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第一章
第1話:人身売買
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それほど大きく強くはないけれど、小国と呼ばれるほど小さくも弱くもない、そこそこの国、それがオレリオ王国だった。
大きな国からは狙われるが、小さな国を狙って少しでも大きく強くなろうとする、ごくありふれた国だった。
そしてごくありふれた国らしく、オレリオ王国にも権力争いがあり、国王の寵愛を争う後宮での暗闘があった。
「今王都に旅芸人が来ていると聞きますが、どのような者達なのです?」
冷たく冷酷な性格を表すような、人の心も体も切り裂く口調で、新たな王妃リアナが側近の侍女に質問する。
カリフト皇国から嫁いできていた先代王妃、ミネバを平気で殺すような女だ。
逆らうどころか気に喰わない返事をしただけで、舌を切り落とされたり眼玉をくり貫かれたりする、とても恐ろしい毒婦なのだ。
わずかな間も置かず返事が返される。
「ライラという女が座長を務める、踊りを見せ身体を売る卑しい一座でございます」
側近侍女のダーシィが間髪を入れずに答えた。
毒婦リアナが、実家のシワシン侯爵家から連れてくるほどのお気に入りの侍女だ。
多くの侍女がリアナの怒りを買い、二眼と見られない無残な姿にされてきた。
その中で傷ひとつ負うことなく仕え続けている侍女だ。
リアナの残虐非道な性格が考え付くことを先読みし、準備万端調べて手が打てる。
「そう、それはとても好都合ね。
大陸随一の超大国の血を継ぐ王女が、現皇帝の孫娘が、卑しい旅芸人となって売春して生きていく、これほど愉快な事はないわね。
そう思わない事、ダーシィ?」
「はい、とても愉快極まりない事でございます、王妃殿下」
最下層の糞尿の臭いが染みついた貧民街に生まれ、物心ついた時から泥水を啜り、幼い身体を売って生きてきたダーシィだ。
その日の糧を得て生き延びるためなら、平気で人を売る。
死んだ貧民の生肉を食べた経験さえあるダーシィからみれば、身体を売る前提でリアナの死の爪から逃れられるなら、幸運以外の何物でもない。
「ふっふっふっ、そう思うのならお前の責任で全て行いなさい。
皇国の腐れ女を殺した時のようにね。
そうすればお前の弟は長生きできるわよ」
ダーシィは弟のアーチーを人質に取られていた。
貧民街で姉弟二人地を這うように生きてきたダーシィとアーチーは、奴隷売買を副業ととしている毒婦リアナの実家シワシン侯爵家に捕まり、暗殺と売春の技を徹底的に仕込まれたのだ。
この世でたった一人のかけがえのない大切な存在、ただ独り血のつながった弟アーチーを護るためなら、ダーシィはどんなことだって平気でやってのける。
「分かりました、直ぐに王宮からサリーを攫い、ライラ一座に売り払ってまいりますが、足がつくようなモノは残しませんから、ご安心ください」
毒婦リアナはニンマリとほほ笑んだが、その眼は笑っていなかった。
ダーシィの本心を確認し裏切りを見抜くために、殺気さえ宿していた。
サリー王女を確実に売春婦にするだけなら、実家の人身売買ルートを使った方が確実だが、それでは万が一カリフト皇国が調査を始めた時に危険だった。
自分が傷つく危険を冒すくらいならば、多少不確実でも安全な方を選ぶ。
他人を傷つけ殺す事は平気だが、自分が傷つくのは極力避ける、それが毒婦リアナの性格だった。
それに、サリー王女が売春婦に身を落とし、最底辺の暮らしをしている事を想像してほくそ笑むのなら、別にどこにいようと関係なかった。
居場所の定まった売春宿に売られたサリーが、どこからか自分の出生を知り、復讐しようとする可能性も皆無ではない。
ライラ一座の入国を禁止すれば、もう二度とこの国には入れなくなる。
