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第一章

第3話:香りパン

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「先日頂いたパンの香りがとてもよく美味しかった。
 同じパンを頂きたいのだが、あるだろうか?」

 品のよい壮年の男性がマナーよく話しかけてくださる。
 身分の高い人は居丈高な人が多いのですが、この方は違います。
 私の店は高級パン屋ではないのですが、美味しいと評判になってしまった事で、場所柄にそぐわない方が来られれるようになってしまいました。
 偉そうにされると腹が立ってしまうのですが、喧嘩を売る度胸はありません。
 でも、金虎ちゃんが追い出してくれるので、困った事はありません。

「はい、確かこの前は葡萄のパンを買って帰られましたね。
 葡萄のパンはこちらでございます」

「ほう、ここからでもいい香りがするが、ブドウだけではないな。
 色んな果物の香りがしているようだが、他にも果物のパンがあるのか?」

 壮年の紳士は興味津々といった感じで質問されます。
 パンが好きなのか、それとも新しい発見が好きなのか?
 私も色んなものに興味を持つ性格だったので、壮年紳士の気持ちは分かります。

「はい、この季節に手に入る果物を使ってパンを焼いています。
 旬の果物は梨とイチジクですが、もう直ぐ旬が終わるメロンとスモモと桃は、好きな方は今のうちに食べておくべきだと思います。
 早熟の少し酸味の強い果物がお好きなら、林檎も美味しいと思います」

「ほう、それは是非食べてみたいな。
 家は人数が多いから、皆で分ければ少しずつ色んな物を食べることができる。
 全部一つずつもらおうか」

 流石にお金持ちですね、値段の事を全く気にされません。
 まあ、元々貧しい民に美味しいパンをお腹一杯食べてもらいたくて開いた店です。
 高級なパンを扱っている店に比べたら安い物です。
 この紳士なら気にするような値段ではないのでしょう。

「ありがとうございます、籠があればお入れいたしますが?」

「ああ、すまない、籠はもってこなかった、籠も一緒に売ってくれるかな?」

 前回も同じでしたね、籠を持たずに来て、籠まで一緒に買っていかれます。
 もったいないから、買った籠を捨ててなければいいのですが、まあ、たぶん、この紳士なら使用人に渡しているでしょう。
 屋敷の買い物用に使うか、使用人に下げ渡すか、少なくともこの方なら捨てて無駄にするような事はないでしょう。

「分かりました、数はどういたしましょうか?
 小さいく切って差し上げる事もできますか?」

「いや、そのような気遣いは無用だ。
 先ほども言ったように大家族だから、一番大きな籠一杯入れてくれ」

「はい、承りました」

 まあ、この方なら大丈夫でしょう。
 少し食べて満足して、大部分を捨てるようなマナーの悪い事はされないでしょう。
 家族で分けて食べられるか、使用人に下げ渡されるでしょう。
 あ、いえ、この国の貴族のマナーは、食べたいだけ食べて吐くのが正解でしたね。
 本当にもったいない事をする国です、いずれ天罰が下りますよ。
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