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第一章:三条長尾家継承編
第18話:論功行賞
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天文五年(1936)4月2日:越後国春日山城:俺視点
「父上、鶴千代兄上と竜千代兄上は京都の寺に預けましょう」
「そこまでする必要があるのか?」
長尾為景ともあろう者が、甘い事だ。
上田長尾家は、当主と跡継ぎを討取って潰したが家臣は残っている。
そいつらが何時鶴千代を担ぎだすか分からないのだぞ。
俺が思っていたよりも家族愛が有るのか?
それとも、敵対勢力を一掃できたと勘違いしているのか?
確かに大勝利はしたが、少しでも勢力が落ちたら狙ってくるのが国人だぞ!
「説明する必要がありますか?」
「分かっておる、上田長尾家の一族一門を根絶やしにできたわけではない。
千坂家も領地の一部は取り上げたが、まだ力を残している。
連中の神輿になる者は、全て越後から追い払えと言うのであろう」
「その通りでございます」
「一番邪魔なのは、晴景ではないのか?」
「父上!」
「分かった、分かった、分かっておる。
殿と晴景を隠居させてしまったら、悪い評判がたつと言いたいのであろう。
帝は清廉潔白な方だからな、私敵治罰の綸旨を与えた者が、戦に勝って主君と兄を追放したと知られたら、錦の御旗と綸旨を返上せよと申されるかもしれぬ」
「分かっておられるのなら冗談はやめてください」
「だがどうする、殿を自由にしたら、必ず我が家を潰そうとするぞ。
大人しい晴景では、殿も国人衆も抑えられぬぞ。
最悪の場合は、佞臣に操られて傀儡に成り下がるぞ」
「殿には好きにして頂いて、まだ残っている敵を炙り出していただきます」
今言ったのは建前で、本当はできるだけ史実に従った行動をしてもらいたいのだ。
「まだ潰し足らないと申すのか?」
「上田長尾家を潰せたのは大きいですが、揚北衆が残っております。
今回も結束が強くて、徹底した処罰ができませんでした。
下手に強行すると、蘆名に寝返りかねませんでした。
殿には彼らが割れるように動いていただきます」
「ほう、どのようにして揚北衆を割るのだ?」
「殿には男子がおられません。
父上との約束では、晴景兄上が越後守護に就く事になっておりました。
ですがそれは、殿の本意ではありますまい。
必ず別の上杉家から養子を迎えたいと言い出します」
史実通りなら、他の上杉家ではなく伊達家から養子を迎えたいと言うはずだ。
だがその事で、結束が強かった揚北衆が割れて抗争を始める。
上杉定実を強制隠居させるのは、その後で良い。
その頃には、帝の心をもっと強くつかめているはずだ。
「くっくっくっくっ、儂と同じ手を考えておったか、悪よのう。
晴景では上手くやれぬと思っていたが、お前なら情け容赦なくやれる。
だがそうなると、家臣領民の心は更にお前に傾くぞ」
「何度も申し上げますが、兄弟で争うような愚かな真似はしません。
兄上を傀儡にしようとする家臣の方を叩き潰します。
私を担ぎ上げようとする者が多かったら……兄上には京に上っていただきます。
帝を守る御役目もあれば、将軍家を助ける御役目もあるでしょう。
昔から守護は京にいて、領国は守護代が治めるものです。
私には領地に縛られない奴隷兵が一万四千もいるのです。
その一部を兄上につけて京に上らせましょう」
長尾為景には一万四千兵と言ったが、大型関船の水主や護衛をしている者を合わせれば、二万六千を越えるだろう。
俺がこれだけ多くの奴隷を買ったせいで、日本中の奴隷価格が高騰している。
それでも日本中で戦が頻発しているせいで、奴隷にされる者はいなくならない。
思っていたよりも多くの利益を上げられたから、少々高くても奴隷を買う。
南蛮に売られる者を少しでも減らしたい!
「分かった、だったら虎千代はどうする?
虎千代の後ろ盾になっている古志長尾家は、今回の戦いで更に力をつけた。
お前と晴景を亡き者にして、まだ幼い虎千代を傀儡にしかねんぞ。
特にお前が京に行っている間に動かれたら、どうにもならないぞ」
「晴景兄上には傅役の胎田久三郎がいます。
久三郎なら命懸けで兄上を守ってくれます」
胎田久三郎、長尾為景に能力を評価され、性格を信頼された男。
今はまだ胎田だが、後に越後守護上杉家の名門、黒田長門守の養嗣子となる。
それほどの男が、何故か晴景の弟である長尾景康・長尾景房らを殺害している。
だが、上杉謙信が討伐に来たら抵抗する事なく降伏している。
二人の弟を殺された晴景が、助命嘆願しているのもおかしい。
胎田久三郎、謀叛を起こした時には黒田和泉守秀忠となっていたが、謀叛を起こす前に自分だけでなく一族全員の生前供養をしている。
上杉謙信は一度許した黒田和泉守を一年も経たない内に一族皆殺しにしている。
その直ぐ後で兄の晴景から実権を奪っている。
己の意志でやったのか、それとも古志長尾家に操られてやったのか?
