転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全

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第二章:屍山血河

第55話:指揮官と信濃国

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天文十二年(1543)5月3日:越後春日山城:俺視点

 百万もの大兵力、どう使うかによって日本の将来が大きく変わる。
 どれほどの大軍であろうと、手足のように扱えなければ烏合の衆でしかない。
 何より恐ろしいのは、俺に叛意を持っている者に指揮権を与える事だ。

 屯田兵として活用する事で、兵力と生産力を兼ね備えた軍となっている。
 三年五作の立毛間播種を組み合わせる事で、膨大な兵糧を確保できた。
 もう直ぐ収穫できる大麦は、屯田兵が作った分だけで千七百万石になりそうだ。

 昨年の収穫と合わせれば三千百万石の大麦が備蓄されている。
 それ以外にも、普通に五公五民で納められる年貢の米がある。

 大麦の半分は焼酎造りに回す予定だ。
 強い酒にして高値で売れるだけでなく、消毒薬として使えるからだ。

 戦場で使えば戦傷死の数を劇的に減らせるだろう。
 傷口に小便をかけたり焼き鏝を押したりしなくてすむ。

 酒の事はまだ先の話だ、先に指揮官を誰にするか決めなければならない。
 但馬に残した十万兵は、一万兵毎に侍大将、千兵毎に足軽大将を置いている。
 才能と忠誠心を証明した連中にに、そのまま指揮させればいい。

 侍大将達と密偵達の報告通りなら、秋には十六万石の大豆が手に入るだろう。
 来年には、六十四万石の大麦が収穫できるようになる。
 占領地の田畑は、面積だけ検地させたが、それだけでもある程度の石高は分かる。

 美含郡で一万石と少し。
 二方郡で一万石弱。
 城崎郡で二万石と少し。
 気多郡で二万石弱。

 だがこれは、普通に米を作った場合だ。
 米を諦めて三年五作の立毛間播種を行えば、平均して四倍の収穫量になる。

 百姓や地侍は元々米なんか食べられていない。
 大麦の年貢を認めると言えば、喜んで立毛間播種を取り入れるだろう。

 屯田兵達が目の前で四倍の収穫を得るのを見せつけられるのだ。
 常に飢えている百姓が取り入れない訳がない。

 加賀に駐屯させている十万兵は、これまで通り朝倉宗滴殿に預けておけばいい。
 彼ならば、越前朝倉家が攻め込んできても軽く撃退してくれる。
 その気になれば越前を切り取ってくれるだろう。

 越中に駐屯させている十万兵も、これまで通り山村若狭守に任せればいい。
 彼の手腕なら、朝倉宗滴殿が敵に回ったとしても富山城を守り切ってくれる。
 嫡男の右京亮が重臣となり俺の側にいる、裏切る心配もないだろう。

 能登に駐屯させている十万兵も、これまで通り山吉伊予守政久に任せる。
 山吉家も三条長尾家に代々仕える重臣で、裏切る心配は少ない。
 長男の山吉政勝、次男の山吉豊守、三男の山吉景久も俺の側近だ。

 米沢盆地に駐屯させている十万兵も、これまで通り吉田源右衛門尉英忠に任せる。
 吉田家は山村家や山吉家よりは格下だが、代々三条長尾家に仕えている。
 長尾為景が春日山城の重要な支城、直峰城を預けるほど信用していた男だ。
 長男の吉田兼政、次男の吉田重政も俺の側近だ。

 越後にいた十万兵は長尾為景が指揮していたが、今は俺の直率になっている。
 史実ではもう死んでいるはずなのだが、しぶとく生きている。
 だがもういつ死んでもおかしくない、これからは兵を預ける事はできない。

 晴景兄上は京に残ってもらっている。
 殺す気にはなれないが、越後や越中に戻す気にもなれない。
 自ら進んで叛乱の種を蒔く気はない。

 九条も鷹司も京を離れて越中に住んでいる。
 二人の姉上も甥達も越中で暮らしている。
 だから京に駐屯させていた兵力の大半は北陸に戻した。

 残っているのは京都雑掌、神余昌綱が率いる五千兵。
 園城寺の僧兵という体裁をとっている俺の兵が五千兵。
 それに兄上の私兵が三千兵だ。

 合計で一万三千兵いる、これだけの兵力があれば帝を守れるだろう。
 逆に俺がその気になったら、何時でも帝を弑逆できる程度の兵力だ。

 残る五十万兵を誰に指揮させるかが大切だ。
 十万二十万は、直率十万兵に加えても良い。
 だが信濃の現状を考えると、十万兵くらいは誰かに任せて送るしかない。

 上杉謙信を担ぎ出して晴景兄上を陥れた、古志長尾家には任せられない。
 潰した上田長尾家と縁のあった連中も信用できない。
 とはいえ、三条長尾家の譜代は全員侍大将や足軽大将にして各地に派遣している。

