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第一章:三条長尾家継承編
第41話:本庄城の合戦
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天文九年(1540)5月20日:越後春日山城:俺視点
年が変わり、俺の策が功を奏した。
本庄房長を始めとした揚北衆が中条藤資一派に襲い掛かった。
晴景兄上は仲裁しようとしたが、無駄だった。
本庄房長達は兄上を舐めているのだ。
伊達家から養嗣子を迎える事に賛成した兄上に怒っているのだ。
上杉定実の言い成りになって跡継ぎから下りた兄上を、腰抜けだと思っている。
晴景兄上は腰抜けな訳ではない、守護代のままで十分だと思っているだけだ。
これまで通り守護の権威を守ってこそ、三条長尾家が繫栄できると思っている。
守護代として越後を支配する方が、下剋上して守護に成るよりも、叛乱もなく堅実に越後を治められると判断したのだ。
戦国乱世でなければ、兄上の考えの方が死ぬ人間は少ないだろう。
だが、人の心が荒み、少しでも隙を見つけたら下剋上する世の中だ。
配下の国人に弱いと思われては、国を治められない。
晴景兄上は、長尾為景が幽閉していた上杉定実を自由にした。
だが上杉定実は、感謝する事なく兄上を滅ぼそうとしている。
三条長尾家の力を奪い、守護の実権を取り戻そうとした上杉定実は、伊達稙宗に援軍を求めた。
恥も外聞もなく形振り構わず援軍を求めたが、それは中条藤資も同じだった。
長尾為景に敗れて名声を地に落し、領地を削られ力を失った中条藤資だ。
焦っていたのだろうが、全てを取り返そうして馬鹿な真似をした。
中条藤資は長尾為景に負けて、そこそこの広さの領地を奪われた。
長尾為景は、中条藤資から奪った領地を味方してくれた揚北衆に与えた。
その領地を伊達稙宗の力を背景に奪い返そうとした。
伊達家が完全に越後を支配してからやればいいのに、待てなかった。
養嗣子の伊達時宗丸と軍勢が、まだ越後に来ていないのに奪い返そうとした。
伊達時宗丸が揚北衆の領地を安堵する前に取り返したかったのだろう。
時宗丸が馬鹿でない限り、幾ら身内とはいえ、中条藤資を優遇し過ぎて全揚北衆を敵に回したりしない。
中条藤資の身勝手な行いに、このままでは元々の領地まで奪われると思った揚北衆が一斉に叛乱を起こした。
上杉定実と中条藤資に助けを求められた伊達稙宗は、多くの雪が残る国境を強行して越後に侵攻しようとした。
上杉定実に命じられた晴景兄上も、本庄房長達を討伐すべく出陣した。
史実では、まだ実権を握っていた長尾為景が晴景兄上に方針を変更させている。
最初は伊達時宗丸を養子に迎えるのを賛成していた晴景兄上が、反対派に転向して多数派の心を掴み、揚北衆を分裂させ力を奪う事に成功した。
だがこの世界では、三条長尾家の実権を握っているのは長尾為景ではなく俺だ。
伊達家が力を失う程度では終わらせない。
上杉謙信が台頭する切っ掛けも与えない。
晴景兄上と伊達稙宗、先に揚北衆が蟠踞する下越についたのは兄上だった。
兄上が率いるのは、三条長尾家譜代でも兄上を慕う者達と日和見な国人達。
戦国大名の軍勢とは言えない、守護代が動員できる数と編制の軍勢だ。
俺が個人的に手に入れた財源は、兄上には使えない。
奴隷兵や足軽による兵力増がほとんどない。
国人衆や地侍が独自の判断で連れて来た兵力に頼る、旧来の軍勢なのだ。
だが、俺が導入した三年五作による石高の増加は、兄上の直轄領や味方の領地にも良い影響を与えているから、それなりには兵力が増えている。
だから五百騎五千兵の大兵力を集める事ができた。
これは二十万石の戦国大名が動員できる兵力だ。
越後の下越全域と中越の半分を支配できていない状況でよく集まった。