どちらにしても、とても義を口にする人間のやり方ではない!
転生してからの晴景兄上と胎田久三郎の主従関係、兄達の実家がやってきた事を考えれば、次兄と三兄の実家は晴景兄上を亡き者にしようとしたのだろう。
それを黒田和泉守となった胎田久三郎が先手を打って殺したのだ。
だが、それを好機を考えた古志長尾家が上杉謙信を担ぎだした。
忠臣の命だけでも救いたい晴景兄上は、謙信に家督を譲る事を条件に黒田和泉守を守ったのだと思う。
だが、謙信はその約束を踏みにじった!
あくまでも想像でしかないが、転生前に調べた資料と転生後の現実をみると、そうとしか思えない。
「久三郎は忠誠心も実力もあるが、独りで晴景を守り切れるのか?
譜代衆の総意だけでなく、地侍や百姓もお前を主君に願っているのだぞ?」
「先ほど私が言った事を、全ての譜代衆に話しましょう。
どうしても晴景兄上では頼りないと言うのでしたら、忠臣が死ななくても良いように、京に行っていただくと伝えておくのです」
「確かに、京に送る話を聞いていれば、長年助けあい、肩を並べ背中を預けて戦ってきた、譜代同士で殺し合おうとは思わないだろう。
問題は古志長尾とまだ敵意を持っている上杉の連中が絡んできた場合だな」
「父上が兄上の後見をされている間は何の問題もありません。
ただ、武家ならば何時自分が死んでも良いようにしておくべきでしょう。
兄上の後見に、新保孫左衛門尉、直江大和守、黒川備前守、安田治部少輔、山吉丹波守をつけましょう。
彼らならば、越後の中で争う事の愚かさを理解しています。
山吉丹波守がいれば、何か事を起こす前に私に相談してくれます」
「そうだな、それだけの後見人をつければ何とかなるだろう。
それで、お前はどうするのだ?」
「父上から越中新川郡の分郡守護代職を譲っていただきます。
その上で、大村城を始めとした岩瀬湊周辺の城を完全に支配下に置き、越中を切り取る準備をします」
「面白い、良い機会だ、越後守護代職も晴景に譲ってやろう。
儂が元気なうちに守護代職を経験させてやった方が良いだろう」
その後も長尾為景と突っ込んだ話をした。
誰に褒美を与えて誰に罰を与えるのか、私心を無くして決めた。
前世の知識を使って、将来化けそうな敵の部下を取立てた。
特に代々古志長尾家に仕えている小嶋家の弥太郎は、開墾した土地五百貫を褒美に与えただけでなく、自ら館を訪ねて家臣になってくれるように口説いた。
「父上、鶴千代兄上と竜千代兄上は京都の寺に預けましょう」
「そこまでする必要があるのか?」
長尾為景ともあろう者が、甘い事だ。
上田長尾家は、当主と跡継ぎを討取って潰したが家臣は残っている。
そいつらが何時鶴千代を担ぎだすか分からないのだぞ。
俺が思っていたよりも家族愛が有るのか?
それとも、敵対勢力を一掃できたと勘違いしているのか?
確かに大勝利はしたが、少しでも勢力が落ちたら狙ってくるのが国人だぞ!
「説明する必要がありますか?」
「分かっておる、上田長尾家の一族一門を根絶やしにできたわけではない。
千坂家も領地の一部は取り上げたが、まだ力を残している。
連中の神輿になる者は、全て越後から追い払えと言うのであろう」
「その通りでございます」
「一番邪魔なのは、晴景ではないのか?」
「父上!」
「分かった、分かった、分かっておる。
殿と晴景を隠居させてしまったら、悪い評判がたつと言いたいのであろう。
帝は清廉潔白な方だからな、私敵治罰の綸旨を与えた者が、戦に勝って主君と兄を追放したと知られたら、錦の御旗と綸旨を返上せよと申されるかもしれぬ」
「分かっておられるのなら冗談はやめてください」
「だがどうする、殿を自由にしたら、必ず我が家を潰そうとするぞ。
大人しい晴景では、殿も国人衆も抑えられぬぞ。
最悪の場合は、佞臣に操られて傀儡に成り下がるぞ」
「殿には好きにして頂いて、まだ残っている敵を炙り出していただきます」
今言ったのは建前で、本当はできるだけ史実に従った行動をしてもらいたいのだ。
「まだ潰し足らないと申すのか?」
「上田長尾家を潰せたのは大きいですが、揚北衆が残っております。
今回も結束が強くて、徹底した処罰ができませんでした。
下手に強行すると、蘆名に寝返りかねませんでした。
殿には彼らが割れるように動いていただきます」
「ほう、どのようにして揚北衆を割るのだ?」
「殿には男子がおられません。
父上との約束では、晴景兄上が越後守護に就く事になっておりました。
ですがそれは、殿の本意ではありますまい。
必ず別の上杉家から養子を迎えたいと言い出します」
史実通りなら、他の上杉家ではなく伊達家から養子を迎えたいと言うはずだ。
だがその事で、結束が強かった揚北衆が割れて抗争を始める。
上杉定実を強制隠居させるのは、その後で良い。
その頃には、帝の心をもっと強くつかめているはずだ。
「くっくっくっくっ、儂と同じ手を考えておったか、悪よのう。
晴景では上手くやれぬと思っていたが、お前なら情け容赦なくやれる。
だがそうなると、家臣領民の心は更にお前に傾くぞ」
「何度も申し上げますが、兄弟で争うような愚かな真似はしません。
兄上を傀儡にしようとする家臣の方を叩き潰します。
私を担ぎ上げようとする者が多かったら……兄上には京に上っていただきます。
帝を守る御役目もあれば、将軍家を助ける御役目もあるでしょう。
昔から守護は京にいて、領国は守護代が治めるものです。
私には領地に縛られない奴隷兵が一万四千もいるのです。
その一部を兄上につけて京に上らせましょう」
長尾為景には一万四千兵と言ったが、大型関船の水主や護衛をしている者を合わせれば、二万六千を越えるだろう。
俺がこれだけ多くの奴隷を買ったせいで、日本中の奴隷価格が高騰している。
それでも日本中で戦が頻発しているせいで、奴隷にされる者はいなくならない。
思っていたよりも多くの利益を上げられたから、少々高くても奴隷を買う。
南蛮に売られる者を少しでも減らしたい!
