転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全

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第二章:屍山血河

第59話:婚約

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天文十二年(1543)5月10日:越後春日山城:俺視点

「越中守、そろそろ妻を娶ったらどうだ?」

 越中からやってきた九条稙通が言う。
 確かに、そろそろ妻を迎えた方が良いと思う。
 少し年上の妻を迎えたら、子供を望める状態になっている。

 日々性衝動が激しくなり、奥女中を抱いてしまいそうになる日が増えている。
 養殖真珠のために、本丸大奥から出られない奥女中を大量に召し抱えている。
 元奴隷から公家の姫君まで、老若美醜に関係なく大量に召し抱えている。
 
 無理矢理閉じ込めている訳ではなく、望む者だけを奥女中にしている。
 明日の命も知れなかった戦国乱世の女達は、城の奥深くでの暮らしを望んだ。
 餓死する寸前だった女達は、安全な場所でお腹一杯食べられる生活を望んだ。

 寡婦となり、婚家からも実家からも邪魔者扱いされた女も集まった。
 子女を尼にできるだけの力のない、公家や地下家の姫達も集まった。
 実家に居ても飢えるだけ、平民に嫁いでも飢えるだけだからだ。

 俺にも大きな利益があった。
 絶対に外に漏らせない、養殖真珠と硝石作りを奥女中達にやらせられる。
 表向きは、唐の皇帝の如く後宮を造ったと思わせている。

 これまでは表向きだったが、実際に後宮として使うべき時が来ている。
 だが、大きな問題もある。

 元奴隷の奥女中に子供ができると、家督争いに発展する可能性がある。
 庶長子と嫡男で家督争いを起こす将来は避けたい。

 伊達秀宗と伊達忠宗、織田信広と織田信長。
 史実では大きな問題になっていないと伝わっているが、色々あったと思う。
 大名や国人だから小さく済んだが、天下人だったら……

「私もそろそろとは思っているのですが、そう簡単には決められません」

 問題は誰を正室に迎えるかだ。
 最初は九条稙通の娘を考えていたのだが、九条家は朝廷での評判が悪すぎる。
 悪いのは九条政基と尚経なのだが、まだ帝にも公家衆に嫌われたままだ。

 それでも、摂関家の娘を正室に迎える影響はとても大きい。
 特に京から遠く離れている奥羽や関東では、摂関家の娘を正室に迎えるだけで、国人地侍をある程度従わせる事ができる。

 だが、畿内ではそれほど畏怖されないのは、歴史が証明している。
 強い影響力があるのなら、九条稙通の孫、三好家の継いだ三好義継が三好三人衆を始めとした味方を掌握できていた。

「麿の娘を勧めたいところだが、我が家は帝に忌避されておるから……」

 九条稙通も分かっているようだ、やはり稙通の娘は正室にできない。
 だからと言って、家臣の家から選ぶ事もできない。

 家臣の娘を正室にしたら、家中の勢力争いが悪い方に動くかもしれない。
 特に、俺が死んだ後が心配だ、絶対に家督争いが起る。

 同母の兄弟である織田信長と信行、伊達政宗と小次郎、徳川家光と忠長などですら殺し合っているのだ、後ろ盾が違う異母兄弟なら猶更だ。

 いや、俺が死ぬ前から家督争い、権力争いがおきる。
 息子を傀儡にしようと、外戚となった家臣が俺の暗殺を企むかもしれない。

 息子の後ろ盾を潰し、俺と息子を争わそうとして、外戚が俺を暗殺しようとしたと見せかける奴が現れるかもしれない。

 心配したら切りがなくなるが、何も考えずに妻は選べない。
 性衝動は日々激しくなっているが、欲望のまま女を抱く事もできない。
 天下を目指すと言うのは、恐ろしく自制を求められる。

