転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全

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第二章:屍山血河

第47話:暴利

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天文十年(1541)6月1日:越後春日山城:俺視点

「殿、また蔵が溢れてしまいました」

 三条長尾家の代々家老を務める山村若狭守国信の嫡男、右京亮が報告してきた。

「直江津に蔵を建ててそこに放り込め」

「はっ」

『天文の大飢饉』が始まって三年目になった。
 史実通りなら、今年は騒がれるほどの凶作や不作にはならないはずだ。
 だが、飢饉の災禍は今年が一番激しくなる。

 何故なら秋の収穫まで穀物が手に入らないからだ。
 裏作の収穫が有った地域以外は、秋まで収穫が得られないからだ。
 とは言っても、裏作が可能な地域はとても狭く、限られている。

 鎌倉時代から始まった裏作だが、人口の多い地域でないと堆肥が手に入らない。
 そもそも湿気を嫌う麦は、湿田では作れない。

 何より、穀物を手に入れようと攻めてくる敵がいると、耕作自体ができない。
 耕作ができても、収穫までに青田刈りや焼き討ちされて穀物を手に入らない。
 生き地獄としか言いようのない状況が全国で起きている。

 これでも俺が四十万人以上の奴隷を買い集め、食い扶持だけ与える最下級足軽を大量に雇ったから、まだましな状況なのだ。
 そうでなければもっと酷い状況になっていた。

 俺はお情けで奴隷や足軽を集めたのではない。
 全国を平定して、自分の望む世にするために、この生き地獄を利用しただけだ。

 俺は膨大な利益と兵力、権力と味方を手に入れた。
 海外貿易で手に入れた穀物と三年五作で手に入れた麦を売って暴利を得た。

「越中守殿、今日も奴隷と足軽と護衛してきた、買い取ってくれ」

 三条長尾家とは何代も血縁を結び、長尾為景が関東管領上杉顕定と戦った際には、味方になって上杉顕定を自害にまで追い込んでくれた、高梨家の高梨政頼が言う。

 実際に上杉顕定と戦ってくれたのは高梨政盛だが、高梨一族は大切な身内だ。
 親兄弟でも当主の座を巡って戦う戦国乱世ではあるが、血のつながりが命を助ける事もある、従兄の高梨政頼はできるだけ味方につなぎとめておきたい人間だ。

「分かりました、奴隷は約束した値段で買い取らせていただきます。
 足軽を希望する者を護衛していただいた分は、礼金を払わせていただきます」

「いや、いや、それには及ばん。
 約束していた値段で米を売ってくれれば十分だ。
 これ以上欲をかいて越中守殿の好意を失う方が損だ」

 流石高梨政頼だ、戦国乱世を生き残るための距離感を良く分かっている。

「何を申されます、従兄殿を嫌うなどありえません」

 俺は、銭に直せば一貫文の代価で明や南方から米一石を買い集めた。
 最終的には四百隻の大型関船を使い、合計八十万石の米を買い集めた。
 唐船から手に入れた米を合わせれば百万石になる。

 その米を、大飢饉が起きた関東に売った。
 ただ、関東管領の上杉憲政は三条長尾家を敵視している。
 三条長尾家はもちろん、血縁者や主従関係を結んでいる者は上野国に入れない。

 もちろん、合戦を覚悟すれば入れるが、そんな愚かな事はしない。
 そんな危険な事をしなくても、安全確実に敵の力を削ぎ地力を養える。
 中立、もしくは敵対している国人を通して、米を始めとした穀物を売った。

 高梨家は親戚だし、高梨家自体が関東管領と戦っているから売買は無理だ。
 だが、知り合いの国人に売るだけで莫大な中継貿易利益がある。
 奴隷を買って俺に転売する時にも莫大な利益がある。

 こんな美味しい状況を見逃すような領主、よほどの愚か者だ。
 上野国沼田城の沼田顕泰や上野国岩櫃城の斎藤憲広は、表向きは関東管領上杉憲政に従っているが、莫大な利益を得られる機会を見逃したりしない。

 慎重な沼田顕泰と斎藤憲広は、御用商人を使って俺と取引している。
 莫大な利を与える俺との距離を縮め、寝返る機会を伺っている。
 強大な戦国大名に挟まれた国人として、当然の生存戦略を取っている。

