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第一章:三条長尾家継承編
第14話:初陣
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天文四年(1535)5月14日:信濃国善光寺平:俺視点
二月に後奈良天皇の即位式が行われた。
俺が前世の知識で造った新酒を百石献上した。
参加した公家全員が絶賛し、京で幻の酒と呼ばれているそうだ。
前世で読んでいた戦国仮想戦記のアイデアを使って、干支の朱塗り杯と塩も献上したので、それも内裏を中心に大評判になった。
日本酒、漆塗り、塩が越後上布に続く資金源になってくれそうだ。
長尾為景、大喜びして俺の背中を叩きやがった、幼い俺を殺す気か?!
全てが順調で、準備万端整えて初陣に望む事ができた。
予定通り、金剛峰寺の僧兵二千、園城寺の僧兵五百、足軽は予定以上の六千。
その全てが戸隠神社と善光寺を奪還するために信濃に攻め込んだ。
とは言っても、信濃の国人地侍の全てを敵にした訳ではない。
長年に渡り政略結婚を繰り返している高梨家と北信濃の国人地侍は味方だ。
俺達が叩きたいのは、戸隠神社と善光寺を不当に占領している栗田氏だけだ。
それと、三条長尾家譜代の家臣兵士と味方になった越後守護上杉家の家臣兵士は、上条定憲勢に備えて越後に残っている。
信濃に攻め込んだのは、俺が銭で買い集めた奴隷兵だけだ。
二十文や三十文で売られるような奴隷でも、練習させれば投石くらいはできる。
竹束で作った盾を持たせれば、恐怖に耐えてその場で踏ん張ってくれる。
戦いを恐れて逃げたとしても、飢えて野垂れ死にするしかないのが戦国乱世だ。
恐怖に耐えて俺の奴隷でいる限り、一日二回満腹に食べられる。
これまで満腹になるまで食べられた事が少ない奴隷達だ。
逃げるよりも恐怖に耐える方を選ぶ。
「我らは園城寺の僧兵である。
天台宗の教えを歪める悪党共め!
正しき教えを守る僧を殺し追い出した罪、許し難し!
素直に善光寺を明け渡すなら命だけは助けてやる、早々に出て行け!」
善光寺を取り返す大義名分、山門と寺門の争いにする。
これでこの戦いは三条長尾家の私戦ではなくなる。
「馬鹿を言え、我らこそ正しき教えに従っているのだ!
邪な教えに走った恥知らずめ、見逃してやるからさっさと失せろ!」
「おのれ、身の程知らず共が、かかれ、皆殺しにしろ!」
「「「「「おう!」」」」」
園城寺の僧兵五百を先頭に、高野山金剛峰寺の僧兵二千も助太刀に走る。
近衛稙家から紹介された公家と地下家のなかには、戦える者も少しいた。
武士になって立身出世を目指す者がいたのだ。
特に家侍、滝口武者、北面武士、衛士、六衛府、検非違使、内舎人、帯刀舎人、左右の馬寮に所属する地下家の者の中には、そこそこ戦える者がいた。
そんな者達に、戦う気概を見せた奴隷を指揮させていた。
園城寺と金剛峰寺の僧兵と一緒に戦わせた。
とは言っても、僧兵の後ろにつけて初陣を経験させただけだ。
などという俺自身も、この合戦が初陣だ。
恐怖と不安、興奮で武者震いしているのを自覚している。
俺の指揮で大勢の人間が死ぬのだ、震えるなという方が無理だ。
「御神体に傷つけられるものなら傷つけてみよ、仏罰が下るぞ!」
園城寺から派遣された僧兵の頭が、酒で焼けた濁声で叫ぶ。
僧兵独特の悪逆非道な戦い方だ。
神輿に御神体を乗せて敵が攻撃し難いようにする。
悪党と呼ばれるような武士や、神仏を自分の欲を満たす道具としか考えていない僧兵には通用しないが、信心深い地侍や百姓兵には効果が有る。
実際目に見えて善光寺に籠城した栗田勢の戦意が低下している。
それでも、自分が殺されるとなったら死に物狂いで抵抗するだろう。
「若狭守、神仏を敬う者は裏門から逃げろと言ってくれ。
裏門から逃げる者は見逃すと言ってくれ」
俺は後見人としてついてくれている山村若狭守に言った。
まだ幼い俺では、戦場中に声を響かせる事ができない。
歴戦の山村若狭守に代理してもらうしかない
俺の予想通りだった。
信濃国善光寺別当で栗田城の城主でもある、栗田刑部大輔永寿に無理矢理戦わされていた地侍と百姓兵が、裏門から逃げ出した。
誰か一人でも逃げると、自分も逃げたくなるのが人間の性だ。
野戦で言う所の裏崩れが起こり、栗田勢が一斉に逃げ出した。
とは言っても、野戦ではなく寺に籠っての籠城戦だ。
覚悟を持った一軍が塀を利用して守れば、攻め手にも犠牲がでる。
