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第一章
第23話:懇願と覚悟
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転移11日目:山本光司(ミーツ)視点
「大魔術師様、愚かな私が悪かったのです。
もう2度と親しい者を依怙贔屓したりしません。
ですから、ロアノークを出て行くと言わないでください!」
マイルズがやって来て最敬礼で詫びた。
半日で俺が移住を考えている情報を得た、と感心したりはしない。
俺達の護衛に警備隊員がついているのだから、よほど無能でなければ分かる。
「どこに行こうと俺の勝手だ。
ここが住み難い、領主が信じられないと思ったら即座に出て行く。
今はまだ直ぐに出て行くほどではないが、良い所があれば出て行く」
「心から反省して言動を改めます。
今しばらく私の行動を見て確かめていただけませんでしょうか?」
「だったら口ではなく行動で示せ。
これまで行ってきた言動を反省し改めている事を俺に見せろ。
もう既に見放す直前だと言う事を忘れるな」
「はい、必ず」
そう言ってマイルズは去っていった。
2晩続けて憩いの夜が台無しになってしまった。
マイルズの印象がまた悪くなった。
嫌な事があった後は気分を変えなければいけない。
何時もすがりついているネイの頭を撫でるのも良いが、偶には他の方法も取る。
使用人代表格となったアビゲイルの、気風の良い言葉が聞きたくなった。
「アビゲイル、入るぞ」
俺は寡婦達が明日の仕込みのために解体をしている台所に声をかけた。
主人である俺が寡婦の使用人個室を訪問するなど絶対に有ってはならない。
全ての使用人に、役職による立場以外の権力を与えてはいけない。
若い新人OLが社長の愛人となり、会社に功績のある古参部課長を顎で使うなど、会社が傾く元凶でしかない。
「はい、どうぞ」
「皆に頼みがあるのだが、いいか?」
「私達にできる事でしたら何でも申されてください」
「領主が信用できないと判断したら、ここを出て行くと昨日言っただろう?」
「はい、そう言われておられましたね」
「どこに行こうと大丈夫なのだが、気になる事が1つだけある」
「何事でございますか?」
「強盗冒険者と貴族の被害者を全て助けられたかどうかだ。
今も領主に探させてはいるが、領主を信じずに隠れている者がいるかもしれない。
そんな者達を見捨てて逃げるのは嫌なのだ。
お前達が知っている被害者がいるなら教えてくれ」
「私は知りませんが、知っている者がいるかもしれません」
「私知っています!
領主も御主人様も信じられずに隠れている人がいます」
やはり隠れ住んでいる者がいた。
時間がないのもあるが、マイルズに信用も能力もないからだろう。
バカ天使も、いつもの見落としがあるのだろう。
「明日は仕事を休んで隠れている人を説得しに行ってくれ。
警備隊の人間を護衛につけるから、安心してくれればいい」
「いえ、私1人に行かせてください。
警備隊の人間がついてくると、警戒されてしまいます」
名乗り出てくれた寡婦は、覚悟の決まった表情をしてくれている。
女性に漢気というのはおかしいが、マイルズ以上の良い顔をしている。
まあ、本質的には女の方が強いと言うからな。
「分かった、警備隊の人間をつけるのは止めよう。
だが、女1人に行かせるわけにはいかない。
一緒に行ってやろうと言う者が2人以上いないとダメだ」
「私が行きます」
「私も一緒に行きます!」
念ためにバカ天使に見守らせよう。
何かあれば俺が助けに行けばいい事だ。
「分かった、その度胸と覚悟を認めて3人に行ってもらう」
「御主人様、お願いしたい事があります」
アビゲイルも覚悟を決めた表情で話しかけてきた。
「なんだ、隠れている者は知らないと言っていたではないか?」
「はい、知っている被害者家族はいません。
ですが、被害者ではありませんが、困窮する孤児達を知っています。
彼らを御主人様に助けていただきたいのです!」
アビゲイルが火のような勢いで訴えかけてくる。
その優しさは良いものだと思うが、人の金に頼っているのは気に食わない。
人助けは素晴らしいが、自分の稼いだ金でやらないと強請り集りと変わらない。
「御主人様の権力とお金に頼るのは恥ずかしい事ですが、御主人様が望まれておられた利点もありますので、こうしてお願いさせて頂いています」
よく覚えていたな、アビゲイル。
お前が何を言いたいのか大体想像はつくが、俺が自分の言葉を平気で無かった事にする恥知らずだったらどうする気だ?