「越中守がその気なら、どこの公家からも選べる。
 婚約が整っている姫達でも、相手が公家以外なら解消させられる」

「いえ、そのような非道な真似はいたしません。
 実は、意中の相手がいるのですが、少々問題がありまして」

「意中の相手がいるのか、それは良かった。
 問題があると言ったが、どのような問題なのだ?
 麿の力でも越中守の力でもどうにもならない事なのか?」

「力と言うよりは気持ちの問題なのです。
 今は婚約者がいないのですが、某が追放した者と婚約していた姫君となると、妻に迎えるのは問題があるでしょうか?」

「越中守が追放した者の婚約者だと、誰の事を言っているのだ?」

 九条家が駄目なら、直接皇室と繋がる事を考えたが、流石に内親王降嫁は無理だ。
 そこで皇后の実家と繋がる事を考えた。

 だが、皇后の実家である万里小路家には俺と年齢の合う姫がいない。
 そこで誠仁親王の妃になる勧修寺家を考えたのだ。

「勧修寺権大納言様の三女、晶姫様でございます」

 晶姫は、能登畠山家の一門で西谷内城主だった畠山将監家継と婚約していた。
 だが畠山一族は、俺が全員能登から追放した。
 その中に畠山将監家継がいたのだ。

 畠山将監家継は、戦国の苦しさを味わった武将だ。
 姉は内大臣万里小路惟房正室となっていた。
 その縁もあって勧修寺家の娘を正室に迎える事になったのだろう。

 だが問題は叔母の嫁ぎ先だった。
 叔母は本願寺八世蓮如の最後の妻、第五夫人だった。

 だが本願寺は兄弟の権力争いが激しく、血で血を洗うような状態だった。
 更に本願寺十世証如の後見人蓮淳と一門衆との争いが起こったのだ。

 加賀国で大小一揆が勃発して、畠山家継の実父である畠山家俊は、甥の実悟を助けようと出陣した。

 畠山家継からは従兄になる実悟だが、本願寺から破門され能登から叩き出された。
 それだけでなく、実父の畠山家俊が本願寺一揆勢に討ち取られてしまった。
 
 そして畠山家継は、俺が能登を占領した時に畠山一門として追放され、頼った紀伊で捨扶持を与えられている状態だ。

 とても勧修寺家の姫君を妻に迎えられる生活ではなく、婚約が解消されていた。
 今の晶姫は、三条長尾家の奥女中になっている。
 
 俺の側近くに仕えさせて性格を確かめてきたが、悪くない、いや、とても良い。
 冬になると辛い、養殖真珠の核入れを文句を言わずにやっている。
 元奴隷の奥女中達を虐める事はもちろん、争う事もない。

「勧修寺権大納言の娘か、晶、晶、確か庶生の三女であったな。
 越中守が奥女中として召し抱えたのではなかったか?」

「はい、最初は姉達に行儀作法を教えてくださる方として来ていただきました。
 今では多くの奥女中達を束ねてくれています」

「もっと年配の者だけを召し抱えると思っていたが、若い姫も召し抱えると聞いて、最初は色好みかと思っていたのだが、公家への支援だと知って驚いたぞ」

 騙しきれていなかったか。
 俺の弱点は女だと思わせる策もあったのだが、そっちは無意味だったか?
 子供が産まれていないのだからしかたがないか。

「援助を求めて下手な武家に嫁がせると、戦に巻き込まれて死ぬ事もあります。
 我が家でしたらその心配はありませんし、他の姫君とも一緒です。
 祐筆や武将として仕官した公家子弟とも出会えます」

「そうであったな、多くの子弟子女が結ばれていたな」

 最初は生きる為、京から逃げるために我が家に仕官した公家や地下家の子弟も、今では同じように京を離れた公家や地下家の姫と結ばれて家を興している。

 今では俺の奥女中だけでなく、富山城の総構え内にある大内裏での仕事もある。
 表向きは諦めているが、何時でも帝を擁立できるように朝廷の年中行事をやらせており、後宮十二司も復活させている。

 そんな者達は、これまで以上に必死で働いてくれる。
 下級指揮官の不足する三条長尾家には、公家と地下家の武官子弟も、無くてはならない存在となっている。

「直接本人を確かめて決めたと言うのなら、麿の娘を嫁がせるのは諦めよう。
 三条長尾家の奥を乱して、これ以上帝や公家衆に嫌われたくはない。
 ただ、少しは麿の顔をも立てて欲しいのだか?」

「分かっております、晶姫を禅定太閤殿下の養女にしていただきます」

「良く分かっておるではないか、これで麿と越中守は親子となる」

「はい」

 これで多くの縁を結ぶ事ができる。
 目的のためなら親兄弟でも殺すのが戦国乱世だが、縁を重視する面もある。
 争うような事がなければ、縁を重視して利を得られる事が多い。

 この婚姻政策が上手く行けば、史実通りなら姪が誠仁親王の妃になる。
 まだ生まれていないが、生まれたらできるだけ可愛がろう。
 いや、勧修寺家全体との付き合いを今よりも深く厚くしよう。

 それに、皇室と縁ができるだけでなく、九条家との縁も深くなった。
 皇室と何代も縁を結んでいる万里小路に、勧修寺家の甥が養子に入る。
 若狭武田家に仕える粟屋元隆とも縁が結べる。

 少し縁は遠くなるが、後北条家と繋がりのある伊勢家とも親戚になれる。
 姉の夫、結城忠正は室町幕府の奉公衆だ。
 上手く使えれば色々とやれそうだ。

『史実の勧修寺家』

勧修寺尚顕ー尹豊ー晴秀ー晴豊

「勧修寺晴秀」
父:勧修寺尹豊(1503~1594)
母:伊勢貞遠の娘
「正室:元子 - 粟屋元隆の娘」
 長男:勧修寺晴豊(1544~1603)
 次女:勧修寺晴子(1553~1620)誠仁親王妃・後陽成天皇母・新上東門院。
 次男:万里小路充房(1562~1626)万里小路輔房の養子
「生母不明の子女」
 三男:日袖 - 日蓮宗立本寺住持・権僧正
 次女:正親町三条公仲室

「勧修寺尹豊」
父:勧修寺尚顕
母:石清水八幡宮検校澄清の娘
「妻:伊勢貞遠の娘」
 長男:勧修寺晴秀(1523~1577)
継室:典侍奥子
 三女:晶:畠山家継室
「生母不詳の子女」
 次女:咲:結城忠正室

「勧修寺尚顕」
父:勧修寺政顕
母:不詳
養父:勧修寺経熈
「妻:澄清の娘」
 長男:勧修寺尹豊
「生母不詳の子女」
 長女:三条公頼室
 次女:粟屋元隆室(粟屋元隆ははじめ住吉大社宮司・先に津守国賢室)
 三女:勧修寺尚子(大納言典侍尚子)

 津守国賢は住吉大社の神主
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