5 / 8
第一章
第5話:酒場
しおりを挟む
私の目の前には、私の唄など聞いていない男達がいます。
次に出てくる女達を待ちかねている、そんな様子が手に取るように分かります。
これでも国一番の楽士唄手と呼ばれていたのに、本気でやっていないとはいえ、女にここまで惨敗するとは情けなさすぎます。
本当なら、このような惨めなお思いをする場所に居たくないのですが、この都市で起こっている事を調べるには、ここで唄い続けるしかありません。
どれほど惨めな思いを噛み締めようと、我慢するしかありません。
「素晴らしい唄だったわよ。
これほどの演奏と唄は、皇都の皇国歌劇団でしか聞けないわ。
今度は本気の演奏と歌を聞きたいわね」
私は心臓が口から出るかと思うほど驚かされました。
私に惨めな思いをさせている女達に慰められたのも嫌だが、それ以前に私の唄を皇国歌劇団と比較できる教養と、私が手を抜いている事を見抜ける眼力に。
私の事をどこまで見抜いているか、背中に冷たい汗が流れます。
この場で斬り殺してしまった方がいいのではないかと、一瞬考えてしまいましたが、それが不可能なのは、初めて会った日から分かっています。
私が本気で殺そうと思っても、何合かは剣を交える事とになり、その間に大勢の人間が集まってきてしまいます。
「買いかぶるのは止めてくれ、それに全力でやってこの程度だ。
あんた達の魅力の前には、小銭一つ投げてもらえない無様な吟遊詩人だよ」
私は自虐的な思いになって、思わず情けない事を口にしてしまった。
中堅どころの酒場だが、演奏料などほとんど出ない。
基本稼ぎは客が帽子の中に入れてくれる祝儀になる。
若い女が踊りや唄を披露する酒場では、男の踊子や楽士唄手は祝儀をもらえない。
それがこの国の現状で、このままでは代々伝えられてきた踊りや唄が廃れてしまうだろう。
「ふっふっふっふっ、こんなのは一時の事よ。
この国の人達が女に慣れてしまえば、直ぐに本物だけが生き残れる、弱肉強食の状態になるわよ。
貴男ならそうなっても生き残れるだろうけど、この国が落ち着くまでは隣国に行った方が稼げるでしょうね。
本当に貴男なら皇都歌劇団に入れると思うわよ。
まあ、堅苦しいのが嫌いな人には、皇族の前で演奏するのは嫌でしょうけどね」
この女は、本気で言っているのだろうか?
それとも、私をおだてて何か手に入れようとしているのだろうか?
いや、今の私をおだてても手に入れられる物など何もない。
あるとすれば、私の正体に疑念を抱いていて、警備隊に売って報奨金を手に入れる事だが、本当に私の正体に気が付いているのだろうか?
もしそうなら、調査は難しくなるが、この酒場から逃げなければいけない。
次に出てくる女達を待ちかねている、そんな様子が手に取るように分かります。
これでも国一番の楽士唄手と呼ばれていたのに、本気でやっていないとはいえ、女にここまで惨敗するとは情けなさすぎます。
本当なら、このような惨めなお思いをする場所に居たくないのですが、この都市で起こっている事を調べるには、ここで唄い続けるしかありません。
どれほど惨めな思いを噛み締めようと、我慢するしかありません。
「素晴らしい唄だったわよ。
これほどの演奏と唄は、皇都の皇国歌劇団でしか聞けないわ。
今度は本気の演奏と歌を聞きたいわね」
私は心臓が口から出るかと思うほど驚かされました。
私に惨めな思いをさせている女達に慰められたのも嫌だが、それ以前に私の唄を皇国歌劇団と比較できる教養と、私が手を抜いている事を見抜ける眼力に。
私の事をどこまで見抜いているか、背中に冷たい汗が流れます。
この場で斬り殺してしまった方がいいのではないかと、一瞬考えてしまいましたが、それが不可能なのは、初めて会った日から分かっています。
私が本気で殺そうと思っても、何合かは剣を交える事とになり、その間に大勢の人間が集まってきてしまいます。
「買いかぶるのは止めてくれ、それに全力でやってこの程度だ。
あんた達の魅力の前には、小銭一つ投げてもらえない無様な吟遊詩人だよ」
私は自虐的な思いになって、思わず情けない事を口にしてしまった。
中堅どころの酒場だが、演奏料などほとんど出ない。
基本稼ぎは客が帽子の中に入れてくれる祝儀になる。
若い女が踊りや唄を披露する酒場では、男の踊子や楽士唄手は祝儀をもらえない。
それがこの国の現状で、このままでは代々伝えられてきた踊りや唄が廃れてしまうだろう。
「ふっふっふっふっ、こんなのは一時の事よ。
この国の人達が女に慣れてしまえば、直ぐに本物だけが生き残れる、弱肉強食の状態になるわよ。
貴男ならそうなっても生き残れるだろうけど、この国が落ち着くまでは隣国に行った方が稼げるでしょうね。
本当に貴男なら皇都歌劇団に入れると思うわよ。
まあ、堅苦しいのが嫌いな人には、皇族の前で演奏するのは嫌でしょうけどね」
この女は、本気で言っているのだろうか?
それとも、私をおだてて何か手に入れようとしているのだろうか?
いや、今の私をおだてても手に入れられる物など何もない。
あるとすれば、私の正体に疑念を抱いていて、警備隊に売って報奨金を手に入れる事だが、本当に私の正体に気が付いているのだろうか?
もしそうなら、調査は難しくなるが、この酒場から逃げなければいけない。
64
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる