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第三章:天下統一
第129話:閑話・国司国主
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天文十八年(1550)12月12日:筑後甘木城:長尾晴景視点
毛利一族を滅ぼした後、野伏狩りの諜報衆に安芸を任せて長門に侵攻した。
同士討ちや功名争いを防ぐために、朝倉宗滴殿と刻を合わせて侵攻した。
侵攻すると言っているが、実際には降伏臣従を受けるだけだった。
長門は守護代の内藤興盛がしっかりと治めていた。
陶隆房との争いはあったが、終始有利に戦を運んでいた。
内藤興盛は公方よりも帝や朝廷に重きを置いていた。
近衛尚通に源氏物語の外題を請うほどの文化人だった内藤興盛は、殿が太政大臣となったので、素直に従う気持ちになったのだろう。
内藤興盛は温厚で人望が高く、配下の国人地侍も内藤興盛を倣って降伏臣従した。
良く起こる国人地侍同士の、火事場泥棒のような争いが起きなかったのも、内藤興盛の信望と実力によるものだろう。
長門の事も野伏狩りの諜報衆に任せて、朝倉宗滴殿と豊前に渡海した。
豊前は守護代の杉重矩が治めていたが、それは大内家から見ただけの話だ。
大友家も田原家を置いて豊前を支配しようとしていた。
だが豊前には、彦山権現や宇佐八幡といった寺社勢力がある。
宇都宮一族の城井氏や麻生氏などが根を張っている。
門司氏、貫氏、香月氏、豊前長野氏、豊前佐々木氏、時枝氏などの中小国人も生き残りを賭けて、大内や大友の間で集合離散していた。
油断のならない連中だが、諜報衆が長年かけて広めて来た噂は凄かった。
自分達が食べて行けるだけの武家地しか持たない地侍が、先を争って私や朝倉宗滴殿に降伏臣従する。
三年五作の農法を知りたくて、少しでも豊かになりたくて、不作や凶作の時に娘を売らなければならない領主の下に居たくなくて、降伏臣従してきた。
表の諜報衆が長年かけて広めて来た噂、奴隷として買い取った者が殿の下では侍大将や足軽大将に立身出世できる現実を見て、進んで降伏臣従してきた。
私の下で侍大将や足軽大将を務める者の所に、豊前の地侍や百姓が訪ねて来るが、その侍大将や足軽大将は全員豊前出身の元奴隷だった。
家臣や配下の地侍に裏切られた、豊前の中小国人は抵抗を諦めて降伏臣従した。
私は豊後の山間部を通過して筑後に侵攻した。
朝倉宗滴殿は私とは違う街道や水軍を利用して筑前に侵攻した。
普通なら、私は海沿いの街道を使って筑前ではなく豊後に侵攻する。
私が豊後に侵攻しないのは、別働部隊が豊後に揚陸するからだ。
土佐一条家を滅ぼした真田源太左衛門が、水軍を利用して佐伯に揚陸する。
伊予河野家を降伏させた直江大和守も、水軍を利用して臼杵に揚陸する。
その後で南に向かうか北に向かうかは大友家の内乱しだいだ。
豊後の事は、二将が硬軟使い分けて支配してくれるだろう。
筑前国の事は朝倉宗滴殿が上手くやってくれると信じている。
私は筑前を通過して筑後に入り、筑後十五城と呼ばれる、下蒲池、上蒲池、問註所、星野、黒木、河崎、草野、丹波、高橋、三原、西牟田、田尻、五条、溝口、三池を下す事に専念した。
多くは五千貫前後の弱小国人だが、下蒲池は六万貫の領地を持ち、長門や周防の守護に匹敵する家臣を抱えている。
上蒲池は四万貫、西牟田二万貫、淡路や伊豆の守護に匹敵する家臣を抱えている。
とはいえ、殿を相手にする敵は、忠誠心の低い家臣をどれほど沢山召し抱えていても、全く何の意味もない。
殿の軍と対峙したとたん、最も末端の地侍や百姓がほぼ全員寝返ってしまう。
筑後十五城も全く戦う事なく降伏臣従した。
筑後の国人地侍を配下に加えて、そのまま肥後に侵攻すべく、国境にある古城や小城を大修築して、大軍が安心して休める場所を築いた。
天文十八年(1550)12月12日: 肥前日野江城:朝倉宗滴視点
