夢にまで見た異世界転移だけど、勇者に成る気はありません。引き籠って生きたいのです。

克全

文字の大きさ
上 下
29 / 33
第一章

第24話:脅迫と懐柔

しおりを挟む
転移12日目:山本光司(ミーツ)視点

 今日は朝から忙しかった。
 9人もの寡婦が被害者と孤児を説得に行くのだ。
 その穴埋めをどうするかでバタバタしてしまった。

 人では足りないが、55部位の解体術を流出させるのは少し嫌だった。
 だから鳥や獣の解体を他人に頼むわけにはいかない。
 それに比べれば、露店で鳥を焼くのは誰でもよかった。

 香草パウダーの配合を知られるのはほんの少しだけ困る。
 だが、絶対味覚がある人間に本気で調べられたらバレる事だ。
 露店で売っている焼き鳥を買って食べれば済む話だ。

 だからここは、マイルズの顔を立ててやるフリをした。
 本当は自分の都合なのに、マイルズの頼みを聞いてやるフリをした。
 それでマイルズが調子に乗るのか見極める事にした。

「マイルズ、昨日はああ言ったが、お前にも領主としての立場があるだろう。
 父親と貴族達を捕らえる時に助けてもらった支援者もいるのだろう。
 だからお前の顔を立てて、串焼き売る商人を助けてやる。
 銀貨10枚もする香草パウダーは売れないから、俺の店で使ってやる。
 朝から晩まで串を焼くのなら、日当に銅貨50枚を払ってやろう」

「ありがとうございます!
 そうしていただければ彼らも助かります!」

「ただし、売り上げや誤魔化したり商品を盗んだりしたら、ただでは済まさん」

「それは当然です、窃盗罪で賠償させます」

「俺がそんな軽い罪で済ませる訳がないだろう。
 殺しはしないが、醜いヒキガエルに変化させてやる。
 人間に踏み潰されるか鳥に喰われるか、1日も生き延びられないだろう」

「そんな!」

「そんな?
 お前自身が窃盗を行うかもしれないと思っている連中を、俺に助けろと言ってきたのか?!」

「いえ、そんな事はありません!
 彼らはとても善良な人間です!」

「だったら、盗みを働いてヒキガエルに変化させられる心配はいらないだろう?
 そのような人間を俺に助けろと言ったお前を見限って、出て行く心配も不要だな」

「あ、う、く、あああああ」

「ではそういう事で、開店までに、お前が言っていた露店で串焼きを商っていた者、8人とその家族を送ってくれ。
 その心算で店の前に8つの竈と売り台を用意しておく。
 準備が無駄になるようなことがあれば、俺は即日出て行くからな!」

「……分かりました、私も直ぐに準備させてきます」

 俺の最後通牒とも言える脅迫に恐怖したマイルズは、急いで戻って行った。
 串焼き商人に厳しく注意するだけなのか、他に手を打つのか楽しみだった。
 それは店に行って準備している時に分かった。

「我々が連中を見張って絶対に悪事を働かせません。
 わずかでも怪しい動きをしたら、その場で斬り捨てます」

 マイルズは何時もの警備隊員に加えて、騎士資格を持つ領主軍将校を送ってきた。
 彼らが串焼き商人を見張ってくれるのだが、マイルズは分かっているのだろうか?
 香草パウダーが100gで銀貨10枚(10万円)もする事を。

 その気になって香草を集め、自分達の勢力圏で100kgも売れば、金貨1000枚(10億円)の売り上げになる事を。
 金貨の10枚くらいなら平気で賄賂として送る事を。

 だが俺の心配は猜疑心が強すぎる間違った考えだった。
 マイルズにも信望があり、騎士や市民から忠誠心を得ていた。
 少々の賄賂では惑わされない立派な騎士が少なくとも8人はいた。

「ほう、長年商売してきただけあって良い手際だな。
 焼いた物は全て保管できるから、売れなくても焼けるだけ焼いてくれ。
 こちらの解体が間に合わないのなら、お前達でスズメなどを解体してくれていい。
 その代わり、約束していた日当に銅貨10枚を増額してやる」