逃げる時に善光寺に放火されたら、再建に時間と銭がかかってしまう。
「逃げよ、宗家を頼ってもう一戦じゃ、今は逃げよ」
最悪の事態は避けられた。
自暴自棄になった栗田刑部大輔が、善光寺に放火する事を恐れていたが、そこまでやる覚悟はなかったようだ。
「御本尊を守れ、破戒僧に御本尊を奪われるな!」
俺の叫びを山村若狭守が大声で復唱してくれる。
園城寺の僧兵が顔色を変えて裏門に方に向かった。
栗田刑部大輔が御本尊を持ち逃げするとは思っていなかったのだろう。
俺は史実で知っていたから思いつくが、普通は考えないのだろう。
まあ、裏門には屈強な北面武士と滝口武者を向かわせてある。
武器を捨てて逃げる者は見逃すが、御本尊を抱えて逃げる者は捕らえてくれる。
電光石火の侵攻で、村上氏や栗田氏に護りを固めさせる事無く善光寺を囲めたから、無傷で寺を奪う事ができた。
「里栗田は追い払う事ができた、次は戸隠山勧修院顕光寺を取り返すぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
今度は高野山金剛峰寺の僧兵が誰よりも勇ましく叫ぶ。
彼らは顕光寺を取り返すために遠く越後までやってきたのだ。
俺は戸隠神社と呼んでしまうが、彼らには顕光寺と言わないといけない。
高野山金剛峰寺の僧兵は、顕光寺を比叡山延暦寺に奪われたと思っているのだ。
ここまで来れば戸隠神社を手に入れるのも難しくない。
村上氏が栗田氏のような一門を糾合して、近隣の国人も味方につけて、寺に籠り守りに徹したら簡単には奪えなかった。
だが、村上氏は栗田氏の援軍に間に合わなかった。
栗田氏も、当主こそ栗田刑部大輔が務めているが、寺領や利権は一族一門家臣で細分化されている。
善光寺の寺領や利権は、里栗田と言われる者達が持っている。
戸隠神社の寺領や利権は、山栗田と言われる者達が持っている。
彼らは他人のために戦うよりも、自分の事を優先する。
現に山栗田は善光寺が攻められているのに戸隠神社に籠っている。
見捨てられた里栗田が山栗田を助けるはずがない。
「若様、初陣お見事でございました」
「若狭守達が支えてくれたからだ。
私独りではこれほどの大軍を指図する事はできなかった」
「そんな事はございません、若様は立派な大将でございます。
これほどの大軍を手足の如く指図できる者は滅多におりません!」
こう正面から手放しに褒められると照れる。
それに、全部前世の知識があるからできる事で、俺が転生していない長尾内記ではできなかった事だろう。
「ありがとう、若狭守達の期待を裏切らないようにする」
二月に後奈良天皇の即位式が行われた。
俺が前世の知識で造った新酒を百石献上した。
参加した公家全員が絶賛し、京で幻の酒と呼ばれているそうだ。
前世で読んでいた戦国仮想戦記のアイデアを使って、干支の朱塗り杯と塩も献上したので、それも内裏を中心に大評判になった。
日本酒、漆塗り、塩が越後上布に続く資金源になってくれそうだ。
長尾為景、大喜びして俺の背中を叩きやがった、幼い俺を殺す気か?!
全てが順調で、準備万端整えて初陣に望む事ができた。
予定通り、金剛峰寺の僧兵二千、園城寺の僧兵五百、足軽は予定以上の六千。
その全てが戸隠神社と善光寺を奪還するために信濃に攻め込んだ。
とは言っても、信濃の国人地侍の全てを敵にした訳ではない。
長年に渡り政略結婚を繰り返している高梨家と北信濃の国人地侍は味方だ。
俺達が叩きたいのは、戸隠神社と善光寺を不当に占領している栗田氏だけだ。
それと、三条長尾家譜代の家臣兵士と味方になった越後守護上杉家の家臣兵士は、上条定憲勢に備えて越後に残っている。
信濃に攻め込んだのは、俺が銭で買い集めた奴隷兵だけだ。
二十文や三十文で売られるような奴隷でも、練習させれば投石くらいはできる。
竹束で作った盾を持たせれば、恐怖に耐えてその場で踏ん張ってくれる。
戦いを恐れて逃げたとしても、飢えて野垂れ死にするしかないのが戦国乱世だ。
恐怖に耐えて俺の奴隷でいる限り、一日二回満腹に食べられる。
これまで満腹になるまで食べられた事が少ない奴隷達だ。
逃げるよりも恐怖に耐える方を選ぶ。
「我らは園城寺の僧兵である。
天台宗の教えを歪める悪党共め!
正しき教えを守る僧を殺し追い出した罪、許し難し!
素直に善光寺を明け渡すなら命だけは助けてやる、早々に出て行け!」
善光寺を取り返す大義名分、山門と寺門の争いにする。
これでこの戦いは三条長尾家の私戦ではなくなる。
「馬鹿を言え、我らこそ正しき教えに従っているのだ!
