128 / 138
第三章:天下統一
第121話:連鎖反応1
しおりを挟む
天文十八年(1550)2月20日:越中富山城本丸御殿:俺視点
俺が迂闊だったのだが、思ってもいなかった事が起きた。
まだ淡路や四国には手を出さない心算だったのだが、諜報衆が接触していた淡路の船越五郎右衛門が、親兄弟を残して長尾水軍に逃げて来た。
安房や伊豆を攻めた時に、水兵や漁師を積極的に誘って領地から逃げて来させた。
船を奪って逃げて来た者には、それなりの褒美を与えて水軍に迎えていた。
今更逃げて来た水兵や漁師を受け入れない訳にはいかない。
水軍衆として仕官するなら、関船以上の大型船は長尾家で買い取る。
大前提として、水軍衆が個人的に戦船を持つ事は禁じている。
だが、武士を捨てて商人になるという者の船まで奪う事はできない。
船越五郎右衛門は、俺よりも才覚があって期待できる。
手元に残った関船と小早船は商船にして、船頭を雇って交易させた。
自分は経験を積むために水軍に志願して、蝦夷から南方の交易に従事する。
順番が逆だったら、船は強制的に長尾水軍が買い取る事になっていた。
難癖をつけて強制的に買い取る事もできたが、そんな悪質な事はしない。
戦乱が収束すると、国人地侍は武力で土地を切り取る事ができなくなる。
日本が豊かになれば、江戸幕府の武士のように貧困に苦しむ事になる。
物価が年々上がるのに、領地、収入が増えないのだから当然だ。
水軍衆に成れば歩合が手に入るが、全ての人間が水兵に成れるわけではない。
だが、国人や地侍でも船を手に入れて優秀な船頭を雇う事はできる。
独力では無理でも、足軽組等で船を仕立てて交易をする事はできる。
何なら長尾家が海運会社を創って出資できるようにしてやればいい。
逃げて来た船越五郎右衛門と戦船はそれで良いのだが、問題は残った一族だ。
船越五郎右衛門の逃亡を裏切りと考えた安宅冬康は、淡路の国人地侍を率いて庄田城を囲み、船越家を根切りにしようとした。
「安宅冬康が庄田城を攻めるのならしかたがない、全力で助けよ。
諜報衆が接触していた者を見捨てたら、俺の評判が落ちる。
水軍衆を総動員して全力で助けよ!」
船越五郎右衛門が海賊衆を率いて降伏してきたと言う報告を受けた時から、安宅冬康が報復攻撃する可能性がある事は分かっていた。
安宅冬康からすれば、ここで船越五郎右衛門の裏切りを見逃したら、淡路十人衆の大半が、海賊衆を率いて長尾水軍に降伏する危険があった。
他の九家が裏切らないように、厳しい処置をするしかない。
だが俺にも、長尾家の棟梁として維持しなければいけない面目がある。
諜報衆が誘っていた者を見捨てたら、もう誰も俺を信じて降伏しなくなる。
だから、安宅冬康が動いたら即座に全力で助けろと命じてあった。
毎日のように、俺の支配下にある全ての湊のどこかで、新造の大型関船が完成し、水兵志願者の訓練が行われている。
その新造艦の全てが、初期訓練が終わると戦に加わっている。
初期訓練、最初は領内の隣湊に行く程度から始まり、蝦夷と奥羽、房総沖の通過など、近距離間の交易に従事するようになる。
まだ敵地である西国、中国地方や九州に行く前に、敵との境界線にある海域で実戦訓練が行うようになっていた。
蝦夷から奥羽北陸、畿内から唐、唐から南方にまで交易に行けるのは、熟練の船頭と水兵が乗る指揮船に率いられた船団に限っていた。
大型関船がもの凄く増えたので、全て交易に使わなくても必要な物が全て手に入り、十分な利が得られるようになっていた。
だから、石山本願寺の海上封鎖の後半には、二千隻を越える大型関船が、実戦訓練を兼ねて淡路島の周りに集結していた。
その全船が、船越家の援軍に投入された。
海を覆い尽くす圧倒的な水軍による援助に、淡路勢は総崩れとなった。
安宅冬康がどれほど声嗄らして命じても、誰もその場に踏みとどまらなかった。
全ての国人地侍が自分の城に戻って籠城した。
籠城したのは俺に備えてではない、安宅冬康に対してだ。
一族に船を率いさせて降伏すれば、援軍を出してもらえると分かったからだ。
安宅八家衆の一人、湊里城の安宅秀益が海賊衆を率いて長尾水軍に降伏した。
父親の安宅治興が三好長慶に負け、安宅冬康を養子に押し付けられている。
安宅治興の実子である安宅秀益が、洲本城を獲られて湊里城に分家させられているのだから、好機が訪れたら安宅冬康に背くのは当然の事だった。
安宅秀益の謀叛と同時に、猪鼻城の安宅冬俊と白巣城の安宅冬秀も謀叛の兵を挙げ、籠城して俺の援軍を待った。
淡路国十人衆は、先に船を海賊衆に率いさせて長尾水軍に降伏臣従した。
船越五郎右衛門が何らかの方法で一番利がある降伏方法を教えたのかもしれない。
或いは、庄田城に残った父親が全てを差配していたのかもしれない。
鍛冶屋城の賀集安親と賀集盛政の親子が降伏臣従した。
阿那賀城の武田久忠も降伏臣従した。
郡家城の田村経春と田村村春の親子は、安宅冬康に忠誠を尽くそうとしたが、配下の海賊衆に裏切られて捕虜にされた。
蟇浦城の蟇浦常利が降伏臣従した。
沼島城の梶原景節と梶原秀景の親子も俺に降伏臣従した。
山添城の加藤主殿助も降伏臣従した。
志知城の菅遠江守と栗原城の島田兵庫介が降伏臣従した。
柳沢城の柳沢直孝と柳沢直勝の親子も降伏臣従した。
淡路十人衆ではないが、岩屋城の野崎内蔵介と畔田城の畔田胤光、広石城の片山頼忠と阿万城の郷従朝、広田城の広田藤吾と中島城の三木善兵衛も降伏臣従した。
福良一族では、鶴島城の福良連経と岡之城の福良寛治が降伏臣従した。
これだけの城主に背かれたら、知勇兼備の猛将、安宅冬康でもどうしようもない。
安宅冬康は自害する事もできずに生け捕りにされた。
俺が迂闊だったのだが、思ってもいなかった事が起きた。
まだ淡路や四国には手を出さない心算だったのだが、諜報衆が接触していた淡路の船越五郎右衛門が、親兄弟を残して長尾水軍に逃げて来た。
安房や伊豆を攻めた時に、水兵や漁師を積極的に誘って領地から逃げて来させた。
船を奪って逃げて来た者には、それなりの褒美を与えて水軍に迎えていた。
今更逃げて来た水兵や漁師を受け入れない訳にはいかない。
水軍衆として仕官するなら、関船以上の大型船は長尾家で買い取る。
大前提として、水軍衆が個人的に戦船を持つ事は禁じている。
だが、武士を捨てて商人になるという者の船まで奪う事はできない。
船越五郎右衛門は、俺よりも才覚があって期待できる。
手元に残った関船と小早船は商船にして、船頭を雇って交易させた。
自分は経験を積むために水軍に志願して、蝦夷から南方の交易に従事する。
順番が逆だったら、船は強制的に長尾水軍が買い取る事になっていた。
難癖をつけて強制的に買い取る事もできたが、そんな悪質な事はしない。
戦乱が収束すると、国人地侍は武力で土地を切り取る事ができなくなる。
日本が豊かになれば、江戸幕府の武士のように貧困に苦しむ事になる。
物価が年々上がるのに、領地、収入が増えないのだから当然だ。
水軍衆に成れば歩合が手に入るが、全ての人間が水兵に成れるわけではない。
だが、国人や地侍でも船を手に入れて優秀な船頭を雇う事はできる。
独力では無理でも、足軽組等で船を仕立てて交易をする事はできる。
何なら長尾家が海運会社を創って出資できるようにしてやればいい。
逃げて来た船越五郎右衛門と戦船はそれで良いのだが、問題は残った一族だ。
船越五郎右衛門の逃亡を裏切りと考えた安宅冬康は、淡路の国人地侍を率いて庄田城を囲み、船越家を根切りにしようとした。
「安宅冬康が庄田城を攻めるのならしかたがない、全力で助けよ。
諜報衆が接触していた者を見捨てたら、俺の評判が落ちる。
水軍衆を総動員して全力で助けよ!」
船越五郎右衛門が海賊衆を率いて降伏してきたと言う報告を受けた時から、安宅冬康が報復攻撃する可能性がある事は分かっていた。
安宅冬康からすれば、ここで船越五郎右衛門の裏切りを見逃したら、淡路十人衆の大半が、海賊衆を率いて長尾水軍に降伏する危険があった。