晴景兄上の出陣と伊達稙宗の侵攻を知った本庄房長達は、中条藤資が籠る鳥坂城の包囲を解いてそれぞれの居城に籠城した。
敵が晴景兄上か伊達稙宗だけだったら、勇猛果敢な揚北衆は野戦を挑んだかもしれないが、敵は守護大名級の兵力を率いる二個軍だ。
野戦では勝ち目がないと判断して籠城を選ぶのは当然だ。
この戦場に伊達稙宗本人がいたら、この後の状況は変わっていただろう。
合戦ではなく、婚姻政策で勢力を広げた伊達稙宗らしい判断をしただろう。
だがこの合戦の現場に伊達稙宗はいなかった。
伊達稙宗が越後侵攻に送ってきた軍は、伊達領に残しておくと謀叛を起こしかねない、国人の中でも独立独歩を望む連中だった。
機会を捕らえて伊達家の力を削ぎたいと狙っている連中だった。
伊達稙宗が中野、桑折、牧野といった連中に言ったのだ。
謀叛を起こした揚北衆の領地なら切り取り自由。
そういう餌を蒔いて集めた軍勢、五百騎五千兵だった。
伊達軍は、晴景兄上が本庄房長の居城、本庄城を包囲している背後に現れた。
兄上と共に本庄城を包囲していた中条藤資は、これを好機と考えた。
伊達勢と共に兄上を襲い殺し、越後守護代に成ろうとした。
越中で兄上の背中を守っているはずの俺は、加賀にいて直ぐに駆けつけられない。
俺が駆けつける前に兄上を殺しておけば、伊達勢という味方がいれば、俺にも勝てると判断したのだろうが、愚かすぎる。
伊達勢を率いている小梁川親宗は、最初は中条藤資の言葉を無視した。
小梁川親宗は、俺と長尾為景の力を警戒したのだと思う。
俺は越中、加賀、能登を切り取り、畿内で勇名を馳せている。
長尾為景は、越後守護と関東管領を殺した梟雄だ。
中条藤資ごときに乗せられて、軽々しく敵にできる相手ではない。
だがここに上杉定実の手紙が届いた。
『奸臣長尾晴景を討って時宗丸の危険を取り除け』という手紙が届いてしまった。
結局、小梁川親宗は中条藤資と共に晴景兄上を奇襲しようとした。
俺は晴景兄上を見殺しにする気がない。
兄上を敵に殺させて、自分の手を汚さずに三条長尾家の当主に成る気も無い。
そんな汚い手を使わなくても、当主の座くらい実力で手に入れられる。
長尾の家名に拘る事無く、新たな家を興すだけの力もある。
ただ、晴景兄上に戦国大名として生きて行ける実力があるのか?
それを確かめないと今後の方針が立てられない。
だからぎりぎりまで我慢して見守った。
「左衛門尉様、伊達と中条が裏切りました。
玄清様が左衛門尉様を討てと密使を送られたのです。
急いで戦の準備をされてください」
俺は晴景兄上を守るための密偵を配置していた。
暗殺者や裏切者が現れたら、直ぐに兄上の知らせろと命じてあった。
だから伊達勢は夜陰に乗じて奇襲する事ができなかった。
俺が兄上の状況だったら、ここで逆に奇襲を仕掛ける。
伊達勢の不意を突いて大損害を与え、味方の負傷者を出さない勝利を選ぶ。
だが兄上は……
「伊達家の方々に物申す、吾は越後上杉家の家臣なり。
玄清様と時宗丸様を害する事は絶対にない。
玄清様に信じていただけない不徳は恥じ入るばかりだが、だからといって黙って討たれる気はない。
夜襲などという卑怯な真似はやめられよ、夜明けとともに正々堂々戦おう!」
兄上は誇り高すぎる。
源平時代の武士、或いは鎌倉時代の武士なら褒め称えられたかもしれない。
だが、戦国乱世の大名としては失格だ。
「分かり申した、明日、朝日とともに戦を始めようぞ!」
奥羽の武将は、まだ戦国乱世の洗礼を受けていないのだと思う。
晴景兄上の口上を受けて夜明けとともに合戦を始めた。
両軍の武将が、己の名誉と命を賭けてぶつかった。
三条長尾家譜代の家臣達は獅子奮迅の活躍をした。
裏切ってくれたら粛清できると思っていた、古志長尾家も良く戦った。
それは伊達家の武士達も同じだった、死力を尽くして戦った。
だが、中条藤資は晴景兄上や伊達家の武士と違って卑怯だった。
夜の間に晴景兄上の背後に廻っていたのだ。
