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第1章
第41話:遠慮と辞退
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ガニラス王国歴二七三年九月二日
王都・西地区・王都ダンジョン
田中実視点
「うそ、でしょう、擦り傷ですよ、偶然口の中に傷をつけただけですよ?!」
地下六十階で狩りを始めたその日、ヴィオレッタが唱えた攻撃魔術が、偶然タイミングが合い、更に幸運な事にドラゴンの口に入った。
強固な鱗と魔力に護られたドラゴンの体表に傷をつけられる騎士は、この国のどこを探してもいないだろうが、鱗に覆われていない口の中は別だった。
ヴィオレッタの身体がピカピカと光り輝いている。
ほんの少しドラゴンの口腔内を傷つけただけで、三十回も祝福された。
神々は余程ドラゴンが嫌いなのだろうか?
偶然だが、ヴィオレッタが手本と成果を見せた事で、全員のやる気が激増した。
伝説では誰も傷つけた事にないドラゴンが相手だと、擦り傷を付けただけで三十回も祝福されるのだから、やる気になるのは当然かもしれない。
全員が創意工夫して、俺が殲滅する前にドラゴンに擦り傷を付けようとする。
呪文に長短を付けて、ドラゴンの出現にタイミングを合わそうとする者。
できるだけ早く、間断なく呪文を唱える事でドラゴンの出現に合わせる者。
体表では擦り傷一つ付けられなので、ヴィオレッタと同じように口だけを狙う者もいれば、目玉や肛門を狙う者もいた。
三人寄れば文殊の知恵と言うが、総勢三〇人弱いるのだ。
知恵を出し合って、伝説のドラゴンに擦り傷を付ける方法を思いついた。
それぞれが、加護を下さって神様に細かくお願いするようになった。
「風の神達の主アネモイよ、どうか私の願いを御聞き入れ下さい。
御身を慕う民を御救い下さい。
御身が嫌うドラゴンに擦り傷を与えられるようにしてください。
御身が嫌うドラゴンの最も弱い場所に当ててください。
その為なら死ぬ直前まで魔力を使ってくださって構いません。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください。
ウィンド・コムプレッション・リインフォースメント・ランス」
限界ギリギリまで魔力を使い、狙いを神様にゆだねて最高の攻撃魔術を放つ。
自分で魔力を調節して狙うよりも確実にドラゴンに傷をつけられる。
そして、一度でも傷つけられたら、一気に三十回も祝福されて強くなる。
祝福されたら、身体能力も魔力も段違いに強くなる。
一度や二度の祝福なら少しの変化だが、流石に三十回も祝福されたら大きく違う。
死ぬ直前まで魔力を使うのだから、一度魔術を使ったら数時間休む事になる。
でも三十回も祝福されたら、次からは数回続けてドラゴンに擦り傷を付けられるようになる。
全員の祝福回数が、最低でも百回を越えるまでは地下六十階で狩りをした。
全員が祝福百回を越えるのに丸一日かかったが、もの凄く効率が良かった。
とはいえ、流石に祝福百回を越えると、相手がドラゴンでも擦り傷を与えるだけでは、一度に三十回も上がらなくなった。
限界まで魔術を使っても、十回五回と上がる祝福回数が少なくなっていった。
それは、擦り傷とは言えない程度の傷をつけるようになってもだ。
最も祝福回数が多くなったのは、最初に祝福されたヴィオレッタが百二十一回で、元々の祝福回数が最も多かったセオドアの百二十四回だった。
「ミノル様、このままでは騎士団の規律に問題が出てしまうかもしれません。
これ以上皆の祝福を上げるのはお止めください。
ルイジャイアン様と御子息たちにも祝福上げをさせてあげてください」
「そうだな、ルイジャイアンたちも祝福上げしなければいけない。
だが、規律上の問題はないだろう。