 上杉謙信が誇った七手組大将の中で三条長尾家と戦った事のない者。
 それは色部勝長と柿崎景家だけだ。

 それ以外の奴に大兵力を預けるほど馬鹿じゃない。
 俺には前世の知識がある、だが、カリスマ性はない。
 上杉謙信と同じ事ができるなど毛ほども思っていない。

 決めた、越後に五十万兵残して屯田させよう。
 信濃への派兵は長尾為景、いや、三条長尾家代々の血縁と同盟関係を維持し、後々は家臣とするためのものだ。

 信用しきれない者に兵を預けてまで、必要以上の大兵力を送る必要はない。
 越後から信濃の入り口は、代々の血縁と同盟が信じられる高梨家がある。

 俺が栗田氏を追い払って善光寺と戸隠神社を確保して大兵力を置いたから、高梨家は高井郡と水内郡に強固な地盤を築いている。

 逆に村上家は、有力な一門である栗田氏が没落したので勢力を弱めている。
 村上義清は智勇兼備の猛将だが、善光寺と戸隠神社が俺の指揮下にあり、高梨家と仁科氏に領地を狙われた状態では、領地を離れて外征できない。

 仁科氏は長尾為景の時代から三条長尾家と誼を通じている。
 俺が善光寺と戸隠神社を奪ってからは、同盟関係から徐々に家臣化している。
 そんな仁科家と高梨家から援軍を要請されたら断れない。

 直江大和守景綱、色部修理進勝長、柿崎和泉守景家に奴隷兵四万ずつ、合計十二万兵を預けよう、三人なら上手く指揮してくれるはずだ。

 史実では武田信玄に敗れて上杉謙信の配下になる村上義清だが、俺に負けたら誰の下に逃げるのだろう?

 村上義清を追い払って更級郡と埴科郡を手に入れたらどうする?
 上野箕輪城の長野業正を頼って落ち延びた真田幸隆が色好い返事をしてきている。
 真田幸隆を家臣に加えるために、小県郡まで手を伸ばすか?

 小県郡を手に入れて真田幸隆に海野家を再興させるなら、滋野三家と呼ばれる望月氏と禰津氏を無視する訳にはいかない。

 特に歩き巫女を束ねたという望月千代女の望月氏は味方に加えたい。
 少なくとも武田信玄の家臣にはさせられない。

 武田家には、前世で有名だった忍者、三ツ者と呼ばれる者達がいたという。
 望月千代女は歩き巫女を使って諸国の情報を集めていたという。
 俺の密偵部隊の一角は、そんな伝説を参考に作り上げた。

 内諜、領内の事、特に家臣の裏切りを警戒して調べるのが横目衆。
 城の乗っ取り、放火、伏兵、攪乱、交通妨害などの武力を使う者もいる。
 前世の忍者と言うよりは、遊撃隊や野伏と言うべきだろう。

 真田と望月を味方に取り込めば、優秀な武田忍者の誕生を阻止できる。
 横目の内諜部隊、富士御師の立場を使った渡辺囚獄佑の外諜部隊は組織できるだろうが、前世で言われていたほどの活躍はできないだろう。

 望月氏の佐久郡まで支配下に置いたら、諏方郡を手に入れた武田信玄と直接対決するしかないが、それでいいのか?

 筑摩郡の小笠原氏や大井氏とも争う事になる。
 真田幸隆を家臣にするために小県郡を手に入れるなら、大井貞隆は叩くしかない。
 まあ、いい、信濃甲斐なら畿内に影響を与えない。

「殿、長尾豊前守殿と本庄美作守殿が、御願いがあると参っております」

 重臣の山村右京亮が部屋の外から声をかけて来た。
 いよいよ古志長尾家が動きだしたか。
 流石だ、絶好の機会を逃さない。

「そうか、会おう」
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