旅芸人として大陸を放浪していれば、サリー王女が出生の秘密を知る機会はまずないと、毒婦リアナは結論していた。
大きな国からは狙われるが、小さな国を狙って少しでも大きく強くなろうとする、ごくありふれた国だった。
そしてごくありふれた国らしく、オレリオ王国にも権力争いがあり、国王の寵愛を争う後宮での暗闘があった。
「今王都に旅芸人が来ていると聞きますが、どのような者達なのです?」
冷たく冷酷な性格を表すような、人の心も体も切り裂く口調で、新たな王妃リアナが側近の侍女に質問する。
カリフト皇国から嫁いできていた先代王妃、ミネバを平気で殺すような女だ。
逆らうどころか気に喰わない返事をしただけで、舌を切り落とされたり眼玉をくり貫かれたりする、とても恐ろしい毒婦なのだ。
わずかな間も置かず返事が返される。
「ライラという女が座長を務める、踊りを見せ身体を売る卑しい一座でございます」
側近侍女のダーシィが間髪を入れずに答えた。
毒婦リアナが、実家のシワシン侯爵家から連れてくるほどのお気に入りの侍女だ。
多くの侍女がリアナの怒りを買い、二眼と見られない無残な姿にされてきた。
その中で傷ひとつ負うことなく仕え続けている侍女だ。
リアナの残虐非道な性格が考え付くことを先読みし、準備万端調べて手が打てる。
「そう、それはとても好都合ね。
大陸随一の超大国の血を継ぐ王女が、現皇帝の孫娘が、卑しい旅芸人となって売春して生きていく、これほど愉快な事はないわね。
そう思わない事、ダーシィ?」
「はい、とても愉快極まりない事でございます、王妃殿下」
最下層の糞尿の臭いが染みついた貧民街に生まれ、物心ついた時から泥水を啜り、幼い身体を売って生きてきたダーシィだ。
その日の糧を得て生き延びるためなら、平気で人を売る。
死んだ貧民の生肉を食べた経験さえあるダーシィからみれば、身体を売る前提でリアナの死の爪から逃れられるなら、幸運以外の何物でもない。
「ふっふっふっ、そう思うのならお前の責任で全て行いなさい。
皇国の腐れ女を殺した時のようにね。
そうすればお前の弟は長生きできるわよ」
ダーシィは弟のアーチーを人質に取られていた。
貧民街で姉弟二人地を這うように生きてきたダーシィとアーチーは、奴隷売買を副業ととしている毒婦リアナの実家シワシン侯爵家に捕まり、暗殺と売春の技を徹底的に仕込まれたのだ。
この世でたった一人のかけがえのない大切な存在、ただ独り血のつながった弟アーチーを護るためなら、ダーシィはどんなことだって平気でやってのける。
「分かりました、直ぐに王宮からサリーを攫い、ライラ一座に売り払ってまいりますが、足がつくようなモノは残しませんから、ご安心ください」
毒婦リアナはニンマリとほほ笑んだが、その眼は笑っていなかった。
ダーシィの本心を確認し裏切りを見抜くために、殺気さえ宿していた。
サリー王女を確実に売春婦にするだけなら、実家の人身売買ルートを使った方が確実だが、それでは万が一カリフト皇国が調査を始めた時に危険だった。
自分が傷つく危険を冒すくらいならば、多少不確実でも安全な方を選ぶ。
他人を傷つけ殺す事は平気だが、自分が傷つくのは極力避ける、それが毒婦リアナの性格だった。
それに、サリー王女が売春婦に身を落とし、最底辺の暮らしをしている事を想像してほくそ笑むのなら、別にどこにいようと関係なかった。
居場所の定まった売春宿に売られたサリーが、どこからか自分の出生を知り、復讐しようとする可能性も皆無ではない。
ライラ一座の入国を禁止すれば、もう二度とこの国には入れなくなる。
旅芸人として大陸を放浪していれば、サリー王女が出生の秘密を知る機会はまずないと、毒婦リアナは結論していた。
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