「どのような利点があると言うのだ?」
アビゲイルは俺の弱さを見抜いているのだろうな。
自分の言った事に縛られてしまうと言う、気の弱さからくる最大の弱点を!
「御主人様は、自分に忠誠を誓う使用人が欲しいと申されておられました。
私達が助けていただいて忠誠心をもったのと同じように、孤児達も助けられたら忠誠心を持つ事でしょう。
彼らは年長者を頭に幼弱な子を助ける仕組みを作っています。
戦力になる冒険者に育てるにしても、使用人として側に仕えさせるにしても、とても便利だと思います」
人が悪いようだが、もう少し試させてもらおう。
「確かにアビゲイルの言う通りだが、それだけか?
俺がアビゲイル達だけで充分満足していると言ったらどうする?
孤児達がもう助け合える仕組みを作っているのなら、俺が助けても大して恩義に感じず、忠誠心を得られないと言ったらどうする?」
「御主人様に助けられた身で思い上がるな!
全て御主人様の御力で稼げているのに何を言っている?
そうお叱りを受けるのを覚悟で申し上げさせていただきます。
私がいただける御給料で、孤児達を助けていただけないでしょうか?!
死ぬまでにいただける御給料の全てを返上させていただきます」
良い覚悟だが、俺以外には通用しないと思うぞ。
感動話が好きな俺だから通用するが、この世界の常識とは違うだろう?
「私も御給料を返上させていただきますので、孤児達を助けてやってください!」
「私も、私も御給料を返上させていただきます!」
「「「「「私も返上させていただきます」」」」」
「お前達にそこまでの覚悟があるのなら、孤児達に支援してやろう。
この館に引き取り、仕事も知識も武術を授けてやろう。
お前達の給料を取り上げるような事はしない。
だが、生半可な覚悟では後悔するぞ!
親に捨てられたか死別したかは個々違うだろうが、ずっと子供達だけで生きてきたのなら、猜疑心が強く反抗的だぞ。
そんな子供を1度にたくさん引き取るのは、生半可な苦労ではないぞ?
途中で投げ出す事は絶対に許さないぞ!
それでも引き取り世話すると言うのだな?!」
「「「「「はい!」」」」
「だったら明日にでも会いに行ってこい」
「大魔術師様、愚かな私が悪かったのです。
もう2度と親しい者を依怙贔屓したりしません。
ですから、ロアノークを出て行くと言わないでください!」
マイルズがやって来て最敬礼で詫びた。
半日で俺が移住を考えている情報を得た、と感心したりはしない。
俺達の護衛に警備隊員がついているのだから、よほど無能でなければ分かる。
「どこに行こうと俺の勝手だ。
ここが住み難い、領主が信じられないと思ったら即座に出て行く。
今はまだ直ぐに出て行くほどではないが、良い所があれば出て行く」
「心から反省して言動を改めます。
今しばらく私の行動を見て確かめていただけませんでしょうか?」
「だったら口ではなく行動で示せ。
これまで行ってきた言動を反省し改めている事を俺に見せろ。
もう既に見放す直前だと言う事を忘れるな」
「はい、必ず」
そう言ってマイルズは去っていった。
2晩続けて憩いの夜が台無しになってしまった。
マイルズの印象がまた悪くなった。
嫌な事があった後は気分を変えなければいけない。
何時もすがりついているネイの頭を撫でるのも良いが、偶には他の方法も取る。
使用人代表格となったアビゲイルの、気風の良い言葉が聞きたくなった。
「アビゲイル、入るぞ」
俺は寡婦達が明日の仕込みのために解体をしている台所に声をかけた。
主人である俺が寡婦の使用人個室を訪問するなど絶対に有ってはならない。
全ての使用人に、役職による立場以外の権力を与えてはいけない。
若い新人OLが社長の愛人となり、会社に功績のある古参部課長を顎で使うなど、会社が傾く元凶でしかない。
「はい、どうぞ」
「皆に頼みがあるのだが、いいか?」
「私達にできる事でしたら何でも申されてください」
「領主が信用できないと判断したら、ここを出て行くと昨日言っただろう?」
「はい、そう言われておられましたね」
「どこに行こうと大丈夫なのだが、気になる事が1つだけある」
「何事でございますか?」
「強盗冒険者と貴族の被害者を全て助けられたかどうかだ。
今も領主に探させてはいるが、領主を信じずに隠れている者がいるかもしれない。
そんな者達を見捨てて逃げるのは嫌なのだ。
お前達が知っている被害者がいるなら教えてくれ」
「私は知りませんが、知っている者がいるかもしれません」
「私知っています!
領主も御主人様も信じられずに隠れている人がいます」
やはり隠れ住んでいる者がいた。
時間がないのもあるが、マイルズに信用も能力もないからだろう。
バカ天使も、いつもの見落としがあるのだろう。
「明日は仕事を休んで隠れている人を説得しに行ってくれ。
警備隊の人間を護衛につけるから、安心してくれればいい」
「いえ、私1人に行かせてください。
警備隊の人間がついてくると、警戒されてしまいます」
名乗り出てくれた寡婦は、覚悟の決まった表情をしてくれている。
女性に漢気というのはおかしいが、マイルズ以上の良い顔をしている。
まあ、本質的には女の方が強いと言うからな。
「分かった、警備隊の人間をつけるのは止めよう。
だが、女1人に行かせるわけにはいかない。
一緒に行ってやろうと言う者が2人以上いないとダメだ」
「私が行きます」
「私も一緒に行きます!」
念ためにバカ天使に見守らせよう。
何かあれば俺が助けに行けばいい事だ。
「分かった、その度胸と覚悟を認めて3人に行ってもらう」
「御主人様、お願いしたい事があります」
アビゲイルも覚悟を決めた表情で話しかけてきた。
「なんだ、隠れている者は知らないと言っていたではないか?」
「はい、知っている被害者家族はいません。
ですが、被害者ではありませんが、困窮する孤児達を知っています。
彼らを御主人様に助けていただきたいのです!」
アビゲイルが火のような勢いで訴えかけてくる。
その優しさは良いものだと思うが、人の金に頼っているのは気に食わない。
人助けは素晴らしいが、自分の稼いだ金でやらないと強請り集りと変わらない。
「御主人様の権力とお金に頼るのは恥ずかしい事ですが、御主人様が望まれておられた利点もありますので、こうしてお願いさせて頂いています」
よく覚えていたな、アビゲイル。
お前が何を言いたいのか大体想像はつくが、俺が自分の言葉を平気で無かった事にする恥知らずだったらどうする気だ?
「どのような利点があると言うのだ?」
アビゲイルは俺の弱さを見抜いているのだろうな。
自分の言った事に縛られてしまうと言う、気の弱さからくる最大の弱点を!
「御主人様は、自分に忠誠を誓う使用人が欲しいと申されておられました。
私達が助けていただいて忠誠心をもったのと同じように、孤児達も助けられたら忠誠心を持つ事でしょう。
彼らは年長者を頭に幼弱な子を助ける仕組みを作っています。
戦力になる冒険者に育てるにしても、使用人として側に仕えさせるにしても、とても便利だと思います」
人が悪いようだが、もう少し試させてもらおう。
「確かにアビゲイルの言う通りだが、それだけか?
俺がアビゲイル達だけで充分満足していると言ったらどうする?
孤児達がもう助け合える仕組みを作っているのなら、俺が助けても大して恩義に感じず、忠誠心を得られないと言ったらどうする?」
「御主人様に助けられた身で思い上がるな!
全て御主人様の御力で稼げているのに何を言っている?
そうお叱りを受けるのを覚悟で申し上げさせていただきます。
私がいただける御給料で、孤児達を助けていただけないでしょうか?!
死ぬまでにいただける御給料の全てを返上させていただきます」
良い覚悟だが、俺以外には通用しないと思うぞ。
感動話が好きな俺だから通用するが、この世界の常識とは違うだろう?
「私も御給料を返上させていただきますので、孤児達を助けてやってください!」
「私も、私も御給料を返上させていただきます!」
「「「「「私も返上させていただきます」」」」」
「お前達にそこまでの覚悟があるのなら、孤児達に支援してやろう。
この館に引き取り、仕事も知識も武術を授けてやろう。
お前達の給料を取り上げるような事はしない。
だが、生半可な覚悟では後悔するぞ!
親に捨てられたか死別したかは個々違うだろうが、ずっと子供達だけで生きてきたのなら、猜疑心が強く反抗的だぞ。
そんな子供を1度にたくさん引き取るのは、生半可な苦労ではないぞ?
途中で投げ出す事は絶対に許さないぞ!
それでも引き取り世話すると言うのだな?!」
「「「「「はい!」」」」
「だったら明日にでも会いに行ってこい」
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