上 下
28 / 33
第一章

第23話:懇願と覚悟

しおりを挟む
転移11日目:山本光司(ミーツ)視点

「大魔術師様、愚かな私が悪かったのです。
 もう2度と親しい者を依怙贔屓したりしません。
 ですから、ロアノークを出て行くと言わないでください!」

 マイルズがやって来て最敬礼で詫びた。
 半日で俺が移住を考えている情報を得た、と感心したりはしない。
 俺達の護衛に警備隊員がついているのだから、よほど無能でなければ分かる。

「どこに行こうと俺の勝手だ。
 ここが住み難い、領主が信じられないと思ったら即座に出て行く。
 今はまだ直ぐに出て行くほどではないが、良い所があれば出て行く」

「心から反省して言動を改めます。
 今しばらく私の行動を見て確かめていただけませんでしょうか?」

「だったら口ではなく行動で示せ。
 これまで行ってきた言動を反省し改めている事を俺に見せろ。
 もう既に見放す直前だと言う事を忘れるな」

「はい、必ず」

 そう言ってマイルズは去っていった。
 2晩続けて憩いの夜が台無しになってしまった。
 マイルズの印象がまた悪くなった。

 嫌な事があった後は気分を変えなければいけない。
 何時もすがりついているネイの頭を撫でるのも良いが、偶には他の方法も取る。
 使用人代表格となったアビゲイルの、気風の良い言葉が聞きたくなった。

「アビゲイル、入るぞ」

 俺は寡婦達が明日の仕込みのために解体をしている台所に声をかけた。
 主人である俺が寡婦の使用人個室を訪問するなど絶対に有ってはならない。

 全ての使用人に、役職による立場以外の権力を与えてはいけない。
 若い新人OLが社長の愛人となり、会社に功績のある古参部課長を顎で使うなど、会社が傾く元凶でしかない。

「はい、どうぞ」

「皆に頼みがあるのだが、いいか?」

「私達にできる事でしたら何でも申されてください」

「領主が信用できないと判断したら、ここを出て行くと昨日言っただろう?」

「はい、そう言われておられましたね」

「どこに行こうと大丈夫なのだが、気になる事が1つだけある」

「何事でございますか?」

「強盗冒険者と貴族の被害者を全て助けられたかどうかだ。
 今も領主に探させてはいるが、領主を信じずに隠れている者がいるかもしれない。
 そんな者達を見捨てて逃げるのは嫌なのだ。
 お前達が知っている被害者がいるなら教えてくれ」

「私は知りませんが、知っている者がいるかもしれません」

「私知っています!
 領主も御主人様も信じられずに隠れている人がいます」

 やはり隠れ住んでいる者がいた。
 時間がないのもあるが、マイルズに信用も能力もないからだろう。
 バカ天使も、いつもの見落としがあるのだろう。

「明日は仕事を休んで隠れている人を説得しに行ってくれ。
 警備隊の人間を護衛につけるから、安心してくれればいい」

「いえ、私1人に行かせてください。
 警備隊の人間がついてくると、警戒されてしまいます」

 名乗り出てくれた寡婦は、覚悟の決まった表情をしてくれている。
 女性に漢気というのはおかしいが、マイルズ以上の良い顔をしている。
 まあ、本質的には女の方が強いと言うからな。

「分かった、警備隊の人間をつけるのは止めよう。
 だが、女1人に行かせるわけにはいかない。
 一緒に行ってやろうと言う者が2人以上いないとダメだ」

「私が行きます」
「私も一緒に行きます!」

 念ためにバカ天使に見守らせよう。
 何かあれば俺が助けに行けばいい事だ。

「分かった、その度胸と覚悟を認めて3人に行ってもらう」

「御主人様、お願いしたい事があります」

 アビゲイルも覚悟を決めた表情で話しかけてきた。

「なんだ、隠れている者は知らないと言っていたではないか?」

「はい、知っている被害者家族はいません。
 ですが、被害者ではありませんが、困窮する孤児達を知っています。
 彼らを御主人様に助けていただきたいのです!」

 アビゲイルが火のような勢いで訴えかけてくる。
 その優しさは良いものだと思うが、人の金に頼っているのは気に食わない。
 人助けは素晴らしいが、自分の稼いだ金でやらないと強請り集りと変わらない。

「御主人様の権力とお金に頼るのは恥ずかしい事ですが、御主人様が望まれておられた利点もありますので、こうしてお願いさせて頂いています」

 よく覚えていたな、アビゲイル。
 お前が何を言いたいのか大体想像はつくが、俺が自分の言葉を平気で無かった事にする恥知らずだったらどうする気だ?

「どのような利点があると言うのだ?」

 アビゲイルは俺の弱さを見抜いているのだろうな。
 自分の言った事に縛られてしまうと言う、気の弱さからくる最大の弱点を!

「御主人様は、自分に忠誠を誓う使用人が欲しいと申されておられました。
 私達が助けていただいて忠誠心をもったのと同じように、孤児達も助けられたら忠誠心を持つ事でしょう。
 彼らは年長者を頭に幼弱な子を助ける仕組みを作っています。
 戦力になる冒険者に育てるにしても、使用人として側に仕えさせるにしても、とても便利だと思います」

 人が悪いようだが、もう少し試させてもらおう。

「確かにアビゲイルの言う通りだが、それだけか?
 俺がアビゲイル達だけで充分満足していると言ったらどうする?
 孤児達がもう助け合える仕組みを作っているのなら、俺が助けても大して恩義に感じず、忠誠心を得られないと言ったらどうする?」

「御主人様に助けられた身で思い上がるな!
 全て御主人様の御力で稼げているのに何を言っている?
 そうお叱りを受けるのを覚悟で申し上げさせていただきます。
 私がいただける御給料で、孤児達を助けていただけないでしょうか?!
 死ぬまでにいただける御給料の全てを返上させていただきます」

 良い覚悟だが、俺以外には通用しないと思うぞ。
 感動話が好きな俺だから通用するが、この世界の常識とは違うだろう?

「私も御給料を返上させていただきますので、孤児達を助けてやってください!」
「私も、私も御給料を返上させていただきます!」
「「「「「私も返上させていただきます」」」」」

「お前達にそこまでの覚悟があるのなら、孤児達に支援してやろう。
 この館に引き取り、仕事も知識も武術を授けてやろう。
 お前達の給料を取り上げるような事はしない。
 だが、生半可な覚悟では後悔するぞ!
 親に捨てられたか死別したかは個々違うだろうが、ずっと子供達だけで生きてきたのなら、猜疑心が強く反抗的だぞ。
 そんな子供を1度にたくさん引き取るのは、生半可な苦労ではないぞ?
 途中で投げ出す事は絶対に許さないぞ!
 それでも引き取り世話すると言うのだな?!」

「「「「「はい!」」」」

「だったら明日にでも会いに行ってこい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。  事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。  異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。  高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。  ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。  右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。  旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。  のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。 お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。 しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。 小説家になろうさんにもお邪魔しています。

処理中です...