全団員の胸に団規を守らせる呪いを刻んである。
祝福回数が逆転しても、団長や騎士隊長たちの命令に逆らう事はできない」
「それならばいいのですが、祝福を重ねた事で、呪いに打ち勝てたりしませんか?」
「祝福が軽く千回を越えている俺が刻んだ呪いだぞ。
百や二百の祝福を受けた程度で討ち破れる呪いではない、安心しろ。
それに、この中で一番強いのはヴィオレッタとセオドアだ。
二人がいれば、他の全員が逆らっても簡単に勝てる」
「ミノル様、祝福回数は皆より少ないですが、私もいます。
私も父上や兄上達に逆らう者を許しません!」
「そうだな、レアテスもルイジャイアンたちに逆らったりしないな」
「私たちもルイジャイアン様に逆らったりしません」
「そうです、大恩の有るルイジャイアン様に逆らったりしません」
「私達はルイジャイアン様の御陰で生きてこられたんです」
「そうです、私たちは親の代からルイジャイアン様に助けられてきました」
ヴィオレッタに仕える女従騎士四人が少し怒ったような表情で言う。
「俺は新参者ですが、ルイジャイアン様に引き立てていただきました。
そんなルイジャイアン様に逆らったりしません」
「僕もそうです、ルイジャイアン様が引き立てて下さったから従騎士になれました。
そんなルイジャイアン様に、恩を仇で返すような事はしません」
「俺もです、俺も逆らいません」
「私も逆らいません」
「俺たちはルイジャイアン様に忠誠を誓っています」
兵士から従騎士に取立てられた、平民出身の二〇人が口々に言う。
「ルイジャイアンに恩があると言うのなら、証拠に遠慮を見せてもらおう。
ルイジャイアンの娘で、俺の正室になるヴィオレッタだけに祝福上げさせる」
「それが当然です、ここで祝福上げできるのはミノル様の御陰です。
ミノル様が祝福させたい者だけを選ばれればいいのです」
「セオドアの言う通りです、僕もそれが当然だと思います」
「私も、レアテス様の申される通りだと思います」
ヴィオレッタ以外の全員が祝福上げを辞退した。
王都・西地区・王都ダンジョン
田中実視点
「うそ、でしょう、擦り傷ですよ、偶然口の中に傷をつけただけですよ?!」
地下六十階で狩りを始めたその日、ヴィオレッタが唱えた攻撃魔術が、偶然タイミングが合い、更に幸運な事にドラゴンの口に入った。
強固な鱗と魔力に護られたドラゴンの体表に傷をつけられる騎士は、この国のどこを探してもいないだろうが、鱗に覆われていない口の中は別だった。
ヴィオレッタの身体がピカピカと光り輝いている。
ほんの少しドラゴンの口腔内を傷つけただけで、三十回も祝福された。
神々は余程ドラゴンが嫌いなのだろうか?
偶然だが、ヴィオレッタが手本と成果を見せた事で、全員のやる気が激増した。
伝説では誰も傷つけた事にないドラゴンが相手だと、擦り傷を付けただけで三十回も祝福されるのだから、やる気になるのは当然かもしれない。
全員が創意工夫して、俺が殲滅する前にドラゴンに擦り傷を付けようとする。
呪文に長短を付けて、ドラゴンの出現にタイミングを合わそうとする者。
できるだけ早く、間断なく呪文を唱える事でドラゴンの出現に合わせる者。
体表では擦り傷一つ付けられなので、ヴィオレッタと同じように口だけを狙う者もいれば、目玉や肛門を狙う者もいた。
三人寄れば文殊の知恵と言うが、総勢三〇人弱いるのだ。
知恵を出し合って、伝説のドラゴンに擦り傷を付ける方法を思いついた。
それぞれが、加護を下さって神様に細かくお願いするようになった。
「風の神達の主アネモイよ、どうか私の願いを御聞き入れ下さい。
御身を慕う民を御救い下さい。
御身が嫌うドラゴンに擦り傷を与えられるようにしてください。
御身が嫌うドラゴンの最も弱い場所に当ててください。
その為なら死ぬ直前まで魔力を使ってくださって構いません。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください。