伊達勢と正々堂々の戦いが始まったため、晴景兄上達には油断があった。
俺の密偵が中条藤資の動きを伝えたが、後方に抑えの兵を置くだけだった。
実際に背後から襲われた時に、百姓兵や地侍が受ける恐怖感を軽く見ていた。
「かかれ、奇襲が成功したぞ、晴景の首を取れば恩賞は望みのままぞ!」
中条藤資の言葉に、藤資の家臣達は奮起した。
奇襲で背後を襲うから絶対に勝てる、と思っているのも戦意高揚につながった。
それに比べて、正々堂々の合戦の心算が背後襲われた兄上の兵は動揺した。
兄上や国人達は背後に中条藤資がいるのを知っていたが、地侍と兵は知らない。
『奇襲された、負ける、殺される』と思った地侍と兵は逃げた。
裏崩れが起こり、正面で戦っている武将達も動揺して崩れた。
晴景兄上の本陣まで伊達勢が襲い掛かった。
三条長尾家の譜代衆は必死で兄上を守った。
特に胎田秀忠は全身傷だらけになりながら兄上を守り抜いた。
だが、長尾勢は背後の味方が次々と逃げ出す状況だ。
その場に踏みとどまっても伊達勢に囲まれて討ち取られるしかない。
三条長尾家の譜代衆は兄上を守って戦場を逃げ出した。
だが、最後に勝負の帰趨を決めたのは本庄房長だった。
自分達を包囲していた長尾勢と伊達勢が、城から少し離れた場所で同士討ちを始めたのだ。
どちらかが勝っても自分達は包囲され続ける。
万が一和睦などされたら取り返しがつかなくなる。
だから本庄房長は何も迷わず即座に城から討ってでた。
「天祐我にあり、上杉家を乗っ取る伊達を許すな!」
「「「「「おう!」」」」」
勝利を確信していた伊達勢の背後を、本庄房長の家臣領民が襲い掛かった。
敗北を覚悟していた本庄勢は起死回生の好機に奮い立った。
死力を尽くした戦い勝利を確信していた所に、背後から奇襲をかけられた伊達勢の動揺は激しかった。
長尾勢と同じように、裏崩れを起こして軍が崩壊した。
国人それぞれが勝手に領地に逃げ戻ってしまった。
最後に残ったのは本庄勢だけだった。
そういう報告を、俺は占領した春日山城で受けた。
年が変わり、俺の策が功を奏した。
本庄房長を始めとした揚北衆が中条藤資一派に襲い掛かった。
晴景兄上は仲裁しようとしたが、無駄だった。
本庄房長達は兄上を舐めているのだ。
伊達家から養嗣子を迎える事に賛成した兄上に怒っているのだ。
上杉定実の言い成りになって跡継ぎから下りた兄上を、腰抜けだと思っている。
晴景兄上は腰抜けな訳ではない、守護代のままで十分だと思っているだけだ。
これまで通り守護の権威を守ってこそ、三条長尾家が繫栄できると思っている。
守護代として越後を支配する方が、下剋上して守護に成るよりも、叛乱もなく堅実に越後を治められると判断したのだ。
戦国乱世でなければ、兄上の考えの方が死ぬ人間は少ないだろう。
だが、人の心が荒み、少しでも隙を見つけたら下剋上する世の中だ。
配下の国人に弱いと思われては、国を治められない。
晴景兄上は、長尾為景が幽閉していた上杉定実を自由にした。
だが上杉定実は、感謝する事なく兄上を滅ぼそうとしている。
三条長尾家の力を奪い、守護の実権を取り戻そうとした上杉定実は、伊達稙宗に援軍を求めた。
恥も外聞もなく形振り構わず援軍を求めたが、それは中条藤資も同じだった。
長尾為景に敗れて名声を地に落し、領地を削られ力を失った中条藤資だ。
焦っていたのだろうが、全てを取り返そうして馬鹿な真似をした。
中条藤資は長尾為景に負けて、そこそこの広さの領地を奪われた。
長尾為景は、中条藤資から奪った領地を味方してくれた揚北衆に与えた。
その領地を伊達稙宗の力を背景に奪い返そうとした。
伊達家が完全に越後を支配してからやればいいのに、待てなかった。
養嗣子の伊達時宗丸と軍勢が、まだ越後に来ていないのに奪い返そうとした。
伊達時宗丸が揚北衆の領地を安堵する前に取り返したかったのだろう。
