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第三章:天下統一
第111話:交渉
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天文十七年(1549)7月26日:紀伊高野山金剛峰寺:日夏左衛門尉家望視点
「座主、ここは素直に従われよ」
「そうは申されても、僧兵を全て差し出せと言われては……」
「叡山と興福寺の末路は知っておられるであろう?
根来寺も逆らう者は全て奴隷に落とされ、全山焼き払われましたぞ!
残っているのは石山本願寺に閉じ込められて死を待つだけの者達ですぞ。
金剛峯寺が無事なのは、殿がまだ力無き時からの友誼があるからでござる。
だからこそ、寺領は全てそのまま許されるのです。
ですが、僧兵だけは許されません。
人々の心を平安に導く僧が武器を持つ事を、殿は絶対に許させません」
「ですが、まだ天下は治まっていませんぞ?
全ての僧兵を手放した後で、寺領を襲われたら、どうしようもない」
「高野山系の寺社の領地は、我ら九条家出身の者が必ず守る!
九条家が苦しかった時に助けて頂いた事は、禅定太閤殿下も殿も忘れてはおられません、ご安心ください」
「それは、九条家が寄進してくださった寺領は、九条家と長尾家の将兵が護ってくれるという事ですか?」
「九条家だけではありません、全ての公家と地下家が寄進した寺領に、長尾家の将兵が守りにつくと言う事です」
「この金剛峯寺もですか、高野山全山を守って頂けるのですか?」
「座主、殿が約束を破られた事は一度もありません!
恩を受けた方には必ず御礼をし、仇を受けた者には必ず報復をされる。
近江の園城寺は既に全ての僧兵を手放し、経典の研究に専念されていますぞ!
紀伊の山中に逃げ込んだ甲賀衆や伊賀衆だけでなく、安房の里見も根切りされたのですぞ!」
「……分かりました、全ての僧兵を長尾家に移しましょう。
抵抗する者は、破門にして山から追放します。
それで寺領は保証してくださるのですね?!」
「はい、高野山が全国に持つ寺領十七万石は、禅定太閤殿下と殿がこれまで通り保証させていただきます。
よかった、本当によかった!
もし座主が断るようなら、叡山や興福寺のように焼き討ちしなければいけませんでした、良く決断してくださった」
「御山の周囲を、二十万もの大軍に囲まれては、とても逆らえません。
寺領七十二万石、僧兵一万を誇った根来寺が根切りにされた後です。
とても逆らう事などできません」
「殿の御心を誤解しないでいただきたい。
全ては高野山を攻めたくない、守りたい殿の優しさです」
「我らを最後にしてくださったのが、禅定太閤殿下と長尾様の慈悲だと言う事くらい、よほどの馬鹿でないくらい分かります。
最初は、根来や雑賀と協力すれば長尾家など恐れるにあらず、そう言っていた者達も、今では御堂の奥に隠れて震えております」
「その者達はどうされるのですか?」
「愚か者共の狂った行いで、御山を危険にさらす訳にはいきません。
僧兵達と一緒に長尾家に御預けします」
「それが良いですね、愚か者共の馬鹿げた行いの所為で、風雨や戦乱の被害から残された貴重な御堂や宝塔を、焼き払うのは嫌ですから」
高野山金剛峰寺、長舜座主との話し合いは、何とか纏まった。
殿の言われた通り、順番を間違えなければ無駄な殺戮をしなくてすむ。
配下の者共には、改めて殿の命を厳守するように命じなければならない。
最初は、殿に敵対した雑賀と根来寺の討伐だった。
守護の畠山が文句を言ってきたが、無視した。
軍勢を出してきたから、鎧袖一触で叩き潰してやった!
畠山一族は、能登でも殿に逆らった愚か者だ。
天下を乱した応仁の乱に加わった腐れ外道だ。
手加減する事なく一気に滅ぼしてやった。
もっとも、畠山が集められた軍勢は、五百にも満たない少数だった。
紀伊の国人地侍も愚かではない、殿の武名と慈悲を良く知っていた。
十貫二十貫の田畑を耕す地侍は、殆ど全て殿の旗の下に集まった。
だから、南朝の皇室が盤踞できた大和や紀伊の山中も楽に討伐できた。
北陸道、甲信、奥羽の修験者や山窩が説得してくれたから、大和や紀伊の修験者や山窩も味方してくれて、甲賀や伊賀の者共を捕らえてくれた。
その御陰で、平家の落ち武者伝説のような、隠れ里を見逃す事がなかった。
南朝の御落胤がいるという伝説がある、吉野や十津川に隠れていた、柳生の連中を捕らえて殺す事ができた。
『修験者や山窩が守ろうとする者は見逃せ!
