指揮させるために創設
   :東西南北の広大な方面を預かる軍団長に与えられた爵位
   :皇室の分家・譜代重臣家・皇室から婿養子に入った家
   :建国皇帝の娘が嫁入りした家
   :最低15万人~32万人の奴隷や平民を支配している。
   :格式は侯爵家よりも下だが、権力は侯爵家よりも上
   :6頭立ての馬車

方伯 :城を含めた限定された地域を預かる宮中伯以上辺境伯未満の爵位
   :限定された地域だが、多くの貴族を指揮しなければいけない状況に創設
   :戦乱期に群雄が信頼する家臣に伯爵以下の貴族を指揮させるために創設
   :伯爵以下の貴族や士族が抜擢される。
   :6頭立ての馬車

城伯 :地方の拠点、重要な城を預かる宮中伯以上方伯未満の爵位
   :戦乱期に群雄が信頼する家臣に伯爵以下の貴族を指揮させるために創設
   :伯爵以下の貴族や士族が抜擢される。
   :6頭立ての馬車

宮中伯:下級の皇室分家や譜代貴族家が副大臣就任中に任命される伯爵位
   :非常時は大公家にも指揮権や懲罰権があるが、通常は伯爵家以下の指揮権
   :伯爵以下の貴族や士族が抜擢される。
   :6頭立ての馬車

伯爵 :戦乱期の群雄が、信頼する配下に与え爵位
   :降伏してきた侯爵の監視役だったことが多い
   :現在は皇室の分家と譜代家、戦乱期の群雄に与えられている
   :最低6万人~12万人程度の奴隷や平民を支配している。
   :4頭立ての馬車

子爵 :王孫や有力貴族子弟が分家した際に与えられる爵位だった。
   :現在は皇室の分家と譜代家、戦乱期の群雄、外様の分家に与えられている
   :最低4万人~12万人の奴隷や平民を支配している
   :4頭立ての馬車

男爵 :古き中小豪族や王家直臣小領主に与えられた爵位だった
   :現在は皇室の分家と譜代家、戦乱期の群雄、外様の分家に与えられている
   :最低1万人~4万人未満の奴隷や平民を支配している。
   :4頭立ての馬車

『士族』

准男爵:子爵以上の子弟や家臣が皇室に貢献した場合に与えられる爵位
   :皇室の直臣となった外様の分家にも与えらえられるようになった。
   :4000人~1万人未満の奴隷や平民を支配している。
   :2頭立ての馬車

士爵 :騎士団などで軍事上の大功労者に与えられる
   :1000人~4000人未満の奴隷や平民を支配している。
   :2頭立ての馬車

騎士 :自前で軍馬と武具甲冑を用意できる戦闘訓練を受けた小領主。
正騎士:300人~999人の農奴や農民を支配している。
   :もしくは自前で馬を持てる傭兵で騎士として雇われた者
   :1頭立ての馬車

従士 :自前で軍馬と武具甲冑を用意できるが戦闘訓練終了前の小領主。
従騎士:300人~999人の農奴や農民を支配している。
   :1頭立ての馬車

小姓 :実家より上位の王侯貴族に仕え、騎士を目指す少年
徒士 :自前で軍馬を養えない小領主か自前で馬を持てない傭兵

『卒族』
足軽 :一代限りの兵士・平民の武芸自慢が務めることが多い
中間 :一代限りの貴族士族奉公人・兵士兼雑用係
小者 :一代限りの貴族士族奉公人・雑用係
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