邪な教えに走った恥知らずめ、見逃してやるからさっさと失せろ!」
「おのれ、身の程知らず共が、かかれ、皆殺しにしろ!」
「「「「「おう!」」」」」
園城寺の僧兵五百を先頭に、高野山金剛峰寺の僧兵二千も助太刀に走る。
近衛稙家から紹介された公家と地下家のなかには、戦える者も少しいた。
武士になって立身出世を目指す者がいたのだ。
特に家侍、滝口武者、北面武士、衛士、六衛府、検非違使、内舎人、帯刀舎人、左右の馬寮に所属する地下家の者の中には、そこそこ戦える者がいた。
そんな者達に、戦う気概を見せた奴隷を指揮させていた。
園城寺と金剛峰寺の僧兵と一緒に戦わせた。
とは言っても、僧兵の後ろにつけて初陣を経験させただけだ。
などという俺自身も、この合戦が初陣だ。
恐怖と不安、興奮で武者震いしているのを自覚している。
俺の指揮で大勢の人間が死ぬのだ、震えるなという方が無理だ。
「御神体に傷つけられるものなら傷つけてみよ、仏罰が下るぞ!」
園城寺から派遣された僧兵の頭が、酒で焼けた濁声で叫ぶ。
僧兵独特の悪逆非道な戦い方だ。
神輿に御神体を乗せて敵が攻撃し難いようにする。
悪党と呼ばれるような武士や、神仏を自分の欲を満たす道具としか考えていない僧兵には通用しないが、信心深い地侍や百姓兵には効果が有る。
実際目に見えて善光寺に籠城した栗田勢の戦意が低下している。
それでも、自分が殺されるとなったら死に物狂いで抵抗するだろう。
「若狭守、神仏を敬う者は裏門から逃げろと言ってくれ。
裏門から逃げる者は見逃すと言ってくれ」
俺は後見人としてついてくれている山村若狭守に言った。
まだ幼い俺では、戦場中に声を響かせる事ができない。
歴戦の山村若狭守に代理してもらうしかない
俺の予想通りだった。
信濃国善光寺別当で栗田城の城主でもある、栗田刑部大輔永寿に無理矢理戦わされていた地侍と百姓兵が、裏門から逃げ出した。
誰か一人でも逃げると、自分も逃げたくなるのが人間の性だ。
野戦で言う所の裏崩れが起こり、栗田勢が一斉に逃げ出した。
とは言っても、野戦ではなく寺に籠っての籠城戦だ。
覚悟を持った一軍が塀を利用して守れば、攻め手にも犠牲がでる。
逃げる時に善光寺に放火されたら、再建に時間と銭がかかってしまう。
「逃げよ、宗家を頼ってもう一戦じゃ、今は逃げよ」
最悪の事態は避けられた。
自暴自棄になった栗田刑部大輔が、善光寺に放火する事を恐れていたが、そこまでやる覚悟はなかったようだ。
「御本尊を守れ、破戒僧に御本尊を奪われるな!」
俺の叫びを山村若狭守が大声で復唱してくれる。
園城寺の僧兵が顔色を変えて裏門に方に向かった。
栗田刑部大輔が御本尊を持ち逃げするとは思っていなかったのだろう。
俺は史実で知っていたから思いつくが、普通は考えないのだろう。
まあ、裏門には屈強な北面武士と滝口武者を向かわせてある。
武器を捨てて逃げる者は見逃すが、御本尊を抱えて逃げる者は捕らえてくれる。
電光石火の侵攻で、村上氏や栗田氏に護りを固めさせる事無く善光寺を囲めたから、無傷で寺を奪う事ができた。
「里栗田は追い払う事ができた、次は戸隠山勧修院顕光寺を取り返すぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
今度は高野山金剛峰寺の僧兵が誰よりも勇ましく叫ぶ。
彼らは顕光寺を取り返すために遠く越後までやってきたのだ。
俺は戸隠神社と呼んでしまうが、彼らには顕光寺と言わないといけない。
高野山金剛峰寺の僧兵は、顕光寺を比叡山延暦寺に奪われたと思っているのだ。
ここまで来れば戸隠神社を手に入れるのも難しくない。
村上氏が栗田氏のような一門を糾合して、近隣の国人も味方につけて、寺に籠り守りに徹したら簡単には奪えなかった。
だが、村上氏は栗田氏の援軍に間に合わなかった。
栗田氏も、当主こそ栗田刑部大輔が務めているが、寺領や利権は一族一門家臣で細分化されている。
善光寺の寺領や利権は、里栗田と言われる者達が持っている。
戸隠神社の寺領や利権は、山栗田と言われる者達が持っている。
彼らは他人のために戦うよりも、自分の事を優先する。
現に山栗田は善光寺が攻められているのに戸隠神社に籠っている。
見捨てられた里栗田が山栗田を助けるはずがない。
「若様、初陣お見事でございました」
「若狭守達が支えてくれたからだ。
私独りではこれほどの大軍を指図する事はできなかった」
「そんな事はございません、若様は立派な大将でございます。
これほどの大軍を手足の如く指図できる者は滅多におりません!」
こう正面から手放しに褒められると照れる。
それに、全部前世の知識があるからできる事で、俺が転生していない長尾内記ではできなかった事だろう。
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