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第一章
第7話:プロローグ・貧民街
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「「「「「ヒィヒヒヒヒヒン」」」」」
内城の跳ね橋を飛び越えた俺達は、外城を駆け抜けた。
ローグは、俺が目を見張るほど鮮やかな手綱さばきだった。
騎士団の駐屯地と思われる場所を襲い、軍馬を暴走させて大混乱を引き起こした。
「こっちだ、ついて来い!」
ローグは外城騎士団の脚を奪い、大混乱に陥らせてから城門を突破した。
不思議な事に、内城の城門は閉めようとされてしたし、跳ね橋も上げられようとしていたのに、外城の城門は広々と開け放たれていた。
「ガッチャ」
ただ、何となく理由は察しられた。
ローグが逃亡の途中で、金の入っていると思われる革袋を、外城の城門にある矢狭間に投げ込んでいた。
城門を守る兵士に中に、逃亡を手伝ってくれる者を見つけていたのだろう。
「チッ、取り押さえられたか!」
一番外側にある王都の城門も同じだったらよかったのだが、残念ながらそう簡単にはいかなかった。
手配はしていたのだろうが、完全ではなかったのだ。
「次はこっちだ」
ローグの後をついて行ったら、徐々に臭いにおいのする場所に近づいた。
それでなくても密集して建てられていた家々の間隔が、馬では通り抜けし難いほど狭くなり、見た目に古く汚くなっていた。
「待て、待たないか!」
「陛下を放せ!」
「待たないと矢を放つぞ!」
「ええい、先回りして前を塞げ!」
外城で恥をかかされた騎士団なのか、他の騎士団なのかは分からな。
ただ、必死の気持ちが伝わる騎士団が追いかけてきた。
チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン。
「天下の大盗賊、ローグ様が王家の宝物庫から財宝を盗んできてやったぜ!」
ローグが恥ずかしい事を口にしながら、宝物の入った大きな革袋から金貨をつかんで放り投げている。
ボロボロになった服を着た者達が、周囲の家から飛び出してきた。
今まで息を潜めていたのだろう貧民が、馬に蹴られる事も畏れずに、我先に金貨を拾おうとしている。
「ドーン」
「ギャアアアアア!」
「ヒィィィィィン!」
「邪魔だ、どけ、退かないと蹴り殺すぞ」
言葉よりも前に貧民を蹄にかけている。
だが、いかに軍馬でも、この狭い場所で人にぶつかったら前に倒れてしまう。
馬から放りだされた完全装備騎士は、間違いなく頚骨を折って即死だ。
「最初から貧民を犠牲にする心算だったのか?」
完全装備の騎士が騎乗する軍馬だ。
馬鎧もしっかりと装備している。
蹄にかけられた貧民が無事でいられるはずがない。
「ここに住む連中は、飢えて死ぬか命懸けで悪事を働くかの二択なんだよ。
金貨が一枚あれば、半年は生きていける。
馬が手に入れば、死んでいてもひと月は生きていける。
騎士の身ぐるみ剥ぐことができれば、ここから抜け出すことができる。
みんな覚悟を決めて飛び出しているんだ」
「ローグの言う事を鵜呑みにはできない」
「好きにしな、どうせ王都を抜けだすまでの関係だ」
狭い通路をできるだけ早く進んでいるが、速足くらいにしかならない。
それ以上早く走らせようとしても、周りの家にぶつかってしまう
いや、そもそも道を知っているであろうローグの後をついて行かなければ、何処を通ればここを抜けられるか分からなしい、俺も貧民達に襲われていたに違いない。
「ギャアアアアア!」
「やめろ、止めないと殺すぞ!」
「ギャアアアアア!」
「ヒィイ、助けてくれ、殺さないでくれ!」
また一人、集団からはぐれた騎士が襲われたようだ。
……ローグが襲われないのは、ローグの手段を貧民達が受け入れているからか?