ウィンド・コムプレッション・リインフォースメント・ランス」
限界ギリギリまで魔力を使い、狙いを神様にゆだねて最高の攻撃魔術を放つ。
自分で魔力を調節して狙うよりも確実にドラゴンに傷をつけられる。
そして、一度でも傷つけられたら、一気に三十回も祝福されて強くなる。
祝福されたら、身体能力も魔力も段違いに強くなる。
一度や二度の祝福なら少しの変化だが、流石に三十回も祝福されたら大きく違う。
死ぬ直前まで魔力を使うのだから、一度魔術を使ったら数時間休む事になる。
でも三十回も祝福されたら、次からは数回続けてドラゴンに擦り傷を付けられるようになる。
全員の祝福回数が、最低でも百回を越えるまでは地下六十階で狩りをした。
全員が祝福百回を越えるのに丸一日かかったが、もの凄く効率が良かった。
とはいえ、流石に祝福百回を越えると、相手がドラゴンでも擦り傷を与えるだけでは、一度に三十回も上がらなくなった。
限界まで魔術を使っても、十回五回と上がる祝福回数が少なくなっていった。
それは、擦り傷とは言えない程度の傷をつけるようになってもだ。
最も祝福回数が多くなったのは、最初に祝福されたヴィオレッタが百二十一回で、元々の祝福回数が最も多かったセオドアの百二十四回だった。
「ミノル様、このままでは騎士団の規律に問題が出てしまうかもしれません。
これ以上皆の祝福を上げるのはお止めください。
ルイジャイアン様と御子息たちにも祝福上げをさせてあげてください」
「そうだな、ルイジャイアンたちも祝福上げしなければいけない。
だが、規律上の問題はないだろう。
全団員の胸に団規を守らせる呪いを刻んである。
祝福回数が逆転しても、団長や騎士隊長たちの命令に逆らう事はできない」
「それならばいいのですが、祝福を重ねた事で、呪いに打ち勝てたりしませんか?」
「祝福が軽く千回を越えている俺が刻んだ呪いだぞ。
百や二百の祝福を受けた程度で討ち破れる呪いではない、安心しろ。
それに、この中で一番強いのはヴィオレッタとセオドアだ。
二人がいれば、他の全員が逆らっても簡単に勝てる」
「ミノル様、祝福回数は皆より少ないですが、私もいます。
私も父上や兄上達に逆らう者を許しません!」
「そうだな、レアテスもルイジャイアンたちに逆らったりしないな」
「私たちもルイジャイアン様に逆らったりしません」
「そうです、大恩の有るルイジャイアン様に逆らったりしません」
「私達はルイジャイアン様の御陰で生きてこられたんです」
「そうです、私たちは親の代からルイジャイアン様に助けられてきました」
ヴィオレッタに仕える女従騎士四人が少し怒ったような表情で言う。
「俺は新参者ですが、ルイジャイアン様に引き立てていただきました。
そんなルイジャイアン様に逆らったりしません」
「僕もそうです、ルイジャイアン様が引き立てて下さったから従騎士になれました。
そんなルイジャイアン様に、恩を仇で返すような事はしません」
「俺もです、俺も逆らいません」
「私も逆らいません」
「俺たちはルイジャイアン様に忠誠を誓っています」
兵士から従騎士に取立てられた、平民出身の二〇人が口々に言う。
「ルイジャイアンに恩があると言うのなら、証拠に遠慮を見せてもらおう。
ルイジャイアンの娘で、俺の正室になるヴィオレッタだけに祝福上げさせる」
「それが当然です、ここで祝福上げできるのはミノル様の御陰です。
ミノル様が祝福させたい者だけを選ばれればいいのです」
「セオドアの言う通りです、僕もそれが当然だと思います」
「私も、レアテス様の申される通りだと思います」
ヴィオレッタ以外の全員が祝福上げを辞退した。
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