転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全

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第三章:天下統一

第93話:閑話・根切り

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天文十六年(1548)4月12日:伊賀柏原城:朝倉宗滴視点

「構わぬ、生まれたばかりの赤子であろうと殺せ!」

 このような事をする事になるとは、思ってもいなかった。
 朝倉家の陣代を務めていた時に、一向一揆を相手にやった事はあった。
 だが、殿の命で根切りをやる事になるとは思っていなかった。

『甲賀伊賀が太郎達を暗殺しようとした、根切りにせよ』

 鳩を使った命が送られてきたが、最初は間違いだと思った。
 急ぎ確かめるための鳩を送ろうとしたが、表の諜報衆に諫められた。

「宗滴様、直ちに国人地侍を全員集めて、根切りを行われよ。
 これまでも、甲賀と伊賀が若君達を狙っているという話はあった。
 だが殿は何もなされなかった。
 それなのに、急に根切りを命じられたのは、実際に若君が狙われたからとしか思われません。
 ここで疑われるような言動をされたら、元服前の幼子を狙った者共と通じていると疑われますぞ!
 お子様だけでなく、生まればかりのお孫様まで殺されますぞ!」

 表の諜報衆に言われて、ようやく我が事として考えられた。
 初孫、儂の跡を継いでくれる、何の罪もない無垢な幼子。
 宗
「分かった、近江の国衆地侍に甲賀伊賀を攻めろと命じる」

「六角が甲賀と伊賀に太郎様達を暗殺しようとしたと明かされよ。
 さもないと、旧主や同輩だった者に手心を加えるかもしれません。
 それで宗滴様が内通していると思われたら、取り返しがつきません。
 今の殿を普段の殿と同じと思われるな。
 子供を狙われた親に道理は通用しませんぞ」

「分かった、全て教える。
 その上で、僅かでも疑わしい態度を取った者は即座に殺す。
 元服前の子供を暗殺しようとするような者に仕えていた、近江の国人地侍のために子や孫を犠牲にする気はない!」

 私の言葉、決意を諜報衆が急ぎ広めてくれた。
 六角家に仕えていた者は、自分達が疑われていると理解した。
 理解しただけでなく、何時根切りにされてもおかしくないと思い知った。

 私も、集まった奴隷兵、屯田兵の目を見て思い知ったのだ。
 殿に地獄から救い出された者達の、忠誠心の深さがどれほどなのか。
 彼らが近江衆を見る目には、喰い殺さんばかりの増悪が宿っていた。

 旧六角衆一万五千が、まだ雪の残る猪背山を越えて甲賀に攻め込んだ。
 その後詰めは旧浅井衆五千、旧朝倉勢衆五千が続く。 
 最後に監軍の屯田軍三万が、全ての国人地侍を皆殺しにする覚悟で続く。

 根切りにされるのは甲賀だけではない、伊賀も根切りにされる。
 当然だが、一番損害の多い先陣は疑わしい旧六角衆がやらされる。

 栗東から野洲川を遡って甲賀から伊賀に攻め込む軍も、先陣は旧六角衆一万五千、後詰も旧浅井勢五千、旧朝倉勢五千だ。
 彼らにも監軍がつき、屯田軍三万が敵味方関係なく根切りにする気で後に続く。

 猪背山越えの軍勢が最初に攻めたのは、小川成俊の小川城だった。
 小川成俊は、共に六角家に仕えていた縁を使って降伏臣従しようとした。

 だが、追い込まれた旧六角衆に小川を許す余裕など無かった。
 私にも甲賀伊賀を許す余裕がないのだから、当然の事だ。
 旧六角衆は損害を顧みない我攻めで小川城を根切りにした。

 直ぐ近くにある小川西城も小川中城も根切りにされた。
 少し離れた場所にある神山城も根切りにされた。

 今回の城攻めで監軍を務めていた長尾家の侍大将が、六角家と内通の疑いナシと判断した国人地侍に感状を渡した。
 感状が渡されただけでなく、後詰の旧浅井衆と入れ替えられた。

 次に根切りにされたのは多羅尾山城、多羅尾古城、多羅尾砦だった。
 甲賀の名門多羅尾氏はそれなりの勢力を持っていたが、根切りを避けたい旧六角衆の死に物狂いの戦いには、全く抵抗できなかった。

 殿の評判を聞いていた多羅尾氏は、降伏すれば奴隷になれると思っていたようだ。
 悪くても追放で済むと思っていたが、そのような甘い状況は終わったのだ。
 いや、多羅尾氏を始めとした甲賀と伊賀が終わらせてしまったのだ!

 一方、野洲川を遡った軍勢は、六角定頼と六角義賢の親子を狙った。
 旧六角衆は、旧主だろうと手を抜ける状態ではなかった。
 多くの旧六角衆が、元服前の幼子を暗殺しようとした旧主を蔑んでもいた。

 旧六角衆の急襲を知った三雲行定は驚き慌てたようだった。
 三雲行定は、甲賀者らしく降伏した旧六角衆の中に内通者を作っていた。

 三雲行定は、上手くやっている気でいたが、殿が作られた諜報部門の目を欺く事などできない。

 上手くやっていると思っていた内通者達が全く機能しなかった三雲行定は、慌てて六角親子と共に逃げた。

 三雲行定は、家臣達に時間稼ぎをさせている間に甲賀の奥深くに逃げた。
 時間稼ぎをさせられた家臣達だけでなく、領民まで根切りにした。
 旧六角衆は、心を軽くするために根切りにされる理由を大声で怒鳴っていた。

 甲賀の国人地侍の中には、六角の悪行に加担していた者、若君暗殺を引き受けた者もいただろう。

 だが中には何も聞かされていなかった者もいたはずだ。
 そんな甲賀の者達にとっては、寝耳に水の出来事だ。

 できるだけ六角家のために働くが、どうしても勝てないとなったら、長尾家に仕える心算だった甲賀衆もいたはずだ。
 
 そんな目論見が根底から崩れ去ったのだ。
 元服前の子供を暗殺しようとした、甲賀衆を許す親がいるだろうか?
 少なくとも私は許さない、同じ様に子供であろうと容赦なく殺す!

