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第二章「恋愛」

43話

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「姫様とダンスを踊れるなんで、夢のようでございます」

「私こそ、勇者アシュラム様と踊れるなんて。
 これほどの喜びはありません」

 勇者英雄と乙女が引かれ合うのは自然の摂理なのかもしれない。
 アシュラムは、カチュア姫を一目見て虜になってしまった。
 もうカチュア姫以外の事は考えられなかった。
 夜も日もなく、カチュア姫の事を想うようになった。
 それがアシュラムの力となった。

 カチュアもアシュラムの事が気になった。
 水精霊もアシュラムの事は嫌わなかった。
 サライダ王国の民を守護する水精霊も、民全てを好いている訳ではない。
 あれほど水精霊に助けられ、敬っている民でも、心の奥底に邪心を持っている。
 水精霊様を敬いつつ、人間同士の愛憎があるのだ。

 そんな人間を、水精霊様は忌み嫌っていた。
 カチュアを愛しているから、守護していた。
 どれほど敬われても、心の汚い人間は嫌いなのだ。
 それはサライダ王国の家臣重臣も同じだった
 家臣重臣であろうと、水精霊が望むほどの清廉潔白な人間はいない。

 だがそれが水精霊だった。
 潔癖すぎるのが水精霊だった。
 そんな水精霊が、アシュラムの事を気に入っていた。
 他の勇者英雄は嫌うのに、アシュラムの事だけは認めていた。
 だから、アシュラムがカチュア姫にダンスの相手を願い出たのに、許可を出した。
 
 会場がどよめいた。
 カチュア姫が初めて、外部の人間からのダンス申し込みを受けたのだ。
 快挙であった。
 今迄は、男性役の侍女か父親のキャスバル王がダンスの相手を務めた。
 家臣ですら男はダンス相手に選ばれなかった。

 それが、初めて外部の男からパートナーが選ばれたのだ。
 アシュラムに羨望の眼が注がれた。
 いや、増悪の視線が注がれた。
 中には殺気の含まれる視線もあった。
 その殺気の視線は、サライダ王国の騎士からのモノまであった。

 アシュラムはカチュア姫の婿候補となった。
 ダントツの一番候補となった。
 他にもドラゴニュートの首を取って戻った勇者英雄はいる。
 だが彼らは、カチュア姫にダンスを申し込んで断られていた。
 武勇はあげたが、水精霊に認められなかった。

 それはサライダ王国では致命的だった。
 だが選ばれなかったのは自分だけではない。
 ドラゴニュートの首を取ってきた他の者も、水精霊に選ばれていない。
 だからまだチャンスがあると考えていた。
 何より、カチュア姫の魅力の虜になっていた。

 民を愛し、人間牧場の事を憂いているカチュア姫は、とても美しくなっていた。
 傾国の美しさと言っていいほどだった。
 王配の地位などなくても、世界中の王侯貴族が求婚するだろう美しさだった。
 そんなカチュア姫の守護者である、水精霊が認める相手が初めて現れたのだ。
 状況が大きく動くことになった。
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