「それは、私だけでなく手伝っている家族もですか?」

「そうだ、手伝っている女房にも増額してやる。
 2人合わせて銅貨120枚だ。
 材料費もいらない、売れなくて材料を腐らせる心配もない。
 少々忙しいが、商売を考えずに焼くだけで日当に銅貨60枚だ。
 女房と一緒にやれば銅貨120枚。
 こんないい仕事は滅多にないぞ」

「お願いします、これからもやらせてください、お願いします!」

 この世界の人件費が恐ろしく安いのは、地球の中世と同じだ。
 命の危険のない料理だけで日当6000円も稼げるのは破格だ。
 全く串焼きが売れなくなった自分の店など、今直ぐ閉店する気になるだろう。

「分かった、これから毎日商店街の開店から閉店まで焼いてもらう。
 買いに来た人間には愛想よく売れ。
 だが、さっきも言ったが、全く売れなくてもかまわない。
 焼いた物は全部俺が魔術で保管する」

「「「「「はい」」」」」

 俺が話しかけた男と女房だけでなく、他の7店の店主と女房も一斉に答える。
 これで焼き手と売り手を確保する事ができた。
 いずれ見張りの領主軍将校は引き上げる事になるが、これで大丈夫だ。

 串焼き商人達の忠誠心が得られたら、そのまま雇って商売をさせる。
 忠誠心が得られていなかったら、館の中で鳥を焼かせればいい。
 どれほど大量の焼き鳥でも、非常食として亜空間に保管できる。

 ……1度奉天市場で売れるか確かめてみる。

 「奉天市場買取価格」
スズメ  : 300円(1羽)
ウズラ  :1500円(1羽)
ハト   :3000円(1羽)
ハトモモ : 700円(1枚)
ハトムネ : 500円(1枚)
ハトササミ: 200円(1本)
ハトネック: 100円(1本)
ハトキモ :  50円(1個)
ハト砂キモ:  50円(1個)
ハト手羽元:  50円(1個)
ハト手羽中:  50円(1個)
ハト胴殻 : 200円(1羽)

 「奉天市場買取価格」
スズメ串焼き: 500円(1羽)
ウズラ串焼き:1000円(半身)
ウズラ丸焼き:2000円(1羽)
ハト半身焼き:2500円(半身)
ハト丸焼き :4000円(1羽)
ハトモモ串 : 500円(1/2枚)
ハトムネ串 : 500円
ハトササミ串: 500円
ハトネック串: 500円
ハトキモ串 : 500円
ハト砂キモ串: 500円
ハト手羽元 : 300円
ハト手羽中 : 300円

 日本の露店で売られている値段に近いのか?
 ハトは高級フレンチだったと思うが、この世界の相場よりも高いのか?
 部位によって価値も好みも違うから判断が難しい。

 だが、1つだけはっきりした事がある。
 とても処理しきらないと思っていた鳥を、奉天市場で売ることができる。
 叩き売りではなく、十分以上の利益を乗せて売ることができる。

 丸のまま売るよりも解体した方が、加工代を加えて高く売れる。
 解体すれぼん尻、白子、軟骨、玉ひも、腸などといった希少部位が手に入る。
 料理をした方が、料理代を加えて高く売ることができる。

 そうと分かれば鳥を解体できる人間を大量に集めなければいけない。
 ムダに広い館だったが、十分活用できる。

 薬草部門の売り上げが金貨25枚(2500万円)銀貨5439枚(5439万円)となった。

 調味料部門の売り上げが金貨102枚(1億200万円)銀貨4318枚(4318万円)となった。

 食肉部門の売り上げが、銀貨44枚(44万円)銅貨6972枚(69万7200円)となった。

 寡婦21人孤児65人:計算ができる寡婦6人
 露天商8人とその妻8人
 支払った日当銅貨2010枚(20万1000円)
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...