 甲賀衆もそれが分かったのだろう、殆どが城を捨てて逃げた。
 籠城しても死ぬだけなのは、関東や東海の戦いを知っていれば分かる。
 情報を集めて報酬をもらっている甲賀と伊賀が、知らない訳がない。

 城を捨てても、山中に潜んで乱戦に持ち込めば勝てる。
 そう思ったのかもしれないが、殿はそんなに甘くない。
 根切りをすると決意された殿が、私にだけ命を下す訳がない。

 殿は駿河、遠江、三河、尾張の国人地侍を根こそぎ動員された。
 更に尾張に駐屯している黒鍬軍、足軽軍、男屯田軍も全て動員された。
 殿は屯田軍に耕作させないほど激怒されているのだ!

 殿は動かせる水軍の大型関船を全て使って、北伊勢の湊に兵を上陸させた。
 総計五十万もの軍勢が、甲賀と伊賀を根切りにすべく北伊勢に上陸した。
 邪魔する者は一味同心として一緒に根切りにすると言い切っての上陸だった。

 その噂は瞬く間に伊賀甲賀にも伝わった。
 伊勢と伊賀の国境に領地を持つ国人地侍達は、敵対もしているが交流もある。
 老若男女問わず根切りにされると聞いては、逃げろと伝えるのが人情だ。

 私にとっては有難い事だった。
 殿の怒りは十分理解しているが、生まれたばかりの赤子や、子供を宿した女まで根切りにするのは、流石にやりたくない。

 住民全てが国人地侍と言っていい甲賀と伊賀だが、生まれたての赤子から寝たきりの老人まで入れても、十万もいない。

 伊勢からも五十万が根切りに来ると知ったのだ。
 国から逃げるしか生き残る方法は無い事くらいは誰にでも分かる。

 我が軍勢の先手、旧六角衆が手近な城を攻めて根切りにしている間に、多くの女子供が山中に逃げ込んだ。

 反撃など考えず、甲賀と伊賀を捨てて他国に逃げて欲しい。
 今の殿なら、味方の死傷を考えずに我攻めを行われる。
 屯田兵達も、死傷を恐れず根切りのために山狩りを行う。

 北伊勢に上陸した軍勢は、尾張東海の国人地侍を先陣に伊賀を攻めた。
 道案内は北伊勢の国人地侍が務めた。
 監軍は屯田軍の侍大将や足軽軍の足軽大将が務めた。

 私が率いる旧六角衆と同じ疑いが、旧織田衆と旧今川衆にかけられていたのだ。
 実際に甲賀や伊賀に命じたのは六角だが、策を考えたのは織田と今川だ。
 旧織田衆と旧今川衆が、何も知らなかったと言っても信じてもらえない。

 下手に言い訳して信じてもらえなかったら、根切りにされるのが自分になる。
 それが分かっているから、旧織田衆と旧今川衆も死傷を恐れず戦った。
 情け容赦なく、女子供を逃がす時間稼ぎに籠城した者達を根切りにする。

 津に上陸した軍勢は、長野勢の案内で長野峠を越えて百地丹波城を攻め滅ぼした。
 豊津に上陸した軍勢は、関勢の案内で伊勢別街道を通り蝙蝠峠を越え、福地氏城を攻め滅ぼした。

 四日市に上陸した軍勢は、茂福掃部助盛に案内させて梅戸城を攻め滅ぼした。
 梅戸城の梅戸高実が、六角定頼の弟だったからだ。
 梅戸一族は、領民共々老若男女問わず根切りにされた。

 四日市に上陸した軍勢は、梅戸を根切りにする理由を北伊勢の国人地侍に話した。
 梅戸はもちろん、六角に通じている者は同じように根切りにする。
 そう言い放ち、北伊勢衆にも伊賀の根切りを先陣するように命じた。

 四日市に上陸した軍勢は、梅戸を滅ぼして直ぐに武平峠を越えて甲賀に入り、大河原氏城と黒川氏城を攻め滅ぼし、私の軍勢と合流した。

 五十万もの軍勢が北伊勢に上陸した事に、南伊勢の北畠晴具は恐れ戦いたようだ。
 伊勢ノ海を圧する大水軍に圧倒させたのかもしれない。

 延々と続く上陸船の数に格の違いを思い知ったのかもしれない。
 志摩の海賊衆や漁師達が、残らず長尾家に下ったのに心が挫けたのかもしれない。

 志摩を制圧し、大和の吉野郡と宇陀郡を支配下に収め、紀伊の熊野地方から尾鷲新宮、十津川まで領有した北畠晴具とは思えない弱気な態度だった。

 北伊勢に侵攻した侍大将や足軽大将ではなく、私に殿への取次を頼んで来た。
 名門北畠家の七代目は、奴隷から成り上がった者に頭をさげて、降伏臣従の取次を頼めなかったのかもしれない。
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