「分かった、だったら虎千代はどうする?
虎千代の後ろ盾になっている古志長尾家は、今回の戦いで更に力をつけた。
お前と晴景を亡き者にして、まだ幼い虎千代を傀儡にしかねんぞ。
特にお前が京に行っている間に動かれたら、どうにもならないぞ」
「晴景兄上には傅役の胎田久三郎がいます。
久三郎なら命懸けで兄上を守ってくれます」
胎田久三郎、長尾為景に能力を評価され、性格を信頼された男。
今はまだ胎田だが、後に越後守護上杉家の名門、黒田長門守の養嗣子となる。
それほどの男が、何故か晴景の弟である長尾景康・長尾景房らを殺害している。
だが、上杉謙信が討伐に来たら抵抗する事なく降伏している。
二人の弟を殺された晴景が、助命嘆願しているのもおかしい。
胎田久三郎、謀叛を起こした時には黒田和泉守秀忠となっていたが、謀叛を起こす前に自分だけでなく一族全員の生前供養をしている。
上杉謙信は一度許した黒田和泉守を一年も経たない内に一族皆殺しにしている。
その直ぐ後で兄の晴景から実権を奪っている。
己の意志でやったのか、それとも古志長尾家に操られてやったのか?
どちらにしても、とても義を口にする人間のやり方ではない!
転生してからの晴景兄上と胎田久三郎の主従関係、兄達の実家がやってきた事を考えれば、次兄と三兄の実家は晴景兄上を亡き者にしようとしたのだろう。
それを黒田和泉守となった胎田久三郎が先手を打って殺したのだ。
だが、それを好機を考えた古志長尾家が上杉謙信を担ぎだした。
忠臣の命だけでも救いたい晴景兄上は、謙信に家督を譲る事を条件に黒田和泉守を守ったのだと思う。
だが、謙信はその約束を踏みにじった!
あくまでも想像でしかないが、転生前に調べた資料と転生後の現実をみると、そうとしか思えない。
「久三郎は忠誠心も実力もあるが、独りで晴景を守り切れるのか?
譜代衆の総意だけでなく、地侍や百姓もお前を主君に願っているのだぞ?」
「先ほど私が言った事を、全ての譜代衆に話しましょう。
どうしても晴景兄上では頼りないと言うのでしたら、忠臣が死ななくても良いように、京に行っていただくと伝えておくのです」
「確かに、京に送る話を聞いていれば、長年助けあい、肩を並べ背中を預けて戦ってきた、譜代同士で殺し合おうとは思わないだろう。
問題は古志長尾とまだ敵意を持っている上杉の連中が絡んできた場合だな」
「父上が兄上の後見をされている間は何の問題もありません。
ただ、武家ならば何時自分が死んでも良いようにしておくべきでしょう。
兄上の後見に、新保孫左衛門尉、直江大和守、黒川備前守、安田治部少輔、山吉丹波守をつけましょう。
彼らならば、越後の中で争う事の愚かさを理解しています。
山吉丹波守がいれば、何か事を起こす前に私に相談してくれます」
「そうだな、それだけの後見人をつければ何とかなるだろう。
それで、お前はどうするのだ?」
「父上から越中新川郡の分郡守護代職を譲っていただきます。
その上で、大村城を始めとした岩瀬湊周辺の城を完全に支配下に置き、越中を切り取る準備をします」
「面白い、良い機会だ、越後守護代職も晴景に譲ってやろう。
儂が元気なうちに守護代職を経験させてやった方が良いだろう」
その後も長尾為景と突っ込んだ話をした。
誰に褒美を与えて誰に罰を与えるのか、私心を無くして決めた。
前世の知識を使って、将来化けそうな敵の部下を取立てた。
特に代々古志長尾家に仕えている小嶋家の弥太郎は、開墾した土地五百貫を褒美に与えただけでなく、自ら館を訪ねて家臣になってくれるように口説いた。
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