筑前の大内方守護代は杉興運殿だ。
主君である大内義隆殿に対する忠誠心が厚く、大内義隆殿が陶晴賢に弑逆された時には、殉死しようとしたそうだ。
だが、殿が大内亀童丸を助けたと聞き、殉死せずに筑前を死守しようとした。
大友も内部で争い筑前に手出しできる状態ではなかったが、少弐、大内、大友の間を渡り歩いて徐々に勢力を拡大した、秋月文種と厳しい戦いを繰り返していた。
少弐冬尚もしぶとく力を維持していたし、少弐冬尚の長弟千葉胤頼が東千葉家を継ぎ、生き残りを賭けて兄弟力を合わせていた。
殿以外の者が筑前に侵攻していたら、秋月は臣従すると見せかけて勢力を残していただろうが、地侍や百姓兵の心を掴んでいる殿の下では何もできない。
徐々に増やした城地を殆ど失って、五百貫の弱小国人に成り下がった。
筑前は野伏狩りの諜報衆に任せ、筑前の国人地侍を配下に加えて肥前に侵攻した。
肥前に侵攻したと言っても、特に何かした訳ではない。
諜報衆が公方様を弑いるのに八面六臂の活躍をした後だ。
私がした事は、噂に踊って殺し合った愚か者共に鉄槌を下す事だけだった。
噂に踊らされて殺し合った者達は、主だった者が全滅していた。
残った者達に殿のやり方を伝え、間違いを起こさないように厳しく注意した。
次の侵攻命令が来ないので、滅んだ有馬家の居城、日野江城で肥前の内政に力を入れていた所に、殿の使者がやってきた。
「殿からの正式な命を伝える」
「はっ」
「これまでの朝倉宗滴殿の働きは誰にも真似できない格別のものであった。
その働きを賞して筑後国司に任じ領国とする事を認める。
筑後国に領地を持つ国人地侍は朝倉宗滴殿の家臣とする。
ただ、殿の直臣となりたい者には別に領地を与える。
五年の間に朝倉宗滴殿の家臣になる者、殿の家臣になりたい者を報告せよ。
朝倉宗滴殿の跡は必ず朝倉宗太郎に継がせ、筑後国を与える」
正式な使者殿が力強く言ってくれる。
殿が署名して血判を押した善光寺の誓詞を渡してくれる。
長尾家の当主としてだけでなく、関白太政大臣としての署名もある。
「はっ、有難き幸せでございます!」
毛利一族を滅ぼした後、野伏狩りの諜報衆に安芸を任せて長門に侵攻した。
同士討ちや功名争いを防ぐために、朝倉宗滴殿と刻を合わせて侵攻した。
侵攻すると言っているが、実際には降伏臣従を受けるだけだった。
長門は守護代の内藤興盛がしっかりと治めていた。
陶隆房との争いはあったが、終始有利に戦を運んでいた。
内藤興盛は公方よりも帝や朝廷に重きを置いていた。
近衛尚通に源氏物語の外題を請うほどの文化人だった内藤興盛は、殿が太政大臣となったので、素直に従う気持ちになったのだろう。
内藤興盛は温厚で人望が高く、配下の国人地侍も内藤興盛を倣って降伏臣従した。
良く起こる国人地侍同士の、火事場泥棒のような争いが起きなかったのも、内藤興盛の信望と実力によるものだろう。
長門の事も野伏狩りの諜報衆に任せて、朝倉宗滴殿と豊前に渡海した。
豊前は守護代の杉重矩が治めていたが、それは大内家から見ただけの話だ。
大友家も田原家を置いて豊前を支配しようとしていた。
だが豊前には、彦山権現や宇佐八幡といった寺社勢力がある。
宇都宮一族の城井氏や麻生氏などが根を張っている。
門司氏、貫氏、香月氏、豊前長野氏、豊前佐々木氏、時枝氏などの中小国人も生き残りを賭けて、大内や大友の間で集合離散していた。
油断のならない連中だが、諜報衆が長年かけて広めて来た噂は凄かった。
自分達が食べて行けるだけの武家地しか持たない地侍が、先を争って私や朝倉宗滴殿に降伏臣従する。
三年五作の農法を知りたくて、少しでも豊かになりたくて、不作や凶作の時に娘を売らなければならない領主の下に居たくなくて、降伏臣従してきた。
表の諜報衆が長年かけて広めて来た噂、奴隷として買い取った者が殿の下では侍大将や足軽大将に立身出世できる現実を見て、進んで降伏臣従してきた。
私の下で侍大将や足軽大将を務める者の所に、豊前の地侍や百姓が訪ねて来るが、その侍大将や足軽大将は全員豊前出身の元奴隷だった。
家臣や配下の地侍に裏切られた、豊前の中小国人は抵抗を諦めて降伏臣従した。
私は豊後の山間部を通過して筑後に侵攻した。
朝倉宗滴殿は私とは違う街道や水軍を利用して筑前に侵攻した。
普通なら、私は海沿いの街道を使って筑前ではなく豊後に侵攻する。
私が豊後に侵攻しないのは、別働部隊が豊後に揚陸するからだ。
土佐一条家を滅ぼした真田源太左衛門が、水軍を利用して佐伯に揚陸する。
伊予河野家を降伏させた直江大和守も、水軍を利用して臼杵に揚陸する。
その後で南に向かうか北に向かうかは大友家の内乱しだいだ。
豊後の事は、二将が硬軟使い分けて支配してくれるだろう。
筑前国の事は朝倉宗滴殿が上手くやってくれると信じている。
私は筑前を通過して筑後に入り、筑後十五城と呼ばれる、下蒲池、上蒲池、問註所、星野、黒木、河崎、草野、丹波、高橋、三原、西牟田、田尻、五条、溝口、三池を下す事に専念した。
多くは五千貫前後の弱小国人だが、下蒲池は六万貫の領地を持ち、長門や周防の守護に匹敵する家臣を抱えている。
上蒲池は四万貫、西牟田二万貫、淡路や伊豆の守護に匹敵する家臣を抱えている。
とはいえ、殿を相手にする敵は、忠誠心の低い家臣をどれほど沢山召し抱えていても、全く何の意味もない。
殿の軍と対峙したとたん、最も末端の地侍や百姓がほぼ全員寝返ってしまう。
筑後十五城も全く戦う事なく降伏臣従した。
筑後の国人地侍を配下に加えて、そのまま肥後に侵攻すべく、国境にある古城や小城を大修築して、大軍が安心して休める場所を築いた。
天文十八年(1550)12月12日: 肥前日野江城:朝倉宗滴視点
筑前の大内方守護代は杉興運殿だ。
主君である大内義隆殿に対する忠誠心が厚く、大内義隆殿が陶晴賢に弑逆された時には、殉死しようとしたそうだ。
だが、殿が大内亀童丸を助けたと聞き、殉死せずに筑前を死守しようとした。
大友も内部で争い筑前に手出しできる状態ではなかったが、少弐、大内、大友の間を渡り歩いて徐々に勢力を拡大した、秋月文種と厳しい戦いを繰り返していた。
少弐冬尚もしぶとく力を維持していたし、少弐冬尚の長弟千葉胤頼が東千葉家を継ぎ、生き残りを賭けて兄弟力を合わせていた。
殿以外の者が筑前に侵攻していたら、秋月は臣従すると見せかけて勢力を残していただろうが、地侍や百姓兵の心を掴んでいる殿の下では何もできない。
徐々に増やした城地を殆ど失って、五百貫の弱小国人に成り下がった。
筑前は野伏狩りの諜報衆に任せ、筑前の国人地侍を配下に加えて肥前に侵攻した。
肥前に侵攻したと言っても、特に何かした訳ではない。
諜報衆が公方様を弑いるのに八面六臂の活躍をした後だ。
私がした事は、噂に踊って殺し合った愚か者共に鉄槌を下す事だけだった。
噂に踊らされて殺し合った者達は、主だった者が全滅していた。
残った者達に殿のやり方を伝え、間違いを起こさないように厳しく注意した。
次の侵攻命令が来ないので、滅んだ有馬家の居城、日野江城で肥前の内政に力を入れていた所に、殿の使者がやってきた。
「殿からの正式な命を伝える」
「はっ」
「これまでの朝倉宗滴殿の働きは誰にも真似できない格別のものであった。
その働きを賞して筑後国司に任じ領国とする事を認める。
筑後国に領地を持つ国人地侍は朝倉宗滴殿の家臣とする。
ただ、殿の直臣となりたい者には別に領地を与える。
五年の間に朝倉宗滴殿の家臣になる者、殿の家臣になりたい者を報告せよ。
朝倉宗滴殿の跡は必ず朝倉宗太郎に継がせ、筑後国を与える」
正式な使者殿が力強く言ってくれる。
殿が署名して血判を押した善光寺の誓詞を渡してくれる。
長尾家の当主としてだけでなく、関白太政大臣としての署名もある。
「はっ、有難き幸せでございます!」
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