時宗丸が馬鹿でない限り、幾ら身内とはいえ、中条藤資を優遇し過ぎて全揚北衆を敵に回したりしない。
中条藤資の身勝手な行いに、このままでは元々の領地まで奪われると思った揚北衆が一斉に叛乱を起こした。
上杉定実と中条藤資に助けを求められた伊達稙宗は、多くの雪が残る国境を強行して越後に侵攻しようとした。
上杉定実に命じられた晴景兄上も、本庄房長達を討伐すべく出陣した。
史実では、まだ実権を握っていた長尾為景が晴景兄上に方針を変更させている。
最初は伊達時宗丸を養子に迎えるのを賛成していた晴景兄上が、反対派に転向して多数派の心を掴み、揚北衆を分裂させ力を奪う事に成功した。
だがこの世界では、三条長尾家の実権を握っているのは長尾為景ではなく俺だ。
伊達家が力を失う程度では終わらせない。
上杉謙信が台頭する切っ掛けも与えない。
晴景兄上と伊達稙宗、先に揚北衆が蟠踞する下越についたのは兄上だった。
兄上が率いるのは、三条長尾家譜代でも兄上を慕う者達と日和見な国人達。
戦国大名の軍勢とは言えない、守護代が動員できる数と編制の軍勢だ。
俺が個人的に手に入れた財源は、兄上には使えない。
奴隷兵や足軽による兵力増がほとんどない。
国人衆や地侍が独自の判断で連れて来た兵力に頼る、旧来の軍勢なのだ。
だが、俺が導入した三年五作による石高の増加は、兄上の直轄領や味方の領地にも良い影響を与えているから、それなりには兵力が増えている。
だから五百騎五千兵の大兵力を集める事ができた。
これは二十万石の戦国大名が動員できる兵力だ。
越後の下越全域と中越の半分を支配できていない状況でよく集まった。
晴景兄上の出陣と伊達稙宗の侵攻を知った本庄房長達は、中条藤資が籠る鳥坂城の包囲を解いてそれぞれの居城に籠城した。
敵が晴景兄上か伊達稙宗だけだったら、勇猛果敢な揚北衆は野戦を挑んだかもしれないが、敵は守護大名級の兵力を率いる二個軍だ。
野戦では勝ち目がないと判断して籠城を選ぶのは当然だ。
この戦場に伊達稙宗本人がいたら、この後の状況は変わっていただろう。
合戦ではなく、婚姻政策で勢力を広げた伊達稙宗らしい判断をしただろう。
だがこの合戦の現場に伊達稙宗はいなかった。
伊達稙宗が越後侵攻に送ってきた軍は、伊達領に残しておくと謀叛を起こしかねない、国人の中でも独立独歩を望む連中だった。
機会を捕らえて伊達家の力を削ぎたいと狙っている連中だった。
伊達稙宗が中野、桑折、牧野といった連中に言ったのだ。
謀叛を起こした揚北衆の領地なら切り取り自由。
そういう餌を蒔いて集めた軍勢、五百騎五千兵だった。
伊達軍は、晴景兄上が本庄房長の居城、本庄城を包囲している背後に現れた。
兄上と共に本庄城を包囲していた中条藤資は、これを好機と考えた。
伊達勢と共に兄上を襲い殺し、越後守護代に成ろうとした。
越中で兄上の背中を守っているはずの俺は、加賀にいて直ぐに駆けつけられない。
俺が駆けつける前に兄上を殺しておけば、伊達勢という味方がいれば、俺にも勝てると判断したのだろうが、愚かすぎる。
伊達勢を率いている小梁川親宗は、最初は中条藤資の言葉を無視した。
小梁川親宗は、俺と長尾為景の力を警戒したのだと思う。
俺は越中、加賀、能登を切り取り、畿内で勇名を馳せている。
長尾為景は、越後守護と関東管領を殺した梟雄だ。
中条藤資ごときに乗せられて、軽々しく敵にできる相手ではない。
だがここに上杉定実の手紙が届いた。
『奸臣長尾晴景を討って時宗丸の危険を取り除け』という手紙が届いてしまった。
結局、小梁川親宗は中条藤資と共に晴景兄上を奇襲しようとした。
俺は晴景兄上を見殺しにする気がない。
兄上を敵に殺させて、自分の手を汚さずに三条長尾家の当主に成る気も無い。
そんな汚い手を使わなくても、当主の座くらい実力で手に入れられる。
長尾の家名に拘る事無く、新たな家を興すだけの力もある。
ただ、晴景兄上に戦国大名として生きて行ける実力があるのか?