他の九家が裏切らないように、厳しい処置をするしかない。
だが俺にも、長尾家の棟梁として維持しなければいけない面目がある。
諜報衆が誘っていた者を見捨てたら、もう誰も俺を信じて降伏しなくなる。
だから、安宅冬康が動いたら即座に全力で助けろと命じてあった。
毎日のように、俺の支配下にある全ての湊のどこかで、新造の大型関船が完成し、水兵志願者の訓練が行われている。
その新造艦の全てが、初期訓練が終わると戦に加わっている。
初期訓練、最初は領内の隣湊に行く程度から始まり、蝦夷と奥羽、房総沖の通過など、近距離間の交易に従事するようになる。
まだ敵地である西国、中国地方や九州に行く前に、敵との境界線にある海域で実戦訓練が行うようになっていた。
蝦夷から奥羽北陸、畿内から唐、唐から南方にまで交易に行けるのは、熟練の船頭と水兵が乗る指揮船に率いられた船団に限っていた。
大型関船がもの凄く増えたので、全て交易に使わなくても必要な物が全て手に入り、十分な利が得られるようになっていた。
だから、石山本願寺の海上封鎖の後半には、二千隻を越える大型関船が、実戦訓練を兼ねて淡路島の周りに集結していた。
その全船が、船越家の援軍に投入された。
海を覆い尽くす圧倒的な水軍による援助に、淡路勢は総崩れとなった。
安宅冬康がどれほど声嗄らして命じても、誰もその場に踏みとどまらなかった。
全ての国人地侍が自分の城に戻って籠城した。
籠城したのは俺に備えてではない、安宅冬康に対してだ。
一族に船を率いさせて降伏すれば、援軍を出してもらえると分かったからだ。
安宅八家衆の一人、湊里城の安宅秀益が海賊衆を率いて長尾水軍に降伏した。
父親の安宅治興が三好長慶に負け、安宅冬康を養子に押し付けられている。
安宅治興の実子である安宅秀益が、洲本城を獲られて湊里城に分家させられているのだから、好機が訪れたら安宅冬康に背くのは当然の事だった。
安宅秀益の謀叛と同時に、猪鼻城の安宅冬俊と白巣城の安宅冬秀も謀叛の兵を挙げ、籠城して俺の援軍を待った。
淡路国十人衆は、先に船を海賊衆に率いさせて長尾水軍に降伏臣従した。
船越五郎右衛門が何らかの方法で一番利がある降伏方法を教えたのかもしれない。
或いは、庄田城に残った父親が全てを差配していたのかもしれない。
鍛冶屋城の賀集安親と賀集盛政の親子が降伏臣従した。
阿那賀城の武田久忠も降伏臣従した。
郡家城の田村経春と田村村春の親子は、安宅冬康に忠誠を尽くそうとしたが、配下の海賊衆に裏切られて捕虜にされた。
蟇浦城の蟇浦常利が降伏臣従した。
沼島城の梶原景節と梶原秀景の親子も俺に降伏臣従した。
山添城の加藤主殿助も降伏臣従した。
志知城の菅遠江守と栗原城の島田兵庫介が降伏臣従した。
柳沢城の柳沢直孝と柳沢直勝の親子も降伏臣従した。
淡路十人衆ではないが、岩屋城の野崎内蔵介と畔田城の畔田胤光、広石城の片山頼忠と阿万城の郷従朝、広田城の広田藤吾と中島城の三木善兵衛も降伏臣従した。
福良一族では、鶴島城の福良連経と岡之城の福良寛治が降伏臣従した。
これだけの城主に背かれたら、知勇兼備の猛将、安宅冬康でもどうしようもない。
安宅冬康は自害する事もできずに生け捕りにされた。
20
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説


荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
武田義信に転生したので、父親の武田信玄に殺されないように、努力してみた。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
アルファポリス第2回歴史時代小説大賞・読者賞受賞作
原因不明だが、武田義信に生まれ変わってしまった。血も涙もない父親、武田信玄に殺されるなんて真平御免、深く静かに天下統一を目指します。

どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる