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第三章:天下統一
第115話:閑話・驚愕
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天文十七年(1549)9月29日:但馬大杉城:武田晴信視点
南蛮が攻め込んで来るから、どのような方法で防ぐか考えろだと?!
元寇の時は唐一国だけだったが、南蛮には唐以上の大国が五カ国もあり、時に同盟し、時に敵対しながら日乃本に攻め込んでくるだと?!
「典厩、これは本当の事だと思うか?」
「兄上、長尾の殿様が偽りを申された事は一度もありません。
これも真実に違いないと思われます。
嘘偽りのために、南蛮に勝つためなら皇室も朝廷も滅ぼす覚悟だなどと、我らにまで問いかけるはずがございません」
「そうだな、実際にやらなかったとしても、そのような手段も考えていたというだけでも、後世に道鏡のような悪名を残す事になる。
悪名を残してでも南蛮に備えなければ、日乃本が滅ぶという事か?」
「恐らくは……大量の鉄砲を持っているそうです」
「それは余も聞いている、信じられないくらい大きな鉄砲を船に積んでいるとも聞いいているが……」
「伝令の話では、先陣を切って日乃本に来ている南蛮人は、我らを誑かすための僧や商人との事ですが……」
「正直信じられないな、一抱えも二抱えもあるような大きな鉄砲を、六十も七十も積んだ大船が、百も二百も船団を組んで攻め寄せてくるだと?!」
「ですが、長尾の殿が後世に悪名を残す覚悟で問われているのです。
嘘偽りではなく、真実なのでしょう。
その上で、秦や漢のような新帝国を築いて迎え討つか、越中に幕府を興して戦うか、朝廷の中に入って守るべきか、我らにも考えよとの事です。
日乃本を守るために考えなければ、武田家の名折れですぞ!」
「そうだな、我ら武田は直接元とは戦っていない。
だが、九州で負けた時に備えて、安芸や讃岐に一族が向い土着している。
今度こそ武田の武勇を天下に知らしめなければならぬ」
「はい、南蛮人であろうと武田の武勇で討ち取るのみです。
……兄上はどう思われますか?
長尾家が新帝国を立てたら武家として仕えられますか?
皇室や朝廷を滅ぼせますか?
長尾家が新たな幕府を開いたら、武家として仕えられますか?」
「武家は勝つ事が全てだ、勝てないような戦なら、最初からしない方が良い。
敵になるというのなら、皇室であろうと朝廷であろうと滅ぼすのみ。
ただ、絶対に滅ぼさなければならない訳ではあるまい。
殿に従い仕えるというのなら、残してもよかろう。
鎌倉殿や尊氏公も、皇室と朝廷を残している」
「左様でございますな、武家ならば鎌倉殿や尊氏公のように、武家のための幕府を開けばよい事でございますな。
兄上は長尾の殿に幕府を開くべきと申されるのですね?」
「……余には南蛮の事が全く分からぬ。
分からなければ、また誤った決断をしてしまうかもしれぬ。
まずは富山に行って話を聞く、聞いてからでなければ決められぬ」
「ここの事は某にお任せください。
因幡や播磨に攻め込めとの命が届きましたら、誰よりも早く攻め込み、武田菱を立てて御覧に入れます」
「うむ、頼んだぞ」
天文十七年(1549)9月30日:出羽角館城:北条氏康視点
「殿様、お止めください、富山に行くのは危険でございます!」
「黙れ、これほどの好機は二度とない、命を賭けるべき時じゃ」
「ですがあまりにも無謀でございます!
越中守は冷血非情、富山に行けば必ず殺されます!
殿を殺す好機を見逃すとは思えません!」
「異母弟を殺されたお前が、越中守を毛嫌いする気持ちは分かる。
だが、あれは治部大輔の方が悪い、あれは幾ら何でもやり過ぎだ」
「ですが殿様、越中守は女子供関係なく、今川一族を根切りにしました」
「奥よ、認めたくないだろうが、先にやろうとしたのは治部大輔の方だ。
先に元服も迎えていない幼子を謀殺しようとした、報復は当然だ。
報復しなければ、他の者も同じように幼子を狙う」
「……ですが、ですが……」
「それに、本当に根切りにするなら、お前も子供達も殺されていた。
詰問使は来たが、余が奥はもう今川とは縁が切れた北条の者だと言ったら、奥の事も子供達の事も北条家の者として見逃してくれた」
「……はい……」
「余も越中守を殺そうと何十もの刺客を放った。
幼い頃から言動を見続けていた。
だから言えるのだが、越中守は情に厚く民を慈しむ名君だ。
余をここに押し込めているのも、天下を乱さずに治める為だ」
「……殿は、殿は越中守に褒め殺しにされてしまわれました」
「そうか、そうだな、そうかもしれないが、この文を読んで気が変わった。
このまま雪深い出羽で埋もれ死にする気は無くなった!
