上 下
42 / 53
第1章

第34話:ダンジョン・アタッカー

しおりを挟む
 ガニラス王国歴二七三年八月二三日
 王都・西地区・ダンジョン内
 田中実視点

 俺はルイジャイアンの願い通り、騎士団員全員に呪いの印を刻んだ。
 団員の大半が拒んで退団するだろうと思っていたのだが、違った。

「ミノルはまだこの世界の事が分かっていないな。
 弱小とはいえ、貴族家や騎士家に生まれたのに、金や実力の問題で爵位を失って平民にならなければいけないと諦めていた連中が、騎士になれたのだ。
 給料は多くの騎士団と同じなのに、肉が食べ放題の食事がただで支給される。
 住む場所も広い個室が与えられ、家族が増えたら更に広い部屋に替われる。
 団規を破らない限り発動しない呪いなど、何の問題もない。
 そもそも、多くの騎士団では、団規を破ったら処刑されるのだぞ」

 ルイジャイアンはそう言ったが、俺には理解できなかった。
 肉が食べ放題というが、小型魔獣の素材を取る時に出る余り物だ。
 騎士団員が交代でひき肉にしたり細切れにしたりして、食べ易くしているだけだ。

 その小型の魔獣肉は、保管場所に困るくらい沢山ある。
 祝福上げのために範囲魔術で皆殺しにした魔獣でも、価値の低い奴ばかりだ。

 ミノル・タナカ城とドーナツ城の横穴を氷室にして保管していたが、ドーナツ城の横穴を商店と騎士団員の部屋にする事になり、保管場所に困るくらい余っていた。

 慌ててルイジャイアン・パッタージ村に城壁を創って、何とか保管場所を確保しなければいけなかったくらい余っていた。

 騎士団員に与えた部屋も、城壁内側の横穴でしかない。
 それも、何かあった時に、直ぐに城壁回廊に駆け付けられるように、九階の縦横奥行五メートル四方を貸し与えているだけだ。

 結婚して二人になった騎士団員には、夫婦それぞれに個室を与えられるように、八階の縦横五メートル奥行十メートルの部屋を与えているだけだ。

 子供が二人以上生まれたり、一人っ子でも個室を与えるくらい大きくなった場合は、七階の縦横五メートル奥行十五メートルの部屋を与えるだけだ。

 子沢山や両親と同居する者、弟妹を引き取って世話するような孝行者には、六階の縦横五メートル奥行二十メートルの部屋か、五階の縦横五メートル奥行二十五メートルの部屋を与える、たったそれだけの事だ。

 まあ、多くの騎士団で団規を破ったら処刑されるというのなら、俺の呪いを刻むというのは、それほど障害にならないかもしれない。

 だが、それでも、四千人がほぼ全員残るのには驚いた。
 それだけの兵力があれば、安心してダンジョンに行ける。

 江戸時代では、加賀前田家の大名行列が二千人ていどだ。
 加賀前田家の正式な軍役が九七〇〇兵だから、その四割になる。
 四十万石の大名に匹敵する兵力を持っている事になる。

 そう思ったら、もう大丈夫だと安心できたのだ。
 俺が不老不死ドロップを手に入れるためにダンジョンに潜っても、何の問題ないと理解できた。

「誰がミノルを独りで行かせると言った。
 ちゃんと護衛と教師役を付ける。
 ヴィオレッタはもちろん、レアテスも正式な騎士にして付ける。
 弓騎兵から正式な騎士になったセオドアたちも付ける。
 ヴィオレッタの身の回りを世話する女従騎士は四人に増やす
 騎士団の平民兵士の中から、見所のある奴を二〇人ほど従騎士にして付ける。
 ダンジョンで経験を積ませてやってくれ」

「教師役のセオドアたちを付けてくれるのはうれしい。
 見所の有る平民を鍛えると言うのも良いだろう。
 だが、同じ騎士家に嫁がせると言っていたヴィオレッタは問題があるだろう。
 それに、レアテスはまだ十五歳と言っていなかったか?」

「ミノル、少しはこの世界の事、王侯貴族の事を覚える気になれ。
 今の自分の立場をよく考えてみろ」

「王侯貴族と付き合う気はない、全部ルイジャイアンに任せる」

「任せると言うのなら、俺の言う通りにしろ」

「大抵の事は言う通りにするが、孫のようなヴィオレッタとレアテスの命と将来に責任はもてない!」

「ミノル、よく覚えておけ。
 王城よりも堅固なミノル・タナカ城とドーナツ城を支配下に置き、辺境で一番繁栄するアーロン・パッタージ村まで支配しているんだ。
 毎日王家よりも多くの利益があるんだ。
 王侯貴族全てがミノルと縁を結ぼうとしているんだ。
 最初に知り合って友となった俺が、何を企んでいるか分からない連中に、ミノルの妻の座を渡すと思っているのか?」

「……ちょっと待て、まさかヴィオレッタを俺と結婚させる気じゃないだろうな?」

「その気だが、何か問題でもあるのか?」

「ヴィオレッタは十七歳と言っていただろう、俺は六十前だぞ?!」

「だから、それがどうしたと言うのだ?」

「年齢が離れ過ぎている、非常識にも程がある。
 こんな爺さんに嫁がされるヴィオレッタが可哀想すぎる!」

「最初に言っただろう、この世界の常識を覚えろ、王侯貴族の常識を覚えろ!
 貴族の後妻が遥かに年下なのは普通の事だ。
 老齢の夫が死んだら、そのまま安楽に暮らしても好いし、手切れ金をもらって気に入った男と結婚してもいい。
 ましてミノルは不老不死になるのだろう。
 五十歳どころか百歳二百歳年下でも問題ない」

「……それはそうかもしれないが、ヴィオレッタの気持ちはどうなる」

「王侯貴族に限らず、娘の結婚相手は親が決める。
 親のいない娘は、親代わりの兄か親戚が結婚相手を決める。
 家の利益を最優先する者もいるが、普通は娘が幸せになれる相手を選ぶ。
 俺もヴィオレッタが幸せになれる相手としてミノルを選んだ、文句があるか?!」

 そこまで言われたら俺も男だ、ヴィオレッタを連れて王都に行く決意をした。
 そうして今、ダンジョンの深部でサブ・ドラゴンを狩っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...