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第一章

第1話:婚約破棄追放

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 私はアンドレ・レイズと申します。
 つい先日まで、カザフ王国にある公爵家の令息でした。
 それどころか、王太子の婚約者だったのです。
 それが今では、古着を着て氏素性を隠して村から村を移動しています。
 素直に追放刑に従い、国を出ていれば、それなりの生活ができました。
 ですが私にも誇りがあります。
 負け犬のように黙って逃げ出すような真似はできません!

「よう、一曲歌ってくれや」

 寂れた村に一軒しかない旅館兼居酒屋の食堂で、唄を頼まれました。
 これでも王国で有数の楽士歌い手と褒め称えられていました。
 ここしばらくの放浪で、田舎の村で好まれる唄も理解しました。
 村人を感動させ、一夜の宿代を手に入れる事くらい分けない事です。
 私は出自がバレないくらいに技と声を抑えて、英雄譚を唄います。

「ねえ、私に一杯奢ってよ」

 こんな僻地の村にまで、女が入り込んでいます。
 数年前までは、この国は男だけが住む国でした。
 偉大なる建国王陛下が、悪女に惑わされて滅んだ古の聖国の悲劇を繰り返す事のないようにと、幼馴染の盟友であり戦友でもある大賢者様と、男だけで成り立つ国を作られたのです。

 建国王陛下と大賢者様は、王国中に男同士でも子供が作れる儀式魔法陣を築かれ、カザフ王国は長く平和な時代が続いたのです。
 月の周期で性格が変わり、時に悪魔のように陰険になり、猛虎のように攻撃的にもなり、最悪の場合は国王を惑わし国を滅ぼす女を、排除する事に成功したのです。
 ですが、時の流れと周辺国の圧力には抗し切れませんでした。

「ねえ、今夜あたしと遊ばない、安くしておくからさぁ」

 雌豚が、恥ずかしげもなく身体を売ろうとしています。
 あの酔っ払いにも、家で待っている配偶者と子供がいるでしょうに。
 以前のカザフ王国の法律なら、配偶者や子供のいる男を誘惑すれば、厳罰に処せられものですが、今では周辺国にあわせて法律が変えられてしまっています。
 家で待つ配偶者と子供は寂しい思いをしている事でしょう。
 
「うっへへへへ、本当に安くしてくれるのか、だったら二階に行こうや」

 耳が穢れるような言葉です、思わず酔っぱらいと雌豚を殴りつけたくなりますが、ここで捕まって正体を知られるわけにはいきません。
 周辺国の圧力に負けて、仕方なく国が女を受け入れても、高貴な王侯貴族は建国王陛下と大賢者様のお考えを守って行こう。
 そう誓った婚約者で王太子のセイン。

 だがお前は雌豚に誑かされて誓いを破った。
 私に冤罪を被せて婚約を破棄し、国外追放にまでした。
 復讐してやりたい気持ちは強いが、私には王配になるはずだった者としての誇りがあり、公爵家の後継者になるはずだった者としての誇りがある。
 悪女に誑かされたお前がどんな政治を行うのか、この国がどのような生末を辿るのか、最後まで見届けなければいけない。
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