異世界には、俺が信じられないような常識があるのかもしれない。
特にここは、俺が経験した事のないような貧しい地域なのだ。
飽食と平和と怠惰の社会で生まれ育った俺では、理解しがたい常識があるのかもしれない。
身分差別をしている特権階級が、貧民街に入って報復を受けるのはしかたがない。
地球だって、身分差や経済差がある国や都市では、皆命懸けで生きている。
ただ、俺を慕って追いかけてきた馬だけは心配だ。
「ドラゴン、本当に生きて元の世界に戻りたいのなら、覚悟を決めろ。
さっき放った程度の魔術では、厳重に閉められた城門は突破できない。
貧民街を利用する方法も、もう使えない。
これほど大事になったら、後で貧民街にも必ず報復がある。
城門を破壊するほどの騒動を起こさないと、貧民が逃げられなくなる」
ローグの野郎!
とっさにここまで考えて貧民街に逃げ込みやがったな!
俺がどうしても魔術を使わなければいけないように追い込みやがった。
この短時間に俺の性格まで見抜きやがったのか!
「もう直ぐ城門だ。
この城門は、少し行けば深い森になっているから、貧民も隠れやすい。
大きな川も流れているから、遠くにも逃げやすい」
「最初からこうなると思っていたのか?
とっさに考えて臨機応変に動いたのか?」
「こうなる可能性も考えていただけで、他の可能性も考えていた」
「ちっ、とんでもない悪党だな!」
「褒めてくれてうれしいよ」
いいだろう、覚悟を決めてやるよ!
直接顔を見た事もないし、苦しい生活を知っている訳でもないが、貧民達に助けられたのは確かだ。
ローグの思惑が何であろうと、後で裏切られても構わない。
必ず生きて日本に戻る!
陛下に拝謁できたときに、目を逸らさずにいられるような生き方をする!
「俺を殺そうとする連中から道を開けてくれ。
生きて逃げられる魔力は残しておいてくれ。
必要最低限の魔力で目的を達成させてくれ。
ソール・コンプレッション・ランス!」
俺の言葉と同時に、都市城門の内側と外側の地面から土槍が飛び出した。
厳重に閉鎖されている城門が、一撃で吹き飛んだ!
内城の跳ね橋を飛び越えた俺達は、外城を駆け抜けた。
ローグは、俺が目を見張るほど鮮やかな手綱さばきだった。
騎士団の駐屯地と思われる場所を襲い、軍馬を暴走させて大混乱を引き起こした。
「こっちだ、ついて来い!」
ローグは外城騎士団の脚を奪い、大混乱に陥らせてから城門を突破した。
不思議な事に、内城の城門は閉めようとされてしたし、跳ね橋も上げられようとしていたのに、外城の城門は広々と開け放たれていた。
「ガッチャ」
ただ、何となく理由は察しられた。
ローグが逃亡の途中で、金の入っていると思われる革袋を、外城の城門にある矢狭間に投げ込んでいた。
城門を守る兵士に中に、逃亡を手伝ってくれる者を見つけていたのだろう。
「チッ、取り押さえられたか!」
一番外側にある王都の城門も同じだったらよかったのだが、残念ながらそう簡単にはいかなかった。
手配はしていたのだろうが、完全ではなかったのだ。
「次はこっちだ」
ローグの後をついて行ったら、徐々に臭いにおいのする場所に近づいた。
それでなくても密集して建てられていた家々の間隔が、馬では通り抜けし難いほど狭くなり、見た目に古く汚くなっていた。
「待て、待たないか!」
「陛下を放せ!」
「待たないと矢を放つぞ!」
「ええい、先回りして前を塞げ!」
外城で恥をかかされた騎士団なのか、他の騎士団なのかは分からな。
ただ、必死の気持ちが伝わる騎士団が追いかけてきた。
チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン。
「天下の大盗賊、ローグ様が王家の宝物庫から財宝を盗んできてやったぜ!」
ローグが恥ずかしい事を口にしながら、宝物の入った大きな革袋から金貨をつかんで放り投げている。
ボロボロになった服を着た者達が、周囲の家から飛び出してきた。
今まで息を潜めていたのだろう貧民が、馬に蹴られる事も畏れずに、我先に金貨を拾おうとしている。
「ドーン」
「ギャアアアアア!」
「ヒィィィィィン!」
「邪魔だ、どけ、退かないと蹴り殺すぞ」
言葉よりも前に貧民を蹄にかけている。
だが、いかに軍馬でも、この狭い場所で人にぶつかったら前に倒れてしまう。
馬から放りだされた完全装備騎士は、間違いなく頚骨を折って即死だ。
「最初から貧民を犠牲にする心算だったのか?」
完全装備の騎士が騎乗する軍馬だ。
馬鎧もしっかりと装備している。
蹄にかけられた貧民が無事でいられるはずがない。
「ここに住む連中は、飢えて死ぬか命懸けで悪事を働くかの二択なんだよ。
金貨が一枚あれば、半年は生きていける。
馬が手に入れば、死んでいてもひと月は生きていける。
騎士の身ぐるみ剥ぐことができれば、ここから抜け出すことができる。
みんな覚悟を決めて飛び出しているんだ」
「ローグの言う事を鵜呑みにはできない」
「好きにしな、どうせ王都を抜けだすまでの関係だ」
狭い通路をできるだけ早く進んでいるが、速足くらいにしかならない。
それ以上早く走らせようとしても、周りの家にぶつかってしまう
いや、そもそも道を知っているであろうローグの後をついて行かなければ、何処を通ればここを抜けられるか分からなしい、俺も貧民達に襲われていたに違いない。
「ギャアアアアア!」
「やめろ、止めないと殺すぞ!」
「ギャアアアアア!」
「ヒィイ、助けてくれ、殺さないでくれ!」
また一人、集団からはぐれた騎士が襲われたようだ。
……ローグが襲われないのは、ローグの手段を貧民達が受け入れているからか?
異世界には、俺が信じられないような常識があるのかもしれない。
特にここは、俺が経験した事のないような貧しい地域なのだ。
飽食と平和と怠惰の社会で生まれ育った俺では、理解しがたい常識があるのかもしれない。
身分差別をしている特権階級が、貧民街に入って報復を受けるのはしかたがない。
地球だって、身分差や経済差がある国や都市では、皆命懸けで生きている。
ただ、俺を慕って追いかけてきた馬だけは心配だ。
「ドラゴン、本当に生きて元の世界に戻りたいのなら、覚悟を決めろ。
さっき放った程度の魔術では、厳重に閉められた城門は突破できない。
貧民街を利用する方法も、もう使えない。
これほど大事になったら、後で貧民街にも必ず報復がある。
城門を破壊するほどの騒動を起こさないと、貧民が逃げられなくなる」
ローグの野郎!
とっさにここまで考えて貧民街に逃げ込みやがったな!
俺がどうしても魔術を使わなければいけないように追い込みやがった。
この短時間に俺の性格まで見抜きやがったのか!
「もう直ぐ城門だ。
この城門は、少し行けば深い森になっているから、貧民も隠れやすい。
大きな川も流れているから、遠くにも逃げやすい」
「最初からこうなると思っていたのか?
とっさに考えて臨機応変に動いたのか?」
「こうなる可能性も考えていただけで、他の可能性も考えていた」
「ちっ、とんでもない悪党だな!」
「褒めてくれてうれしいよ」
いいだろう、覚悟を決めてやるよ!
直接顔を見た事もないし、苦しい生活を知っている訳でもないが、貧民達に助けられたのは確かだ。
ローグの思惑が何であろうと、後で裏切られても構わない。
必ず生きて日本に戻る!
陛下に拝謁できたときに、目を逸らさずにいられるような生き方をする!
「俺を殺そうとする連中から道を開けてくれ。
生きて逃げられる魔力は残しておいてくれ。
必要最低限の魔力で目的を達成させてくれ。
ソール・コンプレッション・ランス!」
俺の言葉と同時に、都市城門の内側と外側の地面から土槍が飛び出した。
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