 越後から信濃を通って、大飢饉が起きている甲斐と関東に穀物と奴隷が流れる。
 越後から上野を通って、大飢饉が起きている関東に穀物と奴隷が流れる。
 俺は関東管領に従う国人の好意を手に入れつつ、莫大な富と兵力を得た。

 関東管領を始めとした俺の敵対者は、銭と味方の忠誠を失っただけではない。
 穀物を作ってくれ、合戦になれば兵に使える人間を大量に失った。
 俺はその分だけ穀物が作れるようになり、兵を増やす事ができた。

 こんな状態で合戦を始めて、銭と人の流れを止めたりしない。
 穀物の値を少々下げ、奴隷を少し高く買ってでも、流れを良くする!

 この状況は関東甲斐だけでなく、畿内や西国でも起きている。
 畿内西国からは、商人の船や領主の船が毎日多数の奴隷が運んでくる。
 奴隷を代価に穀物を買って戻って行く。

 畿内や西国の領主達は、大飢饉で切羽詰まっているのだろうが、自分の脚を喰って生き延びる蛸のようだ。

 自領の生産力が下がり、兵力も減ってしまう。
 周りの領主に比べて領民を売り過ぎると、瞬く間に攻め滅ぼされる。
 もっとも、売るのは自領の民ではなく、他領を襲って手に入れた民だろう。

「敵が攻め寄せて来ない限り、こちらからは襲わぬ。
 安心して畑仕事をするように伝えよ」

「「「「「はっ」」」」」

 直轄領の家臣領民だけでなく、支配下に入った国人地侍にも使いを送った。
 ここで戦いを起こしたら良い流れが断ち切られるだけではない。
 莫大な量の大豆が手に入らなくなる。

 三年五作で秋に手に入るのは大豆なのだ。
 飢餓で痩せ細った奴隷達に筋肉をつけるためには、蛋白質が必要なのだ。
 味噌醤油など、奴隷や足軽の胃袋を掴んでくれる美味の原料でもあるのだ。

「検地を行って本貫地をから切り離した揚北衆には油断するな。
 今は圧倒的な戦力差があるから我慢しているが、俺が弱れば必ず牙を向く。
 接触してくる者は絶対に見逃すな」

 俺は支配領内の国人や地侍を見張る密偵の頭に命じた。
 見張っているのはこの者の組だけではないが、絶対に油断させない。

「「「「「はっ」」」」」

 俺は会津から帰って直ぐに越後、越中、加賀、能登の検地を行った。
 揚北衆の下越地方も強制的に検地を行った。

 検地を行っただけでなく、新潟湊を支配するのに必要な城館を奪った。
 隙を見せたら襲って来る、新発田氏や五十公野氏等を強制的に領地替えした。

 俺が伊達と蘆名に圧勝していなければ、籠城したかもしれない。
 敵対した者を奴隷にする苛烈な処分をしていなければ、城を枕に討死したかもしれないが、今回は涙を呑んで領地替えを受け入れた。

 揚北衆は加賀に領地を移した。
 中条との戦いで奪った半知は、伊達との戦いの功名を理由に返してやった。
 晴景兄上に逆らう前から持っていた領地と同じ石高を加賀に与えてやった。
 
「父上や兄上に逆らい続けたお前達をこのままにはできない。
 お前達は勇猛果敢なので、百万の兵を持っていても安心できない。
 お前達の力を認めるからこそ、本貫地から切り離して加賀に領地を与えるのだ。
 これは、お前達に領地を切り取る機会を与える為でもある。
 本貫地にいたままでは、危険で新たな領地を与えられない。
 加賀なら越前と飛騨、切り取れる地が目の前にある」

 俺は強制的に領地替えした揚北衆の目先を変えた。
 圧倒的な力を持つ俺を恨み続けるより、勝てる相手から領地を奪った方が良い。
 そう思うように仕向けた。

「直ぐに戦いを始める気はない。
 三年だ、三年の間に七十万の奴隷と足軽で田畑を耕し兵糧を蓄える。
 五年分の兵糧が蓄えられたら、一気に天下を掴みに動く。
 お前達も、それまでの間に功名を手に入れられるようにしておけ」
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