それを確かめないと今後の方針が立てられない。
だからぎりぎりまで我慢して見守った。
「左衛門尉様、伊達と中条が裏切りました。
玄清様が左衛門尉様を討てと密使を送られたのです。
急いで戦の準備をされてください」
俺は晴景兄上を守るための密偵を配置していた。
暗殺者や裏切者が現れたら、直ぐに兄上の知らせろと命じてあった。
だから伊達勢は夜陰に乗じて奇襲する事ができなかった。
俺が兄上の状況だったら、ここで逆に奇襲を仕掛ける。
伊達勢の不意を突いて大損害を与え、味方の負傷者を出さない勝利を選ぶ。
だが兄上は……
「伊達家の方々に物申す、吾は越後上杉家の家臣なり。
玄清様と時宗丸様を害する事は絶対にない。
玄清様に信じていただけない不徳は恥じ入るばかりだが、だからといって黙って討たれる気はない。
夜襲などという卑怯な真似はやめられよ、夜明けとともに正々堂々戦おう!」
兄上は誇り高すぎる。
源平時代の武士、或いは鎌倉時代の武士なら褒め称えられたかもしれない。
だが、戦国乱世の大名としては失格だ。
「分かり申した、明日、朝日とともに戦を始めようぞ!」
奥羽の武将は、まだ戦国乱世の洗礼を受けていないのだと思う。
晴景兄上の口上を受けて夜明けとともに合戦を始めた。
両軍の武将が、己の名誉と命を賭けてぶつかった。
三条長尾家譜代の家臣達は獅子奮迅の活躍をした。
裏切ってくれたら粛清できると思っていた、古志長尾家も良く戦った。
それは伊達家の武士達も同じだった、死力を尽くして戦った。
だが、中条藤資は晴景兄上や伊達家の武士と違って卑怯だった。
夜の間に晴景兄上の背後に廻っていたのだ。
伊達勢と正々堂々の戦いが始まったため、晴景兄上達には油断があった。
俺の密偵が中条藤資の動きを伝えたが、後方に抑えの兵を置くだけだった。
実際に背後から襲われた時に、百姓兵や地侍が受ける恐怖感を軽く見ていた。
「かかれ、奇襲が成功したぞ、晴景の首を取れば恩賞は望みのままぞ!」
中条藤資の言葉に、藤資の家臣達は奮起した。
奇襲で背後を襲うから絶対に勝てる、と思っているのも戦意高揚につながった。
それに比べて、正々堂々の合戦の心算が背後襲われた兄上の兵は動揺した。
兄上や国人達は背後に中条藤資がいるのを知っていたが、地侍と兵は知らない。
『奇襲された、負ける、殺される』と思った地侍と兵は逃げた。
裏崩れが起こり、正面で戦っている武将達も動揺して崩れた。
晴景兄上の本陣まで伊達勢が襲い掛かった。
三条長尾家の譜代衆は必死で兄上を守った。
特に胎田秀忠は全身傷だらけになりながら兄上を守り抜いた。
だが、長尾勢は背後の味方が次々と逃げ出す状況だ。
その場に踏みとどまっても伊達勢に囲まれて討ち取られるしかない。
三条長尾家の譜代衆は兄上を守って戦場を逃げ出した。
だが、最後に勝負の帰趨を決めたのは本庄房長だった。
自分達を包囲していた長尾勢と伊達勢が、城から少し離れた場所で同士討ちを始めたのだ。
どちらかが勝っても自分達は包囲され続ける。
万が一和睦などされたら取り返しがつかなくなる。
だから本庄房長は何も迷わず即座に城から討ってでた。
「天祐我にあり、上杉家を乗っ取る伊達を許すな!」
「「「「「おう!」」」」」
勝利を確信していた伊達勢の背後を、本庄房長の家臣領民が襲い掛かった。
敗北を覚悟していた本庄勢は起死回生の好機に奮い立った。
死力を尽くした戦い勝利を確信していた所に、背後から奇襲をかけられた伊達勢の動揺は激しかった。
長尾勢と同じように、裏崩れを起こして軍が崩壊した。
国人それぞれが勝手に領地に逃げ戻ってしまった。
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