それが甲賀や伊賀、柳生や雑賀に所縁があるものであっても見逃せ!』
余程重要な事なのだろう、鳩の文にも残さないように、殿の証を持った諜報衆が口頭で命を伝えに来た。
長尾家内の噂では、殿は皇室を滅ぼし朝廷を廃する覚悟があるという。
皇室自体を滅ぼさなくても、北朝を絶やして南朝に変える気だとも言う者もいる。
修験者や山窩が守る者に手出しするなというのは、殿の深慮遠謀かもしれない。
殿の秘策を邪魔する事は絶対に許されない!
配下の者共にも、修験者と山窩はもちろん、その縁者も絶対に手出しするなと、厳しく命じなければならない!
そう言えば、越後長尾家の初代当主、長尾景恒様は新田義興殿の鎌倉攻めに参加していたと聞いている。
敗れて越後に逃れ、北朝に寝返って南朝と戦ったはずだ。
殿に忠誠を誓うと決めた時に、長尾家の事を調べたから間違いない。
殿は初代の志に復す御考えなのだろうか?
それとも、皇室と朝廷を意のままに操るために、今以上に力のない南朝の帝を擁立して、傀儡にされる気なのだろうか?
まあ、いい、九条家の侍から取立てて頂いた私には、どうでもいい事だ。
自分が殿よりも賢いなどとは小指の先ほども考えていない。
主君の命じる相手を何も考えずに殺すのが家臣の役目だ。
それに、あの頃の九条家は、勅勘を受けて朝廷に居場所がなくなっていた。
殿に取立てて頂けなければ、どこかで野垂れ死にしていた。
殿が北朝を滅ぼして南朝を立てると言うのなら、先駆けとなって戦うのみ!
「座主、ここは素直に従われよ」
「そうは申されても、僧兵を全て差し出せと言われては……」
「叡山と興福寺の末路は知っておられるであろう?
根来寺も逆らう者は全て奴隷に落とされ、全山焼き払われましたぞ!
残っているのは石山本願寺に閉じ込められて死を待つだけの者達ですぞ。
金剛峯寺が無事なのは、殿がまだ力無き時からの友誼があるからでござる。
だからこそ、寺領は全てそのまま許されるのです。
ですが、僧兵だけは許されません。
人々の心を平安に導く僧が武器を持つ事を、殿は絶対に許させません」
「ですが、まだ天下は治まっていませんぞ?
全ての僧兵を手放した後で、寺領を襲われたら、どうしようもない」
「高野山系の寺社の領地は、我ら九条家出身の者が必ず守る!
九条家が苦しかった時に助けて頂いた事は、禅定太閤殿下も殿も忘れてはおられません、ご安心ください」
「それは、九条家が寄進してくださった寺領は、九条家と長尾家の将兵が護ってくれるという事ですか?」
「九条家だけではありません、全ての公家と地下家が寄進した寺領に、長尾家の将兵が守りにつくと言う事です」
「この金剛峯寺もですか、高野山全山を守って頂けるのですか?」
「座主、殿が約束を破られた事は一度もありません!
恩を受けた方には必ず御礼をし、仇を受けた者には必ず報復をされる。
近江の園城寺は既に全ての僧兵を手放し、経典の研究に専念されていますぞ!
紀伊の山中に逃げ込んだ甲賀衆や伊賀衆だけでなく、安房の里見も根切りされたのですぞ!」
「……分かりました、全ての僧兵を長尾家に移しましょう。
抵抗する者は、破門にして山から追放します。
それで寺領は保証してくださるのですね?!」
「はい、高野山が全国に持つ寺領十七万石は、禅定太閤殿下と殿がこれまで通り保証させていただきます。
よかった、本当によかった!
