上 下
41 / 82

国境線

しおりを挟む
「飯だぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
 俺の呼びかけを受けて、当直以外の冒険者兵士が集まってきた。
 彼らが喜んで集まるのも当然だろう。
 最前線の偵察部隊なのに、温かくて美味しい飯が食えるのだから。
 普通の兵士は、少なくて不味い飯しか支給されない。
 いや、支給されればまだいい方だ。
 多くの軍では、自分達で食糧を現地調達させようとする。
 普通の国は、自国の食糧を減らさないように、敵国に入り込んで、敵国領民から奪えと命じてくる。
 酷い国なら、戦時臨時税と言う名目で、飢え苦しむ自国の領民から食糧を奪えて命じるのだ。
 だが民も素直に奪われるはずがない。
 食糧を奪われたら、飢え死にするのが目に見えているから、必死で隠そうとする。
 いや、そもそも奪う食糧など、最初からない村もある。
 そして心ある指揮官や兵士なら、飢えに苦しむ民から収奪するなど出来はしない。
 だから多くの兵士は、後方の拠点で駐屯しているとき以外は、常に飢えている。
 だが俺の指揮下にある兵士は別だ。
 アゼス魔境で手当たり次第魔獣を狩っていたので、莫大な量の食糧が魔法袋に蓄えられている。
 貧乏人の食事と同じで、肉が主食ではある。
 だが本当の貧乏人と違うのは、肉が大量にあることだ。
 痩せて収穫量の低い田畑から得られた米や麦の大半は、税金として領主に収奪される。
 残された僅かな量では、とても一年間生きてはいけない。
 いや、そもそも残された量では、三日に一度パンが食べられる程度だ。
 だから多くの民は、森に入って獣を狩る。
 そこで得た獣の肉を主食にしているが、それも大切に少しずつ食べることになる。
 生き残るために必要な、カロリーの高い脂は奪い合いになる。
 だが今回は食べたいだけ肉を用意してあるから、飢えを覚悟していた冒険者兵には大好評だ。
 今回アッバース首長家の傭兵隊として戦争に参加した俺達は、王家へ援軍として派遣され、最前線の偵察を命じられた。
 てっきり俺は、アッバース首長家とイブラヒム王家の領界警備を命じられると思ったいた。
 だがアリー・スライマーン・アル=アッバースは、領地と王家直轄領の境界は、信頼出来る譜代の兵士達に任せることにしたようだ。
 その一方で、大貴族として果たすべき参戦義務は、金で搔き集めた傭兵や冒険者、中には兵食目当てに集まった乞食まで兵士に仕立てて、最前線に送り込んだ。
 最前線は、アリステラ王国とは反対側にあるイマーン王国領との国境線だ。
 イマーン王国はネッツェ王国よりさらに北にあり、しかも領地の大半が山岳地帯の為、食糧生産力がとても低い。
 この国が冷害に襲われたのだから、食糧に余裕があるネッツェ王国に攻めこもうとするのは必然だっただろう。
 だがそんなイマーン王国に入り込んで、食糧を現地調達しろと命じるとは、ネッツェ王国の将軍は馬鹿としか言えない。
 そんな命令をするから、アッバース首長家をはじめとする、国内貴族の忠誠心を失うのだ。
 さて、そろそろ頃合だろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

アガダ 齋藤さんのこと

高橋松園
ファンタジー
ユーラシア大陸を拠点に活動する闇の組織がいた。その闇の組織は、ユーラシア地下都市構想の為に膨大なエネルギーを必要とし新潟佐渡沖で採掘している二千二十三年商品化予定の原油を横流しする計画を水面下で進行していが、海の民と名乗る者たちによって妨害されていた。闇の組織は海の民の指導者の殺害と同時に日本側の動向を探る為、日本にスパイを送り込んだ。そんな時、新潟で不可思議な事件が相次いで起こりその容疑者として一人の人物が浮上した。この物語は不運な事件に巻き込まれ世界中から追いかけられることになるホームセンター齋藤さんの話である。 この小説は2021年に書かれ、2022年3月に某小説コンテストに応募した作品です。全てフィクションであり、小説内で使用されている氏名や地名で起こる出来事等は事実ではありません。現代ファンタジー作品としてお読み下さい。 宜しくお願い致します。

処理中です...