今ならば、世に出られるのだ!」
「まさか、皇室や朝廷を滅ぼすのと引き換えに、世に出る御心算ですか?!」
「奥よ、情けない事を申すな、余はそんなに愚かではないぞ。
後世に悪名を残して子孫に肩身の狭い思いをさせたりはせぬ」
「申し訳ございません」
「越中守殿、いや、殿様の文には、南蛮は唐に匹敵する天竺を属国にしていると書いてある。
天竺の勇猛果敢な武士を召し抱え、シャムやアユタヤまで属国にしようとしているとある」
「はい、それは読ませていただきました」
「新たな帝国を築いて迎え討つと書いてあるのが大きな所よ」
「意味が分かりませんが?」
「これは余に対する謎かけよ。
いや、余だけではない、領地を制限されている国人地侍への謎かけよ。
この日乃本を出て戦う気があるのか問うておるのだ!」
「日乃本を出るのですか?!」
「余が言われたのは、才があるから武功を挙げさせない、だ。
日乃本を戦国乱世にしないために、余を飼い殺しにすると申された。
同時に、子供達には、五百の関船を率い、北は蝦夷から南はシャムやアユタヤまで、大海原に乗り出し交易や海賊を行う船大将になる機会は与えると申された」
「よく分かりません」
「南蛮を迎え討つのなら、日乃本の外での戦となる。
戦船に乗って、遠く南蛮まで戦いに行く覚悟があるのかを問うておられるのだ。
もしかしたら、余にも武功を挙げる機会が与えられるかもしれぬのだ!
日乃本の外になら、新たな帝国でなら、大領を得られるかもしれん!」
南蛮が攻め込んで来るから、どのような方法で防ぐか考えろだと?!
元寇の時は唐一国だけだったが、南蛮には唐以上の大国が五カ国もあり、時に同盟し、時に敵対しながら日乃本に攻め込んでくるだと?!
「典厩、これは本当の事だと思うか?」
「兄上、長尾の殿様が偽りを申された事は一度もありません。
これも真実に違いないと思われます。
嘘偽りのために、南蛮に勝つためなら皇室も朝廷も滅ぼす覚悟だなどと、我らにまで問いかけるはずがございません」
「そうだな、実際にやらなかったとしても、そのような手段も考えていたというだけでも、後世に道鏡のような悪名を残す事になる。
悪名を残してでも南蛮に備えなければ、日乃本が滅ぶという事か?」
「恐らくは……大量の鉄砲を持っているそうです」
「それは余も聞いている、信じられないくらい大きな鉄砲を船に積んでいるとも聞いいているが……」
「伝令の話では、先陣を切って日乃本に来ている南蛮人は、我らを誑かすための僧や商人との事ですが……」
「正直信じられないな、一抱えも二抱えもあるような大きな鉄砲を、六十も七十も積んだ大船が、百も二百も船団を組んで攻め寄せてくるだと?!」
「ですが、長尾の殿が後世に悪名を残す覚悟で問われているのです。
嘘偽りではなく、真実なのでしょう。
その上で、秦や漢のような新帝国を築いて迎え討つか、越中に幕府を興して戦うか、朝廷の中に入って守るべきか、我らにも考えよとの事です。
日乃本を守るために考えなければ、武田家の名折れですぞ!」
「そうだな、我ら武田は直接元とは戦っていない。
だが、九州で負けた時に備えて、安芸や讃岐に一族が向い土着している。
今度こそ武田の武勇を天下に知らしめなければならぬ」
「はい、南蛮人であろうと武田の武勇で討ち取るのみです。
……兄上はどう思われますか?
長尾家が新帝国を立てたら武家として仕えられますか?
皇室や朝廷を滅ぼせますか?
長尾家が新たな幕府を開いたら、武家として仕えられますか?」
「武家は勝つ事が全てだ、勝てないような戦なら、最初からしない方が良い。
敵になるというのなら、皇室であろうと朝廷であろうと滅ぼすのみ。
ただ、絶対に滅ぼさなければならない訳ではあるまい。
殿に従い仕えるというのなら、残してもよかろう。
鎌倉殿や尊氏公も、皇室と朝廷を残している」
「左様でございますな、武家ならば鎌倉殿や尊氏公のように、武家のための幕府を開けばよい事でございますな。
兄上は長尾の殿に幕府を開くべきと申されるのですね?」
「……余には南蛮の事が全く分からぬ。
分からなければ、また誤った決断をしてしまうかもしれぬ。
まずは富山に行って話を聞く、聞いてからでなければ決められぬ」
「ここの事は某にお任せください。
因幡や播磨に攻め込めとの命が届きましたら、誰よりも早く攻め込み、武田菱を立てて御覧に入れます」
「うむ、頼んだぞ」
天文十七年(1549)9月30日:出羽角館城:北条氏康視点
「殿様、お止めください、富山に行くのは危険でございます!」
「黙れ、これほどの好機は二度とない、命を賭けるべき時じゃ」
「ですがあまりにも無謀でございます!
越中守は冷血非情、富山に行けば必ず殺されます!
殿を殺す好機を見逃すとは思えません!」
「異母弟を殺されたお前が、越中守を毛嫌いする気持ちは分かる。
だが、あれは治部大輔の方が悪い、あれは幾ら何でもやり過ぎだ」
「ですが殿様、越中守は女子供関係なく、今川一族を根切りにしました」
「奥よ、認めたくないだろうが、先にやろうとしたのは治部大輔の方だ。
先に元服も迎えていない幼子を謀殺しようとした、報復は当然だ。
報復しなければ、他の者も同じように幼子を狙う」
「……ですが、ですが……」
「それに、本当に根切りにするなら、お前も子供達も殺されていた。
詰問使は来たが、余が奥はもう今川とは縁が切れた北条の者だと言ったら、奥の事も子供達の事も北条家の者として見逃してくれた」
「……はい……」
「余も越中守を殺そうと何十もの刺客を放った。
幼い頃から言動を見続けていた。
だから言えるのだが、越中守は情に厚く民を慈しむ名君だ。
余をここに押し込めているのも、天下を乱さずに治める為だ」
「……殿は、殿は越中守に褒め殺しにされてしまわれました」
「そうか、そうだな、そうかもしれないが、この文を読んで気が変わった。
このまま雪深い出羽で埋もれ死にする気は無くなった!
今ならば、世に出られるのだ!」
「まさか、皇室や朝廷を滅ぼすのと引き換えに、世に出る御心算ですか?!」
「奥よ、情けない事を申すな、余はそんなに愚かではないぞ。
後世に悪名を残して子孫に肩身の狭い思いをさせたりはせぬ」
「申し訳ございません」
「越中守殿、いや、殿様の文には、南蛮は唐に匹敵する天竺を属国にしていると書いてある。
天竺の勇猛果敢な武士を召し抱え、シャムやアユタヤまで属国にしようとしているとある」
「はい、それは読ませていただきました」
「新たな帝国を築いて迎え討つと書いてあるのが大きな所よ」
「意味が分かりませんが?」
「これは余に対する謎かけよ。
いや、余だけではない、領地を制限されている国人地侍への謎かけよ。
この日乃本を出て戦う気があるのか問うておるのだ!」
「日乃本を出るのですか?!」
「余が言われたのは、才があるから武功を挙げさせない、だ。
日乃本を戦国乱世にしないために、余を飼い殺しにすると申された。
同時に、子供達には、五百の関船を率い、北は蝦夷から南はシャムやアユタヤまで、大海原に乗り出し交易や海賊を行う船大将になる機会は与えると申された」
「よく分かりません」
「南蛮を迎え討つのなら、日乃本の外での戦となる。
戦船に乗って、遠く南蛮まで戦いに行く覚悟があるのかを問うておられるのだ。
もしかしたら、余にも武功を挙げる機会が与えられるかもしれぬのだ!
日乃本の外になら、新たな帝国でなら、大領を得られるかもしれん!」
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