もし座主が断るようなら、叡山や興福寺のように焼き討ちしなければいけませんでした、良く決断してくださった」
「御山の周囲を、二十万もの大軍に囲まれては、とても逆らえません。
寺領七十二万石、僧兵一万を誇った根来寺が根切りにされた後です。
とても逆らう事などできません」
「殿の御心を誤解しないでいただきたい。
全ては高野山を攻めたくない、守りたい殿の優しさです」
「我らを最後にしてくださったのが、禅定太閤殿下と長尾様の慈悲だと言う事くらい、よほどの馬鹿でないくらい分かります。
最初は、根来や雑賀と協力すれば長尾家など恐れるにあらず、そう言っていた者達も、今では御堂の奥に隠れて震えております」
「その者達はどうされるのですか?」
「愚か者共の狂った行いで、御山を危険にさらす訳にはいきません。
僧兵達と一緒に長尾家に御預けします」
「それが良いですね、愚か者共の馬鹿げた行いの所為で、風雨や戦乱の被害から残された貴重な御堂や宝塔を、焼き払うのは嫌ですから」
高野山金剛峰寺、長舜座主との話し合いは、何とか纏まった。
殿の言われた通り、順番を間違えなければ無駄な殺戮をしなくてすむ。
配下の者共には、改めて殿の命を厳守するように命じなければならない。
最初は、殿に敵対した雑賀と根来寺の討伐だった。
守護の畠山が文句を言ってきたが、無視した。
軍勢を出してきたから、鎧袖一触で叩き潰してやった!
畠山一族は、能登でも殿に逆らった愚か者だ。
天下を乱した応仁の乱に加わった腐れ外道だ。
手加減する事なく一気に滅ぼしてやった。
もっとも、畠山が集められた軍勢は、五百にも満たない少数だった。
紀伊の国人地侍も愚かではない、殿の武名と慈悲を良く知っていた。
十貫二十貫の田畑を耕す地侍は、殆ど全て殿の旗の下に集まった。
だから、南朝の皇室が盤踞できた大和や紀伊の山中も楽に討伐できた。
北陸道、甲信、奥羽の修験者や山窩が説得してくれたから、大和や紀伊の修験者や山窩も味方してくれて、甲賀や伊賀の者共を捕らえてくれた。
その御陰で、平家の落ち武者伝説のような、隠れ里を見逃す事がなかった。
南朝の御落胤がいるという伝説がある、吉野や十津川に隠れていた、柳生の連中を捕らえて殺す事ができた。
『修験者や山窩が守ろうとする者は見逃せ!
それが甲賀や伊賀、柳生や雑賀に所縁があるものであっても見逃せ!』
余程重要な事なのだろう、鳩の文にも残さないように、殿の証を持った諜報衆が口頭で命を伝えに来た。
長尾家内の噂では、殿は皇室を滅ぼし朝廷を廃する覚悟があるという。
皇室自体を滅ぼさなくても、北朝を絶やして南朝に変える気だとも言う者もいる。
修験者や山窩が守る者に手出しするなというのは、殿の深慮遠謀かもしれない。
殿の秘策を邪魔する事は絶対に許されない!
配下の者共にも、修験者と山窩はもちろん、その縁者も絶対に手出しするなと、厳しく命じなければならない!
そう言えば、越後長尾家の初代当主、長尾景恒様は新田義興殿の鎌倉攻めに参加していたと聞いている。
敗れて越後に逃れ、北朝に寝返って南朝と戦ったはずだ。
殿に忠誠を誓うと決めた時に、長尾家の事を調べたから間違いない。
殿は初代の志に復す御考えなのだろうか?
それとも、皇室と朝廷を意のままに操るために、今以上に力のない南朝の帝を擁立して、傀儡にされる気なのだろうか?
まあ、いい、九条家の侍から取立てて頂いた私には、どうでもいい事だ。
自分が殿よりも賢いなどとは小指の先ほども考えていない。
主君の命じる相手を何も考えずに殺すのが家臣の役目だ。
それに、あの頃の九条家は、勅勘を受けて朝廷に居場所がなくなっていた。
殿に取立てて頂けなければ、どこかで野垂れ死にしていた。
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