上 下
21 / 30
第二章

第21話:本格的な拷問

しおりを挟む
 俺は軽く拷問した商売女に背中を向けた。
 そうしないと女を殺す決断ができないからだ。

 女子供相手に残虐非道な拷問をしておいて、よくそんな事を口にすると、地球の人権擁護家は俺を非難するだろう。

 だが俺から言わせれば、あの女が先に数多くの旅人を騙したのだ。
 奴隷として売られた人達は今どのような生活をしている?!

 中には抵抗して殺された人もいるのだ。
 そん被害者や被害者家族の事を考えれば、あの程度の拷問は者の数には入らない。

 少なくとも、父親の捜索依頼料を捻出するために、自分を売春宿に売った娘さんの苦しみに比べたら、爪の先の垢にも劣る!

 だから軽く拷問したし、殺した。
 だが時間をかけ過ぎてしまったようだ。
 ローグの機嫌がとても悪い。

「手緩いぞ」

「俺はローグほど厳しくはやれない」

「役立たずだな」

「これも役割分担だろう?
 荒事や非道はローグの担当だ。
 それでも最低限の事はやったぞ」

「分かったよ、俺様だけが汚れ仕事をさせられるのは嫌だったが、軽くとはいえ拷問をして女を殺してくれたのだ。
 これ以上無理強いして怒らせる気はない。
 後は俺様がやるから、そこで見ていろ」

 そこからが見るのも聞くのも嫌な本格的な拷問の始まりだった。
 悪漢ローグと仇名されるほどの男が本気で拷問するのだ。
 その苛烈さは筆舌に尽くし難い。

 最初に村長が拷問にかけられた。
 ある程度の情報を吐かせたら、事実確認のために村の幹部も拷問にかけられる。

 何故村長や幹部が既に捕らえられているのか?
 それは俺がモタモタしている間に、ローグが商売女から聞き出していたからだ。
 料理人の男も拷問にかけて、商売女が嘘をついていないか確認したからだ。

 ローグはよほど拷問に最適な痛覚点を知っているのだろう。
 或いは身に纏う雰囲気が恐怖感を増長させるのだろう。
 ポイントを一ケ所針で突き刺すだけで自白させている。
 
 中には我慢する者もいるが、骨を一本叩き砕くと次々と自白する。
 自白させるのは被害者達の行方だけではない。
 この村が密かに蓄えてきた金銀財宝の隠し場所も自白させる。

 俺が軽く拷問をかけた女の言った事は嘘だった。
 あの状態でも嘘をついていたのだ。
 俺を殺して逃げ出す事を最後まで諦めていなかったのだ。

 この村から丸一日歩き続けなければいけない山奥に、ちょっと考えられないほどの金銀財宝が蓄えられていた。

 密貿易商人に無理矢理やらされていたとか、村が困窮して仕方がなく旅人を襲ったとか、全部嘘だった。
 村人が普通に暮らすだけなら数百年はもつくらいの金銀財宝が蓄えられていた。

「ドラゴン、流石にこれ全部は運べんわ。
 だからといって、残して行ったら必ず横取りされる。
 砦の騎士や徒士はもちろん、街道沿いの村々から宝探しが殺到する。
 俺様が持ちきれない分を亜空間魔術に保管してくれ」

「ローグが持ちきれない分だと、そんな話し飲めるか!」

「ああ、何言ってやがる?
 ドラゴンがお宝全部持ち逃げしたら俺様は大損だぞ」

「俺がそんな卑怯なマネする訳がないだろう!

「ああ、そんな言葉、信じられる訳がないだろう!
 一番高価でかさばらないお宝を、俺が持てるだけ持つ。
 どうしても持ちきれない分を、ドラゴンが亜空間魔術で運ぶ。
 それが一番公平に決まっているだろう!」

「だったらローグが持ち運べない分は全部俺の物だぞ」

「なんだと、山分けに決まっているだろう!」

「山分けと言うのなら、交互に価値のある物から取り合いだ。
 先に価値のある物全てローグが取ると言うのは、俺の事を信じていないからだ。
 同じように俺もローグの事を信じていない。
 ローグの事だ、一旦手元に置いたお宝の幾つかをちょろまかすに決まっている」

「……ドラゴンだって亜空間魔術に入れたお宝をちょろまかすだろう!」

「そんな事は絶対しないが、ローグは信じないのだろう?」

「ああ、信じられないね」

「だったら、俺がローグを信じないのも分かるだろう。
 ここで最後まで順番にお宝を分け合う。
 俺の分は全部亜空間魔術で運ぶ。
 ローグは持てるだけ持って、後はここに置ておけばいい。
 何度かに分けて自分で運べばいい。
 俺が信用できないのなら、俺の魔術を当てにするな。
 魔術なしで公平に分けて、ローグの責任と実力で何とかしろ」

「……依頼者の親を助ける為に、一分一秒でも早く隣国に行きたいのではないか?」

「行きたいが、そのためにローグに利用されるのは嫌だ。
 ローグに利用されるぐらいなら、依頼者にも被害者にも泣いてもらう。
 さあ、どうする、ローグ」

「わかった、わかった、分かったよ、俺様の負けだ。
 今直ぐここにある金銀財宝を全部亜空間に保管してくれ。
 全てが終わってから公平に分ける、それでいいぞ」

「最初から素直にそう言え!」

 本当に困った奴だ。
 優しく情に脆いとこもあるのだが、とっさの時に欲望が出てしまう。

 こちらが強気に出て抑え込み、冷静にさせたら引いてくれるのだが、こちらが弱気になって受け身になったら、そのままできる限り得をしようとする。

 それくらいでなければ生きていけない環境で育ったのだろうが、日本生まれ日本育ちの俺には合わない。
 常に緊張を強いられる相棒関係はできるだけ早く解消したい。

「何をグズグズしている。
 親父さんを助け出して、娘さんを売春宿から助け出すと言ったのはお前だぞ?」

「やかましいわ!
 余計な時間を使ったのはローグが欲張ったからだろう!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

たどり着いた異世界は私の見ている夢だったので、寝たり起きたり24時間やすめません ( 仮 )

たちばな わかこ
ファンタジー
おばあさんをかばって軽トラに轢かれた私。 目が覚めると知らない場所にいました。 すわっ、異世界転生か転移かと思ったら、ここは私が見ている夢の中だそうです。 ここで眠れば元の場所で目を覚ますよといわれたけど、いつまでたっても眠くならないんですけど ? これはベナンダンティと呼ばれる存在になって、働き続けなければいけなくなった女子高生の物語。 惰眠、むさぼりたい。 第一章「田舎の街でスローライフ」 第二章「妹分ができたよ」 第三章「令嬢になって都会でイジメにあう」 第四章「お隣の国でちょっと遊ぶ」 第五章「バレリーナになって世界を救うよ」 ← 今、ここ 昼は女子高生。 夜は自分の見ている夢の中で冒険者。 私の毎日は充実しすぎ。 今日も高校生活に冒険者稼業に、元気いっぱい頑張ります ! はじめての小説書きなので、叱咤はなしで激励だけでお願いいたします。 小説家になろう様とカクヨム様でも投稿しています。 R15は保険です。

グルケモールナクト 高温の鍵の秘密

仁川路朱鳥
ファンタジー
ある都市国家では、貧富の格差が激しく、富裕層は文字通り金に溺れた生活をし、貧困層は今日を生きる水すら飲むことができない期間があった。ある子供の空想が、国家の基盤を反転させるまで…… 赤い御星に照らされた世界の、革新は如何なるものや? (地球とは別の環境が舞台となっているため、主となる感覚が人間とは多少異なります。そのため「視覚」に関する表現が「聴覚」などに置き換えられていますことをご了承ください。) この作品は「小説家になろう」でも連載しておりました。(過去進行形) また、表紙画像は19/12現在仮のものです。

処理中です...